確証バイアスとは、自分にとって都合のよい情報ばかりを集めてしまう認知バイアスの一種です。ここでは確証バイアスの具体例や改善方法、ビジネスシーンでの活用方法について解説します。
目次
1.確証バイアスとは?
確証バイアスとは、自分がすでに持っている先入観や仮説を肯定するため、自分にとって都合のよい情報ばかりを集める傾向のことです。認知バイアスの一種で、自分の思い込みや周囲の要因によって非合理的な判断をしてしまう心理現象です。同じ認知バイアスに「正常性バイアス」や「ゼロサム思考」などがあります。
確証バイアスとは認知バイアスの一種
認知バイアスとは、自分の思い込みや周囲の環境などによって無意識のうちに合理的ではない判断をしてしまう心理現象のこと。
思い込みを持っていると、ほかにどのような情報があっても最初の考えを支持する情報ばかりが目に付きます。これが「認知バイアス」で、確証バイアスは「認知バイアス」の一種です。
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2.確証バイアスの実験「ウェイソン選択課題」
「ウェイソン選択課題」とは、確証バイアスを利用した論理パズルのこと。イギリスの認知心理学者、ペーター・カスカート・ウェイソンが1966年に考案したロジックパズルです。
4枚のカードがあり、各カードの片面にはアルファベット、もう片面には数字のいずれかが書かれています。何枚かカードを裏返して「カードの片面が母音ならば、もう片面は偶数」という仮説を証明する場合、裏返す必要のあるカードはどれか、その最小限枚数を問う問題です。
仮説をよく考えていけば「偶数の裏が母音である必要はない」ので、わざわざ偶数の裏を確かめる必要はありません。しかし多くの人が母音のカードと偶数のカードを裏返すと分かっています。これが確証バイアスです。
3.そのほかの認知バイアス
「認知バイアス」は、ビジネスシーンを始めとして、政治や化学、SNS上や実生活などさまざまなシーンで見られます。
この「認知バイアス」には「確証バイアス」以外にもさまざまな種類があるのです。認知バイアスは日常生活の中にも潜んでいるため、経験がある人もいるでしょう。
正常性バイアス
「正常性バイアス」とは、人が予期しない事態に対峙した際、「ありえない」という先入観が働く心のメカニズムのこと。人間の「想像を超えたストレスから心身を守るための防衛作用」が関係しています。
心身の平安を保つレベルで作用する分には問題ありません。しかし度を超えた「正常性バイアス」は深刻な事態を招きます。
一刻も早くその場を立ち去らなければならない緊急事態に「正常化バイアス」が働き、その結果逃げ遅れ、生命の危機にさらされる状況となった事例はいくつもあるのです。
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ゼロサム思考
「ゼロサム思考」とは、「一人の得がもう一人の損を意味する」と思い込むこと。全員の利得の和は常にゼロになるという「ゼロサムゲーム」に由来した言葉です。
社会集団間の競争にて、「ひとつの集団が多くの資源を得る。それ以外の集団はより少ない資源を得るしかない」という考えを「ゼロサム思考」といいます。
自己奉仕バイアス
「自己奉仕バイアス」とは、成功したときは自分自身の能力によるもの、反対に失敗したときは外的要因のせいだと思い込むこと。
成功時は自信につながるといったポジティブな面を持つ一方、失敗時には外部の失敗要因ばかりを集め、自省ができないまま同じような失敗を繰り返してしまう、といった内容です。
ダニングクルーガー効果
「ダニングクルーガー効果」とは、能力の低い人ほど自らを過大評価してしまうこと。自分が優れているという一種の錯覚で、自分の欠点を客観的に見ていけない点による自己の過大評価を指します。
具体的には、自信過剰で実力が伴っていない人物や現象を指すもので、「優越の錯覚」とも呼ばれるのです。ビジネスシーンではもちろん運動や仕事、勉強や恋愛などさまざまなシーンで見られます。
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アンカリング
「アンカリング」とは、最初に提示されたものの特徴や価値、数値によって、後に提示されたものの判断が歪められる傾向のこと。人は最初に提示された情報を強い印象として留め、この情報を前提条件としてしまう傾向にあります。
そのためあとに続く情報は、どうしても最初に得た情報に依存してしまい、あとに提示されたものの判断が歪んでしまうのです。
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ツァイガルニク効果
「ツァイガルニク効果」とは、未完了のものは完了したものより緊張感を持続しやすく、記憶に残りやすい現象のこと。たとえば「達成できた事柄に比べて達成できなかった事柄や中断している事柄のほうをよく覚えている」といったものです。
