人材育成計画の1つに、社内満足度の向上があります。現状把握や改善方法を探るためにはアンケートの活用が有効です。
1.社内満足度アンケートとは?
社内満足度アンケートとは、社員が会社に対して思う満足度を把握するアンケートのこと。結果から自社の改善点や要望などを把握し、改善に取り組みます。またアンケート結果は社員に公開して共有される場合が多いようです。
社内満足度アンケートの目的
社内満足度アンケートは、社員が会社にどれだけ満足しているかを数値化し、今後の会社方針や環境作りの指標にするためのアンケート調査で、ES調査(EmployeeSatisfaction)とも呼ばれます。
目的は、社員が抱えている不満や現状の満足度を把握し、改善アクションにつなげることです。
社員満足度の向上
どれだけIT化が進んでも、会社の成長において大きな割合を占めているのは、社員の貢献度。仕事の効率化やモチベーションの向上、離職率の低下を促し、会社の業績向上につなげるには、社員満足度の向上が重要です。
社員満足度に関係する要素は以下のものが挙げられます。
- 職場環境
- 福利厚生
- 待遇面
- 人間関係
- やりがい、仕事に対する意欲
人事制度への活用
社員満足度調査の目的は、会社の業績向上に役立てることですので、調査結果は人事制度に活用しましょう。人事制度には社員評価が必須で、評価には仕事内容や待遇、人間関係などの要素がかかわってきます。
社内満足度アンケートの結果次第では、人事制度そのもの、あるいは教育訓練や部署編成、昇給制度を見直す必要があるかもしれません。
経営方針を定める
社内満足度アンケートは、経営方針を定める指標としても重要になります。たとえば新事業を展開しようと考えていても、実現するためには人材が必要です。
社内満足度アンケートを使って会社の人材状況を把握すると、「新事業をスタートできるか」「先に人材確保や人材育成が必要か」などを検討できるようになります。
このとき経営者目線ではなく、現場目線で判断することが大切です。現場目線が欠けたまま事業を展開すると、社員に負担がかかり、かえって社内満足度を下げてしまう恐れがあります。
社内満足度アンケートの効果
社内満足度アンケートを実施すると、さまざまな効果が得られます。会社の課題を把握でき、改善につなげられるなどです。また社内満足度アンケートは、部署や上司、部下にとらわれず意見を出せるため、チームワークの活性化にも効果があります。
チームワークの活性化
チームワークの活性化は、会社と働く社員ともに重要です。部署内外でチームワークが取りにくい、あるいは意見の交流が円滑に行えない組織では、業務効率が悪くなってしまうでしょう。
また「部署ごとで対立している」「コミュニケーションが上手く取れずに意見のすれ違いや対立が起きている」といった場合も同様です。社内満足度アンケートを活用すると、このようなコミュニケーションに関する不満を見つけて改善できるでしょう。
自社の課題を把握する
社内満足度アンケートを実施すると、「業務内容」「人間関係」「福利厚生」「待遇」「評価制度」など社員の抱える不満が浮き彫りになるため、会社として改革すべき課題が可視化できます。
このような課題を発見して解決すると、社員が「この会社で貢献したい、成長したい」と感じやすくなるため、社員の労働意欲も向上するでしょう。
2.社内満足度アンケートを実施する手順
社内満足度アンケートを実施する際、やみくもに始めてしまうと失敗する恐れがあります。アンケートの目的に沿った質問項目でなければ、正確な統計を取れないためです。
また現状の不満や会社に対してどう思っているかについて突然聞いても、社員は職場の人間関係や立場もあり、回答しにくいといえます。一体どうしたらよいのでしょうか。ここでは、社内満足度アンケートを行う手順や準備について解説します。
- アンケートの目的を決める
- アンケートの内容を吟味する
- アンケートを実施する
- アンケートの結果を分析する
- 対策やフィードバックを行う
①アンケートの目的を決める
まず社内満足度アンケートの目的を明確にします。目的によってアンケートの質問や回答方式などが変わるからです。
たとえば、「結果を人材育成に役立てたい」場合と「潜在的に隠れている課題を発見したい」場合では、社員に聞きたい内容は異なります。まずは社内満足度アンケートの目標を定めましょう。
②アンケートの内容を吟味する
