有給休暇の日数繰越とは? 付与される日数や取得できないときの対策について

有給休暇の日数繰越とは、一体何でしょうか。概要や有給休暇を取得できないときの対処、メリットやデメリットなどについて、解説します。

1.有給休暇の日数繰越とは?

有給休暇の日数繰越とは、有給休暇の付与日から2年以内であれば原則、繰り越しできるという仕組みのこと

労働基準法第39条では、労働者の年次有給休暇に関する規定が記載されており、ここでは有給休暇の時効を「付与日から2年」と定めているのです。なお法律の範囲を超えて付与される有給休暇については、この限りではありません。

有給休暇とは? 付与日数や計算方法、繰越の上限をわかりやすく
有給休暇(年休)とは、従業員が心身の疲労回復やゆとりある生活を送ることを目的に取得できる休暇で、休暇でも賃金が発生します。従業員は有給休暇を取得する義務があり、企業は有給休暇を付与・取得を承認する義務...

新規取得と繰り越した有休どちらが先に処理されるのか?

付与日から2年以内ならどの年の有給休暇を使用しても問題はなく、またそれは労働者の判断によって決まるのです。新規取得した有給休暇と繰り越した有給休暇であれば、通常は時効消滅が迫っているものから使用します。

基本、付与日の古いものから使用されると考えるのが一般的です。

今の有給休暇取得率について

さまざまな理由から、有給休暇を消化できないまま日数だけが溜まり続けていくという人も存在するでしょう。厚生労働省による労働者1人平均の年次有給休暇取得率を見ても、日本の有給休暇取得率は、世界的にも最低レベルにあります。

さまざまな事情で有給休暇を繰り越しても、実のところ消化できない人が多い、というのが日本の現状です。

なぜ有給休暇の繰越時効まで消化できないのか?

なぜ繰越時効までに有給休暇を消化できないのでしょうか。これにはいくつかの理由があるといわれているのです。

有給休暇は、「体調不良で休む」「所用がある」など、さまざまなシーンで自由に使えます。また柔軟な働き方を可能にするため、半日だけの取得も可能です。

しかし現実には、「毎日仕事へ行くのが当たり前と考えている」「休むとほかの人の迷惑になる」「仕事量が多すぎてそもそも休んでいる余裕がない」人が多く、なかなか有給休暇が消化できないという現実になっています。

有給休暇の時効は付与日から2年です。2年以内であれば基本、有給休暇を繰り越して使えます

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2.年次有給休暇の付与日数についての法的概要

続いて、年次有給休暇付与日数についての法的概要を見ていきましょう。有給休暇の目的は、「労働者を休ませ、リフレッシュする時間を与えて働きやすい環境を提供し、人間らしい生活をもたらすこと」「ワークライフバランスを保持すること」。

原則、半年以上同じ事業所(会社)に勤め、その間の出勤率が8割以上の労働者に対して勤労年数に応じた休暇日数が付与されます。

年次有給休暇の付与が発生するのはいつ?

年次有給休暇について規定した労働基準法39条において、年次有給休暇が発生する条件は以下のとおり定められています。

  • 雇用した日から6か月以上継続して同じ事業所(会社)に勤務している
  • 全労働日の8割以上出勤している

たとえば入社日が2020年4月1日の場合、「入社日から6か月後の2020年10月1日に10日間の休暇が発生する」「入社日から1年6か月後の2021年10月1日に11日間の休暇が発生する」のです。

入社日より有給付与をされる場合がある

前述した発生タイミングは、あくまでも最低限の義務規定に過ぎません。これ以外に会社の判断によって独自の有給休暇を与えることも可能です。

なかには入社日から有給休暇を付与している会社もあります。この場合、会社の就業規則などで禁止されていない限り、入社後すぐに有給休暇を取得できるのです。

年次有給休暇の付与日数について

続いて、年次有給休暇の付与日数について見ていきましょう。労働基準法39条では年次有給休暇の付与日数を、下記のとおり定めています。

  • 継続勤務年数が6か月の場合:10日
  • 継続勤務年数が1年6か月の場合:11日
  • 継続勤務年数が2年6か月の場合:12日
  • 継続勤務年数が3年6か月の場合:14日
  • 継続勤務年数が4年6か月の場合:16日
  • 継続勤務年数が5年6か月の場合:18日
  • 継続勤務年数が6年6か月の場合:20日

なお付与日数が適用されるのは、「1年間の所定労働日数が217日以上」「週の所定労働時間が30時間以上、かつ所定労働日数が週5日以上の一般労働者」という条件を満たした人になります。

出勤率の計算方法とは?

年次有給休暇を取得するには「8割以上の出勤率」が必要です。出勤率は、「出勤日数÷全労働日」で求められます。

出勤日数とは、実際に働いた日数のことで、「遅刻や早退をした日」「使用者の責任によって休んだ日」「産前産後休暇や育児休業、介護休業などを取得した日」「労災による療養のために休んだ日」も、含まれます。

全労働日とは?

