多くの企業が取り入れている人事計画。その意味や目的、計画の立て方や注意点などについて詳しく紹介します。
目次
1.人事計画とは?
人事計画とは、企業が事業を進めていくにあたり、どのような人材が量的、質的な観点からどのくらい必要かを計画すること。不要な人材の整理なども考慮され、長中短期の経営計画と連動して策定します。
会社の人的資産を活用する
企業の目標を達成するためには、ヒトと人材を有効活用する計画が必要です。企業における経営資源は、「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」の4つといわれており、なかでもヒトが重要視されています。
2.人事計画の目的とは?
人事計画の目的は、企業の経営計画を推進し、人材の生産性と企業に対する思い入れが高まる人事をすること。具体例として、次の4つについて解説します。
- 効率的な事業運営
- 人件費の削減
- 後継者育成
- 採用計画との違い
①効率的な事業運営
人事計画では、業務と人員の質を一致できます。それにより事業運営の効率が大幅に向上するのです。たとえば「在籍する従業員のこれまでの業績や売上などを検証」「適切な人員を配置する」などを行うと、効率よく事業運営を進められます。
またこれらにより、「業務のスピードアップ」「事業価値の向上」「従業員のモチベーションアップ」などが期待できるのです。
②人件費の削減
効率的な事業運営を進められるようになったら次は、既存の業務内容における工数を査定して業務人員を最適化します。人員を抑えるための取り組みとして、「テクノロジーの導入」「業務のアウトソース化」なども考えられるでしょう。
即戦力の中途採用を積極的に導入すると、新卒の採用や育成費も削減できます。
③後継者育成
人事計画にて優秀な人材へ能力開発などの教育を行うと、質の高い後継者を育成できます。人事調査により、「どのような人材がどういった業務に就いているのか」詳細に把握できるため、適切な異動や配置を行えるのです。
将来性の高い人材には、「海外研修」「海外赴任」「責任のある役職や仕事に就かせる」といった経験をさせます。
④採用計画との違い
採用計画とは、人材を採用する計画のこと。事業計画や経営方針にもとづいて、「どのような人材をどの部署にいつ頃・何名・どのような方法で採用するのか」などを計画します。
また「募集要項の決定」「採用スケジュールの立案」「採用コスト算出」なども計画するのです。自社のニーズを明確にすると、求める人材を採用しやすくなります。
3.人事計画を立てるには?
人事計画を立てるには、長期の経営計画と照らし合わせたうえで、「事業計画を遂行するためにどのような人材を何名くらい採用するか」といった検討が重要です。
人員を算出する
人員の算出方法は、下記の2つです。
- マクロ的手法(トップダウン方式)
- ミクロ的手法(ボトムアップ方式)
2つは、人事計画の必要人員数(量的)を算定する方法で、それぞれ方式が異なります。よってどちらか一方だけで算出していくと、さまざまな場面で不具合が生じるのです。現状に合わせて、どちらがより効果的か判断しましょう。
①マクロ的手法
マクロ的手法とは、経営計画や利益計画などにもとづいて、人件費と採算の側面から要員数を決めていく手法のことで、別名トップダウン方式といいます。
「労働分配率」「売上高」「損益分岐点」「人件費率」などから必要な人員総数を決め、それを各部門や職種、階層などに割り振っていくのです。しかし実際、人員が足りず、改善できない可能性もあります。
②ミクロ的手法
ミクロ的手法とは、業務量から適正な要員数を決めていく手法のことで、別名ボトムアップ方式といいます。具体的には、「部門や職務、階層別に必要となる人員」「職務分析をもとに職務別要因」を検討していくのです。
各部門の人員不足は解消できるものの、人員が増え過ぎてしまう状況も考えられます。そのため、予算を考慮しながら検討する必要があるのです。
4.人事計画の流れ
人事計画の流れは、下記のとおりです。
- 人事情報の整理…社員のデータベースを作成する
- 人事計画案の作成…各部門の責任者から人員の過不足をヒアリングする
