労働保険料とは? 計算方法、申告の方法

労働保険料とは、労災保険(労働者災害補償保険)と雇用保険にかかる保険料のことです。ここでは労働保険料の計算方法および注意点、納付の方法などについて解説します。

1.労働保険料とは?

労働保険とは、労働者災害補償保険(一般的にいう労災保険)と雇用保険の総称です。正社員やパート、アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、一人でも労働者を雇っている場合は労働保険の適用事業となり、労働保険料を納付しなければなりません。

労災保険料とは?

労災保険料(労働者災害補償保険料)とは、政府が労災保険事業へあてるために徴収する保険料のこと。

労災保険とは被保険者が仕事中や通勤途中に起きた出来事に起因するけがや病気、死亡の際に保険給付を行う制度です。対象となるのは業務上および通勤途中に起因するもののみとなります。

労災保険料は事業主が全額負担し、後述する雇用保険料とあわせた「労働保険料」として納付するのです。

雇用保険料とは?

雇用保険料とは、雇用保険事業、つまり雇用の継続が困難になった被保険者に対して保険給付を行う制度に要する費用のこと。雇用保険事業では失業の予防や被保険者の能力開発、そのほか福祉増進を図るための事業を行っているのです。

雇用保険料は労災保険料と異なり、事業主と被保険者の双方で負担します。被保険者の負担分を事業主が徴収し、労災保険料とあわせて「労働保険料」として納付する保険料です。

雇用保険と労災保険の給付は別々に行われるものの、納付についてはひとつのものとして扱われます。

仕事中や通勤途中の疾病・病気に対して給付を行う労災保険料と、雇用継続が困難になった被保険者に給付を行う雇用保険料。2つをあわせて「労働保険料」といいます

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2.労働保険料の計算方法

続いて、労働保険料の計算方法について見ていきましょう。労働保険料は毎年4月1日から3月31日までの1年間分で算出します。計算に使用するのは期間中の見込み賃金額と、業種ごとに定められている労働保険料率です。

労災保険料の計算方法

労働保険料は集計した賃金の総額に、事業ごとに定められた労災保険料率と雇用保険料率を掛け合わせて算出します。

  1. 労災保険料=労災保険対象労働者の賃金総額 × 労災保険料率
  2. 雇用保険料=雇用保険対象労働者の賃金総額 × 雇用保険料率

労災保険料と雇用保険料の2つを合計した金額が「労働保険料」です。

賃金総額とは?

賃金総額とは、事業主や法人役員など、労働保険に加入できない人の賃金を除き、算定期間中に支払われるすべての賃金の総額です。

賃金総額に含まれるもの

賃金総額には、次のような項目が含まれます。

  • 基本賃金:日給・月給・日雇労働者・パートタイマーなどすべて
  • 賞与(ボーナス)
  • 非課税分を含む通勤手当
  • 年次有給休暇の賃金
  • 超過勤務手当や深夜手当
  • 住宅手当や宿直・日直手当
  • 雇用保険料や社会保険料
  • 前払い退職金(支給基準・支給額が明確な場合)

賃金総額に含まれないもの

一方、次のような項目は賃金総額に含まれません。

  • 取締役に対して支払う役員報酬
  • 臨時的に支払われる賃金(退職金・結婚手当・加療見舞金・私傷病手当など)
  • 実費弁償と考えられる出張旅費や宿泊費
  • 会社側が全額負担する生命保険の掛金

時効消滅する年次有給休暇を買い上げた場合の賃金は、本来の年次有給休暇に対する賃金と異なる性格として解釈されるため基本、平均賃金の算定基礎に算出しません。

労働保険料の計算方法を読み解く際は、それぞれの計算式に出てくる「賃金総額」の意味と内訳を正しく理解しておきましょう

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3.労働保険料計算の注意点

労働保険料の計算方法を理解したところで、計算時の注意点について見ていきます。ここでは実務上の労災保険料計算における注意点を、下記4つから解説しましょう。

  1. 保険料は3年に1度改定される
  2. 複数事業を運営している場合、事業ごとの保険率で計算する
  3. 賃金総額が適正に集計できているか確認
  4. 前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算して納付

①保険料は3年に1度改定される

労働保険料の算出に必要な「労災保険料率」および「雇用保険料率」の利率は変わります。なぜなら労災保険料率は、事業全体としての労働災害発生状況やその重篤度によって定められるため原則、3年ごとに見直されるからです。

また保険料の改定とともに事業種類にかかる「労務費率」が改正される場合もあります。

②複数事業を運営している場合、事業ごとの保険率で計算する

保険料は原則、1つの事業に対して1つの労働保険料率を適用します。近年、複数の事業を営む会社も珍しくなくなってきました。複数の事業を営んでいる場合、事業ごとに異なる保険料で計算しなければなりません。

