働き方改革と残業の関係性とは? 法定労働時間に関しての改正内容

働き方改革と残業の関係性について、働き方改革の目的や法定労働時間の改正内容などから解説します。

1.働き方改革と残業の関係性とは?

働き方改革とは、個別事情に応じた働き方を労働者自らで選択できる仕組みを構築する改革のこと。

長時間労働に象徴される従来の働き方は、メンタルヘルスや仕事と家庭の両立、女性のキャリア育成などから問題視されています。柔軟な働き方の仕組みを構築するには、長時間労働をどう変えていくのかがカギになるのです。

働き方改革の目的

働き方改革の目的とは、少子高齢化による生産年齢人口の減少・労働者の働き方に関するニーズの多様化といった課題に対応すること。

働き方改革が社会に広く浸透すれば、柔軟で多様な働き方を労働者自ら選択できるようになります。また能力のある労働者を適材適所に配置できるため、企業価値の向上にもつながるのです。

そのため働き方改革をとおした、投資やイノベーションを生かした生産性向上・労働者の就労意欲の向上や能力の発揮、就労機会の拡大を実現できる環境整備が求められています。

働き方改革とは、柔軟で多様な働き方を労働者自らが選択できる仕組みを構築する改革です

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2.働き方改革の内容について

働き方改革の内容である8分野について解説しましょう。

  1. 時間外労働の上限規制
  2. 勤務間インターバル制度の導入
  3. 5日間の有給休暇取得の義務化
  4. 割増賃金率の引き上げ
  5. 労働時間状況の客観的把握を義務化
  6. フレックスタイム制の拡充
  7. 高度プロフェッショナル制度の創設
  8. 産業医・産業保健機能の強化

①時間外労働の上限規制

時間外労働の上限規制とは、下記のとおりです。

  • 原則として月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がない場合、これを超えられない
  • 臨時的な特別の事情があって労使が合意していても、年720時間以内・休日労働を含み複数月平均80時間以内・月100時間未満は超えられない
  • 原則である月45時間を超えられるのは、年間6カ月まで

②勤務間インターバル制度の導入

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後から翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間、すなわちインターバルを確保する仕組みのこと。目的は労働者のプライベートな時間を企業が可能な限り確保することで、企業努力と位置付けられています。

③5日間の有給休暇取得の義務化

5日間の有給休暇取得の義務化とは、使用者が有給休暇の取得時季について労働者の希望を聞き、それを踏まえたうえで時季を指定して有給休暇を取得してもらう制度のこと。

従来、労働者自らが申し出なければ有給休暇を取得できず、有給休暇の取得率は低迷していました。制度の導入により、年5日の有給休暇取得を企業に義務付けられるようになったのです。

④割増賃金率の引き上げ

割増賃金率の引き上げとは、1カ月の時間外労働として、1日8時間・1週40時間を超える労働時間のうち、月60時間超の残業割増賃金率を大企業・中小企業ともに50%とすること。

すでに大企業には、50%の割増賃金率が適用されていました。しかし働き方改革にて、中小企業の割増賃金率も50%に引き上げられる運びとなったのです。

⑤労働時間状況の客観的把握を義務化

労働時間状況の客観的把握を義務化とは、労働者すべての労働時間の状況が、客観的な方法やそのほか適切な方法で把握されるよう義務付けられたこと。「すべての人」には従来、通達の対象外であった裁量労働制が適用される人や管理監督者なども含まれます。

⑥フレックスタイム制の拡充

フレックスタイム制の拡充とは、労働時間の清算期間を従来の1カ月から3カ月へ変更すること。これにより「6月から8月までの3カ月で労働時間を調整する」「8月中の労働時間を短縮する」などにより、労働者の状況に合わせて時間を調整できるようになりました。

⑦高度プロフェッショナル制度の創設

高度プロフェッショナル制度とは、高度の専門知識やスキルを有し、職務の範囲が明確な一定の年収要件を満たす労働者が対象となる制度のこと。

労使委員会の決議および労働者本人の同意を前提とし、年間104日以上の休日確保措置を行い、健康管理時間の状況に応じた健康・福祉が確保される措置を講じます。また労働基準法の労働時間・休憩・休日・深夜の割増賃金に関する規定の適用外になるのです。

