「社会保険」には、加入するための条件があります。加入条件や、加入せずに手続きを怠っていたときの罰則などについて見ていきましょう。
目次
1.社会保険の加入条件とは?
社会保険とは、日常で起こるさまざまなリスクに備えて用意されている「労災保険」「雇用保険」「健康保険」「厚生年金」といった国の保険制度のこと。加入条件も事業所や労働者それぞれで、定められています。
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「健康保険」と「厚生年金保険」は加入条件が同じ
- 健康保険:業務外でケガや病気を患ったときに、病院でかかった料金の一部を国が負担する保険制度
- 厚生年金保険:会社員などが老後に備えて月の給料から一定額を積み立てる保険制度
健康保険と厚生年金保険に、介護が必要になった際、要介護度に応じた介護が受けられる介護保険を合わせたものが社会保険です。
健康保険と厚生年金保険は、勤務日数や雇用期間、企業の従業員数によって加入条件が変わるものの、加入条件は同じになっています。
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強制加入条件
健康保険には、加入の義務が法律によって定められた強制適用事業所があります。条件は以下の2つで、いずれかにあてはまる事業所は加入しなければなりません。
- 製造業や土木建築業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、医療保健業、通信報道業などの事業を行い、常に5人以上の従業員がいる
- 国、地方公共団体もしくは法人で、つねに従業員を使用する
任意加入条件
任意適用事業所とは、強制適用事業所に該当しない事業所のこと。条件は、個人事業所で常に使用する従業員が5人未満の事業所で、農林水産業や一部サービス業、士業や宗教などが含まれます。
任意加入を行うには、事業所で使用する健康保険や厚生年金加入の条件を満たす従業員から、過半数以上の同意を得なければなりません。
雇用に関するサポートが受けられる「雇用保険」
雇用保険とは、働く意欲がある人の支援をしたり、会社で働く人を助けたりする保険制度のこと。受給方法にはいくつかあり、その1つに会社などを退職したときに生活保障をしてくれる「失業給付」があります。
そのほか、育児や介護に支払われる支給や高齢者雇用の継続に支払われる支給、労働者の職業訓練を受講した際の給付金など、雇用に関するさまざまな場面でサポートを受けられるのです。
雇用保険の保険料は会社と労働者双方の負担となり、労災保険と雇用保険を合わせて「労働保険」といいます。
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雇用保険の強制加入条件
条件にあてはまる雇用主は、労働者を必ず雇用保険に加入させなければなりません。雇用主が1人でも従業員を雇っている場合、従業員が加入しなければならなくなる条件は以下の3つです。
- 所定労働時間が1週間で20時間を超える
- 最低でも31日以上その事業所で働く見込みがある
パートやアルバイトなども雇用保険加入の対象に含まれます。
雇用保険の任意加入条件
雇用保険が任意加入となる場合もあります。個人経営の事業所が対象で、条件は以下の3つです。
- 「農業」の個人経営で、常駐する労働者が5人未満の場合
- 「林業」の個人経営で、年間の労働者数が計300人未満の場合
- 「漁業」の個人経営で、常駐する労働者が5人未満の場合
なお労働者の過半数から任意加入の希望があった際、事業主は加入申請を行わなければなりません。事業主自身で加入するには、労働者からの同意が無くても加入申請を行えます。
怪我や病気などで補償を受けられる「労災保険」
労災保険とは、労働者が業務をこなしている際や通勤している際にアクシデントに合い、「負傷や疾病、障害を負う」「最悪死亡してしまった」際、当事者や遺族に保険が支払われる制度のこと。
保険料はすべて会社負担となり、毎年定期的に国に支払います。そして従業員がケガや病気になった際は、会社に代わって国が治療費の保障を行うのです。これにより従業員はいざというときに保障を受けられ、会社は不意の出費を抑えられます。
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労災保険の強制加入条件
雇用保険と同様、労災保険にも強制加入条件があります。労災保険の強制加入条件は、法人や個人事業者に関わらず「常駐する労働者が1人でもいる場合」。
常駐する労働者とは、正規や非正規、アルバイトやパートなどの雇用形態にかかわらず、賃金が発生している人のこと。なお国の直轄事業や官公署の事業は、例外です。
労災保険の特別加入条件
労災保険は労働者を保護するための保険なので、労働者でないものに対して効力はおよびません。しかし定義的には労働者でなくても、業務の状況によっては保険の適応に準ずると判断されて保険が適応されるケースもあります。
これを「特別加入条件」といい、条件は以下のとおりです。
- 中小事業主(業種によって中小事業主と認められる労働者数は異なる)
- 一人親方(常に労働者を使用していない、あるいは使用しても年間100日未満)
- 特定作業従事者(危険度の高い作業者や特定条件を満たす農作業従事者など)
- 海外派遣者(海外へ派遣される一般労働者や事業主)
2.パート・アルバイト・派遣など非正規雇用の社会保険の加入条件とは?
