近年、ニュースなどでもよく耳にする「働き方改革」。取り組むためにも、働き方改革のガイドラインについて、知っておきましょう。
目次
1.働き方改革のガイドラインとは?
働き方改革のガイドラインとは、労働者一人ひとりの働き方もしくは企業内でのルールを改善する政策のためのガイドラインです。
働き方改革とは?
働き方改革とは、「一億総活躍社会を実現する」ための取り組み。一億総活躍社会とは、少子高齢化が進むなかでも人口1億人を維持し、誰でもさまざまな分野で活躍可能な社会のこと。
働き方改革の目的は、労働者が個々の事情に応じて、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすること。2019年の労働基準法の改正によって、労働時間などの見直しや残業時間の上限規制、雇用形態にかかわらない公正な待遇などを定めました。
働き方改革の目的
働き方改革の目的は、「一人ひとりが活躍できる社会を作る」と「人材を活用して生産性を高めること」。それらを実現すると、成長と分配の好循環が生まれ、労働者がより良い将来の展望を持てる社会に近付くのです。
現在、「少子高齢化」「育児や介護と仕事を両立する人が増えた」点から労働人口は減少傾向にあります。そのため企業は、ICTを用いた業務の自動化や就業機会の拡大、雇用に関する規則の改訂などを含めた、働きやすい環境の整備が課題となっているのです。
2.働き方改革のガイドラインによって変わること
働き方改革のガイドラインでは、さまざまな制度が定められています。ここでは8つの点について見ていきます。
- 残業時間の上限規制
- 有給休暇取得義務化
- 勤務間インターバル制度の導入
- 割増賃金率の適用
- 3か月のフレックスタイム制の導入
- 非正規雇用の労働者への待遇改善
- ダイバーシティの推進
- 高度プロフェッショナル制度の導入
①残業時間の上限規制
働き方改革によって、残業時間の上限規制が定められました。今までの労働基準法に残業時間の規定はなかったので、初めて実施された改革といえます。
2019年の労働基準法改正では原則、月の残業時間上限は45時間、年間にすると上限360時間となりました。臨時の特別事情がなければ、この時間を超えた残業はできません。
②有給休暇取得義務化
働き方改革によって、有給休暇の取得が義務付けられました。企業は労働者に年間5日間の有給休暇を取得させなければなりません。取得させない場合、企業(雇用主)は法令違反となり、罰則を受けるのです。
今までは労働者が自ら有給休暇の取得を申し出ないと取得できなかったため、有給休暇消化率の低さが課題になっていました。これを解決するため、労働基準法改正に盛り込まれたのです。
③勤務間インターバル制度の導入
働き方改革によって、勤務間インターバル制度(1日の退勤時間から翌日の出勤時間までに、一定時間以上のインターバルを確保する仕組み)の導入が定められました。
このインターバルによって、労働者が生活時間や睡眠時間を十分に確保できるようになります。勤務間インターバルを確保するためにも「出勤時間を遅らせる」あるいは「退勤時間を早める」といった柔軟な対応が必要です。
④割増賃金率の適用
働き方改革によって、割増賃金率(一定の残業時間数を超えたとき、超過分の賃金が割増される割合)の適用が定められました。働き方改革によって、月60時間超の残業割増賃金率は、大企業や中小企業ともに50%と定められたのです。
現在の残業割増賃金率は月60時間超の残業にて、「大企業で50%」「中小企業は25%」の割増となっています。しかし2023年4月からは中小企業も50%に割増しなければなりません。
⑤3か月のフレックスタイム制の導入
働き方改革によって、3か月のフレックスタイム制の導入が定められました。フレックスタイムとは、自由な勤務時間制度を指し、総労働時間だけを決めて、出退勤の時刻は労働者の自由に任せるという制度のこと。
これまで労働時間の清算期間が1か月だった点に対し、今回の改革では3か月に拡大されました。これにより、自分の生活や家族との過ごし方に合わせた自由な働き方が可能になったのです。
⑥非正規雇用の労働者への待遇改善
働き方改革によって、非正規雇用の労働者への待遇改善が定められました。今までは正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間に、不合理な待遇の差が生じていたのです。
しかし今回の働き方改革では、「基本給」「賞与」「各種手当」「福利厚生」「教育訓練」などで不合理な待遇差を生じさせてはならない、としています。
職務内容や配置変更の範囲、特別な事情などで大きな違いが無いのであれば、正規雇用と非正規雇用の間で不合理な差をつけてはいけません。
⑦ダイバーシティの推進
働き方改革の一環で、注目を集めているのが「ダイバーシティ」を推進する試み。ダイバーシティは多様性という意味を持つ言葉で、企業では労働者の個性の多様さを生かし、企業の競争力につなげる経営上の取組を指します。
現在の日本は、労働力供給の減少が課題となっているのです。それに加えて、仕事と生活のどちらも大切にするワークライフバランスを重視するようになってきました。
そのためにも企業は、従来の人材層のみならず多様な人材層をも受け入れ、それらの人たちが活躍できる職場環境を整備する必要が出てきたのです。
⑧高度プロフェッショナル制度の導入
働き方改革によって、高度プロフェッショナル制度の導入が定められました。高度プロフェッショナル制度の目的は、「高度で専門的な業務に従事する労働者の長時間労働を防ぐこと」。
そのため高度プロフェッショナル制度では、条件に該当する人を労働時間ではなく成果で賃金を決定するのです。対象となる業務は19業務にのぼります。ここでは一部の業務を挙げてみましょう。
- 金融工学などの知識を用いて行う、金融商品の開発業務
- 金融商品のディーリング業務
- アナリストの業務(企業・市場などの高度な分析業務)
