住民税額は前年の所得をベースに計算され、決定すると住民税決定通知書が送付されます。住民税の仕組みや支払いに関するポイント、住民税決定通知書の見方などについて見ていきましょう。
目次
1.住民税決定通知書とは?
住民税決定通知書とは、決定した住民税の税額を通知する書類のこと。住民税は前年の所得をもとに算出され、住民税決定通知書が地方自治体から送付されます。
個人住民税の納税義務者が従業員として雇用され給与を支払われている場合、事業主が特別徴収という形で各市町村に納入します。その後、給与から天引きされる個人住民税の税額を知らせるため、住民税決定通知書が発行されるのです。
そもそも住民税とは?
住民税は地方自治体に納める地方税で、教育や福祉、ゴミ処理などの行政サービスを維持・拡充して、地域社会をより良い形で保つために使われます。住民同士が分担するための住民税は個人住民税と法人住民税に分かれ、個人が支払うものは個人住民税です。
- 個人住民税:その自治体に住所のある住民が支払う税金
- 法人住民税:法人所在地の都道府県と市区町村に事業主が支払う税金
住民税と所得税の違いを解説
住民税も所得税も、納税義務者の所得に対して課される税金です。どちらも所得から控除対象を差し引いた基準額に、規定の税率をかけて算出します。所得税がその年の所得を対象に計算するのに対し、住民税の基準は前年の所得です。
税率も異なり、住民税は一律10%、所得税は累進課税制度により所得額に比例して税率が上がります。控除対象に関しても控除額が異なる項目もあるので、注意が必要です。
2.住民税決定通知書が届いた後の住民税の支払いについて
住民税決定通知書で通知される住民税の税額は前年の収入で決まるものの、支払い時期と支払い方法は、普通徴収か特別徴収かで異なります。それぞれの徴収方法と対象者、注意するポイントについて詳しく見ていきましょう。
住民税における「年度」とは?
「年度」とは、住民税の税額を決定する収入や控除の対象期間のことで、住民税対象年度は前年の1月から12月までの1年間です。前年1年間のうちに得た給与などの収入や、扶養や社会保険料などの控除が計算されて支払う住民税の金額が決定します。
なお1月1日に日本に在住しており、前年に給与所得がある人は原則、住民税納税の対象者となるのです。
普通徴収について
普通徴収とは、納税義務者が自分で支払う方法です。毎月6月頃になると住所のある市区町村から住民税の納付書が届けられ、年間を4期に分けて納付します。金融機関やコンビニなどに納付書を持参し、それぞれの期間内に支払いを行いましょう。
特別徴収との違いは、いつ誰がどのように支払うかという点で金額に差はありません。
特別徴収について
特別徴収は、事業主や各自治体が、納税義務者の給与や公的年金から住民税税額をあらかじめ天引きして、納税義務者の代わりに住民税を納めること。給与所得者や公的年金受給者すべてが特別徴収の対象となります。
給与や年金を支払う側の特別徴収義務は法令で定められているため、納税義務者の希望があったとしても基本、普通徴収は選べません。
給与からの特別徴収
給与からの特別徴収とは、事業主が納税義務者の給与から住民税を天引きして、代理で納める方法のこと。原則として会社に勤める人の住民税は、会社が給与から徴収して各市区町村に支払います。
普通徴収のように自分で支払う必要はなく、按分した金額が毎月の給与から天引きされるため負担感が軽減されるのです。なお給与所得がある限り、普通徴収には切り替えられません。
公的年金からの特別徴収
公的年金からの特別徴収は、公的年金を受け取っている65歳以上の人が、個人住民税の納税義務者にあたる場合に、公的年金から住民税の天引きと代理納付をする方法です。
納税義務者の希望による普通徴収への変更は原則できません。65歳以上の公的年金受給者すべてが特別徴収対象となり、このことは地方税法で決められています。
3.住民税決定通知書における住民税の計算方法を紹介
個人住民税は、均等割と所得割の2つが合算されています。均等割は対象者に定額で納付を求めるもので、所得割は対象者の所得に応じて算出され、個人によって異なるのです。それぞれの計算方法や概要について見ていきましょう。
所得割とは?
所得割とは、個人住民税のうち納税義務者の所得に応じて計算される税です。一般的な内訳は市町村民税6%、道府県民税4%となっており、指定都市に住所がある人は市民税8%、道府県民税2%となっています。
いずれにしても所得に応じた一律10%を納めるため、住所のある自治体によって金額が異なることはありません。
均等割とは?
