正常性バイアスとは? 具体例、強い人の特徴、同調性バイアス

正常性バイアスとは、想定外の事態でも平穏に過ごすために生じる心のメカニズムです。ここでは、正常性バイアスについて解説します。

1.正常性バイアスとは?

正常性バイアスとは、予期しない事態にあったとき、「そんなことはありえない」といった先入観や偏見を働かせて、「事態は正常の範囲」だと自動的に認識する心のメカニズムのこと。ここでは、正常性バイアスについて、下記4点から解説します。

  1. 本来は心の平穏を守るための機能
  2. 正常性バイアスによる災害事例
  3. 新型ウイルス感染に対する正常性バイアス
  4. 同調バイアスとの違い

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①本来は心の平穏を守るための機能

正常性バイアスは、「日常のさまざまな出来事や判断」「心理的ストレス」に反応しないことで、「正常な範囲に納まっていると認識する」「心の平穏を守る」ための機能です。

正常性バイアスが災害など非常時に機能した結果、「この程度なら大丈夫」「自分なら大丈夫」といった過小評価につながり、逆に被害を拡大してしまう場合があります。

人数が多いほどかかりやすい

正常性バイアスには、人数が多いほどかかりやすいといった特徴があるのです。

実験室内で煙を発生させ、危険を感じて逃げるまでの時間を「室内に1人」「室内に3人」
の場合に分けて測定した研究によると、煙に気付くまでの時間は両者ともほぼ同じでした。

しかし室外に避難するまでの時間は、「室内に3人」が1人よりもおよそ1分遅くなったのです。

②正常性バイアスによる災害事例

正常性バイアスによる災害事例を見てみましょう。2003年に韓国で発生した、乗客による放火で車両火災が起こった「大邱地下鉄放火事件」です。

煙が車両内に充満していたにもかかわらず、乗客は座ったまま待機していたため死者192名、負傷者146名という大惨事になりました。「正常性バイアスによって避難が遅れた」点が大きな要因と考えられています。

③新型ウイルス感染に対する正常性バイアス

新型コロナウイルス感染症に対しても、正常性バイアスが働いているといわれているのです。2021年4月現在も世界中でパンデミックが発生し、日本でも緊急事態宣言が発令されるなど大混乱となっています。

そこで「自分は感染しないだろう」という正常性バイアスが働いた結果、「マスク無しの会話」「不十分な感染対策下の会食」をする人がおり、社会問題となっているのです。

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2.正常性バイアスと同調性バイアスの違い

混同しやすい正常性バイアスと同調バイアスの違いは、下記の通りです。

  • 正常性バイアス:予期しない事態に直面した際、先入観や思い込みが働き、事態を正常な範囲内と自動的に考える心の働き
  • 同調性バイアス:周囲の人と同じ行動を取ることが安全だと考える心の働きで、一致団結といった良い作用もある

正常性バイアスは、想定外の事態でも心の平穏を守るための心の働きです。災害時には、避難の遅れなど被害の拡大につながる危険性があります

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3.正常性バイアスが強い人の特徴

正常性バイアスが強い人の特徴について、次の5点から見ていきます。

  1. キャリア形成がうまくいかない
  2. 手順やルールを守らない
  3. 都合の悪いことに目を向けない
  4. ハラスメントにつながる
  5. 公平な評価ができなくなる

①キャリア形成がうまくいかない

自分のキャリアに疑問を持っているのに正常性バイアスが働くと、

  • 今のキャリアでも自分は大丈夫
  • 会社の危機はないだろう

などと考えてしまうのです。キャリア形成を怠ると、倒産やリストラなどの際、困った状況になる可能性が高まります。

②手順やルールを守らない

正常性バイアスが働くと、「自分だけは大丈夫」と考えてしまうのです。

  • 自分だけはルールを守らなくても大丈夫
  • 自分は手順を無視しても大丈夫

など、自分の都合の良いように解釈をすると、ミスや事故、災害につながる場合もあります。

③都合の悪いことに目を向けない

正常性バイアスが働くと、自分にとって都合の悪い情報について

  • 過小評価する
  • 見なかったことにする

可能性が高まるのです。「何らかの対処が必要」というメッセージを見なかったことにすれば、命取りになるかもしれません。

④ハラスメントにつながる恐れがある

正常性バイアスは、「無意識の偏見や差別」を生み出します。正常性バイアスが働くと、自分の内面に潜んでいる偏見や差別が、言動の端々に表面化するのです。波風を立てないように行動した結果、かえってハラスメントになる場合もあります。

⑤公平な評価ができなくなる

人事評価では公平性や透明性が求められます。

しかし評価者に「自分の評価は正しい」というバイアスがかかると、

  • 実際よりも評価が高めになる寛大化効果・低めになる厳格化効果
  • 自分と似た人物に高評価をつける自己投影効果

が起こり、評価の公平性を保てなくなるのです。

正常性バイアスが招く悪影響は、「キャリア形成を妨げる」「手順やルールを守らない」「都合の悪いことに目を向けない」「ハラスメントにつながる」「公平な評価ができなくなる」の5点となります