⑧産業医・産業保健機能の強化

産業医・産業保健機能を強化とは、「産業医への長時間労働者の情報提供」「産業医と衛生委員会との関係強化」「産業医による健康相談の強化」といった事柄を実行すること。

目的は産業医の活動環境の整備や健康相談の体制整備、健康情報の適正な取扱いルールの推進です。

働き方改革では、これまで見落とされていた労働者の柔軟な働き方の選択に対する配慮を、8つの分野から具現化しています

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3.働き方改革で変わる残業制度

働き方改革によって、これまでの残業制度はその中身を変える運びになりました。ここでは下記2つについて解説します。

  1. これまでの残業制度
  2. 働き方改革によって変わった残業制度

①これまでの残業制度

これまでの残業制度には、大臣告示によって時間外労働の上限に関する基準が設けられていました。

ただし臨時的に、限度額を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に限り、特別条項付き36協定の締結によって、大臣告示による時間外労働の上限時間を超える時間まで時間外労働を行えたのです。

働き方改革によって変わった残業制度

今後残業をさせるためには、36協定の理解が必要となります。2019年4月より、36協定で定める時間外労働の規定に、新たに罰則付きの上限が設けられました。

時間外労働の上限すなわち限度時間は、月45時間・年360時間。限度時間は、臨時的な特別の事情がない限り、超えられません。

36協定とは?

36協定とは、法定労働時間として定められている1日8時間・週40時間を超えて、労働者を働かせる場合に必要なもので、労働基準法第36条にもとづいた時間外労働協定のこと。第36条に明記されているため、36協定と呼ばれているのです。

協定の締結は、使用者や労働組合、または労働者の過半数を代表する者との間で行います。注意点は、「締結後は労働基準監督署へ届け出る・事業所単位での締結が必要」などです。

2019年4月より、36協定で定める時間外労働の規定に、新たに罰則付きの上限が設けられました

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4.36協定で留意するべき点

36協定では、留意すべき点が8つあります。それぞれについて解説しましょう。

  1. 時間外労働・休日労働は必要最小限に
  2. 労働者に対する安全配慮義務を負う
  3. 業務区分を細分化と業務範囲を明確化
  4. 限度時間を超えてはならない
  5. 時間外労働の目安時間を超えない
  6. 休日労働の日数および時間数をできる限り少なくする
  7. 労働者の健康・福祉を確保
  8. 限度時間が適用除外・猶予されている事業に関して

①時間外労働・休日労働は必要最小限に

36協定を締結したからといって無制限に時間外労働を命ずることはできません。時間外労働や休日労働は必要最小限に留めます。そして「労働時間の延長は原則、限度時間を超えない」といった点に十分留意して、協定を締結するのです。

②労働者に対する安全配慮義務を負う

安全配慮義務とは、労働者の心身の健康が確保された安心して働ける安全な職場を確保するため、企業が必要な措置や手段を講じること。

使用者は、36協定の範囲内で労働者に時間外労働や休日労働をさせた場合も、労働契約法第5条の安全配慮義務を負います。

③業務区分を細分化と業務範囲を明確化

労働者に長時間労働や休日労働をさせる場合、対象業務の種類や業務範囲を事前に明確な形で定義しておく必要があります。

  • 「設計・運用管理・プログラマー」といった業務区分
  • 区分ごとの業務範囲・業務範囲に関する定義

上記のような内容を、分かりやすく明らかにしておくのです。

④限度時間を超えてはならない

限度時間とは、月45時間・年360時間という労働時間の制限です。臨時的な特別の事情がない限り、限度時間を超えられません。また限度時間を超える必要があっても、できる限り限度時間に近付けるよう努めなければならないとされています。

⑤時間外労働の目安時間を超えない

期間の定めのある労働契約や1カ月に満たない期間で労働する、労働者に関する事項です。時間外・休日労働協定にて労働時間が延長される時間を定める際、目安時間を超えないような努力が必要となります。

⑥休日労働の日数および時間数をできる限り少なくする

36協定には、休日労働の日数・時間数に関して、労使双方に対応を求めているのです。労使双方は、休日労働を協定に定める際、労働させられる休日日数をできる限り少なく、かつ休日に労働させる時間をできる限り短くするよう努めます。