全労働日とは所定労働日のことで、土日休みの会社なら月曜から金曜が所定労働日に当たります。出勤率算定期間の総日数(30日や31日)から就業規則などで定める所定休日を除いた日が、全労働日になるのです。所定休日に休日出勤しても、全労働日に含まれません。

時間単位、半日単位での付与もできる?

年次有給休暇の取得に際して多いのが、時間単位・半日単位で使用できるのかという質問です。年次有給休暇は「1日」単位の取得が原則。しかし労働者が希望し使用者が同意すれば、日単位取得の阻害とならない範囲で「半日」単位の使用も可能です。

また労使協定などを締結すれば「1時間」単位でも使用できます。ただし時間単位の有給休暇日数は、年5日が限度です。また1時間未満の「分」単位での計算は認められません。

時季変更権について

年次有給休暇の取得は労働者の権利ですので、雇用者による制限は原則、認められません。これは年次有給休暇を取得する時季も同様です。基本的には労働者の希望する時季に年次有給休暇を取得できます。

ただし労働者の希望する時季が会社運営の著しい妨げになる場合、時季のみ会社が変更できます。これを「時季変更権」と呼ぶのです。

時季変更権は、「年度末の繁忙期に有給休暇の請求があった」「多くの労働者から申請が集中した」場合などに認められます。

有給休暇の計画的付与について

年次有給休暇は、計画的付与(あらかじめ労使協定を締結することで、雇用者が年次有給休暇を与える日にちを指定すること)が可能です。会社が指定した日に年次有給休暇を使う、とも言い換えられます。たとえば下記のようなケースが計画的付与です。

GWやお盆休みで法定休日となっていない日に一斉取得させ、大型連休を実現させる

チームごとに交代制で年次有給休暇を付与する

アルバイトやパートの年次有給休暇の付与日数について

アルバイトやパートの場合、年次有給休暇はどのような扱いになるのでしょうか。アルバイトやパートに有給休暇は認められない、と思われる場合もあります。しかし実は、短時間労働者にも年次有給休暇の取得が認められているのです。

なお年次有給休暇の付与が認められるのは、週の所定労働時間が30時間未満の労短時間労働者で、取得条件は週の所定労働日数と年間の所定労働日数によって異なります。

時効期限と買取について

先に述べたとおり、年次有給休暇の請求権には付与日から2年の時効があるのです。1年で消化しきれなかった有給休暇には繰越が認められるものの、発生から2年経過しても消化されなかったものは消滅します。

2年以上の累積は会社が特別に認めていない限り不可能です。

また原則、年次有給休暇の買取は違法となります。厚生労働省でも有給買取は年次有給休暇の本来の趣旨である「休むこと」を妨げるため法律違反、と明記しているのです。

年次有給休暇の買取は原則、違法となります。ただし退職時に残ってしまった年次有給休暇に対して、残日数に応じた金銭を任意で給付することは可能です

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3.有給休暇を取得できないときの対処法とは?

年次有給休暇の付与は、労働基準法39条で認められた雇用者の義務となります。しかし会社によってはこれを不当に拒絶し、有給休暇を取得させないケースもあるのです。ここでは有給休暇を取得できない場合の対処法について、解説します。

まずは社内相談窓口に行く

有給休暇を取得できない場合、まずは社内の労働相談窓口に相談してみましょう。会社側で労働環境についての相談窓口を用意している場合は、これを利用します。また社内にコンプライアンス窓口や労働組合などがある場合はこちらに相談してみてもよいでしょう。

ただし社内窓口の場合、会社側に加担して説得されたり、会社側に情報漏えいされたりするリスクも考えられます。あくまで困っているから一度相談にきた、という姿勢で臨みましょう。

労働基準監督署を頼る

「社内窓口に相談しても解決しない」「有給休暇の申請が不当に受け入れられない」場合は、労働基準監督署に申告しましょう。労働基準監督署は、署内の事業者が適切に労働関係の法令を守っているかを監視する機関です。

刑事的な捜査権を持つため、違法行為をしている可能性がある場合、臨検調査や指導勧告を行えます。労働者に有給休暇を取得させないことは、労働基準法39条の違反です。悪質に取得を妨げていると判断された場合、送検されることもあります。

退職を考える

年次有給休暇を取得させない会社の場合、ほかにもブラックなケースが多くあります。たとえば「パワハラが横行している」「有給もなく休憩時間も削られる」「休日労働や深夜労働をしても残業代がつかない」などです。

こういった現状が見られる際は、年次有給休暇の付与を待つより先に退職して別の会社を探すのもよいでしょう。

労働問題になるなら弁護士に相談

「会社が有給休暇の取得を拒否するので、取得するべく交渉を行いたい」このように法的な労働問題に発展しそうな場合は、弁護士に相談しましょう。

弁護士であれば、会社に対して労働者に年次有給休暇を取得させるための警告書を送れますし、労働審判や訴訟を起こして争うことも可能です。

弁護士には守秘義務があるため情報漏えいの心配はありません。「取得できる年次有給休暇日数が分からない」「会社が違法行為を行っているのか知りたい」といった場合も、弁護士に相談してみるとよいでしょう。

