人事評価のフィードバックとは、人材育成の役割を担う重要な業務です。ここでは人事評価におけるフィードバックのメリットや実施のポイント、目的や生かせるスキルなどについて解説します。
目次
1.人事評価におけるフィードバックとは?
人事評価におけるフィードバックとは、上司と部下が評価の結果や成果から生まれた課題を共有し、今後の成長に役立てたり会社への貢献度を向上させたりする施策のこと。部下の成長のために、単なる査定で終わらせず、適切なフィードバックを行うことが人事評価においては重要なポイントになります。
フィードバックとは?【意味・やり方をわかりやすく解説】
フィードバックは、日々の業務において上司と部下の間などで頻繁に行われています。職場で何気なく行われているフィードバックにはどんな目的があるのでしょうか。
フィードバックを効果的に行うポイントや、フィー...
人事評価フィードバックの目的
人事評価におけるフィードバックを、単なる「上司が部下ら評価の結果を伝える場」と考えていてはいけません。
フィードバックが持つ本来の目的は、面談の過程で上司と部下が成果や課題を共有し、相互の信頼関係を築いたうえで今後どのように行動するかを話し合う、というもの。
フィードバックという名のもとで従業員個人の人間性の否定や単なる評価の伝達だけ行われるものは、フィードバック本意の目的を果たしていないといえます。
人材育成につながるノーレイティング評価
従来の人事評価制度では生産性の向上が難しく、働きがいやエンゲージメントというキーワードが注目されている現在、人材育成の場では「ノーレイティング」と呼ばれる評価制度が新たに注目されています。
ノーレイティングを導入している多くの企業は、よりフランクかつタイムリーに個人に合わせたフィードバックを行っているのです。
従来型のレイティング評価との違い
一般的に評価の方法は、「相対評価」と「絶対評価」の2つがあるとされています。従来の人事評価は年次の総合評価に「S」「A」「B」「C」のランクを付け、それに比例した報酬を与える「絶対評価」が主流でした。
しかしこの方法には「現状維持のために無難にやり過ごす」「ランクの下降を恐れて新たな挑戦をしない」といったデメリットがあったのです。そこで注目され始めたのが、リアルタイムの目標設定とフィードバックをとおして都度評価するレイティング評価でした。
2.人事評価におけるフィードバックのメリット
フィードバックを行うと3つのメリットが得られます。
- 問題点を見つけ出せる
- 部下の成長を促進できる
- モチベーションやパフォーマンスの向上につながる
①問題点を見つけ出せる
人や組織が成長するためには、課題を発見・克服し、強みを伸ばす必要があります。もちろん部下自身が課題に気付ければよいものの、一人では難しい場合も多々あるでしょう。
単に解決方法を教えるのではなく、有効なヒントを与えられれば、部下の成長を促しながら課題を解決できます。
②部下の成長を促進できる
社員の成長に役立つものは、「経験と仕事か7割」「上司の教えが2割」「研修が1割」といわれています。闇雲に経験を積ませただけでは急速な成長が望めません。そこで下記のプロセスを支援し、育成につなげます。
- フィードバックを通じて課題を発見する
- 解決する部署を策定する
- プランを実行する
③モチベーションやパフォーマンスの向上につながる
近年の研究では、心理的安全性の高いチーム、すなわちメンバーが不安を感じることなく本音で発言できる環境こそ離職率が低く、また収益性・生産性も高いと明らかになっています。
目の前の業務に対して「自分にはできるはずがない」と思って取り組むのと「自分ならできる」と思って取り組むのと、どちらのモチベーション、パフォーマンスが高いかはいうまでもありません。
3.効果的な人事評価におけるフィードバックのポイント
「ポジティブだけ」「ネガティブだけ」のフィードバックは適切といえません。それでもネガティブな意見よりポジティブな意見のほうが役立ちます。ここでは人事評価におけるフィードバックをより効果的なものにするポイント6つについて解説します。
- タイムリーに共有する
- 実行可能な内容を伝える
- 内容は具体的に伝える
- 関係性を良好に保つ
- 部下の行動に対して行う
- ポジティブ・フィードバックを心がける
①タイムリーに共有する
「半年に1度」「1年に1度」の人事評価では、どうしても部下の行動と評価にタイムラグが生じます。タイムリーな共有と評価ができれば、よりスピード感を持って課題の軌道修正や改善、ひいては部下のチャレンジ精神を向上できるでしょう。
②実行可能な内容を伝える
フィードバックを行う際は、基本的に実行可能な内容を伝えます。たとえ上司やほかの社員ができることでも、本人には難しいという場合も考えられるでしょう。