Web広告やマーケティング戦略には今や必須、ともいえます。
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コンコルド効果
「コンコルド効果」とは、「このまま投資を進めても損失が出ると分かっている。それでもこれまで投資した分を惜しみ、つい投資を継続してしまう」心理的傾向のこと。
開発途中ですでに採算が取れないと想定されていたにもかかわらず開発を続け、結果として商業的に失敗した超音速旅客機「コンコルド」の事例が由来となっています。
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4.日常的な確証バイアスの具体例
「確証バイアス」はビジネスシーンだけでなく、政治や医療、日常生活などさまざまなシーンに潜んでいるのです。ここでは日常的に見られる確証バイアスの具体例について解説しましょう。なかには心当たりや経験のある事例・思考があるかもしれません。
血液型と性格を結び付ける
確証バイアスの具体例として挙げられるのが、血液型と性格を結び付ける「血液型占い」。科学が発展した現代社会にて、血液型と性格に科学的な関連はないと証明されているにもかかわらず「A型は几帳面」「O型は大雑把」などという思い込みが残っています。
人は自分が正しいと思いたい生き物。この確証バイアスのおかげで「A型は几帳面、つまり自分の価値観は正しい」と証明できるのです。
雨男と雨女
「あの人は雨男だから、同行する日はいつも雨が降る」「私は雨女だから、高い確率で雨になる」これらの思い込みも確証バイアスの一種となります。もちろんこの「雨男と雨女」に科学的根拠はありません。
日本の平均年間降水日数は約117日。つまり3日に1日は雨。自分が出かける日に限って雨が続くと「自分は雨男なのかも」と思い込んでしまいますが、たまたま雨が続く状況も十分考えられるのです。
問題のある恋人と別れられない
たとえば「すぐに暴力をふるう恋人と別れられない」といった場合、確証バイアスが働いている可能性は高いです。
客観的に考えていけば、暴力をふるう男性と別れたほうがいいのは間違いありません。しかし「悪い点を見ようとせず、よい点ばかりにこだわって交際を続けてしまう」場合があります。
これも自分にとって都合のよいばかりを見ようとする「確証バイアス」の事例です。
大企業は安定しているという考え
就職。転職活動における大手志向もまた確証バイアスの一種となります。この場合のゴールは大手企業への入社で、自身のキャリアプランや入社後の職務内容は二の次です。
「大企業は安定している」「大企業に入れば生涯安定」という意識が先行し、実際の社会情勢は思考の外に置いている状態といえます。たとえ「大企業でも倒産する」という情報を耳にしても、自分には対岸の火事だと思い込む思考は今でも根強く残っているのです。
投資で損切りできない
株やFXなどの投資にも確証バイアスは作用しています。投資の負けパターンとして多いのが、たとえ自分が負けていたとしても根拠のない自信から「自分は絶対に大丈夫」と思い込み、損切り(これ以上の損を避けるために勝負を諦めること)できない状態。
「損をしたくない」という恐怖の感情に支配された結果、確証バイアスに拍車がかかり、正常な判断ができなくなっているのです。
確証バイアスがもたらす悪影響
確証バイアスの具体例は、日常生活のいたるところに潜んでいます。この確証バイアスは、私たちにどのような悪影響を及ぼすのでしょう。ここでは確証バイアスがもたらす悪影響のなかから特に影響力の大きい2つの問題について説明します。
差別や偏見につながる
無意識のうちに自分にとって都合のよい情報ばかりを集めてしまう「確証バイアス」ですが、この傾向が強すぎると差別や偏見につながる恐れもあるのです。
「黒人には犯罪者が多い」「オタクは暗い性格に違いない」「B型は誰もが変わり者」こうしたネガティブなステレオタイプが、差別や偏見を助長させる場合も。
このように確証バイアスは、人種差別や宗教差別、性差別などあらゆる差別や偏見に影響しているのです。
犯罪にまきこまれる
「投資詐欺やオレオレ詐欺に引っかかる」「ワンクリック詐欺やサポート詐欺などに巻き込まれる」このような事態でも、確証バイアスが悪影響を与えている可能性は高いといえます。
まさに自分にとって都合のよい情報、おいしい情報にばかり目が向いており、心証を否定する情報から目を背けようとしている状態です。
回避するためにも、違和感を抱いた際は一旦立ち止まりましょう。そして違和感の原因を論理的に突き止め、方向転換する勇気を持つのです。
5.確証バイアスの改善方法
差別や偏見、犯罪につながる恐れもある確証バイアスは、どうやって回避すればよいのでしょう。ここでは確証バイアスの改善方法、具体的な回避策について3つ説明します。
- クリティカルシンキングをする
- 第三者の意見を聴く
- 確率や統計で考える
①クリティカルシンキングをする