社会保険の加入は、正規労働者特有のものと思う人も多いかもしれません。しかし2017年に社会保険の加入対象が拡充され、今まで対象でなかった非正規の社員も労使で合意があれば加入できるようになりました。ここではその加入条件について見ていきます。
健康保険と厚生年金保険の加入条件について
社会保険には、「病気やケガの治療費などの負担を軽減する健康保険」と「病気やケガで障害を負った際や老後に受けられる厚生年金保険」が含まれます。社会保険料は所得から控除されるため、所得税や住民税の納付額が減る点はメリットでしょう。
非正規労働者の労働者でも条件さえ満たせば加入できるのです。派遣社員の場合、「人材派遣健康組合(はけんけんぽ)」という健康保険組合も利用できます。
1週間の所定労働時間が正社員の4分の3以上かどうか
1ヶ月の所定労働日数が20日、所定労働時間が40時間の場合、非正規労働者が社会保険に加入するための条件は、
- 1か月の所定労働日数が15日以上ある
- 1週間の所定労働時間が30時間以上である
派遣社員の場合、1週間の所定労働時間が雇用主である派遣会社に勤務する正社員の4分の3以上であれば、健康保険と厚生年金保険のどちらにも加入できます。
1週間の所定労働時間が20時間以上で、特定の条件を満たしているかどうか
2022年10月からの法改正により、社会保険加入の適応範囲が広がりました。前述した条件を満たせない場合でも、以下5つの条件をすべて満たしていれば、非正規労働者でも社会保険に加入できるのです。
- 1週間の労働時間の合計が20時間以上である
- 該当する従業員の雇用が2ヶ月以上続くと見込まれる
- 月の賃金が88,000円以上である
- 雇用元の会社の従業員が101人以上である
- 学生ではない
雇用保険の加入条件について
雇用保険も、社会保険と同様に条件を満たすと加入できます。条件は、1週間の労働時間の合計が20時間を超えており、なおかつ31日以上の雇用が予想されるです。
ここで気を付けなければならないのは「31日」という部分。1か月が31日未満の月では「31日」以上という条件を満たさないので、加入できません。しかし契約期間や労働時間の条件が健康保険よりも厳しくないため、雇用保険だけ加入するケースも見られます。
労災保険の加入条件について
労災保険の加入条件は、前述の保険のように難しい条件ではありません。事業主が労働者を1人でも雇用していることが条件です。そのため非正規労働者でもその事業所に就業した時点で、労災保険の加入条件を満たせます。
また保険料に関しては事業所が100%負担するので、加入する側(従業員)の負担は一切ありません。
3.社会保険の加入しなかった場合の罰則とは?
社会保険の強制加入条件を満たしていながら加入の手続きを怠った場合、会社の事業主は罰則を受けます。ここでは、加入の必要があるにもかかわらず社会保険に加入しなかった際の罰則について、社会保険の種類別に見ていきましょう。
健康保険と厚生年金の罰則について
健康保険と厚生年金保険の加入の申請を怠った事業主には、次の5つの罰則が課せられるのです。
- 社会保険料を過去2年分納付
- 延滞金の納付
- すでに退職済みの従業員の社会保険料について遡及納付(事業主が全額負担する場合あり)
- 6か月以下の懲役もしくは50万円以下の罰金
- ハローワークに求人が出せなくなる
なお10名以上の従業員を使用する事業主が未加入である場合、年金事務所の指導が行われ、立ち入り検査が実施される場合もあります。
雇用保険の罰則について
雇用保険の加入の手続きを怠った場合、次のような罰則が課せられます。
- 社会保険料を過去2年分納付
- 6か月以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金
雇用保険に未加入の従業員がいた場合、2年間さかのぼって保険料を納めれば、原則として後からでも加入手続きを行えます。手続き方法は通常の加入手続きと同様になるものの、遅延理由書などの書類を追加で提出する場合もあるようです。
労災保険の罰則について
労災保険の罰則には、以下の2つがあります。
- 過去をさかのぼって計算し、未納分の保険料と追徴金を徴収
- 加入手続きをしていない間に起きた労災事故に関しては、保険給付額の一部か、もしくはすべてを事業主から徴収
労災保険は現在、在籍しているだけで加入条件が発生する保険です。よって労災保険への加入を怠っていた場合、完全に故意だと見なされる恐れは高いでしょう。
4.事業所の規模でみた社会保険の加入条件とは?
