社内の活性化は、人材同士の円満な関係だけからは生まれません。ときには衝突も受け入れ、その過程を経てより良い方向へ進んでいくことも大切なのです。
これが、コンフリクトマネジメントと呼ばれる心理学者の理論をもとに、確立された考え方です。
とはいえ、衝突を糧にする考え方は、単純なものではありません。間違った方法ではマイナスに働く可能性も。以下で紹介する正しい方法や注意点などを理解して、効果的に活用しましょう。
目次
1.コンフリクトマネジメントとは?
コンフリクトマネジメントとは、職場の円滑化、および組織の成長において役立つ取り組みのこと。
人材同士の衝突が起きた場合、勝ち負けが生じるため、利益はゼロサム化するでしょう。しかしそれでは、本当の意味での組織の成長につながらないのです。
そこでコンフリクトマネジメントを実施して双方の関係をWin-Winとなるよう進め、利害の衝突や対立を解消すると同時に人材や組織全体の成長へとつなげるのです。
従来であれば、問題はしこりとなったでしょう。しかしコンフリクトマネジメントではそれをメリットに変えられるのです。効率的なマネジメント方法といえるでしょう。
コンフリクトという言葉の意味
コンフリクトは、英語で「conflict」と表記します。直訳すると、武力における、比較的長期にわたる戦いや争い・闘争・戦闘です。とはいえ、実際の戦地における争い事のみならず、広い意味での衝突や対立といった意味も持ち合わせます。
コンフリクトとは?【ビジネスでの意味】原因、マネジメント
コンフリクトとは、意見の対立や相反する要求がある状態のこと。コンフリクトの原因や影響、解消するためのマネジメント方法などについて解説します。
1.コンフリクトとは?
コンフリクト(Conflict)...
コンフリクトマネジメントの概念
コンフリクトマネジメントは、3つの手順に分類されます。
❶概要の認識
職場で起こる利害に関係した衝突や対立をただの諍いで終わらせず、衝突・対立を組織の成長につなげる取り組みと定義しましょう。
❷どのように進めれば双方の利益になるかを考える
マイナスの感情をプラスに返るというのは、決して簡単なことではありませんが、効率的な手法といえます。
❸コンフリクトマネジメントによる実際の問題解決
通常ならデメリットとなるはずのコンフリクトを相互利益に変える、いわばこの取り組みの最大の特徴です。関係に亀裂を生じさせたであろう物事から、相互理解と協働を実現します。
2.コンフリクトの原因と要素
そもそもコンフリクト(対立)は、どのように生じているのでしょう。原因と対立について、注目してみます。
コンフリクトの原因と背景
コンフリクトはどのような背景で起こるのでしょうか。社員は統率者の意思に沿った同じ方向を向いているため、争いなどは生じないように思えます。しかし実際は、そこに複雑な状況が存在するのです。
年齢や性別の差、またアルバイト・パート・派遣・正社員といった雇用体系における違い、就労経験や実力など、同じ会社の社員間でもあらゆる差異が存在します。特に近年は、働き方や人材の多様化が生じているため、合意形成が難しい時代となっているのです。
全員が同じ状態で同じ方向を向いていれば、コンフリクトは起きません。しかしそれぞれの差異により、大小さまざまなコンフリクトが発生してしまうのです。
コンフリクトを生む要素
具体的には、どのような要素がもととなってコンフリクトが起きるのでしょうか。代表的な要素を、それぞれ紹介します。
❶条件の対立
まずは、条件の対立です。3つに分類される対立形式でも、比較的解決しやすいものに当てはまります。主な原因は、
- 上司と部下といった上下関係における対立
- 仕事内容の差異
など。これらの差異によって目標や条件が違ってくるため、意思が対立してしまうのです。
- コスト対品質
- 納期対安全
- 売り上げ増対コストダウン
などの争点が代表的でしょう。
❷認知の対立
認知の対立とは、思考や価値観の違いが原因となるコンフリクトのこと。同じ物事に対峙していても、人によってそこに対する考え方はさまざまなため、解釈の違いから対立が生じてしまうのです。
思考や価値観は人生全体から構築されるため、解決の難易度も少々高くなります。
- 理想対現実
- 印象対事実
などが具体例です。
❸感情の対立