「クリティカルシンキング」とは、「これは本当に正しいのだろうか」という視点を持って物事を眺め、結論や判断を自ら疑いながら正しい理論につなげていく思考法のこと。「批判的思考」と訳されることもあります。
ある結論や判断に対して「本当にそうなのだろうか」「反対意見はないか」と自分自身に問いながら、結論や判断の制度を高めていきます。
クリティカルシンキング/批判的思考とは?【鍛え方・具体例】
クリティカルシンキングを直訳すると「批判的思考」。この批判的思考をビジネスの世界でポジティブに活用すると、直訳とは違った側面が発見できるのです。
ここでは、
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②第三者の意見を聴く
確証バイアスが作用している際、自分の考えに客観性を持てなくなっているのです。この状況を改善するためには、第三者の意見を聴きましょう。その際、下記3つがポイントになります。
- 自分にとって利害関係のない相手の意見を聴く
- 「この人の発言なら受け入れられる」といった尊敬できる相手に意見を求める
- 自分にとって都合の悪い内容でも率直に言ってくれる相手に、相談する
③確率や統計で考える
事態を確率や統計で考えられるようになれば、確証バイアスに気付きやすくなります。たとえば「宝くじに当たればラッキー」と思っていても、払戻率や還元率を考えていけば、衝動的な行動を防げるでしょう。
狭い世界で限られた情報のみを見ていると、知らないうちに確証バイアスが作用してしまいます。
6.ポジティブな確証バイアス
確証バイアスの特徴にはポジティブな側面もあります。「イメージは成功の素」ともいわれるように、確証バイアスが自信につながり、ポジティブな作用を起こす場合もあるのです。
自信につながる
「自信過剰」と聞くと、ついネガティブな印象を抱くでしょう。強い自信を持っているがゆえに、失敗をイメージしたり問題点を洗い出したりしていません。反対にいえば、これはつねに自信を持ち、よいイメージを持っている証拠なのです。
自信は行動力に影響します。物事を成功させるには、成功したイメージを持つのは必要です。身体を鍛えるシーンにおいて、成功のイメージを持っている者と持っていない者とは仕上がりに違いがでる、というのは有名な話でしょう。
7.ビジネスシーンにおける確証バイアス
ポジティブに作用すると無意識のうちに自信を生み出す確証バイアスは、ビジネスシーンにおいてもさまざまな形で活用されています。ここではマーケティングのビジネスシーンに絞って、確証バイアスの具体的な応用方法を説明しましょう。
マーケティングで生かす方法
確証バイアスが特に多く活用されるシーンは、マーケティングやセールスです。「名前は知らなかったが、この広告は見た経験がある」人も多いのではないでしょうか。
リターゲティング広告
リターゲティング広告とは、一度自社サイトに来たユーザーを、サイト離脱後も引き続き追跡する広告のこと。一度見たECサイトの情報が、別のサイトの広告枠にも表示された、という経験はないでしょうか。
同じ広告をあたかも偶然のように見るため顧客は、「掲載されている商品やサービスはよく見かけるもの、つまり人気のあるもの」と認識します。これがリターゲティング広告による確証バイアスの効果です。
ディスプレイネットワーク広告
ディスプレイネットワーク広告とは、広告配信システムを活用したディスプレイ広告のこと。幅広いWebサイトやアプリに広告を配信し、確証バイアスを利用して次のような効果を期待する手法です。
- 「最近よく見る、つまり人気商品だ」と感じさせる(バーダー・マインホフ現象)
- ポジティブな情報のみを広告に掲載して、ネガティブな情報を与えない
- ターゲットに覚えてもらって、自社のサービスや商品を無意識に探させる
アフターケアによるバイヤーズリモースの解決
大きな買い物をした際、「特に理由はないけれど、もっとじっくり検討すればよかった」「実際に買ってみたらほかの商品のほうがよく見えてきた」「この担当者から買ってよかったのかな」といった後悔を感じたことはないでしょうか。
こうした大きな買い物をした直後に感じる後悔を「バイヤーズリモース」といいます。これも確証バイアスの一例です。
このバイヤーズリモースをケアすると、顧客は自分の判断が正しかったと感じます。「購入直後にお礼状を送る」「定期的に連絡してフォローを徹底する」こうしたアフターケアが、満足度やリピート率につながるのです。
確証バイアスを使ったマーケティングの注意点
マーケティングシーンで確証バイアスを応用する際、マイナスの確証バイアスを働かせないよう注意しましょう。一度先入観を持ったユーザーは、そのあと新しい情報が入ってきても、無意識のうちに先入観に合わせた情報を拾ってしまいます。
「ECサイトで最初に目に付いたのは高価な商品だった=ほかの商品も高価なのでは」とネガティブな確証バイアスを抱かせないよう、細心の注意を払うのです。