均等割とは、非課税限度額を超えて収入がある納税義務者すべてに課される定額の税のこと。平成26年度から平成35年度までは、東日本大震災以降の防災対策や復興財源確保のために期間限定で均等割が引き上げられています。
市町村民税は500円引き上げた金額で「3,500円」、道府県民税も同じく500円引き上げた金額で「1,500円」となっているのです。
所得割と均等割の概要
所得割と均等割の納税義務者は、いずれもその市区町村や都道府県内に住所を持つ個人です。ただし住所を持たない場合でも、その市区町村・都道府県内に事業所や家屋を持っている個人は均等割納税の対象になります。
令和元年度の納税義務者数は、所得割5,895万人、均等割6,352万人です。なお住民税の計算では、所得控除額に基礎控除や配偶者控除、扶養控除などが反映されます。また令和3年度分以降は、基礎控除額が38万円から43万円に引き上げられるのです。
4.住民税決定通知書が届いたらチェックすべきポイントとは?
住民税決定通知書は、前年の所得と控除が反映されたものです。よってその年の確定申告に影響はありません。しかし所得控除や税額控除が多い人は税率をかける基準額が減るため、住民税が軽減されるのです。
確定申告や年末調整のときには住民税決定通知書を確認し、申告漏れがないようにしましょう。
住民税の徴収方法は選択できる
給与や公的年金による所得は、特別徴収の対象となります。ただし本業以外の雑所得など、与所得以外への住民税に関しては、普通徴収または特別徴収から選択できます。
確定申告書の第二表「住民税に関する事項」の「給与・公的年金等に係る所得以外の所得に係る住民税の徴収方法の選択」で該当項目に丸をつけてください。
非居住者に対する特例がある
確定申告書の第二表「非居住者の特例」欄には、国内源泉所得で源泉分離課税対象になった金額を記載します。
海外赴任などで非居住者となった期間がある場合、その期間は国内源泉所得に住民税が課されないものの、源泉分離課税の対象金額に住民税として5%が課税されるのです。日本に住所がなくても家や事業所がある場合、均等割の課税対象となります。
寄附金税額控除をチェックする
確定申告書の第二表「住民税に関する事項」の「寄付金税額控除」には下記4種類の寄付金額を記入します。
- ふるさと納税など各自治体に対する寄付
- 納税者の住所がある地域の共同募金会、日本赤十字社支部への寄付
- 納税者の住所がある都道府県が条例指定した団体への寄付
- 納税者の住所がある市区町村が条例指定した団体への寄付
都道府県と市区町村の条例指定団体が重複する場合、両方に加算可能です。
支払っていない住民税があるかどうか
給与所得のある納税義務者は事業主の特別徴収で住民税を納税するのです。しかし退職する場合は残りの住民税を普通徴収で納める必要があります。ただし退職時に住民税の残額を給与や退職金から一括徴収して、代わりに自治体に納付してもらうことも可能です。
転職の際は次の職場でも特別徴収となります。もし手続きに時間がかかって切り替えが間に合わない場合は、ほかの方法で支払いましょう。
5.住民税決定通知書の記載内容を解説
住民税決定通知書には、その年に納めるべき住民税税額のほか、「所得金額」「所得控除額」2つを使って算出された税額決定の基準となる課税標準額が記されています。各項目について記載内容とポイントを見ていきましょう。
所得金額欄
所得金額欄には、特別徴収税額を決める給与所得以外にも、「不動産所得」「配当所得」「利子所得」「雑所得」など、あらゆる種類の所得金額が記載されています。所得は総合課税所得と分離課税所得に分かれているのです。
- 総合課税所得:給与所得や配当所得、雑所得
- 分離課税所得:土地や建物の譲渡や株式の譲渡所得、配当所得などで、別途設定された税率で計算する
所得控除額欄
所得控除額欄には、「医療費控除」「社会保険料」「地震保険料控除」「障がい者、寡婦控除」の有り無しとその金額が記載されます。所得金額から所得控除額を差し引いた金額が課税標準額です。所得控除額が大きければ課税標準額が下がります。
控除対象となる支払いをしっかり把握し、確定申告や年末調整で忘れず申告することは節税にも有効です。
課税標準額欄
課税標準額は、所得から所得控除を引いた金額のこと。住民税だけでなく、固定資産税や所得税などさまざまな税額を決める際の基準額となり、規定の税率をかけて最終的な税額を算出します。
なお課税標準額の1,000円未満は切り捨てです。課税標準額を下げるためにも所得控除として認められるものをしっかり把握しておきましょう。
所得控除が反映されているか確認する
住民税を計算する際は、所得税との混同に注意しましょう。住民税と所得税は、所得控除項目が同じでもそれぞれの控除額が異なるのです。たとえば基礎控除では「住民税の控除が最大43万円」「所得税は最大48万円」と差額は5万円にもなります。
特定扶養親族や老人扶養親族を対象とした扶養控除では、住民税と所得税の控除額差が10万円以上になる場合もあるため、計算する際には注意が必要です。
