特定技能とは、就労ビザの一種です。技能実習との違いや対象となる業種、特定技能の外国人を受け入れる方法など、特定技能について詳しく解説します。
目次
1.特定技能とは?
特定技能とは、中小・小規模事業者をはじめとした深刻な人手不足に対応するため、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるもの。就労ビザの一種で、人手不足が深刻な産業分野の解消を目的に、導入されました。
移民政策を行っていない日本では、外国人による単独就労が原則禁止されています。しかし特定技能で新たな外国人材の受け入れが可能となりました。特定技能に係る制度は、人材確保が困難な状況にある分野にて、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるものです。
特定技能は、深刻な人手不足を助けるため、即戦力となる外国人を受け入れるもの。2019年4月に「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が可決・成立しました。それにより人材不足の業種に限って外国人材雇用が許可されたのです。
2.人手不足の解消法としての特定技能
特定技能での新たな外国人材の受け入れが認められたため、人手不足が解消されます。十分な人材が確保できない分野に若年層の労働力が得られれば、高齢化が進む業種にとっては大きな戦力となるでしょう。
また特定技能評価試験と日本語評価試験に合格する必要があるため、一定の技能や知識を習得した外国人の雇用が可能となります。
日本は深刻な人手不足
日本では1995年をピークに生産年齢人口が減少しており、2015年にはピーク時より1,000万人も減少しています。
生産年齢人口とは、生産活動の中心にいる人口層で、日本では15歳以上65歳未満の人口を指します。減少し続ける生産年齢人口の背景には急速に進む少子高齢化があり、2050年には2,000万人以上の減少が予想されているのです。
特定技能と技能実習の違い
技能実習の目的は、技能などの移転による「国際貢献」。一方の特定技能は人手不足を補う「労働力」と目的が異なるのです。技能実習は日本語能力水準や技能水準の試験はありません。(介護職のみ入国時Nレベルが必要)。
特定技能1号の対象職種が14分野に対し、技能実習は80職種あります。しかし原則、転職は不可で、受け入れ人数に制限があるのです。
3.特定技能1号と特定技能2号の違い
特定技能には、「特定技能1号」と「特定技能2号」の2種類があります。それぞれ詳しく解説していきましょう。
特定技能1号
特定技能1号とは「特定産業分野に属する相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事する、外国人向けの在留資格」です。
特段の育成や訓練が不要で、ただちに一定程度の業務を遂行できる水準とされています。1号に分類される職種は14業種。在留期間は通算5年で、外国人家族の帯同は認められていません。
特定技能1号の資格取得要件は、2つの試験での合格。
- 特定技能評価試験…筆記試験と実技試験
- 日本語能力評価試験…「国際交流基金日本語基礎テスト」A2、「日本語能力試験」N4以上に合格する必要がある
特定技能に関連する「技能実習2号」を修了すると、上記2つの試験が免除されます。
特定技能2号
特定技能2号とは、「同分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」とされています。現在、取得可能な職種は建設業と造船・舶用工業のみ。在留期間の上限はなく、一定の条件を満たせた永住権の獲得も可能です。
取得方法は政府が検討している段階で未確定となっています。2021年度から試験が開始される予定です。
4.特定技能の対象となる業種
特定技能の対象は次の14業種です。
- 介護
- ビルクリーニング業
- 素形材産業
- 産業機械製造業
- 電気・電子情報関連産業
- 建設業
- 造船・船用業
- 自動車整備業
- 航空業
- 宿泊業
- 農業
- 漁業
- 飲食料品製造業
- 外食業
それぞれについて詳しく解説します。
介護とビルクリーニング
介護は、特定技能1号のなかで最も受け入れ予定数が多い分野です。主な業務は介護施設での入浴や食事、排せつといった介助、レクリエーションや技能訓練の補助など。ビルクリーニングは、高齢者の雇用を推進しています。
