円満退社は、多くの人が願う退職の在り方です。しかし、一体どのような状態なのでしょう。ここでは、円満退社についてメリットや流れなどから解説します。
目次
1.円満退社とは?
円満退社とは、従業員が会社を退職する際、「会社は退職を快く認めている」「従業員は会社に対しわだかまりなく退職できる」のように、もめごとなく労働契約を解除すること。
円満とは、円が満ちるという意味を持つ言葉で、円満退社は言葉通り、会社と従業員の双方が不満を持たず、従業員が退職していくことを指しているのです。
2.円満退社と自然退職の違い
円満退社に類似する言葉に、会社や従業員の意思と無関係に労働契約が終了する自然退職があります。
自然退職とは、休職期間満了など特定の状況で労働契約の解除が行われる退職のことで、どのようなケースが自然退職となるのかについては、就業規則に定められています。
3.円満退社のメリット
円満退社が持つ3つのメリットについて簡単に解説しましょう。
退職までの流れに問題が少ない
退職に関する各種手続きや周囲からの心象など、退職までの流れに問題が少なくなり、下記のようなメリットが生じます。
- 事務手続きに不備が起きにくくスムーズに退職できる
- 退職者がいても周囲のモチベーションが維持できる
転職活動がスムーズになりやすい
退職者が転職先の採用面接でよく聞かれるのは、前職を退職した理由です。「前職で円満退社した」という事実があれば、それを面接官に正々堂々と伝えることができます。
面接官は、円満退社できた人物であることを好意的に受け止めるため、結果的に転職活動をスムーズに進めることができるのです。
ネットワークを活用できる
円満退社の場合、職場の人間関係が良好のまま会社を離れることができるため、構築してきた人間関係を次の転職先で活用できるのです。
4.円満退社の課題
円満退社を実現するためには、4つの課題をクリアする必要があります。
- 退職理由に気を付ける
- 転職先は明かさない
- 有給休暇の消化はしっかり
- 退職を伝える時期に注意
①退職理由に気を付ける
もし退職理由を「個人的な理由」と説明してしまった場合、その退職は自己都合退職になってしまいます。「個人的な理由」であったにせよ、会社に対して説明する場合、「個人的な理由以外の理由」「できるだけポジティブな退職理由」を伝えましょう。
②転職先は明かさない
転職をするために退職を申し出る場合でも、転職先を明言することで、「従業員を引き抜かれた」といったトラブルに発展しかねません。不用意な発言で円満退社の道が閉ざされることのないよう、転職先についての発言は慎むべきです。
③有給休暇の消化はしっかり
有給休暇については、「時期を考える」「事前に申し出る」「しっかり消化する」などを念頭に置きましょう。退職する際に引き継ぎを行う必要がある場合には、引き継ぎが完了した後に有給休暇を消化します。
引き継ぎに時間がかかる、事前に申し出がない、などで有給休暇の消化が間に合わなくなることのないよう、計画的に有給休暇を消化しましょう。
④退職を伝える時期に注意
「退職の旨を早く伝えすぎて、残りの在籍期間、会社に居づらくなった」「退職の旨を期限ギリギリに申し出たため、引き継ぎが終わらず予定通り退職できなくなった」など、伝えるタイミングによっては、円満な退職にならなくなるケースがあります。
いつなら退職を伝える時期として適当か、見極めて進めましょう。
5.円満退社の流れ、ステップ
円満退社を実現するための流れをステップごとに解説していきます。
- 自分の心に問う
- 退職の意思表示を考える
- 引き留めにあった際どうするか考える
- 退職日の決定
- 退職届の作成と提出
- 引き継ぎ
- 取引先への挨拶
- 挨拶状や挨拶メールを作成し送付する
- 退職の手続きを進める
①自分の心に問う
最初に自分の心に問う作業を行います。
- 本当に自分は退職をしたいと考えているのか
- 今、退職することが自分の人生において最適解なのか
- 退職することで、どんな自分になろうと考えているのか
何度か問いかけてみましょう。会社を退職することは、人生の中でも大きな決断です。退職する決意や目的を明確にし、それを会社に伝えることができて初めて、円満退社の道が開けるのです。
②退職の意思表示を考える
退職の意思が固まったら、退職の意思表示について考えます。
誰に、いつ、どのように退職の意思を切り出すか
退職の意思表示についてまず考えておきたいのは、「誰に」「いつ」「どのように」退職の意思を切り出すかということ。