「労働基準法」や「労働安全衛生法」と業種の捉え方が異なります。業種区分と混在しないよう注意しましょう。

③賃金総額が適正に集計できているか確認

労働保険料を計算する際は、それぞれの給与項目を正しく理解する必要があります。特に労災保険は、正社員だけでなくアルバイトやパートを一人でも雇えば適用の対象になるのです。

算出した賃金総額から彼らの給与が漏れるケースも多々見られます。適正に賃金総額の集計ができているか、念入りに確認しておきましょう。

④前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算して納付

労働保険料の計算では、前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算します。計算時に当年度の賃金が確定していない場合、見込の金額で賃金総額を算出しましょう。

なお「申告年度の賃金総額が前年度の2分の1以上」あるいは「2倍以下だと見込まれた」場合、前年度の賃金総額をそのまま申請年度の賃金総額見込額として使用します。

労働保険料を算出する際は、保険料の改定や賃金総額に注意が必要です。労働保険料を算出する前に、必ず最新の利率を確認しましょう

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4.労働保険料の納付方法

続いて、労働保険料の納付方法について解説します。労働保険料は労災保険料と雇用保険料の2つで構成されており、保険料の算出方法はそれぞれ異なるものの、納付の際は2つを分けずに納付するのです。

納付の時期と回数

いつでも好きなときに、労働保険料を納付できるわけではありません。申告・納税の時期は毎年6月1日から7月10日の間と定められています。

また納付回数も原則、分割納付ができません。例外として分割納付が認められる場合を除いて原則、期間内に一括で納付しなければならないのです。

前年度の労働保険料を確定して、過不足分を調整

労働保険料は毎年4月1日から3月31日までに支払う予定の賃金をもとに計算され、その予定額を6月1日から7月10日までのあいだに前払いします。

労働保険料を納付する際は、はじめに前年度の労働保険料を確定し、過不足分を調整するのです。また翌年の年度更新においては調整後、実際に支払った金額をもとに、前年度の労働保険料を確定します。

本年度の労働保険料を概算する

続いて、本年度分の労働保険料を概算します。本年度分の労働保険料はあくまで概算保険料。ここで4月1日から3月31日までの賃金見込み額から、改めて本年度分を算出します。

なお申告年度の見込が前年の2分の1以上2倍以下の賃金となる場合、この限りではありません。この場合は前年の確定賃金額を見込額として使用します。

納付・申告の手続き

それぞれの計算が完了したら、納付・申請の手続きに移りましょう。年度更新の手続き期間は6月1日から7月10日のあいだで、必要書類は申告年度に支払う見込額の賃金総額を記入した「労働保険概算・確定保険料申告書」です。

必要事項を記入した申告書と保険料をもって、所轄都道府県労働局か所轄労働基準監督署に提出します。

うっかり労働保険料の支払いを忘れたり、手続きが遅れてしまったりすると、政府が保険料を決定し、保険料10%分の追徴金が課される場合もあります

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5.納付方法の例外

前述した方法は、あくまでも労働保険料の基本的な納付方法です。賃金総額が予定額を大幅に超える場合は例外となり、納付方法や申告期間などが異なります。ここでは労働保険料の納付が例外となった場合の方法について見ていきましょう。

賃金総額が予定額を大幅に超える場合

ではどんなケースが例外に当たるのでしょうか。実際の賃金総額が予定額の2倍以上、かつ概算保険料が13万円以上増える場合、例外的な納付の対象となります。

この場合、「増加概算保険料」を増加した日から30日以内に申告・納付しなければなりません。

増加概算保険料について

増加概算保険料は、保険料額のインパクトを和らげるための仕組みでもあります。しかし通知書や納付書が。労働局から自動的に送られてくることはありません。

会社の担当者や顧問社会保険労務士などが自主的に申告しない限り、そのまま次の年度更新を迎えてしまうため注意が必要です。

分割納付

労働保険料の納付は一括納付が基本と述べましたが、これにも例外があります。「概算保険料が40万円以上」「労災保険と雇用保険のうちどちらか片方にのみ加入しており、その保険料が20万円以上」という場合、労災保険料の分割納付が可能です。

事業開始時期により異なるものの、これらの場合は最大3回に分割して納付できます(6月1日から9月30日の間に事業を開始した場合は2回)。

口座振替納付

「口座振替納付」とは、指定した口座から自動的に保険料を引き落としてもらう納付方法のこと。「労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」の提出を必要としますが、口座振替を解除するまで継続して利用できます。

納付のため窓口に支払いに行く必要がない、また納付期限が通常より遅いといったメリットもあるのです。

労働保険料の納付は一括納付が原則となっています。なかには例外もあるため、担当者は自社の納付方法や納付時期をしっかりと確認し、納付漏れがないようにしましょう

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6.年度更新の際の注意事項

労働保険料の年度更新とは、前年度の申告済概算保険料を精算するための申告・納付と、新年度の概算保険料を納付するための申告・納付手続きを行うこと。ここでは年度更新の注意点や言葉の意味についておさらいしましょう。

