労働法規とは、労働者地位の保護・向上を規整する方のこと。ここでは労働法規の目的や注意点、労働保険に関する労働法規の種類について解説します。
目次
1.労働法規とは?
労働法とは、労働問題に関するさまざまな法律をひとまとめにしたものです。代表な法律としては、次の労働三法があります。
- 労働基準法
- 労働組合法
- 労働関係調整法
労働法規の目的
労働法規の目的は、労働者の保護。会社と労働者とのあいだに結ばれる契約は原則、双方の合意によって決まります。契約内容に関して自由な部分が多いと、会社より弱い立場になりやすい労働者にとって、不利な契約内容となる恐れがあります。
労働者が低賃金や長時間労働などの劣悪な労働条件に置かれないように作られたのが「労働法規」です。
2.働き始める際の注意点
働き始める際、労働者は何に気を付ければよいのでしょうか。ここでは次に挙げる3つの側面から、働き始める際の注意点について見ていきます。
- 労働契約を結ぶとき
- 就業規則のチェック
- 各種保険と年金制度がどうなっているかチェック
①労働契約を結ぶとき
使用者(会社)が労働者を採用するときは、賃金や労働時間などの労働条件を書面で明示するよう労働法にて義務付けられています(労基法第15条)。これを実務上では「労働条件の明示」と呼ぶのです。
項目によっては口頭での明示でもよいとされていますが、賃金に関する事項は書面の交付が必要です。
労働契約の禁止事項がある
労働契約にはいくつかの禁止事項があります。
- 労働者が労働契約に違反した場合に違約金を支払わせたり、その額をあらかじめ決めたりすること
- 労働を条件として労働者にお金を前貸しし、毎月の給料から一方的に天引きする形で返済させる
- 強制的に労働者から積み立てるお金を徴収する
労働法では、労働者が不当な理由で会社に拘束されないよう定めています。
②就業規則のチェック
就業規則とは、働くうえでの賃金や労働時間、条件などについて事業場ごとに定めた規則のこと。働く際の労働条件について、多くの労働者に共通するルールを「就業規則」として定めています。
労働者は、労働契約を締結する際に就業規則の確認が必要です。また使用者は、労働者がいつでも就業規則を確認できるよう用意しておかなければなりません。
就業規則のルール
就業規則には「絶対的必要記載事項」と「相対必要記載事項」の2種類があります。
- 絶対的記載事項:必ず記載しなければならない事項(労働時間・休憩時間・休日や休暇制度・勤務形態・労働賃金・退職手続き・解雇や定年の規定)
- 相対的記載事項:会社が任意で記載する事項(賞与や一時金制度・退職金制度・職業訓練・災害補償など)
③各種保険と年金制度がどうなっているかチェック
続いて各種保険と年金制度について、確認しておきましょう。求人情報欄には多くの場合「各種保険完備」と書かれています。会社が「雇用保険・労災保険・健康保険・厚生年金」保険制度に加入しており、労働者にはこれらの制度が適用されるのです。
多くの会社が各保険に加入しているため、つい見落としがちといえます。働き始める前に改めて確認しておくとよいでしょう。
雇用保険
雇用保険とは、労働者が失業した際に生活の安定と就職を促進するための失業等給付を行う保険制度のこと。労働者の生活と仕事、それぞれの権利を守るための制度ともいえます。
使用者(雇い主)には、条件が満たされた労働者を等しく雇用保険に加入させる義務があるのです。
労災保険
労災保険とは、労働者が仕事中や通勤途中に起きた出来事に起因する怪我や病気、障がいや死亡した際に保険給付を行う制度です。
労働者やその遺族の生活を守るため、国が会社にかわって給付を行います。正式には「労働者災害補償保険」といいますが、多くの場合「労災」と訳されるのです。
健康保険
健康保険とは、労働者やその家族が病気あるいは怪我をした際、また出産をした際や亡くなったときなどに必要な医療給付、手当金等を支給する制度のこと。
不測の事態が起きると、思わぬ出費が発生したり収入が途絶えたりして、生活が不安定になります。健康保険はこれらに備え、生活を安定させるという目的を持つ社会保険制度です。
厚生年金保険
厚生年金保険とは、主に会社員や公務員などが原則全員加入している保険制度のこと。次のような事態に際して保険給付を行い、労働者と遺族の生活の安定、および福祉の向上に寄与します。
- 被保険者が高齢のため働けなくなった
- 被保険者が何らかの病気や怪我によって障がいが残ってしまった
- 被保険者が不幸にして亡くなり、遺族が困窮した
3.労働基準に関する労働法規の種類
労働者を保護するための最低基準を「労働基準」といいます。この労働基準に関する労働法規には、さまざまな種類があるのです。ここでは下記6つの労働法規について見ていきましょう。
- 労働基準法
- 労働安全衛生法
- 最低賃金法
- 労働契約法
- 男女雇用機会均等法
- 育児・介護休業法
①労働基準法
労働基準法は、その名のとおり労働法規の基本ともいえる法です。「労働憲章」と呼ばれる以下7つの原則から成り立っています。
- 労働条件は、労働者が人間らしい生活をするための必要を充たすべきものでなければならない
- 労使は対等でなければならない
- 女性労働者に対する最も典型的な差別といえる賃金差別の禁止
- 暴行や脅迫といった不当な手段による強制労働の禁止
- 労働者の就業に第三者が介入し、賃金を「中間搾取」することの禁止
- 労働者の差別待遇を禁止した均等待遇の原則
