二重派遣とは、派遣労働者を受け入れた企業が、さらに別の企業にその労働者を派遣するというものです。違法行為のため罰則があります。
目次
1.二重派遣とは?
二重派遣とは、派遣されてきた労働者をさらに別の企業へ派遣すること。派遣労働者が「賃金の中間搾取」「不当解雇」など不当な扱いを受けやすいため、禁止されています。
二重派遣は禁止されているものの、実際なかなかなくなりません。また「二重派遣からさらにまた次へ」という多重派遣のケースもあるのです。なお二重派遣であると知らずに労働者を受け入れていた場合、罰則は適用されません。
2.派遣とは?
派遣とは、派遣会社(派遣元)と派遣労働者が雇用契約を結び、企業(派遣先)に派遣すること。
派遣労働者は、派遣先企業に勤務するものの、雇用や給与の支払いは派遣会社が行います。「雇用契約は派遣労働者と派遣会社」「派遣契約は派遣会社と派遣先企業」といった形態で契約し、更新する仕組みになっているのです。
派遣の現状
派遣の現状を見てみましょう。2020年1~3月で、各月平均の派遣社員数は約143万人となりました。雇用者全体(5,661万人、役員除く)に占める派遣社員の割合は2.5%で、割合自体は15年ほど大きく変化していません。
対して
- パート
- アルバイト
- 契約社員・嘱託社員
などは増加しています。雇用者全体に占める有期雇用労働者の割合は大きく上昇しているのです。
3.二重派遣が禁止される理由
なぜ二重派遣が禁止されるのでしょう。それには下記3つのデメリットがかかわるからです。
- 雇用に関する責任の所在が不明確になる
- 労働者にわたる賃金が低くなる場合も
- 不当解雇のリスク
①雇用に関する責任の所在が不明確になる
二重派遣では、派遣された労働者の管理について、責任の所在が不明確になります。「労働者の雇用を維持する」「適切な賃金を支払う」といった義務を押し付けあう状況になる可能性が高いからです。
②労働者にわたる賃金が低くなる場合がある
「A社→B社→派遣労働者」のように費用と賃金の支払いが発生する場合、中間マージンによって、二重派遣された労働者の賃金が低くなる可能性もあります。
もし「A社→派遣労働者」となっていれば、B社に渡る中間マージンはなくなるでしょう。それにより労働者は多く賃金を受け取れます。しかし間に企業が入るため、派遣労働者の賃金が低くなってしまうのです。
中間搾取
中間搾取とは、そこに介入して、どちらかから謝礼や賃金の一部を受け取ること。
本来雇用契約は、労働者と使用者の間で直接交わされるもの。しかし、「中間請負人(請負業者)が特定の作業を請け負い、請負代金の一部を取得する」「労働者を直接供給し、労働者から賃金の一部を取得する」2つの形態により、状況が変わるのです。
③不当解雇のリスク
二重派遣では、派遣労働者の不当解雇が起きやすくなります。派遣法にもとづく正しい労働者派遣では、責任の所在が明らかになっているもの。
しかし二重派遣では、派遣先企業から派遣を受ける企業が派遣労働者を不当解雇しても責任を問われません。このため二重派遣では、不当解雇や契約解除といった「派遣切り」が起きやすくなってしまうのです。
4.二重派遣がなくならない背景
問題が多いと分かっている二重派遣は、なかなかなくなりません。その背景にあるのは、取引先との力関係や人手不足。
- 派遣のルールを守ると効率が悪いと考える
- 上位の取引関係にある企業の求めに応じる
- 人手不足により派遣労働者の管理が疎かになっている
などが原因となるのです。
5.二重派遣が多い業種
二重派遣は、
- IT系の職種
- 作業員
といった職種に多く見られます。
IT系の仕事では、
- 派遣
- 業務委託
- 準委任契約
などで企業と契約を結ぶ場合が多く、二重派遣になるケースがあるのです。
- 軽作業
- 製造業
- イベント設営
といった作業員は、人手不足解消のため他社や子会社に人材を流動させる場合も多くあるため、二重派遣になりやすいといえます。
6.二重派遣の罰則
二重派遣は違法行為で、それぞれ罰則が設けられているのです。どういったものになるのか詳しく見ていきましょう。
- 職業安定法第44条「労働者供給事業」の禁止規定違反
- 労働基準法第6条の違反
①職業安定法第44条「労働者供給事業」の禁止規定違反
労働者供給事業の許可を得ていない派遣先企業が、別の企業に労働者を二重派遣した場合、職業安定法違反となり、双方に罰金が科せられます。