⑦労働者の健康・福祉を確保

労使当事者に求められるのは、終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保し、労働者の勤務状況および健康状態に応じて、代償休日または特別な休暇を付与すること。

労使双方は、限度時間を超える労働者の健康および福祉を確保するため、上記のような措置内容の協定が望ましい点に留意してください。

⑧限度時間が適用除外・猶予されている事業に関して

猶予業務とは、建設業や自動車運転の業務、医師などです。これらについては限度時間を勘案し、健康・福祉を確保するよう努めなければなりません。

適用除外業種とされている新技術・新商品の研究開発業務は、限度時間を勘案することが望ましいとされています。

36協定で留意すべき8つの事柄を労使双方でしっかりと確認し、漏れのない協定を締結しましょう

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5.限度時間が猶予・除外となる事業とは?

限度時間が5年間猶予となる事業は4つです。業種ごとにどのような点に注意しなければならないかについて解説しましょう。

  1. 建築業
  2. 自動車運転の業務
  3. 医師
  4. 鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業

①建設業

建設業は猶予期間終了後、災害の復旧・復興の事業を除き、すべての規制が適用となります。災害の復旧・復興事業に関しては、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満・2~6カ月平均80時間以内とする規制の適用はありません。

②自動車運転の業務

自動車運転の業務は猶予期間終了後、特別条項付き36協定を締結する場合、年間の時間外労働の上限が年960時間となります。

ただし「時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満・2~6ヵ月の平均80時間以内とする規制」「時間外労働が月45時間を超えられるのは年6カ月までとする規制」は適用されません。

③医師

猶予期間中は限度時間に関する規制は適用されません。また具体的な上限時間に関しても、まだはっきりとした内容が決まっておらず、今後、省令で定めるとされています。今後の動向に注意が必要でしょう。

④鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業

鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業は、猶予期間中は月100時間未満、2~6ヵ月平均80時間以下の規制が適用除外となっています。猶予期間終了後は、限度時間の規制すべてが適用となるのです。

猶予期間が設定された背景にあるのは、「砂糖製造業が離島で行われ、農家の高齢化や人口流出により人材の確保が難しい」点。しかし猶予期間が終われば、限度時間の規制が適用となる点に注意してください。

限度時間が5年間猶予となる事業は、「建築業・自動車運転の業務・医師・鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」の4つです

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6.新しい残業制度に対する疑問点

最後に、新しい残業制度に対する疑問点として下記4つから、残業制度の概要を詳しく解説します。

  1. 36協定届を従来の様式で届け出てもよいのは
  2. 休日労働を含むとは?
  3. 長時間労働者に対する医師の面接指導とは?
  4. 罰則について

①36協定届を従来の様式で届け出てもよいのは

36協定届を従来の様式で届け出てもよいのは、規制の適用が1年間または5年間猶予されている業種です。

1年間猶予は中小企業で、5年間猶予は「建設の事業・自動車運転の業務・医業に従事する医師の業務・鹿児島県および沖縄県における砂糖製造業」。猶予期間中は、従来の様式で届け出るのも可能です。

②休日労働を含むとは?

「休日労働を含む」とは、労働基準法において時間外労働・休日労働は、それぞれ別個のものとして取り扱うというもの。

今回の改正で新たに設定された限度時間は、時間外労働を設定する際に用いられる限度時間のこと。月45時間・年360時間に休日時間が含まれない点に注意してください。

③長時間労働者に対する医師の面接指導とは?

「長時間労働者に対する医師の面接指導」とは、労働安全衛生法に定める医師による面接指導のこと。

医師による面接指導の要件は、「労働時間の状況が1週間当たり40時間を超える時間が80時間を超えた労働者」「本人の申出がある」など。変形労働時間制・フレックスタイム制を採用しているケースでも同様の要件となります。

④罰則について

労働者に時間外労働を行わせるためには、36協定の締結や労働基準監督署への届出が必要だと労働基準法に明記されています。

「36協定の締結をせずに労働者に時間外労働をさせた場合」「36協定で定めた時間を超過して時間外労働をさせた場合」、労働基準法第32条違反となり、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるのです。

36協定を締結する際は、「届け出様式・限度時間の対象範囲・医師による面接指導・罰則」について確認しておきましょう