- 労働者が労働時間中に選挙権などの公民権を行使し、または公の職務を行うことの保障
②労働安全衛生法
快適な職場環境の形成、および職場における労働者の安全と健康の確保を目的として制定されたのが「労働安全衛生法」です。事業者は具体的に下記の危険に対する対策措置を講じなければなりません。
- 爆発物・発火物などによる危険
- 労働者の作業行動から生ずる労働災害
- 機械や設備による危険
- 墜落や土砂等の崩壊による危険
- 電気・熱そのほかエネルギーによる危険
最低賃金法
使用者が労働者に対して支払う給与の最低限について定めた法律を「最低賃金法」といいます。最低賃金法の目的は、「労働者の生活安定および労働力の質的向上」「事業の構成な競争を確保して、経済の健全な発展に貢献する」こと。
最低賃金には、業種を問わず各都道府県の事業所で働くすべての労働者を対象とした「地域別最低賃金」と、特定の産業に対して定められた「特定最低賃金」の2種類があります。
労働契約法
労働契約法とは、労働者の保護を図りながら、個別の労働関係の安定に資することを目的とした法です。以下の基本原則を定め、労使間のトラブルを防ぎます。
- 労使が対等の立場である
- 仕事と生活の調和に配慮する
- 就業の実態に応じて均衡を考慮する
- 権利を濫用してはならない
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、1985年にはじめて制定され、その後1986年に施行されました。目的は、「雇用における男女の均等な機会および待遇の確保」「女性労働者の妊娠中および出産後の就業に関して健康の確保を図る措置の推進」です。
事業主はこの法に則って、労働者の募集および採用について性別にかかわりなく均等な機会を与えなければなりません。
育児・介護休業法
育児・介護休業法とは、その名のとおり育児や家族の介護を行う労働者の職業生活と家庭来活の両立を支援して、労働者が働き続けられるよう支える法律のこと。
目的は子の養育および家族の介護を行う労働者に対して以下の措置を定め、経済および社会の発展に資することです。
- 短時間労働勤務の実施
- 所定外労働時間の制限
- 育児、介護休業の分割取得
- 取得条件の緩和
4.労働保険に関する労働法規の種類
続いて労働保険に関する労働法規の種類2つについて、見ていきましょう。雇用形態にかかわらず、労働者を一人でも雇用していれば労働保険の適用事業となります。
- 労働者災害補償保険法(労災)
- 雇用保険法
①労働者災害補償保険法
労働者災害補償保険法、いわゆる労災保険は労働基準法における「使用者の補償責任」をカバーする目的で施行されました。
業務上の事由、または通勤による労働者の負傷や疾病、傷害または死亡などに対して公正な保護をするため、必要な保険給付を行う保険制度です。労働者を一人でも使用している事業所は原則、労災保険の適用事業となります。
②雇用保険法
雇用保険法の目的は、労働者が失業した際に必要な給付を行い、雇用安定および能力開発・向上を図ること。
失業は単に労働者の生活を破壊するだけでなく、社会不安を増大させる要因にもなり得ます。労働者の生活と雇用の安定を図り、求職活動が必要な際は円滑に行えるようサポートすることが雇用保険法の目的です。
5.労働市場に関する労働法規の種類
労働市場とは、その名のとおり労働力が取引される市場のこと。以下5つの法律群をまとめて「労働市場法」といいます。ここでは5つの法律について、見ていきましょう。
- 雇用対策法
- 職業安定法
- 労働者派遣法
- 高年齢者雇用安定法
- 障がい者雇用促進法
①雇用対策法
雇用政策の基本として位置付けられているのが「雇用対策法」です。「労働者の職業の安定と経済的、また社会的地位の向上を図る」「経済および社会の発展」「完全雇用の達成に貢献」などを目的としています。
労働力流動化対策(労働市場の流動化による雇用市場の活性化を期待する対策)の中核をなす立法です。
②職業安定法
「職業安定法」とは、労働者の募集や紹介、供給を規制する法律のこと。目的h「労働者一人ひとりに自己の能力に適した職業に就く機会を均等に与え、職業の安定を図る」「経済および社会の発展に貢献すること」です。
2018年の改正により、以下の内容が追加されました。
- 試用期間の有無および期間の明示
- 受動喫煙防止措置の状況
- 裁量労働制を採用している場合はみなし労働時間の明示
- 求人募集者の社名または名前の明示
③労働者派遣法
「労働者派遣法」が初めて施行されたのは1986年のこと。職業安定法と関連し、労働者派遣事業の適正な運営の確保、派遣労働者の保護を目的としています。
労働者派遣法は労働市場法のなかでも、特にシビアな議論が展開されてきました。施行から今日に至るまで何度も改正されており、2015年の改正では「もはや労働者派遣法ではない」とまでいわれるほど変貌を遂げています。
④高年齢者雇用安定法
少子高齢化が進むなか、高齢者雇用促進の一環として定められたのが「高年齢者雇用安定法」。目的は高齢者が安心して働き続けられる環境の整備です。2013年の改正を経て、高年齢者雇用安定法では以下の3つを定めています。
- 60歳未満定年の禁止
- 中高年齢者が離職する場合の措置
- 65歳までの高年齢者雇用確保措置
高年齢者雇用安定法とは?【改正ポイントをわかりやすく】
高年齢者雇用安定法とは、高年齢者の雇用促進を目的とする法律です。ここでは、高年齢者雇用安定法について解説します。
1.高年齢者雇用安定法とは?