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4.企業における正常性バイアスの危険性

企業でも、正常性バイアスによって生じる危険性があります。ここでは、企業に潜む正常性バイアスの危険性について2点から解説します。

  1. 自社は大丈夫と思いこむ
  2. 倒産の危機を招く

①自社は大丈夫と思いこむ

危機が直前に迫ってから初めて事の大きさに気付く場合があります。正常バイアスが働き、「自分の会社は不祥事とは無縁」などと考えた結果、将来起こりうるリスクに対して事前準備ができず、有事に対応できない事態に陥ってしまうのです。

②倒産の危機を招く

中小企業白書2011年の企業生存率によると、「10年後に7割」「20年後に5割」の会社しか生存できないとされています。「うちは倒産しない」と思っていても、経営環境は日々変わるもの。変化の激しいビジネス世界では、何が起こっても不思議ではありません。

企業活動で正常性バイアスが働き、「自分は大丈夫だ」「自社は倒産しない」という心理状態になると、リスク対応が遅れますので注意しましょう

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5.正常性バイアス以外にも注意すべきバイアス

正常性バイアス以外にも注意すべきバイアスがあります。注意すべきバイアスに関して、下記2つの観点から解説しましょう。

  1. バイアスの分類
  2. バイアスが働くと発生するエラー

①バイアスの分類

バイアスの分類例は、下記のとおりです。

  • 自分にとって都合の良い情報ばかり収集しまう確証バイアス
  • 物事が起きたあと「やっぱりそうだった」のように予測が可能だったという錯覚に陥る後知恵バイアス
  • 先に知り得た情報により選択が変わってしまうアンカリング
  • 成功したら自分のおかげ、失敗したら他人のせいと考える自己奉仕バイアス

②バイアスが働くと発生するエラー

バイアスによって発生するエラーがあります。エラーの中身を理解しておけば、バイアスが働いても一定程度対処できるでしょう。ここでは5つのエラーについて解説します。

ハロー効果

ハロー効果とは、特定分野において「際立つ功績」「目立った特徴」があると、「ほか分野における評価に影響を及ぼす」「評価そのものが歪められる」効果のこと。下記2つがあります。

  • 特定分野の高い評価の影響を受け、ほか分野の評価も高くなるポジティブハロー効果
  • 特定分野の低い評価の影響を受け、ほか分野の評価も低くなるネガティブハロー効果

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中心化傾向

中心化傾向とは、人事評価の際、評価者の様々な心理的要因によって真ん中の値に集中して評価を行ってしまう心理的偏向のこと。たとえば、1~5の数字で評価を行った際、真ん中の3に評価が集中してしまう状況です。

中央化傾向は、「被評価者を十分に理解していない」「評価者に対する被評価者の数が多すぎる」などが原因となって生じます。

寛大化傾向と厳格化傾向

バイアスが働くと、寛大化傾向(評価が甘くなる傾向)と厳格化傾向(評価が厳しくなる傾向)が起きます。

「寛大化傾向は、低い評価をして被評価者から文句を言われたくないといった防衛的心理」「厳格化傾向は、評価者自身の能力が高く仕事に精通していることで、自分に比べて批評価者は劣っていると感じる心理」が影響しているのです。

対比誤差

対比誤差とは、評価者が自身の能力や資質を基準として評価を行ったために「過小評価」「過大評価」のどちらかに偏ってしまうこと。

「評価者が被評価者より優れている場合は過小評価」「評価者が被評価者より劣っている場合には過大評価」になるのです。評価は公正でなければならないため、原則に反してしまいます。

バイアスの種類とバイアスによるエラーの種類へ理解を深めましょう。対処しやすくなります

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6.正常性バイアスを防ぐための対処法

正常性バイアスは、できる限り防ぎたいもの。正常性バイアスを防ぐための対処法を3つ解説します。

  1. 日ごろからあらゆる状況を想定する
  2. 行動指針を作っておく
  3. 思考停止せずに考え続ける訓練をする

①日ごろからあらゆる状況を想定する

正常性バイアスは、想定外の事態においても心の平穏を維持するための機能です。そこで日ごろから、「想定外の事態」「あらゆる可能性」を想定し、イメージをつくっておきましょう。いざというときでも心の準備ができているため、的確に対応できます。

②行動指針をつくっておく

行動指針とは、特定の状況下でどのように行動すべきかを明確にした基本方針のこと。作成しておけば、有事の際には指針にもとづいて行動できます。本来あるべき姿が指針に落とし込まれているため、選択した行動へのエラーも発生しにくいです。

③思考停止せずに考え続ける訓練をする

「自分は大丈夫」と思考を停止してしまうと想定外の事態が起きたとき、適切な行動が取れません。日ごろから、「自分の身に置き換えて考える」「先を見込んで考える」「過去の経験を生かすよう考える」など、思考を継続する訓練を行いましょう。

正常性バイアスを防ぐための対処法は、「日ごろからあらゆる状況を想定する」「行動指針を作っておく」「思考停止せずに考え続ける訓練をする」の3つです