手形とは、記載された金額を、定められた期日までに支払うことを約束した証書のことです。手形について、取引の流れや注意点などから解説します。
1.手形とは?
手形とは、額面上の金額を一定の期日までに支払うと約束した証書のことです。現金に代わる決済手段として利用されています。買い手側には、現金がなくても商品やサービスが購入でき、その支払いを延期できるメリットがあります。近年では取引の電子化が進み、2026年末までには紙の約束手形が廃止される予定です。
手形の基本を理解するため、次の2つについて見ていきましょう。
- 小切手との違い
- 手形取引の現状
①小切手との違い
手形も小切手も、専用の用紙に自分の名前と金額を記載して相手に渡す点では共通ですが、両者には下記のような違いがあります。
- 小切手:受け取った人がすぐに現金化できる、当座預金残高をもとに振り出す
- 手形:原則、支払期日にならないと現金化できない、そのときに当座預金残高がなくても振り出せる
②手形取引の現状
近年、手形取引は大幅に減ってきています。「財務省法人企業統計調査」によると、企業の年度末の支払手形残高は、1995年度末で87兆円であったのをピークに、2013年度末は25兆円と71%減少しました。
また中小企業庁の「平成25年度下請代金の受取等に関する調査」によると、受け取った手形を期日前に現金化する「手形割引」を行う中小企業は37.9%となっています。
2.手形の種類
手形にはどんな種類があるのでしょう。下記3つから見ていきます。
- 支払手形
- 約束手形
- 為替手形
①支払手形
商品やサービスを掛け取引にて購入する際、代金を支払う義務があると示す書類のこと。お金を支払う義務のある側から見た手形の名称で、受け取る側から同じ手形を見た場合は「受取手形」といいます。
支払手形には約束手形と為替手形の2つがあり、以下でその違いを説明していきます。
②約束手形
手形を振り出した側が手形を受け取った側に対して、記載された期日に支払いを行うと約束した書類のこと。商品の買い手(振出人)と売り手(受取人)の2者間で資金のやり取りを行います。
振り出す時点では当座預金口座にお金がなくても問題ありません。また手形の所持人は、支払期日になるまでは支払を受けられないのです。
③為替手形
為替手形は、支払手形と比べて複雑になっています。なぜなら商品などの買い手(振出人)と売り手(受取人)、代金の支払い手(名宛人)の3者間で資金のやり取りを行う手形だからです。手形を振り出した会社に代わって、第3者が代金を支払います。
振出人が売掛金のある取引先(名宛人)に対し、仕入先(受取人)への代金の支払を依頼すると、3者間の支払いが1度に解決します。
3.手形取引の流れ
手形とは、代金を今ではなくのちの期日に支払うためのもの。こうした手形取引には、振り出す段階から現金化まで、小切手とは異なる流れがあります。それぞれについて説明しましょう。
- 支払手形の場合
- 約束手形の場合
- 為替手形の場合
①支払手形の場合
支払手形における取引の流れは下記のとおりです。
- 振出人が支払手形を振り出して、受取人に渡す(口座に支払金額がなくても振り出せる)
- 振出人は、期日までに口座に支払金額を振り込んでおく
- 手形の受取人は、支払期日になったら自身の取引銀行に支払手形を持ち込み、代金を受け取る
- 振出人の口座から代金が引き落とされる
②約束手形の場合
約束手形における取引の流れは下記のとおりです。
- 振出人が受取人に手形をわたす
- 支払期日になったら、受取人は自身の取引銀行に手形を持ち込み、取立依頼を行う
- 受取人・振出人の取引銀行が手形交換所で手形を交換する
- 振出人の取引銀行は当座預金口座から手形の金額を引き落とす
- 振出人・受取人の取引銀行間で手形の金額を送金する
- 受取人の取引銀行から手形の金額の支払いが行われる
③為替手形の場合
為替手形は、振出人の代わりに引受人が支払いをするもので、取引の流れは下記のとおりです。
- 振出人は引受人に引受の呈示をする
- 振出人が受取人に手形をわたす
- 引受人はあらかじめ取引銀行に入金しておく
- 支払期日になったら、受取人は引受人に対して手形を出し、取立依頼を行う
- 引受人の取引銀行から受取人に金額の支払いが行われる
4.手形を利用するうえでのルール
手形を利用するうえでのルールがあります。しっかり覚えておきましょう。
- 収入印紙が必要な場合も
- 支払期日は60日以内に
- 不渡りが続くと取引停止
- 第三者に譲渡できる
