「センターオブエクセレンス」という言葉をご存知でしょうか。「CoE」あるいは「COE」とも略されるセンターオブエクセレンスは、企業や人事にて重要な役割を持っているのです。
目次
1.CoE(センターオブエクセレンス)とは?
CoE(center of excellence)とは、優秀な中心を意味する言葉で、組織の中核を成す部署や研究拠点の意味合いで使われます。
業界によってCoEの意味は異なるものの多くは、トップレベルの人材やノウハウ、ツールなどを持つ組織やグループを指します。人事では中心となる人事機能を指し、採用のプロなど各分野における専門家が集う組織をCoEと呼ぶのです。
元は大学に置かれた研究拠点を意味していた
CoEはもともと、大学に置かれた研究拠点でした。日本では1982年から、卓越した研究拠点の構築についての方針が公表され、同年1月に最新の情報や設備を揃えた、中核となる研究機関の構築が重視されるようになったのです。
現在では、製造や金融、医療やITなどさまざまな分野にて、CoEが置かれています。
文部省のグローバルCoEプログラム
文部科学省のCoEは、2002年度から「21世紀CoEプログラム」という名称で開始しました。このプログラムは、日本の大学を世界レベルまで引き上げるための構造改革事業です。
日本の研究機関を強化し、世界をリードする人材の育成が目的となります。「医学」「物理・科学」「建築・工学」などの分野に分かれており、分野によって拠点となる大学が異なるのです。
人事戦略としてのCoE
CoEは近代的な人事戦略のひとつとして、重要視されています。「3ピラーモデル」と呼ばれる、人事が果たすべき機能を3つに分類したモデルをご紹介しましょう。
3ピラーモデル
人事において重要視されている「3ピラーモデル」は、下記のとおりです。3つはいずれも企業の改善や価値の向上につながるとして重要視されています。
- CoE(Center of Excellence):報酬体系の整備、人材育成などを専門に行う
- HRBP(Human Resource Business Partner):経営を人事戦略からサポートする
- HRSS(Human Resource Shared Service):給与計算や福利厚生などの業務を担当する
2.CoEの役割
CoEは、役割の重要性が注目され、研究機関だけでなく企業でも広まりつつあるのです。ここでは5つに分類されるCoEの役割について、見ていきましょう。
- 社内知識の収集・整理
- 企画立案
- フィードバック
- 業務プロセスの構築
- 社内イノベーションの促進
①社内知識の収集・整理
社内の情報を部門や社員しか保有していない場合も、少なくありません。しかし経営戦略の立案を図るには、情報を経営層に集約する必要があります。くまなく情報を収集するには、経営者から社員へどのような情報が必要かを伝えねばなりません。
そのためにも、企業の価値観や戦略を伝達して共有するのです。
②企画立案
CoEは、企業の発展につながる企画を立案する必要があり、以下の役割が求められます。
- 組織機構の変革
- 事業所の統廃合
- 分社化や子会社化
- 販売網や営業力の強化
- 関連企業や協力企業との関係強化
- 海外への展開
- 新製品や新サービスの展開
- 新技術や設備の導入
ただし現状では、雇用調整や部署異動、組織機構の変革など内部の施策が多いようです。
③フィードバック
各部門にフィードバックして業務改善やモチベーションアップを図ります。フィードバックとは、モチベーションの元となる「内部的動機付け」を高める効果が期待できるもの。
最適なチャレンジや能力が促進されるようフィードバックすると、学習者の内部的動機付けが高まるでしょう。
④業務プロセスの構築
CoEは企業戦略を達成するために、企業全体の業務改善を手掛けます。そこで横断的に部門を見て、「マニュアルの整備」「不要な業務や分担の見直し」「業務の見える化」などを行うのです。
⑤社内イノベーションの促進
現状、企業ではある分野の深い基礎知識を持ちつつ、ほか分野にも幅広い知識を身に付けている横断型人材が必要とされています。縦割り組織にて横断型人材は、部門の壁を越えた改革が期待されているのです。
横断型人材を社内で育成するには、ひとつの業務に深く関わったのち、ジョブローテーションでほか部署を経験させるとよいでしょう。
3.CoEのメリット
CoEにはどんなメリットがあるのでしょうか。4つの観点から見ていきます。
- 社内の連携を強化してくれる
- 情報を共有しやすくなる
- 複雑な課題を解決できる
- 部門間のコミュニケーションが促進される
①社内の連携を強化してくれる