- 退職の意思を最初に伝えるべき人物が誰なのか
- 退職の意思を伝えるタイミングはいつがいいのか
- 退職の意思の伝え方は、どのような方法がいいのか
自分の所属している組織や仕事の状況などを見極めて、最善の方法を考えていきましょう。
退職理由をどうするか
退職理由によっては、円満退社とは違った展開になる可能性もあるため、退職理由には細心の注意が必要です。「仕事が合わない」「人間関係に疲れた」などネガティブな理由で円満退社は望むことは難しいといえます。
仕事や自分の人生をポジティブに捉えた上での退職理由を見つけ、それが会社に正確に伝わるようにまとめてみましょう。
③引き留めにあった際どうするか考える
退社の申し出をした際、会社から引き留めにあったらどうするか、事前に考えておくことも重要です。
- 会社から引き留められた場合、退職するのをやめて会社に残る
- どのような引き留めにあっても、あくまで退職の意思を貫き通す
などをあらかじめ考えておくのです。残留する場合、どのような条件なら残留するかを明確にしておけば、交渉が始まっても慌てなくて済むでしょう。
④退職日の決定
円満退社に向けて退職日を決定する場合、事前にしっかりと打ち合わせをしておく必要があります。
- 退職日を決定する際は、下記の事柄をできるだけ早めに実施してください。
- 就業規則で退職についての規程を再確認しておく
- 上司などに最終勤務日や退職日、有給休暇の消化日などについて相談する
退職に関するスケジュールを退職直前に決めるようでは、「退職希望日に退職できない」「有給休暇が消化しきれない」といった問題が発生してしまうかもしれません。
⑤退職届の作成と提出
多くの会社では、退職の意思を確認するための書類として退職届の提出を求めています。就業規則などで定められた書式に従って作成し、直属の上司などに提出しましょう。
会社は退職届を受理することで、事務的な退職手続きを開始します。退職届以外の事務手続きも、期限を守ってスムーズに行ってください。
⑥引き継ぎ
円満退社をしたいのならば、丁寧な引き継ぎが必要です。
- 後任の担当者、部下、上司などに担当していた業務を引き継ぐ
- 誰が見ても分かるように、自分の業務に関して引き継ぎ書やマニュアルを作成しておく
- 退職後も何かあったときのために、自分の連絡先を後任者や上司に伝えておく
後任者が業務遂行に困らないよう、しっかり準備しておきましょう。
⑦取引先への挨拶
円満退社を目指すなら、社内だけでなくクライアントなど外部に対しての引き継ぎも忘れてはなりません。必要に応じてクライアントに対し、「自分が退職する旨を説明する」「挨拶回りには後任者を紹介する」などを行ってください。
なお、クライアントへの引き継ぎや挨拶の際に、自分の退職理由や転職先などの情報を詳細に伝えることは厳禁です。クライアントへの挨拶・後任者の紹介がメインであることを念頭に置き、挨拶回りをしましょう。
⑧挨拶状や挨拶メールを作成し送付する
直属の上司や同僚、主要なクライアントなどには、直接会って退職する旨を話します。関係各部署や同期、面識がある程度の関係取引先、挨拶回りで会えなかったクライアントなど、在職中にお世話になった人たちに向けては、挨拶状・挨拶メールを送付しましょう。
挨拶状や挨拶メールの送付時期に関しては、退職前に早めに送るというより、退職直前が望ましいでしょう。
⑨退職の手続きを進める
円満退社に向けていよいよ退職の手続きを進めます。
社内での手続き
円満退社に向けた社内での手続きには、返却するものと受け取るものがあります。
返却するものは、下記の通りです。
- 制服や鍵、身分証明書、IDカードなど会社から貸与されていたもの
- 健康保険の被保険者証
- 通勤定期券や名刺
- 業務用書類や備品
受け取るものは、下記の通りです。
- 雇用保険被保険者証
- 源泉徴収票
- 年金手帳
- 転職先が決まっていない場合には離職票
不備のないよう手続きを済ませてください。
社外での手続き
退職したら、下記のような手続きを行います。
- 転職先がある場合、源泉徴収票を転職先企業に提出する
- 退職後、失業保険を受給する場合にはハローワークに失業給付金の受給手続きを行う
- 転職先が決まっていない場合には、健康保険の任意継続被保険者制度、もしくは国民健康保険への加入手続きを行う
- 転職先が決まっていない場合には、国民年金への加入手続きを行う
それぞれ手続きする場所も異なるので、事前に確認しておきましょう。