最後は感情の対立。気持ちが原因となるため、3つの中でも解決難易度は最も高いでしょう。また、これは複数の対立が続くことで起こるため、根深くなりやすいのです。争点を例に挙げると、
- 優越感対劣等感
- 満足対後悔
- 愛情対無関心
といった心情的なぶつかり合いが主となります。
3.コンフリクトマネジメントのメリット
前述のような対立は、コンフリクトマネジメントによって解決と相互利益、両方の実現を目指しましょう。これにより、複数のメリットに期待できます。
たとえば風通しの良い職場づくり。怒りの感情を有したままでは、言いたいことが言えない空気が出来上がってしまうでしょう。
コンフリクトマネジメントは、むしろ不満を出すことがメリットになりますし、それにより内に秘めた不満も減少し、風通しが良くなります。さらに相互理解と結束も促進されるでしょう。
それだけでなく、これらを経ることにより得た学びが、成長や行動に結び付き、成果向上をも創出するでしょう。
4.コンフリクトで生じる態度とコンフリクトマネジメントで目指すべき地点
コンフリクトで生じる態度
コンフリクトでは主に、5つの態度が発生します。それぞれを把握して、マネジメントする際のポイントとして意識しましょう。
- 強制
- 妥協
- 服従
- 回避
- 協調
①強制
社会では、協調や和の意識が欠かせません。特に日本では、そういった考えを美徳とする風潮があるため、必須要素でもあるでしょう。つまり、自分の意見を相手に押し付けるような強制的行為は、対立の要因となりやすいのです。
②妥協
強制に対しての、和を重んじた大人な振る舞いといえるでしょう。この場合の妥協は、相手の意見を受け入れ、ある程度の範囲内で譲歩する態度です。コンフリクトマネジメントにおける、大事な要素でしょう。
③服従
妥協にとどまらず、完全に相手の強制的意見を承服してしまう態度です。しかし対立においては自分の意見もあります。そのため、言いたいことは胸に秘め、抑え込む行動を伴うでしょう。Win-Winとは、かけ離れた選択といえます。
④回避
対立において、結論に至らず話を終える流れです。対立は、主にお互いを否定し合うことで起こります。そこへきて、否定し合った状態のままで終わるのです。根本的な問題の解決とは、程遠い態度の取り方でしょう。
⑤協調
最後が協調です。紹介した対立における5つの態度のうちこの協調が理想です。コンフリクトマネジメントで目指すべき着地点でしょう。
態度の取り方は、お互いにおけるWin-Winな結果を目指して、双方が前向きに捉えられる方策を考えるといったもの。後腐れを残さず、成長や発展につなげられます。
5.コンフリクトマネジメントの手順と方法|コンフリクト解消に向けて
コンフリクトマネジメントの事前準備
理想的なコンフリクトマネジメントを成功させるには、準備も欠かせません。意識すべきポイントをまとめました。
コンフリクトへの認識を変える
コンフリクトとは、揉めている状況のこと。この時点では、和を乱すマイナスな事象以外の何物でもありません。しかしまずはその認識を変えてください。「コンフリクトは不要なマイナス要素」という考えをプラスに変えることで、ポジティブに捉えられます。
具体的には、コンフリクトをマネジメントすることでこれまで以上のメリットが生まれるといった意識転換です。ピンチをチャンスに変える、そんな認識といってもよいでしょう。まずは揉めている本人たちの前に、上司などマネジメントする側の認識をポジティブに変えるのです。
コンフリクトマネジメントのメリットなどを共有
コンフリクトマネジメントが有用という認識を、事前に社内で共有しておきましょう。一部のみにとどまらず、全社での共有が重要です。なぜなら、コンフリクトマネジメントは相互的に前向きになることが目的。共通認識していなければ実現は難しいのです。
認識を共有できたら、コンフリクトマネジメントをしやすいような土壌づくりを行いましょう。コンフリクトが起きた際、誰が悪いのかという考えは先行すべきではありません。
対人ではなく対物事で捉えられるよう何が悪いのか正しいのかという考えが先行する環境を整えましょう。
上長や管理職が率先して実行
コンフリクトマネジメントを今日から実践しなさい、という伝達法では、土壌をつくることはできません。自分や空間を客観的に見られる人は限られています。ポジティブな意味での方針変換にも関わらず、強制として捉えられてしまうのです。
ではどうすればよいのでしょう?
