棚卸しとは、在庫や利益を管理して会計上の資産価値を確定することです。ここでは棚卸しの目的や棚卸し在庫評価のやり方、ミスを防ぐポイントなどについて解説します。
目次
1.棚卸しとは?
棚卸しとはある時点で保有している商品在庫数を数え、資産価値を確定・評価すること。簿記上では単なる商品の数だけでなく、数量および品質の実地調査が必要となるもの、勘定残高の金額を修正しなければならないものなども含めて「棚卸し」といいます。
棚卸しの役割
多くの企業では少なくとも年に1回、決算時に棚卸し作業を実施します。これはのちに説明する「棚卸資産」の資産価値が決算書に反映されるためです。
このほかにも、棚卸しには棚卸資産の確認で使用した原材料や有価物(経済上価値のある有体物)の数字が正しいのか、裏付ける役割もあります。
商品や原材料のほか、作成途中の仕掛品や切手、印紙などの有価物、労働保険の印紙保険料などが棚卸しの対象となるのです。
棚卸しを行う目的
商品在庫や品質などを確認して資産の価値を計算する「棚卸し」は、どのような目的をもって実施するのでしょう。棚卸しを行う目的について4つの視点から説明します。
- ある時点での利益を把握する
- 在庫の個数や商品の状態を確認して管理する
- 販売機会の損失を防ぐ
- 運転資金の安定化を図る
①ある時点での利益を把握する
会社の利益を把握できる「損益計算書」では、棚卸しを行って「売上高-売上原価」の計算式で「売上総利益」を算出します。
ここでいう「売上原価」は「期首棚卸高+当期仕入れ高-期末棚卸高」の計算式で求めるため、在庫の金額によって決算書の利益が見えてくるのです。
棚卸しによって「在庫数だけ見れば利益が出たように見えるが、実際の利益は予想以上に少なかった」という事実を把握できます。
②在庫の個数や商品の状態を確認して管理する
現物を確認し、商品の価値が取得価値より低下していないか、そのチェックも棚卸しを行う目的のひとつ。
棚卸しでは日々の検品業務では管理しきれないすべての在庫を点検します。これにより、売れ残った「滞留在庫」や思うように売れなかった「不良在庫」などを把握できるのです。
滞留在庫や不良在庫の資産価値が大幅に低下している場合、決算時に「棚卸減耗」や「商品評価損」などの会計処理を行わなければなりません。
③販売機会の損失を防ぐ
棚卸しでは滞留在庫や不良在庫を洗い出せますが、それと同時に「まだ十分あると思っていた商品が品切れだったことに気付かず、顧客のニーズに応えられなかった」という販売機会の損失も防げます。
在庫管理ができていなければ「受注したのに発送できる状態の商品がない」といったトラブルを招く恐れも。棚卸しに単なる在庫数の管理だけでなく、品質状態の確認も含まれるのはこのためです。
④運転資金の安定化を図る
棚卸しには運転資金の安定を図る目的もあります。つねに「いつどんな注文がきてもいいように多めに発注しておこう」と考えていると、在庫が膨らみ結果として運転資金が膨大になる可能性も高いです。
「利益は出ているのにお金が残っていない」では本末転倒でしょう。こういった事態を防ぐためにも定期的な棚卸しを行い、適正在庫を維持して運転資金を安定させる必要があります。
2.棚卸しに関連する用語
利益の把握や運転資金の安定など棚卸しの目的を理解したところで、棚卸しにまつわる用語について解説しましょう。
なお国税庁の表記によれば「棚卸」ではなく「棚卸し」で統一されています。そのため棚卸しの作業や会計上の意味として用いる場合は「棚卸し」と表現するのが一般的です。
- 棚卸資産
- 棚卸高
- 棚卸表
- 実地棚卸
- 帳簿棚卸
①棚卸資産
「棚卸資産」とは、会社が将来的に販売もしくは加工を目的として一時的に保管している資産のこと。小売業であれば「商品」、製造業であれば「原材料や仕掛品や製品」、不動産業であれば「土地や建物」などがこれに当たります。
棚卸資産は「個別法」「先入先出法」「平均原価法」などの方法で評価されるのです。
②棚卸高
棚卸しで確認した在庫の総額を「棚卸高」といい、下記の2つに分類されます。
- 期首棚卸高:会計年度の開始日にあった商品(製品)の総額
- 期末棚卸高:会計年度末(期末)にあった商品(製品)の総額
その期の売上原価は会計年度の開始日にあった在庫に仕入高を足し、そこから会計年度末の在庫を引けば算出できるのです。
③棚卸表
棚卸しの際は商品の数量や金額などを一覧にした「棚卸表」を作成します。この棚卸表は決算で報告する商品や仕掛品資産の明細書としての役割を果たすのです。棚卸表に決まった書式はありませんが、下記の項目は必ず記載する必要があります。
- 棚卸実施日
- 物品名
- 商品や製品のコード
- 数量
- 物品の単価
- 物品の状態
- 在庫残高
④実地棚卸
棚卸しの方法には、実際に現物を点検する「実地棚卸」と、電子や紙ベースで管理した帳簿をもとに棚卸高を計算する「帳簿棚卸」の2種類があります。まずは「実地棚卸」について解説しましょう。
