人手不足倒産とは、労働力不足による倒産です。ここでは、人手不足倒産についてさまざまなポイントから解説します。
目次
1.人手不足倒産とは?
人手不足倒産とは、労働力の不足が原因となり倒産してしまうことです。
2.そもそも倒産とは?
倒産とは、会社がつぶれること。厳密にいうと「倒産」は正式な法律用語となっていません。1952年から東京商工リサーチが開始した「全国倒産動向」の集計によって、「倒産」という言葉が広く一般に知られるようになったのです。
倒産は種類によって
- 法的倒産
- 私的倒産
の2つに分かれます。
法的倒産
法的倒産とは、裁判所に倒産を申請し、法的手続きによって債務整理を行うもの。法的倒産は種類によって、「会社更生法」「民事再生法」「破産法」「特別清算」の4つに分類されます。
会社更生法
会社更生法とは、株式会社のみが利用できる手続きです。裁判所の選任した更生管財人のもと、利害関係者の多数の同意を得て更生計画を策定・遂行して事業の再建を目指します。
会社更生手続きを取った場合、経営権や財産の処分権は管財人に移り、通常はスポンサーが新しい株主になり、代表取締役は交代します。
民事再生法
民事再生法とは、中小企業向きの手続きのこと。民事再生法では、現在の経営者主導のもと、利害関係者の多数の同意を得て再生計画を策定、遂行して事業の債権を目指すのです。再生計画には、3つあります。
- 将来の本業収益から再生・再建を弁済し、自力再建を目指す自力再建型
- スポンサーに資金援助を受けるスポンサー型
- 会社を清算する清算型
破産法
破産法とは、経済的に破綻した、企業や個人(債務者)の手続き。債務の弁済が不可能になった際、「裁判所が債務者の総財産を換価する」「裁判所が任命した破産管財人によって資産の整理、債権者への公平な分配が行われる」などから、手続きを進めます。
企業が財産を清算して消滅する、清算型倒産手続きに該当するのです。
特別清算
特別清算とは、すでに通常清算手続が開始されている株式会社に、「清算遂行に著しい支障をきたす事情がある」「債務超過の疑いがある」場合、裁判所の監督下で行われる清算手続のこと。
特別清算手続が結了後、株式会社は消滅します。特別清算は、「債務超過の疑いがある場合などに開始される」「裁判所の監督下で手続きが進められる」といった点で、通常清算とは異なります。
私的倒産
私的倒産とは、裁判手続きによらず、債権者や債務者の間で自主的協議をして倒産処理を図る手続きのこと。私的倒産は法律の規制を受けないため、迅速かつ柔軟に倒産手続きを遂行できます。
取引停止処分
取引停止処分とは、手形や小切手の不渡りを同一手形交換所管内で6カ月以内に2回起こした場合、当該手形交換所から受ける制裁処分のこと。
取引停止処分を受けると倒産として扱われるだけでなく、2年間、手形交換所の加盟金融機関から当座取引と貸出取引ができなくなります。
内整理
内整理とは、支払不能や債務超過に陥り、債務を弁済できない場合、「会社更生法や民事再生法、破産法などの法的整理手続きによらず債権者と話し合う」「債務を減免する」など、内々で整理すること。
内整理の場合、債権者と債務者が返済条件などを検討している状態であるため、倒産状態とは見なされません。
3.人手不足倒産は増加傾向
人手不足倒産は増加傾向にあります。帝国データバンクが行った「人手不足倒産に関する動向調査結果」を見てみましょう。
それによると、「2019年の人手不足倒産は185件、4年連続で過去最多を更新」「2020年は新型コロナウイルスの感染拡大防止による緊急事態宣言の影響があり、人手不足だけでなく業績悪化での倒産、事業縮小が増加している」とのことです。
4.人手不足倒産が多い業種
帝国データバンクによる「2013~2019年の過去7年間の業種別累計倒産件数上位出所」で人手不足倒産が多い業種を見てみると、下記のようになっています。
- 道路貨物輸送、74件
- 木造建築工事、43件
- 老人福祉事業、37件
- 受託開発ソフトウエア、29件
- 労働者派遣、28件
- 建築工事、26件
- 飲食店、22件
- 土木工事、22件
5.人手不足倒産の種類
人手不足倒産には、人手不足の理由によって4種類に分類されます。ここでは4つについて解説しましょう。
- 経営者の後継難
- 従業員の退職
- 採用難
- 人件費の高騰
①経営者の後継難
高齢化や病気、入院や死亡などによって経営者が経営に携われなくなった際、経営を引き継ぐ人材がおらず、倒産してしまう状況のこと。
中小企業の多くが後継難に悩まされている
中小企業の多くが後継難に悩まされています。帝国データバンクの統計資料「全国・後継者不在企業動向調査(2019年)」によれば、国内企業のおよそ3分の2である65.2%の会社で後継者不在に陥っています。