無理難題を押し付けると反感を買い、信頼を失う可能性も高いです。相手のスキルをしっかりと把握し、どの程度であれば実行可能であるかの見極めが重要になります。
③内容は具体的に伝える
フィードバック内容を具体的に伝えるよう意識することも重要です。下記2つのフィードバックを比較した場合、どちらがより参考になるでしょうか。
- プレゼン資料が分かりやすくなったね。でも反応はイマイチだったからもっと工夫してみよう。
- プレゼン資料が分かりやすくなったね。でも反応はイマイチだったから、A先輩の資料を参考にしてみるといいよ。1ページの情報量を減らして見やすくするのもいいね。
フィードバックを行う際は、具体的な例を用いたりソースを明示したりしてイメージが湧くように伝えるのです。
④関係性を良好に保つ
かつて「飲みニケーション」と呼ばれる風土がありました。しかし近年「仕事とプライベートは区別したい」「お酒の席で仕事の相談はしづらい」といったさまざまな理由から、飲み会による信頼関係の構築は難しくなっています。
そこで求められるのが、フランクな雰囲気で腹を割って話せるフィードバックなのです。
⑤部下の行動に対して行う
フィードバックは「相手の行動」に対して行うもので、能力や意図、人格や性格に対して行うものではありません。
- あなたは優秀です
- 予算を達成できなかったのはだめじゃないか
- やる気があっていいね
これらは適切なフィードバックとはいえません。部下が本当に知りたいのは「どこに問題があって達成できなかったのか」「どこをどう改善すれば達成できるのか」という点です。
⑥ポジティブ・フィードバックを心掛ける
ポジティブ・フィードバックとは、相手の問題点よりもポジティブな面に注目して成長した部分を認めたり、望ましい行動を伝えることで動機づけを図ったりする手法のこと。
単に手放しで褒めるのではなく、褒めて相手に自信を与え、問題の改善に取り組むための前向きな姿勢を促すのです。
ネガティブフィードバックは相手によって使い分ける
ネガティブ・フィードバックとは、部下の言動に対してあえて否定的な表現を使ってフィードバックすること。一見フィードバックにはふさわしくないように見えます。
しかしあえてネガティブな表現にすると「何が問題なのか自分で考える」「状況を打破する力を身に付ける」ことが可能になるのです。
4.人事評価のフィードバックに有効な1on1ミーティング
人事評価におけるフィードバックの手法のひとつに「1on1ミーティング」があります。ここでは1on1ミーティングを行う目的やメリット、1on1ミーティングを実施するタイミングなどについて解説しましょう。
1on1ミーティングを行う目的
1on1ミーティングとは、上司と部下が一対一で話し合う活動のこと。目的は、会社を持続的に成長させるため、部下のやる気を引き出して成長を促すことです。
上司に求められるのは「自分一人が抜群の成果を生み出す」ことではなく、「成果を生み出す人材の育成」。そこで1on1ミーティングによって部下の状況を把握し、自発性を促すのです。
1on1ミーティングのメリット
GoogleやApple、Facebookなど超有名企業などが拠点を構えるアメリカ・シリコンバレーでは、以前から1on1ミーティングの手法が当たり前に実施されています。
米国を中心に多くの企業で人材育成の手法として用いられてきた1on1ミーティングには、どのようなメリットがあるのでしょうか。
信頼関係を築ける
1on1ミーティングの目的は「相互理解を深める」こと。1on1ミーティングを通じて上司と部下は定期的なコミュニケーションを取れるため、純粋に人対人の信頼関係を築けるのです。
社員のパフォーマンスが上がる
心理的安全性の高いチームほど生産性が高く、離職率が低い点は先に述べたとおりです。
かつて上司の指示に部下が従う縦型の組織構造こそが理想のチームとされてきましたが、それも今や昔。近年、部下が積極的に発言するチームこそパフォーマンスが高く、理想のチームであるといわれています。
労働力の低下や国際競争力の低下が叫ばれるなか、チームのパフォーマンスを高める1on1ミーティングが注目されるのも当然でしょう。
問題の発見と解決につながる
業務のなかで「なぜもっと早くに相談してくれなかったのか」と思ったことはないでしょうか。1on1ミーティングの多くで、部下がそのときどきに抱えている課題や疑問をトピックとして取り上げます。
通常では部下から相談を受けなければ分からなかった問題も、1on1ミーティングを通じて表面化できるのです。問題を早期に発見し、小さいうちに解決に導けることは1on1ミーティングを行う大きなメリットでしょう。
1on1ミーティングを実施するタイミング
通常の人事評価は1年に1回、もしくは半年に1回といったタイミングで行われます。しかし1on1ミーティングは月に1回などの短いサイクルで定期的に実施するのです。