主な業務は建築物内部の清掃です。建物内の部位や建材、汚れなどの違いに対して適切な洗剤と手順で清掃します。
素形材産業と産業機械製造業と電気・電子情報関連産業
製造分野は業種によって「素形材産業」「産業機械製造業」「電気・電子情報関連産業
」の3つに分かれるのです。
製造業の94%以上を占める大企業・中小企業にて人手不足が顕在化しており、産業機械製造業界の有効求人倍率は2.89倍です。なかでも金属プレス工は2.97倍、プラスチック製品製造工3.70倍と人手不足が深刻化しています。
建設業と造船・舶用業
建設業は、東京オリンピックによる観光や商業施設などの建設ラッシュが続く需要の高い分野です。従来の11対象職種にとびや建築大工、配管や建築板金、保温保冷や吹付ウレタン断熱、海洋土木工の7職種が追加されました。
造船・舶用業は、特に港運業が多い瀬戸内や九州に集中しており人材確保ができていません。主な職種は溶接、塗装、仕上げ、鉄工などです。
自動車整備業と航空業
自動車整備は、主に整備要員の平均年齢の増加と若者の車離れから人手が不足しています。主な業務内容は、自動車の日常点検整備、定期点検整備、分解整備などです。
航空は、グローバル化が進み、移動の需要拡大による人手不足が著しい状況となっています。主な業務内容は、地上走行支援業務や手荷物・貨物取扱業務などの空港グランドハンドリングなどになります。
宿泊業
宿泊業は、近年のインバウンドが増加する一方、離職率が非常に高い分野です。主な業務は宿泊施設におけるフロント、企画・広報、接客およびレストランサービスなど。
技能実習制度に「宿泊業」が受け入れ対象職種・作業として追加されました。これにより「技能実習2号」から「特定技能1号」への移行が可能となったのです。
農業と漁業
日本の農業、漁業・水産業は後継者不足による高齢化が深刻しています。農業は、過去10年間で100万人もの労働力が減少、水産業は過去20年間で半減しているのです。
特定技能で人材を受け入れる際、「とおしで5年の雇用をする」もしくは「農閑期に帰国させて繁忙期に呼ぶといった半年ごとの業務」なら通算10年間にわたって雇用できます。
飲食料品製造業と外食業
飲食料品製造業は、人の手でしか対応できない工程がある分野です。主な業務は、飲食料品(酒類を除く)の製造・加工、安全衛生など。
外食業はほか業種と比べて離職率が高く、今後コンビニ業種の受け入れが課題とされています。外食業には基本的な日本語やおもてなしの心得、考え方などを身に付けた接客が求められているのです。
5.企業が特定技能の外国人を受け入れる方法
特定技能の外国人を受け入れる方法は、企業が「特定技能所属機関」(日本に在留する外国人を雇い入れる会社)になること。ここでは「特定技能所属機関」になる方法について、説明しましょう。
協議会に加入する
まず協議会に加入します。協議会とは、特定技能制度の適切な運用を図るため、14の業種ごとに所管省庁が設置する機関のこと。構成員は、所管省庁や受け入れ企業、業界団体や関係省庁などです。
また特定技能外国人が入国後4カ月以内に、加入する必要があります。建設分野以外、加入費は不要です。
登録支援機関に加入する
登録試験機関とは、特定所属機関(受入れ企業)からの委託を受けた特定技能1号外国人が、活動を安定的かつ円滑に進めるため、在留期間における支援計画の作成・実施を行う機関です。
支援の委託を受けている登録支援機関に、協議会への加入義務があるかは業種ごとで変わります。農業や漁礁、介護や建設業分野などに加入義務はありません。
登録支援機関のメリット
登録試験機関に支援を委託するメリットは、中小零細企業など自社で総合的な支援体制を整備できないときに活用できる点。具体的な支援は次のとおりです。
- 入国前の生活ガイダンスの提供
- 在留中の生活オリエンテーションの実施
- 住宅確保
- 苦情や相談への対応
- 日本語習得支援
- 日本人とのコミュニケーション支援
- 各種行政手続きに関する支援
登録支援機関の担い手
登録支援機関の担い手は3つです。
- 技能実習の監理団体…教育支援していた監理団体と実習生との関係性が良好で、コミュニケーションが円滑に進む
- 人材紹介・派遣など人材会社…外国人と母国語でコミュニケーションできるキャリアアドバイザーが在籍しているため、着実なサポートが可能
- 行政書士・社労士事務所やそのほか外国人支援サービス業者…各事業を生かした付加価値の高い支援提供が可能
登録支援機関を選ぶポイント
登録支援機関を選ぶポイントは次の3点です。