高年齢者雇用安定法とは、高年齢者の雇用促進を目的とした法...
⑤障がい者雇用促進法
障害者雇用促進法の目的は、障害者の職業の安定を図ること。すべての事業主は、身体障がい者または知的障がい者の雇入れを進んで努めなければなりません。
障がい者雇用促進法の背景にあるのは、すべての国民が障害の有無にかかわらず個人として尊重されること。人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現しようという「ノーマライゼーション」の理念です。
6.そのほか労働法規の種類
ここでは先に述べた法律以外の労働法規について見ていきましょう。特に注目したいのが、下記3つの法規です。これらの法律について、ひとつずつ解説します。
- 地域雇用開発促進法
- 中小企業労働力確保法
- 職業能力開発促進法
①地域雇用開発促進法
地域雇用開発促進法とは、地域的な雇用構造の改善を図る法律のこと。目的は以下2つの地域内に居住する労働者へ、就職の促進や地域雇用開発の措置を講じることです。
- 雇用開発促進地域:求職者数の割合が高く、雇用機会の不足ゆえに就職が困難な地域
- 自発雇用創造地域:求職者の総数に対する雇用機会の不足ゆえに就職が困難、かつ雇用創造に向けた意欲が高い地域
②中小企業労働力確保法
中小企業労働力確保法とは、中小企業における労働力の確保、ならびに良好な雇用機会創出のための改善措置を促進する法律のこと。
労働環境の改善や福利厚生の充実など、雇用管理の改善に関する事業計画を作成し、都道府県知事からの認定を受けると、助成金といった支援措置が受けられます。
目的は中小企業の振興や労働者の職業の安定と福祉の増進をもって、経済の発展に寄与することです。
③職業能力開発促進法
職業能力開発促進法とは、その名のとおり労働者の教育に関わる法律です。初めて施行されたのは1969年のこと。その後1985年の改正を経て「職業訓練法」から現在の名称に改められました。
職業能力開発促進法の主な内容は下記のとおりです。
- 事業主の行う職業能力開発促進の措置
- 労働者の技能と社会的地位の向上を目的とした、技能検定についての規定
- 国および都道府県が行う職業訓練の規定
7.社会保険に関する労働法規
社会保険は、「雇用保険・労災保険・介護保険・年金保険・医療保険」5つの総称です。これらを狭義に解釈すると、次の3つに絞られます。ここでは社会保険に関する労働法規のうち、代表的な3つの法規について見ていきましょう。
- 健康保険
- 年金保険
- 介護保険
①健康保険法
健康保険法とは、日本に数ある保険制度のなかでももっとも古い歴史を持つ法律です。労働者またはその被扶養者に生じた業務災害以外の疾病や負傷、死亡や出産などに保険給付を行います。
保険料は被保険者と事業主が折半で負担するのです。保険給付には入院時生活療養費や訪問看護療養費、移送費や.出産手当金など幅広い費用が含まれています。
②国民年金法
年金には「国民年金」と「厚生年金」の2種類があります。国民年金は1959年、高齢者や障害者などに対する福祉年金として始まりました。
その後度重なる改定を経て現在も、健全な国民生活の維持および向上への寄与を目的に、機能しています。日本に住所がある20歳以上60歳未満の人は、必ず国民年金に加入しなければなりません。
③厚生年金保険法
国民年金ではすべての国民を加入対象とする一方、厚生年金では民間企業の労働者や公務員などが対象になっています。目的は労働者の老齢や障害、死亡について保険給付を行い、労働者および遺族の生活安定と福祉の向上に寄与することです。