100年企業という言葉をご存じでしょうか。ここでは100年企業の特徴、メリット・デメリット、共通点などについて見ていきます。
目次
1.100年企業とは?
100年企業とは、創業100年以上となる企業のこと。高度経済成長期のバブル崩壊や流行病、近年であれば新型コロナウイルスなどの社会問題から経営難に陥り倒産する企業も少なくありません。そんななかでも、日本には創業100年以上の老舗企業が多く存在しているのです。
100年企業の特徴
100年企業は、「顧客を第一に考える正直な経営方針」「従業員を大切に考える社風」「時代を生き残る流行に乗るチャレンジ精神」を持つ場合が多いようです。
「競合他社からどうすれば自社を選んでもらえるか」「現在の市場ニーズは何か」を考えられる企業が、長寿企業となっているのでしょう。
100年企業のメリットとデメリット
100年企業のメリットとデメリットは、下記のとおりです。
- メリット:長く社会に貢献してきたことによる知名度や信頼性、そして創業当初から持ち続けている伝統など信頼できる実績
- デメリット:硬いイメージ、保守的で新しい文化を取り入れにくいといった印象を与えてしまいやすい
2.100年企業の割合
日本には100年以上存続する企業が多いため、長寿企業大国といわれています。世界の100年企業の約4割が日本の企業で、創業200年以上の企業は約6割を占めるのです。ここでは、100年企業が多い業種について見ていきましょう。
100年企業に多い業種
100年企業が多い業種は、「製造業」「卸売業」「小売業」。もの作り大国である日本には、製造業を営む企業も多く存在します。明治には製造業でも、食料品や飲料、たばこや飼料製造業を営む企業が爆発的に増加したのです。
その後工業化が進み、繊維工業や木材、木製品製造業の需要も増え、徐々に工業化された製造業を営む企業も増えていきました。
3.世界の100年企業ランキングで日本は1位
先述のとおり日本は長寿企業大国で、世界の100年企業ランキングでも堂々の1位となっています。
世界には100年以上の企業が80,000社あり、日本は約33,000社と約40%の割合を占めているのです。2位はアメリカの約20,000社で約24%、3位はスウェーデンの約14,000社で約17%。世界と比べても日本が圧倒的長寿企業大国であると分かります。
日本に100年企業が多い理由
日本にはなぜ100年企業が多いのでしょうか。理由のひとつに、「他国による侵略・植民地化がなかった」点が挙げられます。他国からの侵略や植民地化が行われてしまうと、既存企業は力を失い、存続が難しくなるためです。
2つ目の理由は、先祖代々、長男が家業を引き継ぐ家督相続が伝統的に根付いてきた点となります。
4.日本の代表的な100年企業
平均的な企業寿命は30年とされており、現状、起業して1年間で6割の企業が潰れているそうです。日本は地震大国であるうえ、自然災害や戦争、バブル崩壊などさまざまな困難が起きました。この困難を乗り越えてきた日本の代表的な100年企業をご紹介します。
キッコーマン
1917年に創業し、醤油のトップブランドとして日本の食卓を支えてきたキッコーマン。現在、醤油だけでなくあらゆる調味料、食文化の発展に努め、食育事業や病院事業に事業を拡大して日本の食文化を支えています。
日本だけでなく世界にも進出し、100か国以上の国で醤油は「Soy Sauce」として親しまれているのです。「美味しい『SoySauce』といえば『KIKKOMAN』」と世界中で愛されています。
ヒガシマル醤油
1580年頃から400年以上醤油製造業として関西、瀬戸内地域で親しまれている老舗企業です。兵庫県たつの市に本社を構えており現在、東京や広島、福岡などの各都市部にも営業所を構え、関西圏内を中心に広くシェアを拡大しています。
400年前に淡口醤油を発創したパイオニア企業で、現在でも創業当初の気持ちを忘れない「お客様第一」をスローガンとし、社会貢献を続けているのです。