1年に1回の面談で、腹を割って業務上困っていることや悩みを相談するのは難しいでしょう。半年に1回の飲み会と、週に1回や月に1回の定期的な会話。どちらがお互いの距離を縮められるかは明らかです。
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5.人事評価のフィードバックで生かせるスキル
人事評価におけるフィードバックの重要性が分かったところで、具体的に必要なスキルについて見ていきましょう。フィードバックの効果を高めるには、下記3つが有効だとされています。
- ティーチング
- コーチング
- 傾聴
①ティーチング
ティーチングとは、上司が部下に向かって知識や情報、技術や経験を伝えたり指導したりすること。「基礎知識や技術を体系立てて学べる」「方法や目線を同一のレベルに合わせられる」といったメリットがあります。
②コーチング
コーチングとは、部下の思考プロセスに目を向け、相手のなかにある答えを自発的に引き出すためのスキルのこと。「自発性を発揮してほしい」「実行力を高めたい」際に適しています。
は部下自身が気づいていない潜在力を引き出せる一方、経験が浅い段階では効果が望めず、相互のコミュニケーション能力に依存するといったデメリットもあるのです。
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③傾聴
傾聴とは、相手の言葉にじっくりと耳を傾けること。たとえば「相槌やオウム返しがあったり相手が話に頷いて共感の姿勢があったりしたときは話しやすかった」という経験はないでしょうか。
傾聴のポイントは相手を尊重し、否定せずに相手の話や気持ちに共感すること。話を聴かず頭ごなしに否定する人からどれだけ正論を言われても、「素直に受け入れる」「真剣かつ正直に回答する」気持ちはわきにくいです。
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6.人事評価におけるフィードバックの方法3つ
人事評価におけるフィードバックには3つの方法が存在します。それぞれについて解説しましょう。
- ペンドルトン型
- SBI型
- サンドイッチ型
①ペンドルトン型
ペンドルトン型とは、上司が一方的なフィードバックを行うだけでなく、フィードバック対象者の内省を促し、主体的にアクションを考えさせる手法のこと。
ポジティブ・フィードバックも活用すると、部下自身に考える時間を与えられます。この型には、他人から指摘されるよりも自分から気付いて積極的な行動を促す目的もあるのです。
②SBI型
SBI型とは、フィードバックをS「Situation(状況)」B「Behavior(行動)」I「Impact(影響)」の手順で進めるとフィードバックの内容が対象者により理解されるという手法のこと。
たとえば「先日の商談で恐らく緊張していたよね(S)」「それによって相手の話を遮ってしまった(B)」「その影響で先方も興味を示さなかったよ(I)」などです。
③サンドイッチ型
サンドイッチ型とは、「褒める」「改善点を指摘する」「褒める」の順番でフィードバックを行う手法のこと。フィードバックのなかでも特に知られているでしょう。
ネガティブなフィードバックをポジティブなフィードバックで挟むため、モチベーションの低下や不快感などを最小限に抑えます。
否定的な意見だけではないため「誠実な印象を持たれやすい」「ポジティブな内容で挟むため批判的な内容を受け入れやすい」といったメリットがあるのです。
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7.人事評価で使われるフィードバックの類語
現状や課題を共有し、成長のきっかけを与えるフィードバックには似た意味を持つ言葉があります。最後に、フィードバックの類語を3つ見ていきましょう。
- フィードフォワード
- レビュー
- チェックバック
①フィードフォワード
フィードフォワード(feedforward)とは、未来を予測して行動すること。
「未来の目標に対してどのような行動が必要か」「どのような自己成長があれば達成できるか」などを逆算して話し合い、具体的なアクションに落とし込む手法です。フィードバックとはまったく異なる特性を持っています。
②チェックバック
チェックバック(checkback)とは「制作物へ修正指示を出す」「さかのぼってチェック」すること。フィードバックと意味合いは似ているものの、主な使用シーンは映像業界です。
③レビュー
レビュー(review)は、一般的に批評や評論といった意味で用いられます。利用者による感想や意見を求めている、といったニュアンスで使用されるのです。
「結果からの所感」という意味ではフィードバックに似ているものの、フィードバックにはアドバイスや改善、助言の度合いが強く含まれているといった違いがあります。