働き方改革によって有給休暇で変わることとは? 対象者や具体的な対応策について

「働き方改革」の一環として、2019年からすべての企業で年次有給休暇の取得が義務付けられました。ここでは働き方改革と年次有給休暇について解説します。

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1.働き方改革における有給休暇とは?

働き方改革とは、労働者一人ひとりの事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自ら選択できるようにする改革のこと。有給休暇の取得は働く人の心身がリフレッシュされることを目的としているのです。

有給休暇とは?

有給休暇とは、賃金が支払われる休暇日のことで、正式には「年次有給休暇」といいます。企業は条件を満たした労働者に対して、毎年一定の有給休暇を付与すると労働基準法によって義務付けられているのです。

原則、企業は労働者が請求した時季に有給休暇を付与します。ただし事業の正常な運営を妨げる場合に限り、ほかの時季に有給休暇を付与しても構いません。

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日本の有給休暇取得率の現状

2019年の「就労条件総合調査」における有給休暇の取得状況を見ると、1年間の付与日数(繰越分は除く)は労働者1人平均18.0日(前年18.2日)。そのうち労働者が取得した日数は9.4日(同9.3日)で取得率は52.4%となっています。

つまり付与日数の約半数程度しか、有給休暇を取得していないのです。日本の有給休暇取得率は世界的に見てもかなり低いといえるでしょう。

企業規模が小さくなるほど取得率が低い

2019年の「就労条件総合調査」では、企業規模別に有給休暇の取得率を分析しています。1000名以上の企業では58.6%、300~999名では49.8%、100~299名では49.4%、30~99名では47.2%でした。

企業規模が小さくなるほど、付与日数と取得率が下がっていると分かります。「大企業やインフラ企業は労働環境が整っていて人材に余裕があるため、有給休暇が取りやすい傾向にある」と考えられるのです。

有給を取得できない理由

有給休暇が取得できない理由として挙げられるのは、職場環境や個人の性格などです。「企業の制度が整っていない」「労働者や企業側が取得状況を把握できておらず、いざ取得しようとしても取得できない」といった事象が起こるケースもあります。

また「有給休暇を取りにくい雰囲気の職場」「職場の上司や同僚が取得しようとしないため、自分から積極的に取得できない」というケースもあるのです。

働き方改革の目的

現在の日本は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少や、育児や介護との両立に伴い、働く人のニーズは多様化しています。こうした状況に対応するための試みが「働き方改革」です。

働き方改革の目的は、「労働者の視点に立って労働制度の抜本的改革を行う」「企業文化や風土も含めて変える」こと。就業機会の拡大や、意欲や能力を存分に発揮できる環境整備は、企業側の重要課題ともいえるのです。

働き方改革により有給休暇が義務化

従来、労働者が自ら申し出なければ有給休暇は取得できませんでした。

しかし2019年4月の働き方改革によって労働基準法改正が行われ、雇用主は労働者の有給休暇取得の希望を聞いたうえで時季を指定して、有給休暇を年5日間確実に取得させなければならないと定められたのです。

労働者の心身にたまった疲労を回復し、ゆとりある生活を保障できるように、業種や業界問わずすべての企業が対象となっています。

有給休暇の取得は法律で義務化されているものの、日本の取得率は世界と比較するとかなり低い状況です。企業は働き方改革や有給休暇取得の目的などを今一度正しく認識し、労働者が正しく制度を利用できるように規定などを整備する必要があるでしょう。

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2.働き方改革による有給休暇取得義務化が企業に与える影響

有給休暇取得が義務化されたため、労働者はワークライフバランスを整えやすくなりました。疲労やストレスが軽減できて生産性が高まる一方、社内整備をするため企業の負担が増加しているという傾向もあるようです。

モチベーションと生産性の向上

有給休暇を利用すると、労働者の私生活が充実しやすくなります。適切に有給休暇を取得すると、仕事に対するモチベーションアップや、業務効率の向上などが期待できるでしょう。

仕事がうまくいけば私生活も充実し、好循環も生まれます。また労働者がモチベーション高く仕事をすれば、生産性も向上するため、メンタルヘルス対策や無駄な残業代などのコスト削減にもつなげられるのです。