「実地棚卸」は人が倉庫内で商品をカウントし、棚卸残高を確定する方法です。実際に人が現物をチェックするため、数量とあわせて品質を確認できます。
実地棚卸の手順
カウントミスや不正を防ぐため実地棚卸は多くの場合、2名1組で行われます。商品が保管されている棚にタグを貼り付け、そこにカウントした数を記入し在庫を網羅的にカウントする「タグ方式」で行われるのが一般的です。
実地棚卸実施日はあらかじめ緊急入出庫の取り扱いを決めておき、棚卸し中に入荷した在庫をカウント(計上)するかしないか、周知しておきましょう。
⑤帳簿棚卸
帳簿棚卸とは在庫を出し入れするたびに記録を残して、理論的に在庫高を計算する棚卸方法です。帳簿棚卸では実在庫ではなく帳簿上で棚卸しを実施するため、物流を止めずに作業を進められます。
実地棚卸に比べて手間や工数、人員がかからないというメリットがある一方、汚損や型崩れなど在庫の品質を把握できないといったデメリットが存在するのです。
帳簿棚卸の手順
帳簿棚卸では在庫の個数や種類などを正確に管理する必要があります。主な流れは下記のとおりです。
- 在庫の出し入れを行うたびに種類や個数を記入する
- 在庫管理表を用いて、定期的に在庫金額や資産額などを計算する
帳簿棚卸を効率良くまたミスなく行うためにも、普段から在庫置き場を整理して棚卸しがしやすい環境にしておきましょう。また在庫管理表のフォーマットを記入しやすく理解しやすいものにするのも重要です。
3.棚卸し在庫の評価のやり方
棚卸資産は正しい手順や取り扱いを把握したうえで的確に評価しなければなりません。商品の在庫を管理し、売上に対応する商品原価を把握するための棚卸しは、いつ実施し、どのような方法で評価すればよいのでしょうか。
行うべき時期
棚卸しは年度はじめの「期首」と年度終わりの「期末」である決算の時期に実施するのが一般的です。期首には年度初めの在庫状況を明確にし、期末には決算日当日までに在庫数の把握と帳簿の擦り合わせを済ませておきます。
在庫の数が定まるのであれば、いつ作業を開始してもかまいません。多くの在庫を抱えている企業は決算日当日の数日前から余裕をもって実施するとよいでしょう。
評価方法
棚卸資産の評価額は、いずれかの方法によって決まります。
- 原価法
- 低価法
原価法には計算の手間がかからないといったメリットがある一方、「販売価格下落の損失を早期に認識できない」「実際に損失が出た時点での節税ができない」といったデメリットが存在します。
対する低価法には棚卸資産の評価額が原価法より実態に即したものになるメリットと、計算に手間がかかるデメリットがあるのです。
①原価法
原価法とは、取得原価を算出して棚卸資産の期末評価を行う方法です。どの商品も仕入れ後に市場価値が下がるリスクを抱えているうえ、仕入れのたびに取得原価が異なる場合もあるため、以下6つの評価方法を用いて取得原価を計算します。
- 個別法
- 総平均法
- 売価還元法
- 最終仕入原価法
- 先入先出法
- 移動平均法
なお税法上の法定評価方法は「原価法」となっているため、手続きを行わない限りは「原価法」で確定申告を行います。
②低価法
原価法で計算した評価額と期末時価を比較して、期末時点で低いほうの金額にて評価する方法を「低価法」といいます。先に述べた原価法の場合、販売価格の下落による損失は、実際に商品を販売するまで表面化されません。
その点、低価法では原価法での評価に時価基準をくわえているため、より実態に即した評価額を求められるのです。
4.棚卸し在庫の評価のポイント
棚卸し在庫を評価する際、どのようなポイントを押さえておけばよいのでしょう。ここでは下記3つから棚卸し在庫の評価ポイントについて解説します。
- 品質チェック
- 預け在庫のチェック
- 未完成品の評価
①品質チェック
棚卸し作業の中心となるのは製品数量の確認と棚卸資産の評価。しかし製品在庫の状態確認も必要です。製品自体が存在していても、破損や汚れがあり販売できなければそれは在庫として認識できません。
不良在庫は処分に別のコストが発生するだけでなく、物理的にも余計なスペースを使うため、無駄な出費が生じます。製品や自社の評価を下げないためにも、品質確認は重要です。
②預け在庫のチェック
製品の購入自体は完了しているものの、保管場所や配送などの都合によって社内に置いていない棚卸資産を「預け在庫」といいます。実地棚卸の際は、現地に製品が存在しないため注意しましょう。
対して先方の都合により社内で預かっている販売済の製品を、「預かり在庫」といいます。こちらの売上は計上済であるため、実地棚卸で現物が存在していても在庫としてカウントしません。
③未完成品の評価
製造の途中で未完成の状態にある製品を「仕掛品」といいます。特に製造業では製品の出来上がりまで多くの工程を要するため、棚卸日に製品として完成していないものも少なくありません。
基本、未完成の製品でも在庫としてカウントするものの、その価値は作業の進捗割合によって変わります。そのため「仕掛品=売上高×作業の進捗割合」の簡便的な計算式を用いて単価を決定するのです。
仕掛品とは?