労働者供給事業(労働者をほか企業に供給する行為)は、厚生労働大臣から認可された派遣事業者または労働組合が行う以外、職業安定法によって禁じられているのです。1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
②労働基準法第6条の違反
派遣先企業A社が二重派遣先企業B社へ労働者を派遣する際、手数料を受け取るのも違法行為です。「他社に渡す資金の一部を不正に得る」いわゆる「ピンハネ行為」は労働基準法第6条の「中間搾取の禁止」に当たります。
この場合、二重派遣を行ったA社に、1年以下の懲役もしくは50万円以下の罰金が科せられるのです。
- O社とY社が二重派遣を行った
- K社の代表者は、自身が責任者を務める会社の労働者を他社に供給し、不当な利益を得ていた
違法な二重派遣は労働者に不利益をもたらすため、行った企業は罰せられます
まずは派遣元会社に相談します。「それでも解決しない」「話を聞いてくれない」場合は、派遣事業管轄のハローワークか労働局の相談窓口へ連絡しましょう
7.二重派遣に該当しないケース
第三者のもとで業務を行っていても、二重派遣には該当しないケースがあります。一体どのようなケースなのでしょうか。注意すべき偽装請負についても説明します。
派遣先企業の人が派遣労働者に対して指揮命令を行う場合
二重派遣になる・ならないかを見分けるポイントは、どこでしょうか。それは、「誰が派遣労働者に仕事の命令をしているか」。
派遣労働者が派遣先企業の業務をする際に重要なのは、「派遣先企業の人物が派遣労働者に対して指示を行っている」。指示をする人物が派遣先企業から出向した人物であれば、第三企業での就労でも二重派遣にはなりません。
【ケース①】請負・準委任
準委任とは業務委託のうち、法律に関する内容以外の業務を行うもの。これらの場合、労働者を雇用しているのは請負企業で、請負企業が労働者に指示します。
発注企業は直接雇用せず外部の労働者を利用するため、「契約内容の変更が比較的容易である」「人件費が抑えられる」「労務管理の負担がない」といったメリットを得られるのです。
【ケース②】出向
出向とは自社で雇用している労働者をほかの会社に送り、出向先の指示で仕事をさせる形態のこと。
出向と通常の派遣はよく似ています。しかし「出向者は、出向元・出向先との間で二重の労働契約関係にある」「派遣労働者は、派遣先との間に労働契約関係がない」といった点で異なるのです。
そのため「出向先が出向社員をさらに別の会社へ出向させる」状況は、二重派遣に該当しないと考えられています。
【注意点】偽装請負
偽装請負とは、二重派遣の抜け道として、形式的に請負契約の形をとっているもの。実際は労働者派遣にもかかわらず書面上、会社間で請負契約を結ぶものです。
請負なのに、現場では発注者が細かい指示をしている場合などは偽装請負で、二重派遣に当たります。本来、請負では、請負企業が労働者に指示しなくてはなりません。
8.二重派遣を防止する方法
二重派遣は違法行為であり、企業には罰則があります。労働者にとっても不利益になります。二重派遣を防ぐための方法について見ていきましょう。
労働者が気をつけること
契約内容をしっかり確認する
二重契約に巻き込まれないためにも、契約内容をきちんと確認しましょう。契約書などで指示系統が派遣先企業となっているかをチェックするのです。
仕事を始めたら、仕事の指示がどこから出ているか、確認します。自分を守るためにも意識を高く持って、二重派遣に巻き込まれないようにしましょう。
大手など信頼性の高い派遣会社を利用する
派遣会社を選ぶ際は、大手企業のような信頼性の高い会社を利用するようにします。知名度の高い大手の派遣会社は、傾向としてコンプライアンスがしっかりしているため、二重派遣が起きにくくなっているのです。
また大手は利用者も多いため、インターネット上に利用者の口コミが出ている場合も。事前にチェックし、判断材料とするのもよいでしょう。
企業が気をつけること
定期的に勤務実態を確認する
企業も、二重派遣を行ってしまわないよう、定期的な実態の確認が必要です。
「派遣元会社と交わした契約と相違点はないか」「事前確認と異なる勤務実態になっていないか」などポイントを押さえます。「実際に業務の現場をチェック」「労働者にヒアリングする」なども実施しましょう。
派遣社員を直接雇用する
「企業が受け入れている派遣労働者を直接雇用する」方法も二重派遣の防止につながります。つまり、直接雇用した労働者を派遣するのです。
一般派遣の場合、派遣元企業と派遣労働者との結び付きが弱いため、二重派遣に関するリスクが生じやすくなります。そこで派遣労働者ではなく、自社で直接雇用した労働者を企業に送り込むのです。