コンティンジェンシー理論は、経営管理論における考え方の一つです。今回はその意味や背景、具体例やメリット・デメリット、活用法などについて解説します。
目次
1.コンティンジェンシー理論とは?
コンティンジェンシー(contingency)は、偶発や偶然を意味する言葉で、コンティンジェンシー理論とは、「どのような状況でも最高のパフォーマンスを発揮するリーダーシップは存在しない」という考え方を指します。環境の変化に応じて組織の管理方針を適切に変化させることが、リーダーには求められるとして、近年注目されています。
1940年代頃までリーダーシップには、「生まれながらの資質」の要素が大きいとされていました。しかし1960年代に入りコンティンジェンシー理論が提唱されると、「状況に応じて役割を変化させるべきだ」という考え方が広まっていくのです。
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1.コンティンジェンシーとは?
コンティンジェンシ...
コンティンジェンシー理論の類義語
コンティンジェンシー理論に似た意味を持つ言葉に、「条件適合理論」があります。2つの違いは、下記のとおりです。
- コンティンジェンシー理論:状況に応じてスタイルを変える「状況適合理論」に該当する
- 条件適合理論:行動理論の示唆する4種類がつねに効果を発揮するのではなく、環境条件に合ったもののみがリーダーシップの行動として効果を発揮する、という考え方
2.コンティンジェンシー理論が誕生した背景
1960年代に提唱されたコンティンジェンシー理論。誕生の背景には、リーダーシップ資質論やリーダーシップ行動論などさまざまな理論があるのです。ここからは、コンティンジェンシー理論が誕生した背景について解説します。
変化し続けたリーダーシップ論
1940年代まで、リーダーには、「生まれながらの資質」が求められていました。優れたリーダーは共通した資質・特性を持っているという「リーダーシップ資質論」です。
リーダー個人の資質として、身長や体格などの身体的特性や精神的特性、性格的特性や知能などがその対象とされました。そして徳川家康やリンカーン、ケネディなど歴史上偉大とされる人物が、これらの資質研究の対象となったのです。
しかし研究結果から、特性・資質とリーダーシップとの相関関係は見いだせない、つまり「リーダーの資質」発見には至りませんでした。
1960年代以降のリーダーシップ論
1960年代に入ると技術の発展や産業の高度化により、組織内でのニーズが多様化。生産といったプロセスも複雑になりました。また企業のグローバル化に伴い、事業が世界の広範囲にまたがり、多様な経済・文化状況下に置かれるようになったのです。
こうした複雑な環境では、どのような状況でも有効とされてきた「唯一最善のリーダーシップ」という従来のリーダーシップ論が通用しなくなりました。
フィドラーの「コンティンジェンシーモデル」
1964年にフィドラーが提唱した「コンティンジェンシーモデル」とは、リーダーシップのスタイルは置かれている組織などの状況によって異なるというもの。
この理論では、リーダーシップの有効性に関する条件を3つの「状況変数」からなる「状況好意性」という概念で定義しています。3つの状況変数は、下記のとおりです。
- リーダーが組織のメンバーに支持されている度合い
- 仕事や課題の明確性
- リーダーが部下をコントロールする権限の強さ
フィドラーはこれらの状況変数が高ければリーダーシップを発揮しやすいとしたのです。
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3.コンティンジェンシー理論の具体例
コンティンジェンシー理論は、技術開発などさまざまな分野で見受けられます。たとえば企業の製造部門や研究開発部門、運輸部門など。それぞれの分野では、どのようにコンティンジェンシー理論が用いられているのでしょうか。
製造部門
単純な技術を用いる単品生産と複雑な技術を用いる化学プラントや発電所などの装置生産では、「有機的組織」が向いているとされています。
有機的組織とは組織の形態の概念で、役割分担などのしばりが緩やかかつ自由な雰囲気の組織を指します。一方、自動車製造業などの中間的な技術を用いる大量生産では、規則などが厳密な「機械的組織」が向いているのです。
研究開発部門
営業部門がマーケット環境に左右されるのに対し、研究開発部門は科学環境に左右されます。情報の不確実性が高いとされている研究開発部門では、変化率が高くなるもの。
組織の構造化は低度となり、組織メンバーの目標志向性や時間的志向性は長期的になります。そのためリーダーシップは「参加的」である点が有効とされるのです。
運輸部門
コンテナのような運輸部門は、安定的かつ同質的な環境下に置かれています。生産部の主導する組織づくりが求められるため、権限が集中するような組織が向いているのです。
さらには各メンバーの職務や権限などが明確に規則化されていて、個人の目標達成よりも組織全体の目標達成が重視されるフォーマルな組織とされています。
4.コンティンジェンシー理論のメリット
コンティンジェンシー理論には、さまざまなメリットがあります。それぞれのメリットについて解説しましょう。
- 状況に応じて柔軟に対応できる
- 組織変革を進めやすい