次に、アンケート実施内容を吟味します。「紙媒体かWebか」「個別で実施するか部署ごとなど集団で実施するか」「記名か無記名か」「アンケート形式かインタビュー形式か」「質問項目には何が必要か」などについて決めていきましょう。
なお無記名のアンケートでも、「役職」「勤続年数」「部署」「エリア」などで社員の属性を把握しておくのがおすすめです。それぞれの社員の属性によって何を感じて何を不満に思っているのか、分析する際に役立ちます。
③アンケートを実施する
アンケートを実施する際はまず、各部署に了承を得ておきましょう。このときアンケートの実施する目的や必要性などについても説明します。問題がなければ開始時期を決め、管理職から各部署の社員へ伝達してもらい、アンケートを実施しましょう。
ただし業務の負担にならないよう、繁忙期を避けます。調査期間が終わったら、アンケートの結果の速報を各部署へフィードバックしましょう。
④アンケートの結果を分析する
アンケートを回収した後はアンケート結果の分析を行います。集計手法では「単純集計」と「クロス集計」の2つが代表的です。
- 単純集計:詰問ごとに総合の値を出す集計方法で、一般的に使用される平均値や最低値、最高値を導き出せる
- クロス集計:設問と属性を掛け合わせて集計を行う集計方法で、役職や部署などによっては掛け合わせにより細分化されたリアルな統計結果を導き出せる
⑤対策やフィードバックを行う
アンケート結果を分析したら、アンケート結果から発見された改善点や各部署の課題を経営層から社員までに共有し、組織体制、制度などの改善策立案の実施を進めます。
社内全体にかかわる改善では人事異動やマネジメント手法の変更などが、部署単位では面談の実施や業務フロー改善などが挙げられるでしょう。いずれにしても、具体的なアクションへ落とし込むことが必要です。
3.社内満足度アンケートの項目
社内満足度アンケートには、どういった項目を盛り込めばよいのでしょうか。ここでは7つの項目について解説します。
- 社員の業務に関する項目(仕事満足度)
- 労働条件に関する項目(処遇満足度)
- 上司やマネジメントに関する項目(上司満足度)
- 働く環境に関する項目(会社風土満足度)
- 会社の経営に関する項目(経営満足度)
- 福利厚生に関する項目(福利厚生満足度)
- 総合的な評価に関する項目(総合満足度)
①社員の業務に関する項目(仕事満足度)
社員の業務(仕事)に関する項目の例は、下記のとおりです。
- 今の仕事にやりがいを感じているか
- 任せられている仕事内容は自分の能力に相応しい内容か
- 仕事に対する目標があるか
- 仕事で自分のスキルが生かせているか
- 仕事でスキルを身に付けられているか
仕事に関する項目を明確にすると、社員が「今の仕事にやりがいを感じているか」「希望する仕事に就けているか」などの現状を確認できます。
②労働条件に関する項目(処遇満足度)
労働条件に関する項目(処遇満足度)に関する項目の例は、下記のとおりです。
- 残業時間は適切か、時間に追われていないか
- 給与は自分の仕事量に見合った金額か
- 自分の仕事に対する評価は適切に行われているか
- 個人目標は適切か、目標に追われてストレスを感じているか
- 福利厚生は十分か
人事評価制度や給与面、労働時間や残業時間に満足しているかなどについて尋ねると、社員が現在の処遇に満足しているかを確認できます。
③上司やマネジメントに関する項目(上司満足度)
人間関係や上司のマネジメントに関する項目の例は、下記のとおりです。
- 上司は相談に乗ってくれるか、悩みがあるときに相談できる間柄であるか
- 上司は信頼できるか
- 上司の指示は的確か
- 上司とのコミュニケーション量は適切であるか
- 職場の同僚、上司に何か相談事があればすぐに頼れる間柄か
これらの質問項目で、「上司のマネジメント能力は適切か」「職場の人間関係は良好か」などを確認できます。
④働く環境に関する項目(会社風土満足度)
働く環境に関する項目の例は、下記のとおりです。
- トラブル発生時、周りの人間がサポートしてくれるか
- 意見を出しやすい職場環境か
- 社内の人間関係は良好であるか
- 自主性を尊重されているか
- 社内の雰囲気は、協力的か
- 社内の人間は信頼できるか
人間関係や職場環境の雰囲気など、社員が働くにあたってストレス要因となる問題を確認できます。
⑤会社の経営に関する項目(経営満足度)
会社の社風や会社の経営などに関する項目の例は、下記のとおりです。
- 会社の経営方針は随時社員に共有されているか
