逆パワハラとは、被管理者から管理者への嫌がらせ行為のことです。ここでは逆パワハラについて解説します。
目次
1.逆パワハラとは?
逆パワハラとは、管理する立場にいる人が、管理される立場の人から受けるいじめや嫌がらせといった行為のこと。「部下から上司へ」「後輩から先輩へ」「非正規社員から正社員へ」といったハラスメント行為を指します。
逆パワハラでは、「上司から部下へ」「先輩から後輩へ」といったパワハラとは反対の、職務上優位な立場を利用した方向に力が働きます。パワハラといった言葉が定着するにつれ、逆パワハラにも注目が集まっているのです。
パワハラとは?
パワハラとは、パワーハラスメントの略です。厚生労働省の雇用環境・均等局では、下記すべてを満たしたものを職場のパワハラの概念としています。
- 優越的な関係にもとづいて(優位性を背景に)行われる
- 業務の適正な範囲を超えて行われる
- 身体的もしくは精神的な苦痛を与える、または就業環境を害する
2.逆パワハラの現状
逆パワハラの現状に該当すると判断した案件の加害者と被害者の関係で多いのは、「部下から上司へ」「後輩から先輩へ」「正社員以外から正社員へ」といった逆パワハラ。全体の約4.8%を占めています。
パワハラの多くは「上司から部下へ」「先輩から後輩へ」。しかし逆パワハラも確実に存在しているとわかります。
3.逆パワハラが増加している背景
逆パワハラが増加している背景にあるのは、上司が萎縮している点。「自分の言動がパワハラになるのではないか」と恐れるあまり上司が萎縮するケースです。特に年齢や経験で負けている部下に対して、萎縮の傾向が強く出ます。
また萎縮している上司に乗じ、自分の主張と都合よく展開してくる部下の存在がある点も逆パワハラの増加に拍車をかけているのです。
4.逆パワハラの例
どのようなケースが逆パワハラに該当するのか、5つの事例から解説しましょう。
- 上司に対して暴言を吐く
- 集団で無視をする
- 「ハラスメント」という言葉を武器にする
- SNSを利用した誹謗中傷
- ITリテラシーの格差を利用した誹謗中傷
①上司に対して暴言を吐く
暴言や暴力はパワハラです。逆パワハラでは、このようなパワハラと認められる言動が、部下から上司へ投げつけられます。たとえば、「人前で上司を無能扱いする」「人前で上司の悪口を言う」「上司を叩く」など。
②集団で無視をする
上司が仕事の最終責任者である点をいいことに、部下が「上司からの仕事の指示を無視する」「上司からの仕事の依頼を拒否する」といった行為をします。組織全体や結託した複数の部下にて無視するケースも多いため、上司1人で対応できない場面も多いです。
③「ハラスメント」という言葉を武器にする
たとえば、「上司からパワハラの被害を受けている」「上司から飲みに誘われたのはパワハラだ」など、「冤罪」と見なされるように案件を吹聴すること。
上司から飲み会を強要されるのはパワハラといえます。しかしコミュニケーションとしての会話をパワハラ扱いするのは、逆パワハラの可能性が高いです。
④SNSを利用した誹謗中傷
上司に対する誹謗中傷を、SNSやブログなどで実名をあげて書き込むケースです。一旦SNS上にアップされた情報は拡散するうえ、削除も困難です。またこれらがエスカレートして、上司の私有物を壊すといった暴力的行為に発展する場合もあります。
⑤ITリテラシーの格差を利用した誹謗中傷
ITに関する知識や技術は日進月歩で、なかには知識のアップデートが困難になっている人もいます。「そんなことも知らないのですか?」「知識が古くてマネージャー失格ですね」など、ITリテラシーの格差をネタに部下が上司を中傷するケースが増えています。
5.逆パワハラに関する事例
事例を学べば、より具体的に逆パワハラをイメージできるでしょう。ここでは2つの事例とどのような点が逆パワハラとして問題になったのか、解説します。
- 渋谷労基署長事件
- 日本電信電話事件
①渋谷労基署長事件
Y社に勤める従業員Aが処遇に不満を持ちました。そこから店長Xに対し、Xを誹謗中傷するビラを親会社Z社にある労働組合に持ち込んだのです。
従業員Aが持ち込んだビラには、「Xが食券を再利用して売上げを着服している」「Xが部下の女性職員にセクハラをした」などが書かれていました。
②日本電信電話事件
「社内外で、上司に対する誹謗中傷のビラを配布した」「上司の自宅電話に嫌がらせの電話をかけた」などの行為を社員が繰り返した事件です。会社は当該社員を解雇。しかし不当解雇だと当該社員から訴えられました。
裁判所は、当該社員の言動を逆パワハラと認め、解雇は正当だという判断を下したのです。
6.逆パワハラが発生する原因
逆パワハラが発生する原因は4つあると考えられています。それぞれについて解説しましょう。
- マネジメント不足
- 権利意識の向上
- 上司の能力値が下回る
- 逆パワハラという認識がない
①マネジメント不足
上司が部下を指導、監督しきれていないといった上司側の問題でも逆パワハラは発生します。上司には、部下を管理や監督、指導する責任があるもの。