- ヒエラルキーに左右されない
- ゼネラリストとしての力が身に付く
①状況に応じて柔軟に対応できる
コンティンジェンシー理論とは、状況に応じて役割を変えるもの。そのため組織は環境に柔軟に適応し、スムーズに動けます。コンティンジェンシー理論によると、どのような状況においても「つねに正解」なリーダーは存在しません。
つまりリーダーに求められるのは「柔軟性」。状況を十分に理解し、望まれている行動をする能力が問われているのです。
②組織変革を進めやすい
リーダーや組織には、環境によって変化する点が求められるため、組織は現状維持に陥らずつねに進化できます。そのため、組織内での改革も進めやすいでしょう。
企業の成長ステージに合わせて組織を柔軟に変化させていくのが、コンティンジェンシー理論です。不透明な環境下でも混乱なく適応できる組織づくりが実現します。
③ヒエラルキーに左右されない
「環境に順応する組織が望ましい」というのが、コンティンジェンシー理論。そのため官僚制組織などのヒエラルキー組織ではなく、上下関係に依存しない組織が求められます。
コンティンジェンシー理論は、「不安定な環境下にてヒエラルキー組織は、有効とならない」という官僚制の問題点を継承し、組織環境と構造によって組織の成果は異なるとしたのです。
④ゼネラリストとしての力が身に付く
変化する状況に絶えず適応するには、そのときどきによって取るべき行動や必要な知識、考え方を変える必要があります。そのためコンティンジェンシー理論で求められているリーダーは、ゼネラリストとしての力が付きやすくなるのです。
臨機応変な対応が求められるため、対人関係能力においても優れたリーダーが求められます。
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5.コンティンジェンシー理論のデメリット
さまざまなメリットを持つコンティンジェンシー理論ですが、下記のようなデメリットもあります。
- 環境への適合が難しい
- 組織のコントロールが難しい
- 専門性が身に付きにくい
①環境への適合が難しい
コンティンジェンシー理論は、一定の環境下で有効なリーダーや組織のあり方を追求するもの。「状態」に着目した理論であるため、変化には着目していません。
そのため目まぐるしく環境が変化する時代では、組織が一定方向に変化しなければいけないと分かります。しかしどのように組織を新しい環境に適合させるかまでは、追求できなかったのです。
②組織のコントロールが難しい
状況に応じて組織のあるべき姿やその方針が変化するため、組織のコントロールが難しくなるのもデメリットでしょう。
周囲の変化に合わせて絶えず組織構造を変革する必要があるため、現状を正確に見極められないとき、組織が誤った方向に進む可能性も出てきます。そのため組織を主導する側にある程度の手腕が求められるのです。
③専門性が身に付きにくい
リーダーの方針や組織の変化によっては組織が不安定な状況に陥るため、結果として組織に「知識やノウハウ」が蓄積しにくくなるというデメリットもあります。組織内に知識やノウハウの蓄積がないため、企業独自の競争力が低下してしまうのです。
また組織が不安定な状況になれば、長期的な成長の妨げとなる場合もあります。
6.コンティンジェンシー理論の活用方法は?
コンティンジェンシー理論を応用するには、リーダーがグローバル化に対応するとともに、人材の確保も必要不可欠。また社内環境を整え、柔軟な組織づくりも求められます。最後に、コンティンジェンシー理論の活用方法を紹介しましょう。
- グローバル化に対応する
- 社内環境を整える
- 柔軟組織をつくる
- 多様な人材を受け入れる
①グローバル化に対応する
急速に進むグローバル化。また技術革新や新興国の急成長、中間層の拡大など時代は目まぐるしく変化しています。今求められているのは、そのような時代に対応できるリーダーの存在です。
世界で活躍するリーダーに求められるのは、「異文化を理解する能力」「異文化コミュニケーションにより影響を与える能力」。このようなリーダーを擁すると、企業はグローバルな成長を遂げられます。
②社内環境を整える
雇用形態の多様化など企業を取り巻く環境が変化すれば、社内にもさまざまな影響が生じます。企業はそのような社会の変化に合わせて組織のあり方を変える必要があるのです。
多様な就労ニーズへの対応や従業員・組織間の一体感の醸成、海外人事マネジメントの強化をしなくてはいけません。さらに女性の活躍が推進されている昨今、女性管理職の登用も喫緊の課題となるのです。
③柔軟組織をつくる
経営環境の変化に合わせて、柔軟な組織づくりを目指す必要もあります。たとえば組織やポジションという枠にとらわれず、メンバーを入れ替えるのも一つの方法でしょう。
組織を硬直化させず、つねに新しいアイデアを取り込むには、リーダーを立候補制にし、タスクベースでメンバーを入れ替えるとよいでしょう。つまり柔軟な組織づくりによって社内が活性化し、生産性の向上につながっていくのです。
④多様な人材を受け入れる
国籍や年齢、性別や障害の有無などにとらわれない多様な人材の登用も求められます。たとえば海外から高度人材を招致すれば、新しいタイプのリーダーが誕生するでしょう。
多様な人材を活用する環境が整うと、新しい価値の創造や生産性の向上が期待できます。さらには企業としての競争力も高まるでしょう。