インボイス制度とは「適格請求書等保存方式」と呼ばれる制度です。ここではインボイス制度の導入背景やスケジュール、制度導入による影響などについて解説します。
目次
1.インボイス制度とは?
インボイス制度とは、複数税率に対応した消費税の仕入税額控除が可能になる制度で、「適格請求書等保存方式」と呼ばれます。令和5年10月1日から導入される新たな制度で、「消費税納税の透明性を図る制度」と考えると理解しやすいでしょう。
インボイスとは?
インボイスとは通関手続きに欠かせない書類のことで、貿易関係業務にてよく使用されます。商品名や金額だけでなく、商品ごとの消費税率や消費税額などが記載された請求書や納品書を「インボイス(適格請求書)」と呼ぶのです。
インボイスは、売手が買手に対して正確な適用税率や消費税額などを伝える手段となり、請求書や領収書、納品書やレシートなどもこれに該当します。
仕入税額控除について
インボイス制度を理解するためにも、消費税の仕組みについて理解しましょう。売上の消費税から仕入れにかかった消費税を差し引き、二重課税を防ぐ制度を「仕入税額控除」といいます。
スーパーで108円(本体価格100円、消費税8円)のリンゴを1個買ったとしましょう。スーパーはリンゴを54円(本体価格50円、消費税4円)で仕入れました。このときスーパーが納税する消費税額は「課税売上の消費税(8円)-仕入れにかかった消費税(4円)=4円」。
仕入税額控除がなければスーパーが仕入れで払った消費税とお客さんがリンゴを買った消費税とで、「二重課税」になってしまいます。これを防ぐ仕組みが「仕入税額控除」です。
2.インボイス制度と従来の請求書等保存方式との違い
従来の経理方法では「請求書等保存方式」を採用しています。この方式では、仕入れ先からいくらで購入したかが分かる請求書を、保存しておかなければなりません。
消費税率が1つだった従来、この「請求書等保存方式」で問題ありませんでした。しかし消費税率が2つになり、正確な取引を把握する必要が出てきたのです。そこで採用されたのが「適格請求書等保存方式」を根幹とした「インボイス制度」でした。
課税事業者でなければ導入できない
インボイス制度を導入するためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録を受けなければなりません。また課税事業者でなければ登録を受けられないのです。
適格請求書発行事業者は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも免税事業者にはなりません。消費税や地方消費税の申告義務が生じるため、注意が必要です。
課税事業者とは?
課税事業者とは、消費税を納める必要がある事業者のこと。課税売上高(消費税が課税される取引の売上金額と、輸出取引等の免税売上金額の合計額)が1,000万円を超える事業者が「課税事業者」となります。
インボイス制度の導入に際しては、インボイスに対応した経理システムの整備のほか、取引先の事業者がこの「課税事業者」に該当するか、確認も必要です。
免税事業者とは?
自動的に消費税納付の義務を負う「課税事業者」に対して、消費税の納税が免除されている事業者を「免税事業者」といいます。基準期間の課税売上高によって判断され、具体的に課税売上高が1,000万円に満たない場合、「免税事業者」になるのです。
インボイス制度において、課税事業者が免税事業者との取引で支払った消費税は、仕入税額控除を受けられません。
3.インボイス制度の導入理由
なぜ従来の「請求書等保存方式」ではなく、新たに「インボイス制度」を導入する必要があるのでしょう。背景にあるのは「軽減税率への対応」と「益税の抑制」です。ここでは3つの視点から、インボイス制度の導入理由について説明します。
- 軽減税率の導入
- 益税の抑制
- 不正やミスの防止
①軽減税率の導入
インボイス制度導入の背景にあるのが「軽減税率」です。2019年10月の消費税増税にともなって軽減税率が導入され、8%と10%、2つの消費税率が混在するようになりました。
それまでの税率は商品の種類にかかわらず一律だったため、税額はかんたんに算出できたのです。しかし異なる税率の混在により、商品の仕入れや販売時の税額計算は複雑に。そこでインボイス制度を導入して正確な税額を確認する必要が出てきたのです。
②益税の抑制
消費者が事業者に支払った消費税の一部が納税されず、そのまま合法的に事業者の利益になってしまう仕組みを「益税」といいます。
例として、中古車販売店が100万円で車を買い取ったケースを見てみましょう。この場合、消費者に消費税を納める義務はありません。
しかし販売店側は消費税込みで購入したという状況にできるため、車両価格の100万円に消費税を計上できます。この「もらい得」の是正も、インボイス制度の導入理由です。
③不正やミスの防止
インボイス制度を導入しないまま、複数の適用税率を区分して正確な納税額を算出するのは非常に困難でしょう。仕入れと販売における不正の原因にもなり得ます。
これまで売り手側に請求書交付の義務はありませんでした。しかしインボイス制度導入後は透明性の高い「適格請求書」が必要になるのです。
4.インボイス制度はいつから導入される?