企業イメージの向上

有給休暇取得率が高いと、労働者は働きやすい企業だと感じます。そのため優秀な人材の確保もしやすくなるでしょう。

離職者の減少はもちろん、企業イメージも高まるため、求人や採用などの企業活動で有利に働く可能性は高いです。有給休暇取得率を高めると、企業価値が向上します。

今まで以上の業務効率化を求められる

有給休暇の取得が義務付けられたため、有給休暇付与日数や取得状況をこれまでより厳格かつ効率よく管理する必要が生まれました。

もし用紙を使うような業務日報などでアナログな勤怠管理をしていれば、集計や申請などの作業に手間が掛かってしまうでしょう。勤怠管理システムを導入すると有給休暇の管理などが自動化できるため、業務が効率化します。

有給休暇義務化によって、企業と労働者の双方にさまざまなメリットが生まれまそた。業務効率化を図り、適正な運用ができるよう、有給休暇業務に必要な環境整備を速やかに行いましょう

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3.働き方改革による有給休暇の対象者

2019年4月からの労働基準法第39条にて、「業種や職種、雇用形態にかかわらず、一定の要件を満たしすべての労働者に有給休暇を与えなければならない」と定められました。有給休暇の最低日数は10日で、対象には管理監督者や有期雇用労働者も含まれます。

有給休暇の対象条件

有給休暇が付与される条件は2つです。

  1. 雇い入れの日から6か月経過している
  2. その期間の全労働日の8割以上出勤している

以上の条件が満たされると10日の有給休暇が付与され、そのうち5日分は付与から1年以内に取得させなければなりません。あとも引き続き条件を満たすと、勤続期間に応じて定められた年次有給休暇が付与されます。

パート・アルバイトも有給休暇を取得できる

「週の所定労働時間が30時間以上」「週の所定労働日数が5日以上か年間217日以上」出勤しているパート、アルバイトには、正社員と同様の有給日数を付与する必要があります。

「週所定労働時間が30時間未満」「週所定労働日数が4日以下または年間216日以下」出勤しているパート・アルバイトにも、1週間または1年間の所定労働日数に応じた日数を与えなければいけません。

有給休暇は、一定の条件を満たす労働者へ平等に与えられる権利です。パートやアルバイトにも、勤務時間数や日数に応じた有給休暇を付与しなければなりません

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4.働き方改革によって有給休暇を取得しないと罰則になる

労働基準法では、労働者が安定した生活を送る権利を守るため、「労働契約」「賃金」「労働時間」「休憩」「休日」「有給休暇」などについて労働条件の最低基準を定めています。労働基準法に違反した企業には、罰則が与えられるので注意しましょう。

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具体的な罰則規定

労働基準法第39条で定められた年5日の有給休暇を取得させなかった場合、企業(雇用主)には、6か月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科せられます。

年5日の有給休暇の取得はあくまで最低限の基準値ですので、5日にとどめる必要はありません。企業側は、労働者が付与された日数の有給休暇を取得できるよう、環境整備に努めましょう。

労働基準監督署から指導がある

罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1つの違反としてカウントされます。つまり年5日の有給休暇を取得していない労働者が5人いれば、罰則が5倍になる可能性があるのです。

ただし多くは、罰則の前に労働基準監督署から是正勧告や指導を受けます。法令違反があれば「是正勧告書」が、改善すべき点があれば「指導票」が交付されるので、真摯に受け止めて迅速に改善対応を行いましょう。

有給休暇の付与から1年以内に5日を取得させないと。企業は労働基準法違反と見なされて罰則を受けます。労働基準監督署の指導があった場合は速やかに、労働環境を改善しましょう

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5.働き方改革における有給休暇の申請ルール

有給休暇は労働者の権利であるため、基本、企業側の承諾は不要です。しかし業務に支障が出ないよう、業務と有給休暇のバランスを調整しなければなりません。

労働基準法では雇用主に「時季変更権」という権利が認められています。つまり状況に応じて企業が有給休暇の取得日を変更できるのです。

有給休暇の付与日数

6か月継続勤務して全労働日の8割以上出勤した労働者には、10日の有給休暇が与えられ、それは勤続年数に応じて加算されます。付与日数は下記のとおりです。

  • 勤続勤務年数が1年6か月の場合、付与日数は10日
  • 勤続勤務年数が2年6か月の場合、付与日数は12日
  • 勤続勤務年数が3年6か月の場合、付与日数は14日
  • 勤続勤務年数が4年6か月の場合、付与日数は16日
  • 勤続勤務年数が5年6か月の場合、付与日数は18日
  • 勤続勤務年数が6年6か月以上の場合、付与日数は20日

有給休暇の取得理由

有給休暇取得は労働者に与えられた権利のため、基本、取得の理由を企業側に伝える義務はありません。もしも理由を聞かれたら私用のため、などと伝えるだけでよいのです。

労働基準法では、有給休暇の取得やその理由によって、労働者に不利益となる扱いをしてはならないと定められています。「賃金の減額」「欠勤扱いにする」「人事評価を下げる」などの行為が該当するので注意しましょう。

