働き方改革は、一億総活躍社会の実現に向けた課題解決のための改革です。ここでは、働き方改革が中小企業に与える影響について解説します。
目次
1.働き方改革が中小企業に与える影響とは?
働き方改革が中小企業に与える影響とは、「残業時間の罰則付き上限規制」「割増賃金率」「同一労働・同一賃金の原則の適用」などのこと。ここでは働き方改革を含めたさまざまについて見ていきます。
- 働き方改革とは
- 働き方の仕組みを変える必要性
- 大企業と中小企業でスケジュールが異なる
①働き方改革とは?
働き方改革とは、「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護と仕事との両立問題」などに対して、「働くニーズの多様化」「投資やイノベーションによる生産性向上」「就業機会の拡大」といった一億総活躍社会を実現させるための改革のこと。
個々の労働者が、「事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現」「より良い将来の展望を持てるようにする」を目標としています。
②働き方の仕組みを変える必要がある
働き方改革を実現させるためには、「リモートワーク」「シフトウェア」「ワークシェアリング」「ダイバーシティの推進」といった新たな仕組みを導入するなど、働き方の仕組みを新たに構築していく必要があるのです。
③大企業と中小企業でスケジュールが異なる
働き方改革関連法の施行時期は、大企業と中小企業とで異なります。
- 残業時間の罰則付き上限規制…大企業は2019年の4月から、中小企業は2020年4月から適用
- 割増賃金率…大企業では適用済で、中小企業は2023年4月から適用
- 同一労働・同一賃金の原則の適用…大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から適用
中小企業の定義を確認
中小企業の定義とは、「資本要件」「人的要件」のどちらかに該当する企業のこと。資本要件には、業態ごとに資本額または出資の総額基準が決められており、人的要件も、業態ごとに常時雇用する従業員数が設定されているのです。
様態は、「卸売業」「サービス業」「小売業」「製造業・建設業・運輸業・そのほかの業態」の4つに大別されています。
2.働き方改革で変わる中小企業の働き方
働き方改革によって、中小企業の働き方も変わるのです。ここでは下記6つについて解説します。
- 有給休暇の取得義務化
- 残業時間の罰則付き上限規制
- 割増賃金率が適用
- 3カ月フレックスタイム制
- 非正規雇用の労働者への待遇改善
- 高度プロフェッショナル制度
①有給休暇の取得義務化
有給休暇の取得義務化とは、年10日以上の有給休暇の権利が与えられた従業員に対し、企業に年間最低5日以上の有給休暇を取得させると義務付けたもの。
年次有給休暇が付与された労働者で要件を満たした者に対し、使用者は「労働者自らの請求」「計画年休」「使用者による時季指定」といった方法で、年次有給休暇を取得させなければなりません。
②残業時間の罰則付き上限規制
残業時間の罰則付き上限規制とは、下記のようなものです。
- 時間外労働の上限を、原則月45時間・年360時間とする
- 臨時的な特別な事情があっても、休日労働を含み「年720時間」「単月100時間未満」「複数月平均80時間」を限度に設定する
違反した企業や経営者などに対しては、 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる恐れもあります。
③割増賃金率が適用
1カ月に60時間以上の残業を行った場合、従来25%だった割増率から、50%以上に引き上げた新たな割増賃金率が適用されます。大企業と中小企業では、新たな割増賃金率の適用される時期が異なるので注意しましょう。
- 大企業…すでに50%の割増賃金率が適用されている
- 中小企業…大企業に準じて、2023年4月から新たな割増賃金率の適用が開始される
④3ヵ月のフレックスタイム制
3カ月のフレックスタイム制とは、労働者自身が、あらかじめ定められている労働時間の範囲の中で、「始業」「終業時刻」「労働時間」を決定できる制度のこと。
従来は労働時間の調整が可能となる清算期間は1カ月と設定されていました。しかし清算期間が3カ月に延長されたため、より働きやすい環境が整備されたのです。
⑤非正規雇用の労働者への待遇改善
非正規雇用の労働者への待遇改善とは、雇用形態を問わず「待遇に納得できる」「働き続けられる」環境を整えること。具体的な例は、下記のとおりです。
- 雇用形態によって生じる「基本給など不合理な待遇差」をなくすための規定の整備
- 労働者に対する待遇に関する説明義務の強化
- 行政による事業主への助言や指導
- 裁判外紛争解決手続の規定の整備
⑥高度プロフェッショナル制度