経営者の高齢化や人材不足によって事業継承を進められず、倒産や廃業、清算といった道を選ばざるを得なくなっているのです。
②従業員の退職
せっかく採用しても、転職や結婚、育児や介護といった理由で従業員が退職してしまい、倒産するケースです。補充人員の確保ができず倒産する企業は多くあります。
従業員の退職が負の連鎖を引き起こす
従業員の退職は、負の連鎖を引き起こします。従業員が退職すれば、「退職した従業員の担当業務を、既存従業員に負担する」「人員補充できないまま新規案件を受ければ、さらに既存従業員の負担が大きくなる」状況になるのです。
既存従業員が負担を看過できなくなった際、会社への忠誠心がゆらぎます。最悪の場合、離職につながるため負の連鎖になるのです。
③採用難
採用難とは、人手不足解消のため採用活動をしても人が集まらず、倒産するケースです。特に、「多くの企業が同時期に採用活動を行う」「人気のない業種が採用活動を行う」場合、採用が困難になります。
優秀な人材を求めすぎている
採用難に悩む企業は、優秀な人材を求めすぎている傾向にあるのです。
「すぐに結果が出る人材を求めている」「採用基準のハードルが高い」「採用基準が明確になっていない」場合、新規採用が思うように進まず人手不足を解消できません。
求める人材の基準を定め、基準に満たずとも自社で育成するといった受け入れ体制の整備も考える必要があるでしょう。
④人件費の高騰
高騰した人件費で企業の収益が悪化し、倒産するケースです。人件費は、採用したい企業の需要と働きたい従業員の供給量のバランスで決定するもの。需要が供給を上回れば人件費は高騰し、採用後に収益を悪化させるでしょう。
必要な人件費が年々上昇している
近年、必要な人件費は上昇しています。従業員に最低限支払うべき給与額を定めた最低賃金が年々上昇していくためです。
従来、人件費を抑えて利益を確保していた業態では、人件費高騰によって人手不足倒産のリスクが高まります。IT技術を取り入れた効率化に取り組み、倒産リスクを軽減していく必要があるでしょう。
6.人手不足倒産の原因
人手不足倒産の原因は何でしょうか。人手不足倒産の原因を3つ解説しましょう。
- 少子化による労働人口の減少
- 労働内容と賃金が合っていない
- 必要なスキルがある人材を育成していない
①少子化による労働人口の減少
中小企業庁による「第2節 日本の人口動態と労働者構成の変化」によれば、日本の生産年齢人口である15歳~64 歳の人口は、「1995年には約8,700万人」「2015年には約7,700万人」。20年で約1,000万人も減少しており、人手不足倒産の原因となっています。
②労働内容と賃金が合っていない
人手不足になるには何かしら理由があるはずです。たとえば労働内容に見合わず賃金が低い場合、人材は賃金の高い企業に流れます。「人材が採用できない」「雇用しても転退職してしまう」場合、労働内容と賃金を見直す必要があるでしょう。
③必要なスキルがある人材を育成していない
「主体的に仕事へ取り組む」「必要なスキルを持っている」「モチベーションが高い」など、仕事を任せられる人の確保は重要です。しかし現実、必要なスキルがある人材を確保できていないため、それが人手不足倒産の理由になります。
7.人手不足倒産の対策
人手不足倒産を防ぐためにはどのような対策を取ればよいのでしょう。下記5つについて解説します。
- 女性や高齢者の採用
- IT技術による省人化
- 採用方法の種類を増やす
- 労働環境を改善する
- 管理職の働き方にも注意する
①女性や高齢者の採用
労働人口の減少に備えて、女性やシニア人材のさらなる採用を視野に入れる必要があります。採用や教育が進めば人手不足の解消だけでなく、ダイバーシティマネジメントの実現にもつながるでしょう。
②IT技術による省人化
システムやツール、AIやクラウドサービスなどIT技術を活用すると、人の力に頼っていた業務を効率化・省人化できます。機械と人間の仕事を住み分けると、人手不足に振り回されない企業体質が構築できるのです。
③採用方法の種類を増やす
中途採用が当たり前の時代、人材確保の方法は多岐にわたっています。「スカウトをかけるダイレクトリクルーティング」「従業員から紹介してもらうリファラル採用」など採用のバリエーションを増やせば、人材を確実に採用していけるでしょう。
④労働環境を改善する
賃金や福利厚生以外の労働環境の改善は、離職率の低下につながります。
「サービス残業の廃止」「有給休暇取得率アップ」「パワハラやセクハラなどハラスメントの防止」「教育制度の充実」など労働環境を改善すれば、転退職者の減少や採用者の増加が期待できるでしょう。
⑤管理職の働き方にも注意する
中間管理職の働きが足りないと、経営と現場の間にあつれきが生じます。経営者は、中間管理職に管理を任せるだけでなく、従業員の声に耳を傾けましょう。積み重ねが組織の一体感を生み、人手の流出を防ぎます。