ナベヤ
1560年の永禄3年に創業し、日本最古の金属系製造業として現代も精密機器・工業用機器の老舗企業として日本のもの作りを支えています。
創業当初は代々鍋や釜、梵鐘などを製造し、のちにマンホールや水道管などを時代に応じて製造するといったように、技術を駆使して社会貢献してきました。
現在は最先端技術を駆使した精密治具などを製造しており、その伝統技術は伝統企業の国際組織である「エノキアン協会」の会員として認められています。
井村屋グループ
1896年に創業し、120年の歴史をもつ井村屋グループは菓子製造業として、あずきを扱った製品を製造販売しています。「あずきといえば井村屋」と称されるほど知名度も高く、国民に愛されている老舗企業です。
あずき商品だけでなく、点心やチルド商品、ほかには不動産業やリース代理業、賃貸住宅の管理業など含めて幅広く事業を拡大。日本人なら誰しも一度は口にしたことのある「あずきバー」も井村屋グループの登録商標です。
アシザワ・ファインテック
1903年に創業し、機械製造業を営む100年企業で、創業当初は圧力機やボイラーなどの製造を中心に行っていました。のちにセメント製造設備、ドライヤーや粉砕機とその機械技術を高め、現在では微粉砕機・分散機メーカーとして社会貢献しています。
ノー残業デーや1時間単位で取得できる有給休暇など従業員の生活を考えた社風は、100年企業として成長できた要因のひとつといえるでしょう。
宮田織物
1913年に、わた入れ半纏や作務衣、婦人服などの織物製造販売業者として創業して以来、現代も織物メーカーとして愛されている長寿企業です。女性が多く在籍しているため、女性の働きやすい職場作りを考えています。
育休・産休制度や短時間勤務制度を積極的に利用できる環境を作り、女性の途中退職を抑制。職場復帰しやすい環境作りに励んでいます。
5.100年企業の共通点
100年という年月を生き残ってきた企業にはいくつか共通点があり、これこそが100年という年月を乗り越え、事業を拡大し続けてきたノウハウともいえるのです。ここでは100年企業の共通点を見ていきます。
- 流行に合わせられる
- 経営理念を持っている
- 地域密着型である
- 親族経営である
- 顧客との信頼関係がある
- 経営理念を継承している
①流行に合わせられる
100年企業は昔ながらの信念を持つがゆえ、「新しい文化や考えを取り入れるのは難しい」という印象を持つ人も多いでしょう。しかし実際の100年企業は、時代に合わせた流行を取り入れて生き残ってきた、柔軟な対応のできる企業が多いのです。
近年、いち早くSNSやオンラインを活用して消費者ニーズに合わせたサービスや広告を展開している企業も、数多く見られています。
②経営理念を持っている
経営理念をしっかりと持ち、従業員に経営理念をフィードバックしている、という企業が多く見られます。集合体無意識を発揮し、従業員が同じ方向性に進めば、生産性の向上につながるからです。
経営理念に感銘を受けた人材が入社し、同じ信念を持った従業員が増えれば、より良い企業として発展できるでしょう。
③地域密着型である
100年企業は地域密着型という傾向もあります。長く経営していくなかで、全国展開や事業拡大を進める場合もあるでしょう。
しかし100年企業の多くは、本社を創業地に置き続けます。それにより地域の顧客から親しまれ、長寿企業として生き残れるからです。とはいえ本社を都市部に移動するケースも少なくありません。
長寿企業となる秘策は、創業当初から得ている地域の信頼や知名度を高める点にあるのです。
④親族経営である
100年企業には日本の伝統である親族経営の企業が多く、9割が該当します。親族経営の代表は、サラリーマン企業のように下からの持ち上がりで決定しません。短期的な成長を求めるのではなく、長期的に代々引き継いで企業を成長させていくのです。
また一族の命運をこれからも背負い、引き継いでいくという危機感や使命感が強く、サラリーマン企業にはない団結力があります。