住民税と所得税の所得控除額の違うもの
基礎的、特別な人的控除のなかで、住民税と所得税の税額の違いは下記のとおりです。いずれの項目も、所得税における控除額のほうが高いと分かります。
基礎的な人的控除(所得税、住民税の順で記載)
- 基礎控除(最高額):48万円、43万円
- 配偶者控除(最高額):38~48万円、33~38万円
- 配偶者特別控除(最高額):38万円、33万円
- 扶養控除(最高額):38~48万円(+10万円)、33~38万円(+7万円)
- 特別な人的控除(所得税、住民税の順で記載)
- 障害者控除:27~75万円、26~53万円
- 寡婦控除:27万円、26万円
- ひとり親控除:35万円、30万円
- 勤労学生控除:27万円、26万円
6.住民税決定通知書におけるそのほかの留意点
納税義務者が退職や海外移住する際は、住民税の支払い方法や管理の仕方についての確認が必要です。また退職後など翌年に収入が減る場合は、住民税が安くなる方法を検討してみましょう。住民税について注意すべきポイントや、減税のヒントをご紹介します。
一括徴収を利用したい場合
給与所得のある納税義務者の住民税は、原則、事業主の特別徴収にて支払いを行います。転職などで会社を辞める場合は会社に依頼して、未払いの住民税を給与や退職金から一括徴収してもらうことも可能です。
ただし1月1日から5月31日までの退職者は、本人の希望に関係なく一括徴収または特別徴収の形で住民税を納税します。
日本から出国することになった場合
海外赴任や移住などで日本を出国するものの、出国までの間に住民税が支払えないときは、別の人が納税することもできます。納税管理人(税金に関する手続きや処理を代行する人)を選出し、住所のある自治体に申請しましょう。
なお納税管理人は日本在住でなければなりません。またその年の1月1日時点で日本に住所がある人には、住民税の納税義務が発生します。その年の1月2日以降に出国して住所が日本にない場合でも、その年度の住民税は納付しなければなりません。
住民税の支払い方法を確認したい場合
住民税の支払いかたは、2つの方法にて確認できます。
給与所得のある人は基本的に特別徴収となり、対象者には毎年5月末までに「給与所得等に係る市区町村民税・都道府県民税 特別徴収税額の決定、変更通知書」が事業主より配布されます。
普通徴収対象となっており自分で住民税を納める人や公的年金から特別徴収される人には、自宅に住民税決定通知書が届けられるでしょう。
退職所得に対する住民税について
退職金や退職手当など退職所得があった場合、退職所得が住民税の対象となります。分離課税として、退職した年の1月1日時点で住所がある自治体から課税されるのです。ただし下記の場合、退職所得に住民税が課せられません。
- 退職した年の1月1日時点で生活保護を受けている場合
- 退職した年の1月1日時点で日本国内に住所を持たない場合
- 退職所得額が退職所得控除額より少ない場合
- 退職所得の理由が従業員の死亡による場合
住民税額の計算方法
退職所得に対する住民税額の計算は、退職所得額×税率(市町村民税の場合は6%、都道府県民税の場合は4%)です。退職所得額は、退職所得の総額から退職所得控除額を差し引いた金額に0.5をかけます。
なお、退職所得控除額は勤続年数によって異なるので、正しい勤続年数を確認しておきましょう。
- 勤続が20年以下:40万円×勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 勤続が20年を超える:70万円×勤続年数-600万円
- 障害退職:該当勤続年数による計算+100万円
住民税を安くするには
住民税は前年の所得額と控除額に大きく左右されるため、住民税を安く済ませる方法があればそれらを活用してみましょう。たとえばiDeCoやふるさと納税など、将来や社会に投資してメリットを享受しながら控除額を増やす方法がおすすめです。
iDeCoを利用する
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、掛金を預金や投資信託などに運用し、60歳以降に年金や一時金で受け取る制度です。掛金は、所得控除の「小規模企業共済等掛金控除」にあたります。
所得から全額控除が認められるので、無理のない範囲でなるべく多額の積み立てを検討するとよいでしょう。住民税は住所のある自治体に関係なく一律10%なので、たとえば年間24万円の積み立てをすると、24,000円の住民税節税につながります。
ふるさと納税を利用する
ふるさと納税は、好きな地方自治体への「寄付」という形で納税ができる制度。寄付先から返礼品がもらえるうえ、住民税が減額されるのです。ふるさと納税額から自己負担額である2,000円を差し引いた金額が、翌年の住民税から控除されます。
ただし控除対象になる納税額の上限は、総所得額の30%。上限額には注意して申し込みましょう。