まずチームの上長や管理職が率先して取り組みます。ポイントはコンフリクトもマネジメントもオープンに実施すること。これにより、コンフリクトが起きてもポジティブにマネジメントする風潮が自然に広がるでしょう。
コンフリクトマネジメントの実践とステップ
❶相手を侮辱せず、尊重して話し合いを進める
まず最初に、コンフリクトの解決には協調が重要だと意識しましょう。意見が対立した際に相手を否定してしまうと、関係は悪化する一方です。罵倒や侮辱までをも行えば、争いの域にまで及ぶでしょう。
まずは相手を尊重し、相手の話に耳を傾けることを忘れてはなりません。
❷尊重した話し合いの上で互いの一致と相違を明確にする
互いを尊重し合うと話し合いの実現につながります。相手のことを考えながら、かつ自分の意見を伝えることで、建設的な話し合いが交わせるでしょう。このとき、意見を内に秘め過ぎてはいけません。尊重した上で意見を出し合うことで、状況を明確にできるからです。
それぞれの意見を比較して、
- どのような希望や相違があるのか
- 一致する部分は何か
見つけていきましょう。これによりマネジメントすべき材料を明確にできます。
❸明確にした点からコンフリクトの原因を見出す
相違と一致の2点を明確にしたら、次は何が原因であるのかを探りましょう。前述した3つからなる対立の原因を参考にしてください。条件なのか、認知なのか、そして感情の対立にまで至っているのか、考えましょう。これにより、
- どのようにして認識を一致にもっていくか
- 解決の難易度はどのくらいか
探っていきましょう。
❹お互いが自身を客観的に見つつ、原因についてあらゆる角度から考える
対立が起きている際、双方の温度感は高まっているため、冷静さを失いがちです。それにより、視野も狭くなっているでしょう。しかし、コンフリクトマネジメントでは広い視野が重要です。客観的に自分や問題を捉えられるよう、促してください。
そして、問題についてあらゆる角度から考え物事そのものにスポットを当てます。スムーズな解決に向かうと同時に、意識が対人でなくなることで、温度感を下げる効果も期待できるでしょう。
❺お互いがWin-Winになる着地点を協力して探す
対立している問題を導き出したら、コンフリクトマネジメントの目的である、協調に向けて話を進め、Win-Winの結末を目指すのです。
ここでポイントになるのがお互いにとってバランスの取れたメリットを生じさせるということ。バランスが不安定ですと、それこそ差異につながり、本当の意味での解決に至れません。
❻着地点を共有し、協力して解決に取り組む
お互いにとってのメリット、つまり着地点が導き出せたら、それらを双方で共有します。認識の食い違いが影響して対立が起こっていた中で、共通認識をつくれるわけですから、事態を効率的に解決へと導けます。
着地点は、解決だけでなく利益にもなるわけですから、結果としてコンフリクトが起きて良かったとさえ感じられるかもしれません。またポジティブな認識をお互いに共有することは、温度差の解消にも役立つでしょう。
6.コンフリクトマネジメントを研修で学ぶ
コンフリクトマネジメントを研修で学ぶメリット
コンフリクトマネジメントの詳細は、前述の通りです。とはいえ、初めて実践する場合は決して簡単ではありません。しかし安心してください。そういった人向けの研修に参加することで方法を学べます。
産業やマネジメントに関する組織、団体において、定期的に専門的な研修が実施されているのです。これにより、コンフリクトマネジメントを理解し、社内におけるマネジメントに反映できるでしょう。
プロの手法をもとに実践できれば、高いクオリティでの実現が目指せるでしょう。
日本能率協会マネジメントセンター コンフリクト・マネジメント入門コース(e-ラーニング)
「日本能率協会マネジメントセンター コンフリクト・マネジメント入門コース(e-ラーニング)」は、条件・認知・感情と3つの対立タイプに分けて捉える基本的なカリキュラム。コンフリクトマネジメントのベースを学びたい人にお勧めでしょう。
これにより、組織内のイノベーション、創造性、グローバル化、多様化を目指すことが目的に掲げられています。序章と全4章からなるカリキュラム、そしてレポート問題を経て、エンディングや振り返りへと至ります。
産業能率大学総合研究所 コンフリクト・マネジメント研修
「産業能率大学総合研究所 コンフリクト・マネジメント研修」も、コンフリクトマネジメントがしっかり学べる研修の一つ。2日に及ぶ内容ですので、充実感が得られるでしょう。
組織内に葛藤や緊張が起こっている現場では、管理職、リーダーの資質が問われます。そんな中でも協働的かつ建設的なコミュニケーションを創出できるよう、理想的なマネジメントのプロセスと方法を身に付けることが目的です。
7.コンフリクトマネジメントの事例
医療現場での事例
90代の高齢患者が転倒した際に生じたコンフリクトの事例を紹介しましょう。その男性は入院中、に夜間せん妄により転倒しました。直後、同病院にて頭部CTスキャンを行ったものの、特に異常はなく退院に至ったそうです。
しかし退院から2週間後、改めて脳外科で検査したところ、硬膜外血種と診断され除去手術に至りました。これにより、夜間せん妄の一言で片付けられた患者側から強いクレームが生じたそうです。
命にも関わる医療コンフリクトということもあり、当初は話し合いも平行線だったそうです。しかし話し合いの場を繰り返し設けることで、お互いの真意を引き出し、素直な思いを共有するに至りました。結果、患者側から感謝の言葉が出るほどの円満解決へと導かれたそうです。
開発部門と運用部門の事例
開発と運用の、双方を一貫して行うシステム会社の事例です。コンフリクトが生じたのは、運用部門と開発部門・営業部門の間においてでした。
ある日、開発部門がつくったシステムが、運用部門においてオペレーション障害を起こします。すると開発部門と営業部門は、運用部門に「正確にマニュアルを読んで正しく実行してほしい」とクレームをつけたそうです。ですが運用部門にも不満があり、「続々と上がってくる新システムについていけない」と対立しました。
そんな中コンフリクトマネジメントを行ったところ、
- オペレーションが増え続ける
- マニュアルが老朽化
- 自動化できるオペレーションがいまだ手動で実行されている
といった問題点の洗い出しができました。結果、
運用現場から見て、継続して実行できるオペレーションは自動化し、手動オペレーション数を減らす
すでに古くなったマニュアルを最新状態へと修正することで、運用コストを削減する
などの方針を決定し、相互へのメリットへとつなげたのです。