社会保険の加入条件は、事業所の規模でも条件が変わってきます。具体的な規模は次の2種類です。
- 従業員が100人以下の事業所
- 従業員が101人以上の事業所
また、正規雇用の労働日数や労働時間も計算の基準となります。それぞれの規模について、詳しい条件についてみてみましょう。
従業員数100人以下の事業所の場合
従業員の数が100人以下の事業所では、以下の条件がどちらも満たされている場合、パート・アルバイト・非正規労働者といった名称にかかわらず、必ず社会保険に加入しなければなりません。
- 1週間の労働時間の合計が正規の労働者の4分の3以上
- ひと月の労働時間の合計が正規の労働者の4分の3以上
従業員数101人以上の事業所の場合
従業員の数が101人以上の事業所の場合、100人以下の事業所にあった「労働時間の合計が正規の労働者の4分の3以上」という条件が満たされていなくても、社会保険への加入が認められるケースもあります。
そのケースとは、以下の4つの条件をすべて満たしている場合です。
- 1週間の労働時間の合計が20時間以上
- 2ヶ月以上の雇用期間が見込まれる
- 月給が88,000円以上
- 学生ではない
5.社会保険への加入義務がある事業所とは?
社会保険については、事業所ごとに加入条件があります。事業所別に見ていきましょう。
- 強制適用事業所
- 任意適用事業所
- 一括適用事業所
- 適用除外の事業所
①強制適用事業所
該当例が最も多いのは「強制適用事業所」です。これに該当する事業所は、強制的に社会保険に加入しなければなりません。基本、被保険者にならない従業員も含めて常に5人以上の従業員がいる個人事業所は強制適用の対象です。
また一定の事業(製造業、鉱業、金融保険業、保管賃貸業、電気ガス業、運送業、貨物積卸し業、物品販売業、媒介斡旋業、集金案内広告業、清掃業、土木建築業、医療事業、通信報道業、社会福祉事業、教育研究調査業)を行っている事業所も該当します。
②任意適用事業所
強制適用事業所に該当しない場合でも、任意で社会保険に加入可能です。事業主が申請して、厚生労働大臣の認可を受ければ任意適用事務所として認められます。
加入資格がある従業員の半数以上から同意を得て、その後厚生労働大臣に申請するという流れになるのです。申請時には、「健康保険・厚生年金新規適用届」「任意適用申請書」「任意適用同意書」などが必要となります。
③一括適用事業所
社会保険の加入は基本、事業所ごとに行います。しかし社会保険の適用事務所が2つ以上あり、かつ事業主が同じ場合、厚生労働大臣から承認をもらうと2つ以上の事業所を「一括適用事業所」として1つにまとめられるのです。
これにより、本来は事業所ごとにやらなければならなかった手続きを一括して進められます。
④適用除外の事業所
社会保険の手続きができない「適用除外の事業所」もあります。適用除外の事業所となる条件は以下のとおりです。
- 船員保険被保険者
- 後期高齢者医療の被保険者
- 国民健康保険組合の事業所で働く労働者
- 日ごと日ごとに雇い入れられる人
- 2か月以内という期間で雇われる労働者
- 4か月以内という期間で雇われている季節的業務の労働者
- 臨時的な事業所で雇われている労働者
- 所在地が定まっていない事業所で働いている人
6.社会保険に加入したい場合の手続きとは?
会社で新しく人を雇ったなど、社会保険に加入しなければならない人がいる場合、会社は速やかに各種社会保険の加入手続きをしなければなりません。ここでは、社会保険の加入手続きの方法を紹介します。
健康保険と厚生年金保険の加入手続きについて
まずは健康保険と厚生年金保険の加入手続きの方法です。この2つの手続きは、「健康保険・厚生年金被保険者資格取得届」という用紙でまとめて行えるもので、提出先も同じくまとめられています。
用紙を得る手段は、次の2つです。
- 日本年金機構のホームページからダウンロードする
- 年金事務所に出向いて受け取る
雇用保険の加入手続きについて
雇用保険の加入手続きでは、初回手続きとそれ以降で異なります。まず対象となる従業員を初めて雇う場合は、保険関係成立の手続き後、ハローワークにて「事業所設置届」と「雇用保険資格取得届」を提出します。
その後は、新たに人を雇うたびに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出するのです。また保険を有する従業員がいなくなった場合は、「雇用保険被保険者資格喪失届」と「離職証明書」を提出します。
労災保険の加入手続きについて
労災保険の加入条件を満たす従業員を新しく雇った場合、その保険関係が成立してから10日以内に、労働基準監督署に「保険関係成立届」の提出が必要です。
また保険関係が成立後50日以内に「概算保険料申告書」を労働基準監督署か都道府県労働局、あるいは銀行に提出しなければなりません。ハローワークでの手続きではない点に注意しましょう。