手形には印紙が必要な場合も
手形の記載金額が10万円以上のとき、収入印紙を貼らなくてはなりません。印紙税法によって定められた税金だからです。
- 手形の作成者(通常は振出人)が負担する
- 作成者は収入印紙に消印を押す
- 記載金額によって印紙の額が、200円から20万円まで分かれる
消印の印鑑は、銀行届出印でなくてもかまいません。
②支払い期日は60日以内に
手形の支払期日(満期日)は給付受領日から60日以内と定められています。あまり期間が長いと、手形を受け取った側(下請)がなかなか現金化できません。現金がないと下請会社が資金不足におちいる可能性があります。
よって下請代金は早期に現金化されるのが望ましいです。支払までの日数はできるだけ短く設定しましょう。
③不渡りが続くと取引停止
不渡りとは、手形の支払期日を過ぎても額面の金額が引き渡されず、決済できないこと。
会社が半年以内に2回の不渡りを出すと、銀行から取引停止処分を受け、事実上の倒産となります。
不渡りが起きるのは「約束手形の場合は振出人・為替手形の場合は引受人」が、支払期日に銀行口座に額面金額を用意できていない場合です。
④第三者に譲渡できる
裏書譲渡(譲渡人が手形の裏に自社名や住所、押印や譲渡する相手の会社名を記入すると譲渡できる)という仕組みによって手形は第三者に譲渡できます。
裏書譲渡された手形を裏書手形や廻り手形と呼ぶのです。手形の譲渡は、受け取った手形を現金の代わりとして、第三者への支払いにあてる場合に行われます。
5.手形取引のメリット
手形取引にはどんなメリットがあるのでしょうか。4点から解説します。
- 支払いを先延ばしにできる
- 支払期日以降でも金利が発生しない
- 支払いの確実性が高い
- 会社としての信用性が示せる
①支払いを先延ばしできる
手形取引では、支払いを先延ばしできます。手形は有価証券であるため、現金と同様の取扱いを行えるのです。手形を振り出せば、商品の取引後にすぐに現金で支払わなくともよく、期日まで現金の支出を延ばせます。
手形の支払期日は最長60日に設定できるので「現金が手元になくても商取引できる・支払いまでの期間の資金繰りがしやすい」となるのです。
②支払い期日以降でも金利が発生しない
手形の取引では、期日が何日先でも金利が発生しません。つまり金利による金額を上乗せせず、期日までに額面の金額を支払えば問題ないのです。
「金利分の支払いを行う必要がない分、キャッシュフローに余裕ができる・金利分の仕訳が発生しないので経理処理が楽になる」といったメリットが生まれます。
③支払いの確実性が高い
手形の発行は、銀行の厳しい審査を経ており、支払の確実性が高くなっているのです。
手形は「何日に現金で支払う」といった請求書や口約束の掛取引と比べて、実際に手形の現物があるため、確実に資金が回収できます。手形割引や手形譲渡を活用すれば、受け取った手形を期日前に現金化できるのです。
④会社としての信用性が示せる
手形を振出すためには、当座預金口座を開設した銀行から与信を受けなくてはなりません。そのため手形の振出しを行った会社は、銀行の審査をとおった信用性の高い会社と見なされ、取引先からも社会的信頼を得られるのです。
また手形取引は業界の商習慣として残っているため、会社としての信用の証になる場合もあります。
6.手形取引のデメリット
メリットの多い手形取引には、デメリットもあるのです。3点から解説しましょう。
- 額面金額が10万円以上だと収入印紙が必要
- 手形のジャンプを起こしてしまう可能性
- 不渡りによる倒産のリスク
①印紙代がかかる
手形を振出す際、額面金額に応じて印紙税が発生し、手形の作成者(通常は振出人)が収入印紙代を負担します。印紙は、手形の額面金額10万円以上で必要になるのです。額面金額により200円から20万円と変わるので都度、確認しましょう。
振り出す手形の枚数や金額が多いと、その分の印紙代の負担も大きくなります。
②手形のジャンプを起こしてしまう可能性
手形のジャンプとは、受取人に期日の延長をお願いし、新しい手形を振り出すこと。資金繰りが厳しく、振り出した手形の支払い期日までに、資金を用意できない場合も考えられます。
手形のジャンプには、「受取人が応じない・受取人から利息の支払いといった条件を提示される・受取人からの信用を失う」などのリスクがあるのです。
③不渡りによる倒産のリスクがある
手形の支払い期日までに銀行口座に額面の金額が入金されていなかった場合、引落しが行われません。これが「不渡り」であり、金融機関全般が知る状況になります。