- 対応可能言語…自社が雇用する外国人の母国語に対応できる機関である
- 所在地…迅速な支援を行うためにも同じ市内、同じ地区など近距離にある
- 委託費用…外国人1人あたりの委託費用は機関によって異なり金額に差があるため、複数の登録支援機関の費用を比較する
特定技能所属機関になるための基準
特定技能所属機関になって外国人を受け入れるための基準は、3つです。
- 特定技能所属機関自体が適切である
- 特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
- 特定技能外国人への支援体制と支援計画が適切である
特定技能所属機関自体が適切である
特定技能所属機関自体が適切かどうかを見る際、次の項目をチェックしてみましょう。
- 労働保険料・社会保険料・税金は納付済み
- 1年以内に非自発的離職者の発生がない
- 1年以内に外国人の行方不明者の発生がない
- 5年以内に技能実習を取り消されていない
- 債務超過になっていない
- 労災保険の保険関係成立がなされている
特定技能外国人と結ぶ雇用契約が適切である
労働法令の遵守にくわえて、特定技能独自の上乗せ条件を満たしている必要があります。次の項目をチェックしてみましょう。
- 相当程度の知識または経験を必要とする技能を要する業務に従事させる
- 労働時間は通常の労働者の所定労働時間と同等である
- 日本人と同等以上の報酬額を設定している
- 一時帰国を希望した際は必要な有給休暇を取得させる
- 定期健康診断を受診させる
特定技能外国人への支援体制と支援計画が適切である
受入れ企業に外国人を支援する体制が整っているかどうかが重要です。次の項目をチェックしてみましょう。
- 外国人が十分理解できる言語での支援が可能
- 支援状況に係る文書を作成し、雇用契約終了日から1年以上備えている
- 支援責任者および支援担当者が支援計画の中立な実施を行える
- 欠格事由に該当しない
- 支援計画にもとづいた支援を、5年以内に怠っていない
特定技能のメリットとデメリット
特定技能では、日本語能力水準の試験に合格した即戦力となる外国人を雇用できます。しかし技能実習とは異なり、転職が可能なのです。特定技能のメリットとデメリットについて、解説しましょう。
メリット:優秀な外国人労働者が多く海外進出の際有利になる
特定技能評価試験や日本語試験に合格した優秀な外国人を雇用できるため、若年層の人材不足の解消だけでなく即戦力となります。一定の知識や技能を身に付けた外国人労働者が職場にいれば、社内の多様化も進むでしょう。
また外国人労働者の母国語によって、海外の企業との交渉やコミュニケーションが取れるようになります。
デメリット:母数が少なく転職されてしまう場合もある
特定技能1号は最大でも5年の雇用期間。特定技能2号へ移行できる業種は限られているため、せっかく人材を育てても5年後には企業から離れてしまうのです。
また特定技能は転職が可能なため、ほか企業へ転職されてしまう可能性もあります。企業は外国人が会社を辞めた場合「特定技能雇用契約に係る届出」と「受入れ困難に係る届出」の届出が義務付けられているのです。
6.特定技能に関するよくある疑問
特定技能は2019年にスタートしたばかりの制度で、技能実習と混同しているケースも多々あるのです。ここでは特定技能に関するよくある3つの疑問を紹介しましょう。
- 派遣での雇用は可能か
- 有給休暇を付与しなくてはならないか
- 家族の帯同は可能か
①派遣での雇用は可能か
特定技能1号の外国人労働者を派遣形態で雇用するというのは原則、できません。
ただし農業と漁業分野のみ、「農業と漁業は季節によって作業の繁閑がある」「同地区でも収穫や作付けなど作業のピーク時が異なる」といった理由から派遣での雇用が可能です。しかし派遣先事業となる場合、いくつかの条件をすべてクリアする必要があります。
②有給休暇を付与しなくてはならないか
特定技能の外国人労働者から申し出があったときは、業務上やむを得ない事情がある場合を除き、何らかの有給休暇を取得できるよう配慮しなければなりません。
有給をすべて取得した労働者から一時帰国を希望する申し出があった場合も、有給休暇の取得や無給休暇を取得できるような配慮が望まれるのです。
③家族の帯同は可能か
特定技能1号における外国人労働者の家族の帯同は基本、認められていません。しかし特定技能2号の外国人労働者は、要件を満たせば可能になります。この場合の家族とは配偶者や子どもを指しており、親や親戚は含まれません。