企業による有給休暇の時季変更権

労働基準法では、雇用主の権利として時季変更権を認めています。時季変更権とは、労働者から申請のあった有給休暇取得日を雇用主が変更する権利のこと。

申請された日に有給休暇を付与すると、事業の正常な運営が妨げられると客観的に判断できる場合、企業は有給休暇取得の時季を変更できます。

また有給休暇は労使協定で、5日の範囲内なら半日単位や時間単位で与えられると認められているのです。申請された時期に1日単位で付与するのが難しい場合、この方法を利用するのもひとつでしょう。

原則、労働者は時季にかかわらず有給休暇を取得できます。ただし事業の運営を妨げる恐れがある場合は、企業は有給休暇の時季を変更できるのです

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6.働き方改革において有給休暇取得をスムーズに行うために

法改正により企業に義務付けられた、年5日の年次有給休暇取得をスムーズに進めるにはどうしたらよいのでしょうか。ここでは体制づくりに役立つ3つの方法をご紹介します。

  1. 計画的付与制度を活用する
  2. 勤怠管理システムを導入する
  3. 年次有給休暇管理簿を作成する

①計画的付与制度を活用する

計画的付与制度とは、有給休暇のうち5日を超える分については、労使協定を結べば計画的に有給休暇の取得日を割り振れる制度のこと。導入すると、労働者側は有給休暇が取得しやすくなり、使用者側では計画的に事業運営ができるようになります。

「企業の労働者を一斉休業にする」「班やグループで分けて交代制で付与する」といった方法が挙げられるでしょう。

②勤怠管理システムを導入する

企業側は、これまで以上に労働日数や有給休暇取得管理を適切に行わなくてはなりません。労働者ごとの有休の取得状況や付与日数、繰り越し日数などの管理は、勤怠システムを導入すると効率的です。

多くの勤怠管理システムは、法改正などがあればその都度バージョンアップされます。今後再び法改正があった際も、有給休暇管理をスムーズに進められるでしょう。

③年次有給休暇管理簿を作成する

働き方改革関連法では、雇用主にすべての労働者の「年次有給休暇管理簿」を作成して、保管するよう義務付けています。年次有給休暇管理簿とは、労働者ごとに年次有給休暇の取得日、取得した日数、基準日(付与日)をまとめた書類のこと。

年次有給休暇管理簿は、その年の基準日から4年間は保存しなければなりません。保存はパソコンでも問題ありませんが、必要なときに印刷できるようにしておきましょう。

労働者が規定の有給休暇日数を取得できるよう、企業は社内のルールやシステムを整備する必要があります。また年次有給休暇管理簿の作成と保存が義務付けられているため、こちらも忘れずに管理しましょう

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7.働き方改革の有給休暇についての相談窓口

有給休暇は労働者の権利であるものの、なかなか有給休暇を取得できないケースも見られます。労働者が企業に相談できない場合は、労働条件などの疑問点や相談ができる行政機関に連絡してみましょう。

労働基準監督署

労働基準監督署は全国321署あり、企業の法律違反から労働者を守る役割を担っているのです。

労働者から相談や通報ができ、通報すると労働基準監督署による企業への立ち入り調査が行われ、企業に改善指導がなされます。企業が有給休暇の取得を受け入れない場合、労働基準監督署へ相談してみましょう。

労働条件相談ほっとライン

働くうえで労働条件に関する悩みや疑問、不安点があるものの労働基準監督署に時間などのタイミングが合わず相談できない、という人のためにあるフリーダイヤルです。

あくまで委託事業のため基本、法令にもとづくアドバイスや情報提供が中心となります。労働基準法に違反した企業に指導・是正勧告を行うといった対応はできないので注意しましょう。

労働基準関係情報メール窓口

労働基準関係情報メール窓口では、労働基準法などの違反が疑われる企業事業場の情報をメールで送れます。

受付対象は、「労働基準法」「最低賃金法」「労働安全衛生法」「作業環境測定法」「じん肺法」「賃金の支払の確保等に関する法律」「家内労働法」に該当する情報です。

送った情報は関係する労働基準監督署や都道府県労働局へ共有され、立入調査対象の選定に活用されます。

労働条件に関して少しでも悩みがあったら、「労働基準監督署」「労働条件相談ほっとライン」「労働基準関係情報メール窓口」などへ相談してみましょう