「仕掛品」とはつくりかけの製品のこと。
たとえば食品製造販売会社の場合、製品が完成していなくても製造するのに必要な原材料や製造者に支払う労務費、そのほか消耗品費や減価償却費などの経費が発生しています。これらすべてが仕掛品勘定に含まれるのです。
期末の仕掛品が多い場合、「材料の投入が少ない」あるいは「製品となって完成したものが少ない」という状況でもあります。製造業にとっては仕掛品のコントロールが生産性を左右するのです。
5.棚卸しのミスを防ぐ方法
利益を正確に把握し、販売機会の損失を防ぐためにも可能な限り棚卸しのミスは避けなければなりません。とはいえ手書きの管理表や人の手を使って在庫管理を行っているケースがまだまだ多いのも現状です。
ここでは棚卸しで多い具体的なミスや、ミスを防ぐための対策方法について説明します。
棚卸しでよくあるミス
棚卸しは現場での在庫数を数え、結果を端末に入力して集計するというシンプルな作業です。しかし単純であるがゆえに以下のようなミスが多く発生します。
- カウント漏れ:在庫の存在に気付かないまま、実際の在庫数より少なくカウントしてしまった
- 数え間違い:外箱に記載されている数量をそのまま転記したが、中身の個数が異なっていた
- 記入ミス:商品番号やロケーションの転記を誤った
- 商品間違い:特徴が似ている商品を間違えてカウントしてしまった
棚卸し差異
帳簿上の在庫数と実際の在庫数の差異を「棚卸し差異」といいます。たとえば帳簿上で商品Aの在庫数が10個あるのに対して、実際倉庫には9個しかなかった場合、1個の棚卸し差異が生じているのです。
棚卸し差異は過剰在庫や欠品の原因となります。受注件数が存在しない結果、顧客の信頼を下げてしまうので、棚卸し差異を発生させないための対策が必要でしょう。
ここからは棚卸しでよくあるミスを防ぐ対策について、解説します。
- ミスの要因を把握する
- データ化する
- 在庫確認システムを活用する
- みなし出庫を活用する
①ミスの要因を把握する
棚卸しミスの発生を防ぐためには、ミスの要因を正しく把握しなければなりません。ミスの要因が把握できれば具体的な対策が立てやすくなるでしょう。棚卸しのミスは主に以下のエラーによって発生します。
- 認知エラー:商品や製品のコードが覚えにくい
- 判断エラー:情報伝達の途中に障がいがある
- 行動エラー:判断基準がない
- 記憶エラー:反復・復唱しなかったため記憶が薄れてしまった
②データ化する
「取扱数が多いため棚卸しに時間がかかる」「人為的ミスを減らしたい」「棚卸の差異をすぐ確認したい」このような場合は、在庫数や状態をあらかじめデータ化しておくとよいでしょう。
帳簿や在庫表から棚卸表をその都度作成し、実在庫の目視によるカウントおよび記入を行っていては、人的ミスが生じる可能性も高いです。
③在庫確認システムを活用する
在庫管理システムを活用すれば、在庫をより正確かつ確実に管理できます。
在庫管理システムには商品の出荷数と返品で入庫した数を管理する「入出庫管理機能」をはじめ、商品名や数量を即時表示する「在庫一覧機能」や、業種にあわせて在庫情報を登録、管理する「マスター管理機能」などが搭載されているのです。
在庫管理システムを使えばリアルタイムで在庫状況との乖離も確認できます。
④みなし出庫を活用する
実務報告にもとづき、出庫伝票を使わずにあたかも在庫を使ったものとみなして処理する方法を「みなし出庫」といいます。製品を完成させるために多くの原材料を必要とする製造業では、在庫の入力、管理をリアルタイムに行うのが難しい場合もあるでしょう。
みなし出庫を活用し、出庫処理を簡略化すると人的ミスの減少につながります。