しかし部下が、「上司の力量が足りないと見限る」「上司の力量不足に不満や怒りを募らせる」と逆パワハラが起こりやすくなります。
②権利意識の向上
上司から部下へのパワハラが社会的に認知された結果、部下の権利意識も高まっています。また近年、部下が上司を評価する360度評価が企業に浸透。気に入らない上司に対して何かあればパワハラだと訴えればいいという意識を持った部下が増えています。
③上司の能力値が下回る
IT技術含めた新しいビジネススタイルに適応できるのは若い世代です。そのため自然と、上司より経験値の多い部下が誕生します。
役職上では上司でも経験値や能力値からすれば部下より上司が下である場合、逆パワハラが起こりやすくなるのです。
④逆パワハラという認識がない
一般的に、管理職を対象としたパワハラ研修は盛んに行われています。しかし一般社員を対象とした逆パワハラについては「研修で触れない」もしくは「触れても軽い説明で済ませてしまう」状況になりがちなのです。
上司を軽く扱う行為が逆パワハラに該当すると意識していないケースも多く見られます。
7.逆パワハラを防ぐための方法
逆パワハラを防ぐための方法として考えられるのは、4つです。それぞれについて解説しましょう。
- マネジメント研修の実施
- 社員教育の徹底
- 就業規則に盛り込む
- 相談窓口の設置
①マネジメント研修の実施
上司が上手に部下をマネジメントできないと、部下から軽く見られて逆パワハラにつながります。管理職やリーダーを集め、マネジメント力アップを狙った研修を実施しましょう。
研修により管理職のマネジメント力が向上すれば、職場環境や業務遂行面でもメリットが得られます。
②社員教育の徹底
新人研修といった人材育成プロセスに逆パワハラに関する教育プログラムを組み込むと、逆パワハラに関する正しい知識と社内の共通認識を形成できます。
被害者や加害者、目撃者などが設定されたロールプレイングを用いて実践的な教育を行うとより効果的でしょう。
③就業規則に盛り込む
就業規則に「職場におけるパワハラの禁止」「パワハラを行った者に対して行う懲戒規定」などを盛り込みます。また「逆パワハラを含むパワハラを行った者に対し、厳正な処分を行う」といった姿勢を社員に徹底できます。
④相談窓口の設置
逆パワハラが起こってしまったときを考え、相談窓口を設置します。プライバシーの保護を含め、安心して気軽に相談できる窓口を設置すれば、社内外にコンプライアンス意識の高い企業だとアピールできるでしょう。
8.逆パワハラが発生した場合の対処法
逆パワハラが発生した場合の対処法を知っておけば、万が一のときでも冷静に対処できます。それぞれについて解説しましょう。
- 証拠を収集する
- 上長を巻き込んで話し合う
- 配置転換を行う
- 懲戒処分にする
①証拠を収集する
上司や先輩などが部下や後輩から逆パワハラを受けたと思ったら、その証拠を集めます。
逆パワハラは、労働者の権利の問題と表裏一体の関係にあるもの。部下から「正当な権利の主張である」と反論され、逆パワハラと認められないケースも考えられるからです。
②上長を巻き込んで話し合う
逆パワハラを受けた後、被害者が加害者のマネジメントを継続するのは現実的といえません。またこのような状況を放置すれば、組織が機能しなくなるでしょう。逆パワハラが発生したらすぐ上長に報告し、上層部を巻き込んで会社としての対応を話し合います。
③配置転換を行う
逆パワハラが被害者と加害者の相性の問題であった場合、配置転換で現状を打開できます。その際、「部下側に非がなければ、上司側が配置転換を申し出る」「部下側に非があれば、配置転換させる」といった方法が考えられるでしょう。
④懲戒処分にする
パワハラは民法上の不法行為に該当します。しかし懲戒解雇や諭旨解雇といった懲戒処分をいきなりは実行できません。「注意や指導したにもかかわらず逆パワハラを繰り返したら、解雇も含む処分を行える」のように考えるとよいでしょう。
9.逆パワハラされた場合の相談先
逆パワハラされた場合の相談先として、下記が活用できます。それぞれについて解説しましょう。
- 総合労働相談コーナー
- 労働基準監督署
- 弁護士
①総合労働相談コーナー
総合労働相談コーナーとは、厚生労働省が設けている相談コーナーのこと。逆パワハラなどのパワハラ問題をはじめ、「解雇」「雇止め」「募集」「採用」「配置転換」「賃金の引下げ」など、労働問題全般について相談できます。
②労働基準監督署
労働基準監督署とは厚生労働省の出先機関で労働基準法や労働契約法、労働組合法といった労働関連法に関するさまざまな問題を取り扱っています。労働問題のアドバイスを受けられるほか、労働基準法違反への対応も求められるのです。
③弁護士
弁護士は、逆パワハラについて事実確認しながら、法的に解決するための助言やサポートを行います。また労働審判の申し立てや不当解雇の撤回、慰謝料請求などもできるのです。よって逆パワハラ問題がなかなか解決しないとき、頼りになります。