- コンサルタントの業務(事業・業務の企画運営に関する高度な考案または助言の業務)
- 新たな技術、商品または役務の研究開発業務
3.働き方改革のガイドラインを守らなかった場合
2019年4月10日から働き方改革関連法の施行が始まりました。これらは労働基準法などを含めた法令改正であるため、しっかり守らないと罰則の対象になってしまいます。
刑事罰が課せられる
働き方改革で罰金刑や懲役刑などの刑事罰になってしまう条項は、「時間外労働の規制」「残業代の割増率」「フレックスタイム制の清算期間の上限」「有給休暇の取得義務化」「医師の面接指導の義務」です。
時間外労働の規制と残業代の割増率の違反は労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が課せられます。
フレックスタイム制の清算期間の上限と有給休暇の取得義務化の違反では、「30万円以下の罰金」「医師の面接指導の義務違反は50万円以下の罰金」が課せられるのです。
4.働き方改革のガイドライン運用のために取り組まなければならないこと
働き方改革が始動した結果、企業が取り組まなければならない課題は増えました。特に、残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化により、労働者の労働時間の管理は必要不可欠です。
新たな工夫やビジネスツールを導入すると、業務効率化を図れるでしょう。
勤怠管理システムの改善
労働者の残業時間は、原則として月45時間、年間360時間の上限があり、年間5日間の有給休暇を労働者へ付与しなくてはなりません。
Excelや紙などで従業員一人ひとりの勤務時間数や有給休暇日数を管理する方法もあります。しかし集計ミスなどが発生しやすい、というデメリットもあるのです。出勤簿や有給休暇の取得状況などがチェックできる勤怠管理システムを活用するとよいでしょう。
職場環境の改善やテレワークの推進
職場環境の改善方法として挙げられるのは、「ノー残業デーを設ける」「休日出勤を廃止する」などです。昨今、週1日のノー残業デーを設ける企業も増えています。
また出勤にかかる時間の無駄を減らすため、在宅勤務ができるようにテレワークやリモートワークの導入を検討している企業も少なくありません。
業務の効率化
上記の取り組みを実施する際、業務効率が低下しては意味がありません。そのためにも、オンラインストレージやビジネスチャットなどを活用しましょう。
多くの場合、今までは紙媒体で行っていたものを、インターネットを利用して電子化できるため、手間や時間を大幅に省げます。また新しいものを利用できるよう、コンサルティングの導入や人材育成に力を入れるとよいでしょう。
女性や高齢者の活躍推進
働き方改革における企業の取り組みとして、女性や高齢者が活躍できる職場環境作りも大切です。
労働力人口が減少しているなか、有能な人材を確保し続けるには、男女の区別なく、長期的なキャリア展望が描けるような職務経験や教育の機会を与えていかなくてはなりません。
また女性は男性に比べて、企業や上司から仕事ぶりで評価・期待されることによって、昇進意欲が高まる傾向にあるとされています。そのため成果を評価に反映するような制度を整えておくことも、大切です。
ソフトウェアや専門人材を導入
長時間通勤や定時勤務が困難な人の負担を減らすには、ICTやテレワークの活用がマストです。
またクラウドソーシングという働き方では、個人が企業から業務委託形式で仕事を請け負えます。従業員にとって都合の良い場所や時間で働けるため、働き方改革として活用する人が増えているのです。
5.働き方改革のガイドラインの導入事例
働き方改革が始まったとはいえ、具体的に何を取り入れてどのように改善していけばよいのか、悩む人もいるでしょう。ここでは、実際に働き方改革に取り組んだ結果、労働者のモチベーションが上がり、業績も上がった企業の事例を紹介します。
働き方改革の取り組み一例として、参考にしてみてはいかがでしょうか。
カオナビ
カオナビでは、働き方改革として「フレックス±20時間制度」と「カオナビ休暇」という独自の制度を制定しました。
- フレックス±20時間制度:通常のフレックス制度に加えて月所定労働時間に±20時間の幅を設け、自身で労働時間をコントロールできる制度
- カオナビ休暇:3日間のカオナビ休暇と5日間の有給休暇をセットにした長期休暇の取得を奨励する制度
2つの制度によって労働者の裁量と責任を拡大し、働きやすさと仕事の生産性向上を両立できるようにしたのです。
日本生命保険相互会社
日本生命保険相互会社では働き方改革の取り組みとして、「長時間労働の是正」「休暇取得の推進」「仕事と育児の両立支援・仕事と介護の両立支援」を行っています。
まず、自社の価値観を変えました。「どれだけ時間をかけてでも大きな成果を出す」という価値観から、「限られた時間で最大の成果を出す」といった価値観に変化し、業務効率を向上して長時間労働を是正したのです。
また2013年から、男性の育児休暇取得率100%を目標に掲げ、取組を進めています。
6.働き方改革に関する相談窓口
働き方改革について困った際、助けになるのが相談窓口です。
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構が管轄する「よろず支援拠点」
- 厚生労働省が管轄する「働き方改革推進支援センター」
いずれも中小企業・小規模事業者向けの窓口ですので、覚えておきましょう。
①よろず支援拠点
よろず支援拠点では、「売上拡大」「経営改善」「生産性向上」「人手不足の対応」などについて専門家へ相談できます。47都道府県すべてに設置されていますので、近隣のよろず支援拠点を調べてから向かいましょう。
②働き方改革推進支援センター
働き方改革推進支援センターでは、すべての事業主を対象に、「就業規則の作成方法」「賃金規定の見直し」「労働関係助成金の活用」などについてアドバイスしています。企業訪問も行っているため現場を確認しながら、自社に適した方法で解決へ導いてくれるのです。