賃金の定義

はじめに「賃金」の定義を確認します。労働基準法第11条にて、賃金や給料、手当や賞与など名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてを「賃金」としているのです。

以下は労働の対価といえないため、賃金に含まれません。

  • 任意的恩恵的給付:病気見舞金や慶弔金など
  • 福利厚生施設(給付):資金貸付や社宅など
  • 企業設備:作業服や作業用品代、実費弁済的な旅費など

労働者の定義

事業に使用され、使用者から賃金が支払われる者を「労働者」といいます。「労働者」に該当するかどうかは、使用者指揮命令の下で労働し、かつ賃金を支払われていると認められるかどうかで判断できるのです。

雇用保険の場合、学生アルバイトが加入要件を満たしていなければ当人の加入義務は生じません。また2019年度までは高年齢労働者にも雇用保険料の免除があったものの、令和2年4月1日からは高年齢労働者も雇用保険料の納付が必要となっています。

概算保険料の注意点

概算保険料は新年度に支払が予定される賃金総額の見込みから算出した保険料のこと。しかし次年度に精算できるからといって0円で申告してはいけません。

労働保険を継続する場合、概算保険0円では継続できないからです。概算保険料を計上せず0円のまま申告すると、会社が「廃止」になってしまいます。これを実務では「0円計上」と呼ぶのです。

納付期限

労働保険料の納付期限にも注意しましょう。3回分割の場合、各期の納付期限は下記のとおりです。

  • 第1期:7月10日
  • 第2期:10月31日
  • 第3期:1月31日

なお6月1日から9月30日に成立した事業場の初年度は、期限が少し異なります。

  • 第1期:成立した日から50日
  • 第2期:1月31日(労働保険事務組合に労働保険事務を委託している場合は2月14日)

年度の見込み給与をもとに雇用保険料と労災保険料を算出・申告する年度更新。実務では略して「年更」と呼ばれる場合もあります

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7.労働保険の加入について

最後に、労働保険の加入に必要な書類や手続きについて見ていきましょう。労災保険と雇用保険は、必要書類の提出先が異なるのです。あわせて労災保険の特別加入制度や雇用保険の加入対象外となるケースについても、確認しておきましょう。

労災保険加入時の必要書類と手続き

労災保険に加入する際、以下の書類を所轄の労働基準監督署に提出します。

  • 労働保険関係成立届:保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内
  • 労働保険概算保険料申告書:保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内
  • 履歴事項全部証明書(写):保険関係が成立した日の翌日から起算して10日以内

労災保険の特別加入制度

労災保険はもともと労働者の保護を目的とした制度。基本的に事業主や自営業者、家族従事者などは保護対象に含まれません。しかし次の要件を満たしていれば、特別加入制度によって労災保険に加入できるのです。

企業規模が中小事業主等として認められている(労働者数が「金融業・保険業・不動産業・小売業の場合は50人以下」「卸売業・サービス業の場合は100人以下」「これ以外の業種は300人以下」)

  • 雇用する労働者について、労災保険の保険関係が成立している
  • 労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託している

雇用保険加入の必要書類と手続き

続いて雇用保険の加入な必要な書類と手続きについて、見ていきましょう。雇用保険に加入する際、以下の書類を所轄の公共職業安定所(ハローワーク)に提出します。

  • 雇用保険適用事業所設置届
  • 雇用保険被保険者資格取得届
  • 履歴事項全部証明書 原本1通
  • 労働者名簿
  • 労働保険関係設立届(控)
  • 労働保険概算保険料申告書(控)

雇用保険の加入対象

雇用保険の加入対象となるのは、以下の条件を満たす労働者です。

  • 正規雇用者(正社員)
  • 1週間の所定労働時間が20時間以上かつ一定の条件を満たす非正規雇用の労働者(パート、アルバイト、派遣社員など)
  • 一定の条件を満たす日雇労働者や季節労働者

労働者の定義に関する項目で触れたとおり、令和2年4月1日からは高年齢労働者も雇用保険の加入対象になっています。

雇用保険の加入対象にならない場合

一方、次の場合は雇用保険の加入対象になりません。

  • 会社の代表者や取締役
  • 自営業の個人事業主およびその家族
  • 会社と委託関係にある外交員
  • 海外で現地採用され、国外で就労する労働者
  • 公務員や船員
  • 一定の要件を満たさない在宅勤務者

会社取締役でも労働者として報酬を得ていると明らかにできる場合、この限りではありません。

労災保険に加入する場合は労働基準監督署に、雇用保険に加入する場合は公共職業安定所(ハローワーク)に、それぞれ必要な書類を提出します