高度プロフェッショナル制度とは、アナリストやコンサルタント、研究開発業務といった専門的な職業に就く労働者が、高い収入を得ながら自律的で創造的な働き方ができる制度のこと。特徴は下記のとおりです。
- 働く人の健康を守る措置が、罰則付きで義務化されている
- 一定の年収以上で特定の高度専門職のみを対象とするなど、対象が限定されている
3.働き方改革で中小企業が対応しなければならない業務
働き方改革で中小企業が対応しなければならない業務とは何でしょうか。ここでは下記5つについて解説します。
- 勤怠記録方法の見直し
- 残業申請方法の見直し
- 集計ロジックの見直し
- 労務状況の可視化と分析
- 管理ツールの導入
①勤怠記録方法の見直し
勤怠記録方法の見直しとは、「入力時のチェック」「有給休暇の取得状況」といった、勤怠状況をチェックする仕組みづくりのこと。
「タイムカードやICカードによる入退場記録」「パソコンの使用時間記録」などを基礎として、客観的な勤怠データを適正に管理する仕組みを構築します。場合によっては、勤怠管理システムの使用を検討するのです。
②残業申請方法の見直し
残業申請方法の見直しとは、「自己申告より把握した労働時間」「入退場記録などから把握した在社時間」に著しく違いがある際、実態を調査して所要労働時間の補正をすること。
使用者には、「適正な自己申告の阻害となる措置を設けてはならない」「36協定の延長できる時間を超えていても、慣習的に記録上は順守しているとしていないか確認する」などが求められます。
③集計ロジックの見直し
集計ロジックの見直しとは、労働基準法が定める「法定労働時間・休憩や休日の規制が一切適用されない高度プロフェッショナル制度」を導入する場合、それに合わせた給与計算方法を導入すること。
「労働時間で給与を計算しない」「労働の質や成果物で報酬を算定する」といった、給与計算方法の見直しを図ります。
④労務状況の可視化と分析
労務状況の可視化と分析とは、労務状況の分析をもとに労働時間の短縮に効果的と思われる労働時間制度を積極的に検討すること。
「フレックス制」「インターバル制」「1カ月単位の変形労働時間制」「1年単位の変形労働時間制」「1週間単位の変形労働時間制」などを導入できるか検討・確認するのです。
⑤管理ツールの導入
管理ツールの導入とは、より正確かつ効率的に勤怠管理できるシステムを導入すること。現在スマートフォン用アプリ・クラウド型など、いつでもどこでも手軽に勤怠管理できるツールが人気です。
用途に応じてさまざまな機能を持つツールも多数あるので、自社にあった管理ツールを導入しましょう。
4.働き方改革を中小企業が進めるためのコツ
中小企業が働き方改革を進める際、どうすればよいのでしょうか。ここでは4つのコツについて解説します。
- 職場環境の改善
- 業務の効率化
- 助成金・補助金の申請
- 働き方改革に関する相談窓口の利用
①職場環境の改善
「ノー残業デーの設定」「休日出勤の廃止」「テレワークやリモートワークの導入」「深夜業務の回数制限」「勤務間インターバルの導入」「朝型の働き方を検討」といった、職場環境の改善に貢献できる制度を積極的に取り入れるとよいでしょう。
②業務の効率化
「オンラインストレージの利用」「ビジネスチャットなどの活用」「コンサルティングの導入」「積極的な人材育成」などを用いて、業務効率化を図ります。事業規模が小さいほど成果が顕著に出るため、働き方改革を進めるには有効です。
③助成金・補助金の申請
中小企業の働き方改革をバックアップしてくれる助成金や補助金は多くあります。
- 設備投資の費用を助成する「業務改善助成金」
- 非正規雇用労働者の育成費用を助成する「キャリアアップ助成金」
などの申請要件を確認し、積極的に活用しましょう。
④働き方改革に関する相談窓口の利用
窓口には、以下のようなタイプがあります。
- 経営上のあらゆる課題について専門家が相談に応じる、よろず支援拠点
- 労務管理に関する課題に社会保険労務士などが相談に応じる働き方改革推進支援センター
- 求人充足に向けたコンサルティングなどを実施しているハローワーク
5.働き方改革のために中小企業が今後進めるべきこと
働き方改革のために、中小企業が今後進めるべきこととは何でしょうか。ここではどのようなアクションが働き方改革実現に結び付くのかに焦点を当て、2点から解説します。
- 女性や高齢者の活躍推進
- ソフトウエアや専門人材を導入
①女性や高齢者の活躍推進
一億総活躍社会の実現に向け、女性や高齢者の労働力化を制約する要因をなくすためには、「正規雇用者の長時間かつ硬直的な労働時間」「 非正規雇用者の低賃金と不安定な雇用」の改善が必要です。
②ソフトウエアや専門人材を導入
助成金を活用すると、「生産性向上や業務効率化をバックアップする設備やITの導入」「魅力ある職場作りを目指して、人材の定着や育成を進める」などを積極的に進められます。