CoEを導入した企業では、社内でデータ活用に向けた体制やルールを整備し、品質管理や総務、法務やシステムなどの部門が管理に携わったそうです。
また各代表者から構成された委員会による新規サービスを多面的にチェックするなど、さまざまな連携を実現しています。
②情報を共有しやすくなる
部門や事業を横断して情報共有するため、「複数の部門や事業で共通しているコストを一元化」「技術などをほか部門や事業で利用する」「さまざまな商品やサービスの組み合わせを企画する」といったメリットを生み出すのです。
③複雑な課題を解決できる
製品開発であれば、製品の複雑化と新機能の開発などが課題となるでしょう。高機能な製品の開発には、専門的な知識を持つ人材や部門が必要です。また製造だけでなくマーケティングの視点も持たなくてはなりません。
CoEによって横断的な組織を構築し、知識を集約させるとこうした問題が解決されやすくなるのです。
④部門間のコミュニケーションが促進される
企業の経営課題を解決するためには、社員全員と情報やノウハウなどの共有が不可欠。しかし「社員によって共有状況に差が出る」「共有ルールや環境が整備されていない
」などから実現されていない場合も少なくありません。
CoEを導入すると課題がクリアになるため、部門間のコミュニケーションが促進されるでしょう。
4.各分野におけるCoEの仕事
分野によってCoEの仕事は異なります。ここでは医療センターと医療機器メーカーにおける導入事例を見てみましょう。
医療
医療分野におけるCoE導入の背景には、「病院数が増えたために各病院での症例数が減少した」という問題があります。そこで専門性の高いCoEを導入し、病院ごとの治験の難易度や医療の質のばらつきを解消しようとしているのです。
医療分野においてのCoEは、国立のがんセンターや循環器病センターなど、特定の分野に特化した施設や部門が挙げられます。
メーカー
メーカーにおいてCoEは、企業内の情報共有や開発の面で貢献しています。ある医療機器メーカーはCoEを設立して、社内に蓄積されている研究開発や製造、営業などに関する社内文書を分析し、知識化しました。
また顧客応答システムや研究者探索システムなどを構築し、研究開発の加速化を実現しています。
5.CoEの導入事例
CoEの認知度は現在、高まりつつあります。今後の企業戦略としてCoEをはじめとしたマネジメント改革が注目されており、実際に、資生堂やNTTグループといった大手企業が取り組みを開始しました。ここでは、2社の導入事例を見てみましょう。
資生堂
資生堂では、世界に通用するブランドを目指して4つのCoE(フレグランス・スキンケア・デジタル・メーキャップ)を設立しています。興味深いのは、分野ごとに世界のエリアを変えたこと。
たとえば「スキンケアに関する事業は日本」「メイクやデジタルに関する事業はアメリカ」「フレグランスはヨーロッパ」など、最新の情報や技術を入手しやすい地域に拠点を置いたのです。もちろん各拠点同士とマーケティング事業は連携を取れています。
NTTグループ
NTTグループでは、「学術的な知」「産業界を牽引する先端テクノロジー」の2本柱でCoEの運営を開始しました。
NTTデータではAIやIoT事業に関するCoEを設立。AI事業におけるCoEでは専門技術者の育成に向けて知識の集約、トレーニングや技術支援などを行いました。
IoT事業のCoEではドイツなど9か国に拠点を構築して、製造業や社会インフラ整備への取り組みを開始しています。
6.CoEの導入に必要なこと
CoEの導入には、部門や支社などを越えた連携が必要です。そのためにも縦割りを解消し、CoEが導入されやすい環境を整備しましょう。ここでは、CoEの導入にはどのような準備が必要となるか、解説します。
- 話し合いの場をつくる
- 企業内のチェック機能を強化する
- 多彩な人材を取り入れる
①話し合いの場をつくる
話し合いを取り入れると、課題解決力が高まります。またその前に課題やテーマを決めて、メンバーそれぞれで情報を収集しましょう。話し合いを実施するときに各自それらの情報を提示すると、課題解決につながりやすくなるのです。
②企業内のチェック機能を強化する
チェック機能を強化すると、CoEの意見を取り入れやすくなります。たとえばチェックリストを使ってみましょう。一人ひとりが現業務にて、どのような状況にあるかを把握できる方法です。
アンケート形式のチェックリストを実施したのち、リストで不明な箇所があれば直接社員へヒアリングを行うとよいでしょう。
③多彩な人材を取り入れる
性別や国籍、年齢などに制限をかけず、さまざまな人材を受け入れる環境も不可欠です。ダイバーシティを推進するためには、自社の働き方改革も必要でしょう。このように多彩な人材が入りやすい企業づくりも、CoEに求められます。