⑤顧客との信頼関係がある
100年企業は顧客や取引先と信頼関係を築き、継続的な付き合いを大切にしています。新規顧客も大切ですが、業績を生み出すには、リピーターとなる既存顧客は必須です。
「このサービスはこの企業」といった信頼や、期待を裏切らないサービスの提供が長寿企業として成功する道だといえるでしょう。
⑥経営理念を継承している
100年企業では、創業者の経営理念がしっかりと後世に引き継がれています。トップが変わるたびに経営理念が変わっては、顧客の定着も難しく団結力もありません。
経営理念を継承していくと企業としての色や道が定まり、経営理念に賛同する従業員が集まって業績向上につながるのです。経営理念が定まっていると伝統も生まれ、企業内だけでなく世間からの信頼やイメージも定着しやすくなるでしょう。
6.100年企業であるために必要なこと
100年企業であるために必要なことは、4つです。それぞれについて解説しましょう。
- 日本国内だけでなく、グローバルに対応できるか
- 多種多様な人材を受け入れられるか
- 従業員の育成に力を入れているか
- リスクを想定し備えているか
①日本国内だけでなく、グローバルに対応できるか
日本の経済状況は少子高齢化に伴い、衰退していく恐れがあります。国内だけをターゲットに経営を続けていては、円高や日本紙の価値低下などに影響され、経営難に陥る恐れがあるでしょう。
グローバル化に対応すれば、外需を取り込み、国内産業の衰退を留め、日本国内の変化や世界の変化に対応できます。海外に製造委託するなど、グローバル化を取り入れてコスト削減を行う企業は近年、増加しているのです。
②多種多様な人材を受け入れられるか
現在は人手不足の時代になっているため、働き手を探すことに苦労するでしょう。就職氷河期世代や外国人労働者など、多種多様な人材を受け入れて人手不足を解消するといった取り組みが必要です。
正規雇用の従業員だけでなく、非正規の従業員である派遣労働者の受け入れなどで働き手を確保している100年企業も、少なくありません。
③従業員の育成に力を入れているか
人材を導入して純粋なマンパワーを供給するより、従業員一人ひとりのスキルを高めると人件費の削減や生産性の向上につながるでしょう。従業員一人ひとりの育成に力を入れるリソースは、人生100年時代の昨今を生き残るために必要です。
研修制度や適材適所の人事異動など、教育面においてもつねに気を配りましょう。
④リスクを想定し備えているか
企業の存続には、あらゆるリスクが潜んでいます。競合他社との競争だけでなく、地震や疫病などの災害、近年ではSNSやメディアによる情報漏えいなどさまざまです。
あらゆるリスクを事前に想定し、ハザードマップの作成や福利厚生の見直し、グループ会社の設立など、備えを進めておきましょう。
7.100年企業の事業展開
100年間もの経営を続けていくには、あらゆる事業展開が必要といえます。
- 創業当初の伝統や経営理念
- グローバル化やIT化
- 多種多様な人材の受け入れ
- リスク管理
などを行うと、生き残りが厳しいこの時代で長寿企業となれるのです。現状では満足せず、つねに先を見とおす能力が経営には必要でしょう。
コア技術を生かした新商品開発
従来の商品だけでなく、コア技術を生かして新商品を開発し、事業を拡大すると、マーケットのシェア拡大につながります。
「照明デザイナーとコラボして新商品を生み出す傘メーカー」「発泡スチロールメーカーのコア技術を生かして新商品を生み出す製菓企業」などが一例です。あらゆる可能性を追って新商品の開発を行うと、長寿企業として生き残りやすくなるでしょう。
イノベーションの創出
イノベーションの創出をすると新商品やアイデアを生み出し、事業を拡大できるのです。
「洋菓子と和菓子を組み合わせたフルーツ大福」「洗濯用洗剤は液体か粉という概念を覆したジェルボール」「服を着るだけで身体のサイズが計測できるスーツ」などが一例となります。新しい発想こそ、長寿企業となる秘訣なのです。