さらに半年以内に2度目の不渡りを起こした場合、2年間、金融機関との取引が停止。この結果、追加融資を受けられなくなり、事実上の倒産となります。
7.手形に関する用語
手形にはいくつか用語があります。意味や使い方を理解して、安心で確実な手形取引を行いましょう。
- 手形の裏書
- 手形割引
- 不渡り手形
①手形の裏書
手形の裏書とは、第三者への支払いの手段として手形を譲渡して、資金化を行うこと。譲渡の際、手形の裏に自社名や住所、押印や譲渡する相手の会社名を記入します。譲渡されるたびに記入されていくので、経緯の確認ができるのです。
不渡りになった場合、最終的に手形を持っている人は、順番に関係なく振出人はもとより裏書人の誰にでも支払を請求できます。
②手形割引
手形割引とは、期日前の手形を、期日までの利息や手数料を差し引いた金額で、第三者に譲渡すること。受け取った手形の金額を、期日より前に現金で欲しいときに利用できる方法です。
手形の譲渡先を割引人(取引銀行や手形割引業者など)といいます。割引人が期日に満額の手形の支払いを受けると、手形割引が完了するのです。
③不渡り手形
不渡りとは、支払期日になり、受取人が手形・小切手を銀行に持ちこんだにもかかわらず決済できないこと。振出人の視点では「不渡りを出す」といいます。
不渡りの原因は、「当座預金の残高不足・手形の記載ミス・呈示期間を過ぎている・盗難や偽造、詐欺や契約不履行など手形に問題がある」など。残高不足による不渡りを半年以内に2回出してしまうと、銀行取引停止処分を受け、事実上の倒産になります。
8.手形に関する注意点
最後に手形取引での注意点について、振り出す場合と受け取る場合、新型コロナウイルス感染症の影響下における取扱いから見ていきます。
【振り出す場合】振出人の署名があることを確認する
手形を振り出す際は、署名、すなわち振出人の名前の記載をしっかり確認しましょう。会社の代表者、あるいは支店長、経理部長などの氏名です。
手形には振出人の住所や会社名、代表者名などが記入されています。この際、会社名のみの記載ではなく、振出人の名前が必要です。会社はあくまでも機関であり、手形行為をしたのが「会社の誰であるか」の記載をもって、署名とするからです。
【振り出す場合】金額の改ざんがないようにする
振り出した手形の金額を、勝手に書き換えられないようにしておくのも重要です。改ざんを防ぐためにも、
- 金額はチェックライターで印字
- 金額の頭に「¥」印、末尾に「※」や「☆」印をつける
ようにしましょう。
手書きの場合は、
- 「壱・弐・参・拾」などの漢数字を使う
- 金額の頭に「金」、末尾に「也」と入れる
などを行います。
【受け取る場合】支払い条件の確認をする
手形を受け取る際の注意点は、支払条件の確認です。受け取った手形の期日と金額をまずチェックします。仕事を受注した際の発注書にある支払い条件と、相違がないかを確認しましょう。
また「新規取引の場合、その業界の一般的な条件に合っているか・継続取引の場合、今までの条件と変更がないか」確認も重要です。
【受け取る場合】必要記載事項を確認する
受け取った手形に、必要記載事項がもれなく記載されているかどうか確認しましょう。確認する点は、下記のとおりです。
- 約束手形という文句(統一手形用紙では印刷されている)
- 受取人名または振出人から手形の交付を受けるもの
- 金額
- 振出日と振出地
- 振出人の署名(社判に捺印、手書き可)
- 手形の満期日
- 支払地
- 収入印紙(金額が10万円以上の場合)
【受け取る場合】裏書が連続しているか確認する
受け取った手形の裏書が連続しているかどうか必ず確認しましょう。連続していない裏書手形の所持人は、振出人から支払を拒絶されてしまいます。確認するのは以下のポイントです。
- 受取人の名称と第一裏書人の署名が同じ
- 被裏書人欄の名称と、その次の欄の「裏書人」欄の署名が同じ
なお被裏書人欄に何も記載しなくても白地式裏書として譲渡でき、裏書は連続していると見なされます。
新型コロナウイルス感染症の影響下における取扱い
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ、手形や小切手などの扱いは以下のようになります。
- 新型コロナウイルス感染症の影響により、支払期日が経過した手形については関係金融機関との話し合いで取立できる
- 新型コロナウイルス感染症の影響により、支払いができない手形や小切手について、不渡報告への掲載および取引停止処分に対する配慮がされる