- 労働生産性と直間比率を用いて人員調整を行う
①人事情報を整理する
まず社員情報を管理します。人員計画に必要な項目をまとめた社員のデータベースを作成しておくとよいでしょう。下記は、社員データベースの項目例です。
- 名前
- 性別
- 生年月日
- 職位
- 給与
- 所属
- 異動履歴
- 前職
- 保有資格
- 専門性
- キャリア志向
- 異動希望
- 懲戒処分
- 家族構成
- 人事考課
②人事計画案の作成
次に各部門の責任者から人材の状況についてヒアリングします。部門ごとの人員数を集計して、部門別の要員数が定められた人事計画案を作成するのです。
③労働生産性と直間比率を用いて人員調整を行う
最後に本当に必要な人員数か確認するため、人事計画案から算出される「労働生産性」「直間比率」を業界平均などと比較して、各部門の人員を調整します。
労働生産性とは
労働生産性とは、労働者1人当たり、または1時間当たりに生産できる成果を数値化したもの。「産出量(アウトプット)/労働投入量(インプット)」で算出でき、下記の2種類があります。
- 物的労働生産性…成果に対しての生産量や金額などを表す
- 付加価値労働生産性…生み出した成果に対する付加価値を表す
直間比率とは?
直間比率は、直接業務に従事する従業員数に対する、間接業務に従事する従業員数(バックオフィスやサポート業務など)の比率です。人数比率や直接部門と間接部門の人件費比率などで算出され、比率の高低により、下記のような考察が可能です。
- 比率が低い…事業運営が効率的に行われていると捉えられる
- 比率が高い…収益に貢献していない従業員が多いと考えられる
5.人事計画で知っておきたい注意点とは?
人事計画を始める前に知っておきたい注意点を3つ、お伝えします。
- 人事計画の変更は慎重に
- 人事計画と人事実績のギャップを調べる
- 計画を見直して現場の声を聴く
①人事計画の変更は慎重に
計画どおりに進まないからといって、計画自体を安易に変更するのは止めましょう。人事計画は、経営理念や経営計画を実現させるために策定するもの。
人事計画だけを変更しても根本的な解決策にはならないので、経営計画そのものを再考する必要があるかもしれません。また人事計画と人事実績の間にある「ギャップの程度」によって対応を考える必要もあります。
②人事計画と人事実績のギャップを調べる
月ごとに部門ごとの人事実績をその指標の人事計画要員数で割ると、月次要員比率を部門ごとに算出できます。それをもとに、年度で要員の過不足が生じないかを推測し、必要であれば補充計画を実施するのです。
あまりにもギャップがある場合、そもそもの計画に無理があった可能性も高いといえます。
③計画を見直して現場の声を聴く
「人事計画に沿って採用や配置転換を行っても、予想していた活躍がみられない」「早期離職者が多い」といった問題が起きている場合は、人事計画によって異動した従業員に「人事配置の変更によって問題が発生していないか」をヒアリングしましょう。
そして効果的な配置転換であったか確認したり採用要件や人員数などの見直しを検討したりするのです。
6.人事計画を作成する手法とは?
最後に人事計画を作成する手法2つについて、見ていきます。
- Excelで作成する
- 人事計画が管理できるITツールを利用する
①Excelで作成する
人事計画の作成では長らくExcelが使用されてきました。しかし手作業でExcelを管理すると、煩雑かつ不備が出やすいという問題が生じます。
計算式が設定されたテンプレートを作成し、部門間で共有する場合、会社の規模が大きくなると設定変更が難しくなるからです。また作成した従業員しか編集ができないという状況にもなり兼ねません。
②人事計画が管理できるITツールを利用する
オンラインで利用できる人事計画システムを利用すると、「人事配置の現状を客観的に把握」「従業員の過不足をリアルタイムで確認」「各部署の残業時間や人手不足などの確認」などが可能になります。
こうした特徴により、業務の効率化につながるのです。また複数の部門をまたがってリアルタイムで情報を共有するため、計画変更や編集も容易になります。