過去、有給休暇の取得妨害で裁判になった事例がいくつもあります。悩んだ際は労働問題に強い弁護士を探して相談を申し込んでみましょう

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4.有給休暇を取得させるメリット

年次有給休暇を取得させると、企業はどんなメリットが得られるのでしょう。

離職率低下による就職希望者の増加

平成29年に厚生労働省が発表したデータによれば、転職入職者が前職を辞めた理由の上位に「労働時間や休日など、労働条件が悪かった」という理由が挙げられていました。休暇の取りにくさが離職を招く大きな原因になっているのです。

働き方改革を受け、ワークライフバランスを考えて勤務できる企業を求める労働者は増えています。有給取得がしっかりできる会社だとアピールできれば、離職率の低下につながるのです。

従業員のモチベーションや生産性の向上につながる

働き詰めで心身ともに疲弊しきった状態では、クリエイティブな発想は生まれません。仕事をやればやるほどモチベーションが、また生産性が下がる恐れもあります。

十分な休息を取らせられれば、従業員はクリエイティブな発想をもって仕事に取り組めるでしょう。結果、モチベーションや生産性も向上し、業績もおのずとアップするのです。

企業イメージの向上

年次有給休暇の消化率が高い会社と低い会社、どちらの企業イメージがよいかは言うまでもありません。

先にも触れたとおり、有給休暇の取得を言い出しにくい従業員にしっかり有給休暇を取得するよう働きかければ、周囲に好印象を与えられます。結果、従業員の働きやすさを重視している会社として良い印象を周囲に与えられるのです。

そのほか、従業員を休ませることで「メンタルヘルス対策にかかるコストの削減」が図れます。このように有給休暇を従業員に取得させると、企業も多くのメリットが得られるのです

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5.有給休暇を消化させないことによるデメリット

有給休暇を消化させないと、いくつかのデメリットが生じます。有給休暇を消化させないことによるデメリットについて、解説しましょう。

離職率が上がる

近年、長時間労働の是正や有給取得の推進など、働き方改革に積極的な企業が増えています。現状のまま改善に取り組まなければ、労働者は当然積極的な企業を選びます。改善に取り組まない企業の離職率が高まるのは、避けられません。

さまざまなストレスから企業へのイメージが悪くなり、それを理由に従業員が退職した場合、企業イメージの回復には相当な時間がかかります。また離職率が高まってから改善に取り組んでも、手遅れになる危険があるのです。

従業員のストレスが増加してしまう

日本人の有給取得に関する調査では「上司が有給取得に協力的かどうか分からない」と回答した人の割合が諸外国に比べて高いと分かっています。

つまり「有給取得に関するコミュニケーションが不足している」「有給を取得したいけれど口に出せない」といった傾向にあるのです。

「有給取得に協力的かどうか判断できないからこちらから言い出すのは申し訳ない」「周りが休んでいないのに有給を取得するのは抵抗がある」「本当は有給を取得したいのに言い出せない」こういったストレスを抱えたままでは、生産性やモチベーションが上がらないのも当然でしょう。

企業イメージを悪くしてしまう

前述のようなストレスをため込んでいる場合「この会社は有給が取得できない会社だ」というマイナスのイメージが社外に出回ることも考えられます。それを聞いた社外の人は、企業に対して悪いイメージを抱くでしょう。

企業側として「有給所得は本人の事由に任せている」と思っていても、積極的なアクションがなければ「有給が取得できない会社」というイメージを拭えません。企業イメージをよくするには、企業や上司からの積極的なアクションが必要不可欠です。

一度悪くなってしまった企業イメージを回復させるには相当の時間がかかります。有給休暇を消化させないことが、さらなる負のスパイラルを招く恐れもあるのです

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6.【年5日】義務を違反した場合の罰則とは?

2019年4月から、すべての使用者に対して「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられました。年次有給休暇の取得促進は、働き方改革の実現に向けた喫緊の課題です。ここでは年5日の取得義務を違反した場合の罰則について、解説します。

30万円以下の罰金となる

年5日の年次有給休暇の確実な取得では、違反した場合の罰則をそれぞれ定めています。

法定年次有給休暇の付与日数が10日以上ある労働者に対して、年5日の年次有給休暇の確実な取得をさせる。違反した場合は労働基準法第39条第7項の違反となり、労働基準法第120条にもとづいて30万円以下の罰金が課される

有給取得の時季指定を使用者が行う場合、時季指定の対象となる労働者の範囲と時季指定の方法については就業規則に記載する。記載のない場合は労働基準法第89条の違反となり、労働基準法第120条にもとづいて30万円以下の罰金が課される

6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金となる

前述した2つのほか、時季変更権を濫用した場合も罰則の対象となります。労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合、労働基準法に第119条にもとづき、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金となるのです。

時季変更では、有給休暇を取得させるために使用者がどこまで配慮したかが重要となります。申請された取得日が繁忙期だったとしても、使用者は実現できるようできる限り配慮しなければなりません