インボイス制度のスケジュールについて確認しておきましょう。制度の導入には社内教育やワークフローの改定などさまざまな作業が必要になるもの。スケジュールを確認しながら余裕をもって対応を進めていく必要があります。
インボイス制度のスケジュール
「適格請求書等保存方式」が施行されるのは2023年10月からです。しかし一斉に切り替えると混乱の原因になるため、2019年10月から2023年9月まで、4年の準備期間が設けられています。
期間内は「区分記載請求書等保存方式」が適用され、課税事業者と免税事業者は区分されません。登録番号等の記載は必須とならないものの「軽減税率の対象品目である」また「税率ごとに区分して合計した対価の額(税込)」の記載が必要となります。
5.インボイス制度導入による影響
インボイス制度の導入は、事業者にどのような影響をもたらすのでしょう。ここでは下記それぞれに生じるインボイス制度導入の影響について、説明します。
- 課税事業者
- 免税事業者
- 業務委託の雇用主
- 経理・会計業務
①課税事業者
消費税を除く売上高が1,000万円以上ある事業者は、課税事業者となります。課税事業者はインボイス制度導入の影響により、次のことを行う必要があるのです。
- 税務署で「適格請求書発行事業者」の登録
- 社内経理システムの見直し
取引先に免税事業者がいる場合、事業者が課税事業者として登録するかどうか、確認する(免税事業者との取引が仕入税額控除の対象外になるため)
②免税事業者
年間の課税売上が1,000万円以下の場合、ほとんどの事業者が免税事業者となります。免税事業者はインボイス制度の導入によって、下記が起こる可能性もあるのです。
- 取引先の減少(免税事業者との取引を避ける課税事業者が増える可能性)
- 値引きによる売上減少(消費税を除いた、実質的な値引きをされる可能性)
- 消費税納税義務の発生
個人事業主(フリーランス)
インボイス制度は企業だけでなく個人事業主(フリーランス)にも影響を与えます。課税売上高1,000万円以下のフリーランスは適格請求書を発行できません。したがってインボイス制度導入後、取引先は仕入税額控除を受けられなくなるのです。
これにより取引先が免税事業者であるフリーランスへの依頼を避ける可能性も生じます。案件が適格請求書発行事業者に流れ、結果としてフリーランスの仕事が減る恐れもあるのです。
一人親方
インボイス制度は一人親方として働いてきた事業者にも影響を及ぼします。たしかにインボイス制度開始後も適格請求書発行事業者に登録せず、免税事業者のままでいるのも可能でしょう。これなら従来どおり消費税の申告は免除されます。
しかしフリーランス同様、仕入税額控除の関係で仕事が減ると考えられます。これまでどおりの取引を続けるためには、課税事業者への転換を検討するとよいかもしれません。
③外注や業務委託の雇用主
外注や業務委託雇用主に係る影響もあります。これまで外注先の個人事業主や一人親方が「課税事業者か、免税事業者か」を意識する場面はありませんでした。
しかしインボイス制度導入後、委託先がどちらになるかによって会社の実質費用が変わる可能性もあります。
場合によっては免税事業者に対して「課税売上が1000万円以下でも課税事業者となってインボイスを発行してほしい」「消費税相当を含めず請求してほしい」といった要求を行う必要も出てくるのです。
④経理や会計業務
インボイス制度の導入により、課税仕入の税額計算方法は大きく変わります。これまでの経理や会計業務では税込金額で課税仕入の総額を計算し、そこから消費税額を計算してきました。
しかしインボイス制度では適格請求書にもとづいて仕入の金額と消費税額を集計しなければなりません。さらに原則として積上げ計算(1年間の課税仕入金額と消費税額を積み上げて計算する方法)になります。
端数処理
税額計算は一取引単位(領収書1枚ごと、請求書1通ごとの「1会計ごと」)ごとに行うのが原則です。円未満の端数処理は原則として「ひとつのインボイスにつき税率ごとに1回」のみ行います。
1インボイスにつき8%の対象に1回、10%の対象に1回ずつ端数処理を行うため、商品の一つひとつに端数処理を行えません。
積上げ計算
先に述べたとおり、インボイス制度は1年間の課税仕入金額と消費税額を積み上げて計算する「積上げ計算」が原則です。
なお従来の申告税額の計算では、一部例外を除いて積上げ計算は認められません。インボイス制度の導入により「税込あるいは税抜の仕入金額」と「消費税額」を入力する必要が出てきます。