- 管理職、上司は社員を信用しているか
- 会社の業績は安定しており将来も安泰であるか
- 会社の経営理念に賛同できるか
- 会社の経営方針に社員の意見は反映されているか
経営者の思想や理念が社員に伝わっているか、またそれについて社員が賛同し貢献できているのかを確認できます。
⑥福利厚生に関する項目(福利厚生満足度)
会社を選ぶ際に重要な点でもある福利厚生に関する項目の例は、下記のとおりです。
- 自社の福利厚生に満足しているか
- 社内規定どおりに有給休暇を取得できるか
- 育休・産休は取得しやすい職場であるか
- 他社にはない突起した福利厚生が自社にはあるか
- 住宅補助、交通費補助は適切であるか
人手不足の昨今、「人が会社を選ぶ」傾向が見られます。社員の生活を保証する福利厚生制度の改善は、人材戦略にて重要なポイントとなるのです。
⑦総合的な評価に関する項目(総合満足度)
総合的な評価(総合満足度)に関する項目の例は、下記のとおりです。
- 現在の職場に満足しているか
- 友人や家族におすすめできる職場であるか
- 今後も長く現在の職場に勤めたいか
- 現在の仕事にどの程度満足しているか
先述した質問とこの質問を合わせて分析すると、会社に対する社員の現在の満足度を把握できます。離職防止にも役立つ項目です。
4.社内満足度アンケートの集計と分析
社内満足度アンケートの集計方法には2種類あると先に述べました。ここでは、その2種類と別の1種類を合わせてご紹介します。
- 単純集計
- クロス集計
- 構造分析
単純集計
単純集計とは、社内満足度アンケートで質問項目ごとに集計した全体のデータを全体の値で割り出し、平均値を算出する集計方法のこと。
質問項目から会社全体の傾向を把握できるうえ数値の高い項目と低い項目が算出できるため、部署ごとや項目別の改善点や強みを把握しやすくなります。また前回の集計結果と比較し、どの項目の点数がどのように推移しているかも比較可能です。
会社の成長具合、社員満足度の変化を知るのに役立ちます。
クロス集計
クロス集計とは、特定の質問項目と属性を掛け合わせて、それぞれの属性別に集計を行う方法のこと。勤続年数と質問項目を掛け合わせたり、部署ごとの質問項目を掛け合わせたりすると、それぞれの必要な課題、改善点や強みを見つけられます。
単純集計で全体の集計が完了した後は、属性別のクロス集計により細分化された集計データを算出するのです。またクロス集計を行うと、単純集計で得た全体の集計結果の比率や偏りを確認できます。
構造分析
構造分析とは、回答間の因果関係や関連性などを見つけるための分析です。たとえば「満足度の高さによって回答傾向や回答の一致が見られるか」「一致が見られた場合、どのくらいの割合になるか」などの視点から、待遇や部署、仕事内容などの項目を横断的に調べます。
回答の関連性がある場合は、複数の項目の改善を視野に入れて改善策を立案する必要があるでしょう。
5.社内満足度アンケートの費用目安
社内満足度アンケートを実施する方法は2つです。方法それぞれで、コストや効果が変わりますので、事前に確認しておきましょう。
ツールを使用した場合
アンケートツールを使うと、社内満足度アンケート実施時の費用を抑えられます。ツールでは定番の質問項目テンプレートが用意されているうえ、会社それぞれに合わせた質問項目をカスタム可能です。
またツールは無料と有料があり、金額によって使用できる内容や期間が異なります。ただし無料や低価格のツールでは、実施できる回数や利用期間に制限が設けられている場合もあるので注意が必要です。
調査会社などに依頼した場合
調査会社に依頼すると、「質問項目の作成」から「アンケート結果の回収や集計・分析」まで依頼できます。調査会社ではノウハウのある専任の調査員がアンケートを実施するため、どのようなアンケートが最適か分からない場合は任せるのもよいでしょう。
自社でツールを使うより費用はかかるものの、自社でアンケート作成・集計・分析を行う際ににかかる時間や人件費を考慮すると、効率的だといえます。
ツールや外部の会社を利用するときのポイント
アンケートツールを利用したり、外部の調査会社などの会社に委託したりする際のポイントは「アンケートの質により費用や時間が変動する」という点。
費用は、「テンプレートや標準的な質問項目かカスタマイズされた質問項目か」「集計や分析、報告書はどれほどのレベルを求めるか」「解決策や改善点の立案、提案まで任せるか」などによっても変動します。