そのため大幅なシステム変更が必要になる場面も予想されるため、従来同様「割戻し計算」も選べるのです。
6.インボイス制度で適格請求書に記載が追加される項目
インボイス制度では、以下6つの項目が記載された適格請求書を作成します。
- 取引の年月日
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称、および登録番号
- 取引金額を税率の異なるごとに区分して合計した金額、および適用税率
- 取引の内容
- 消費税額など
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
適格請求書発行事業者の登録番号
法人番号を有する課税事業者は「T+法人番号」、それ以外の課税事業者は「T+13桁の数字」で構成される番号が「適格請求書発行事業者の登録番号」となります。
適格請求書発行事業者となるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録番号を入手しなくてはなりません。登録番号の記載がない書類は適格請求書として認められないため、買手側は仕入税額控除ができなくなるのです。
適用税率と消費税額
適格請求書には前述した「適格請求書発行事業者の登録番号」にくわえ、適用税率および税率ごとに区分した消費税額などの記載も必要となります。請求書に書かれた「8%対象 5,000円」や「10%対象 10,000円」といった金額です。
買手側の事業者は、税率ごとに区分された合計額をもとに消費税を計算します。
7.インボイス制度導入における準備
インボイス制度の導入に向けて、事業主にはどのような準備が必要になるのでしょうか。5つから、インボイス制度導入における準備のポイントについて説明しましょう。
- 適格請求書発行事業者に登録
- フォーマットの準備
- クラウドサービスを導入
- 取引先の状況を確認
- インボイスの保存
①適格請求書発行事業者に登録
まず税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、適格請求書発行事業者として登録します。登録申請書は2021年10月1日から提出可能です。
なおインボイス制度が導入される2023年10月1日から登録を受けるためには、同年の3月31日までに登録申請書を提出しなければなりません。
②フォーマットの準備
インボイス制度に対応した適格請求書のフォーマットも準備しておきます。適格請求書にはこれまでの請求書に記載していなかった項目が増えるもの。遅くとも適格請求書発行事業者となる予定日までには、整えておきましょう。
なお不特定多数の人を対象とする事業者(飲食店や小売業など)の場合、記載事項を簡略化した「適格簡易請求書」の発行が認められています。
③クラウドサービスを導入
インボイス制度に対応した会計ソフトへの切り替えも必要です。従来の会計ソフトではインボイス制度に対応できない可能性もあります。
業務負荷を減らすためにも、ここでクラウド型経費精算サービスの導入を検討するのもよいでしょう。クラウドサービスのなかには自動的にインボイス制度に対応してくれるものもあります。活用すれば経費管理にかかるコストを削減できるでしょう。
IT導入補助金を活用
クラウドサービスの導入には、「IT導入補助金(中小企業生産性革命推進事業)」が活用できます。これはインボイス制度はじめ賃上げや被用者保険の適用拡大など、中小事業者が今後直面するであろう変更への対応を目的にした制度です。
ITツール導入費用の一部を補助するもので、経済産業省が掲げる「中小企業生産性革命推進事業」のひとつとなります。
④取引先の状況を確認
インボイス制度の導入に際して、売手の立場として取引先の状況を確認しておくことも重要です。適格請求書の発行を受けられず、インボイス制度の直接的な影響を受けるのは課税事業者である取引先。
継続的に取引を行う事業者に対して「適格請求書発行事業者の登録番号」や「交付するインボイスの様式」「インボイスの交付方法」などを共有しておくと安心です。
⑤インボイスの保存
インボイスは一定の要件を満たした方法で保存しておかなければなりません。適格請求書発行事業者は書面としてのインボイスの交付はもちろん、インボイスに係る電磁的記録、つまり「電子インボイス」を提供できます。
電子インボイスの提供を受けた事業者は、これを保存することで仕入税額控除の適用が受けられるようになるのです。