住居手当とは? 支給条件、メリット・デメリット、ユニークな取組

住居手当とは、企業が福利厚生の一環として行う補助金制度のことです。ここでは住居手当の支給条件やメリット・デメリットなどについて解説します。

1.住居手当とは?

住居手当とは、従業員の生活負担を軽減するために、企業が従業員の住宅費用を補助する手当のこと。福利厚生のひとつとなるため、支給を義務付ける法律はありません。似た言葉に「住宅手当」があり、どちらも同じ意味で使われます。

住居手当の目的

住居手当を支給する主な目的は、従業員の生活補助。一人暮らしの家賃や購入した住宅のローンにかかる負担は、意外と大きいもの。これを補助する目的でつくられたのが住居手当です。

なお手当とする以上、一般的に基本給とは別に支給されます。また福利厚生は法律上給与の分類となるため、課税対象になるのです。

住居手当の相場はどのくらい?

2015年に厚生労働省が発表した調査によれば、住居手当の相場は1万7,000円。住居手当をどれだけ支給するかは会社の判断によります。

法律上、金額に関する取り決めはないため、「一律同額とする企業」「上限額を決めて家賃の〇〇%までとする企業」「給与の〇〇%を住居手当として支給する企業」などさまざまです。

住居手当は、従業員の生活を補助する目的で支給される手当のこと。支給の有無は法律で定められていないため、企業の判断によって変わります

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2.住居手当の注意点

住居手当は、計算方法から「給与に住居手当を上乗せして毎月支給する形式」「住居手当を引いた分の家賃が請求される形式」の2種類に分かれます。ここではこの2つとともに、住居手当の注意点について見ていきましょう。

住居手当の支給は福利厚生内

先に述べたとおり、住居手当は福利厚生制度の一環です。そのため労働契約時における明示義務の対象外となります。なお使用者が従業員を採用するときは、以下を書面で明示しなければなりません。これを「労働条件の明示(労基法第15条)」といいます。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所および業務内容
  • 就業時間・時間外労働に関する事項
  • 賃金の決定、支払方法や時期に関する事項
  • 退職に関する事項

家賃の請求

住居手当の支払い方法には、先に挙げた「給与に住居手当を上乗せして毎月支給する形式・住居手当を引いた分の家賃が請求される形式」の2つがあります。端的にいえば、給与に上乗せして支給されるか、手当分を差し引いた家賃が請求されるかの違いです。

後者は社宅や社員寮などを運営している場合に取られる方法です。「従業員が持ち家に住宅ローンを支払っている・賃貸住宅に住んで家賃を払っている」場合は、前者の方法で支給されます。

住居手当の現状は会社によってさまざま

住居手当として支給する金額が会社によって異なるのと同じく、支給方法も会社によってさまざまです。

家賃額や住宅ローンの額にかかわらず一定の金額を上乗せする企業もあれば、割合を決めて支給する企業、扶養家族の有無によって金額を変える企業、また勤務地から居住地までの距離・時間などによって区分する企業などもあります。

住居手当の有無、支給額や方法は企業によって異なります。気になる場合は自社の就業規則を確認してみましょう

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3.住居手当の支給条件

住居手当はどのような条件において支給される手当なのでしょうか。ここでは住居手当の支給条件について5つの面から解説します。

  1. 正社員であるかどうか
  2. 扶養家族の有無
  3. 独身・一人暮らし
  4. 持ち家か賃貸か
  5. 社宅がある企業の場合

①正社員であるかどうか

住居手当の支給条件としてもっとも多く挙げられるのが、正規の従業員つまり正社員であること。しかし正社員へ全員平等に支給するわけではない点に注意してください。

2020年からは「働き方改革」の一環として「同一労働同一賃金」の導入が進んでいます。これに伴う住居手当の廃止や見直しが今後も進むでしょう。

②扶養家族の有無

扶養家族つまり従業員の収入で養っている家族の有無も、住居手当の支給基準になります。東京都産業労働局が発表した「中小企業の賃金事情」では、2019年における扶養家族有の支給額平均は1万9,391円、扶養家族無は1万6,095円でした。

配偶者や子どもなどの家族が増えれば、必然的に広い間取りの住居が必要になります。扶養家族の有無、また人数などで住居手当の有無、および金額が変動する場合も珍しくありません。

③独身・一人暮らし

扶養家族の有無で住居手当の支給を判断する会社もあれば、独身もしくは一人暮らしを支給条件とする会社もあります。たとえば「〇〇歳まで、かつ独身である場合に〇〇円を支給」「自宅から通勤できない独身者に社員寮を提供」などです。

なお「結婚を前提とした同棲をしている」「結婚して夫婦で賃貸物件に住んでいる」といったケースでも、多くの場合住居手当が支給されます。

④持ち家か賃貸か

住居が持ち家なのか賃貸なのかによって、手当の有無および金額が変わる場合もあります。持ち家や実家では支給せず、住宅ローンを払っていたり賃貸に住んでいたりする従業員が支給対象という会社も数多く存在するのです。

第三者と居住している場合でも、本人が世帯主もしくはルームシェアの契約者として証明できたり本人名義の実家と証明できたりする場合、この限りではありません。

⑤社宅がある企業の場合

社員寮や独身寮、社宅なども広義に見れば住居手当の一部です。社宅とは、企業が従業員に対して比較的安価で貸与する住宅のこと。社宅や社員寮はあるが手当はない人もいるでしょう。これは自己負担額の家賃が給与から天引きされている状態です。

寮や社宅を提供する場合、所得税や住民税などの税負担にも影響するため慎重に見極める必要があります。

住居手当の支給条件は、企業ごとに定められています。いずれも公平性を保つことが重要です

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4.住居手当のメリット

住居手当は福利厚生にかかる費用のなかでも、特に大きな割合を占める項目となります。法定外福利厚生費の約半数、47.8%もの割合を占めているのです(日本経済団体連合会、2018年度福利厚生費調査)。ここでは住居手当のメリットに注目してみましょう。

会社側から考えたメリット

2000年度以降は減少傾向にあり、今後も減少すると考えられている住居手当。会社に一体どのようなメリットをもたらすのでしょうか。

  1. 企業イメージの向上
  2. 優秀な人材の確保
  3. 会社の信頼度アップ
  4. 労働市場における他社との差別化

①企業イメージの向上

転職市場にて近年、転職志望者に有利な「売り手市場」が続いています。転職志望者は労働条件や福利厚生などさまざまな条件を吟味しながら、満足度の高い転職を実現しやすい状況なのです。

同じ業務や同じ条件下で複数の会社に悩んだ際、企業イメージが大きな決め手となるもの。会社にとっては住居手当を設ける=福利厚生の充実をアピール=企業イメージアップとつながります。

②優秀な人材の確保

住居に関するサポートは、従業員の生活に直結します。従業員のなかには 賃料の高さが原因で、1時間以上の時間をかけて通勤する人もいるでしょう。通勤時間にかかるストレスを理由に離職する人も少なくありません。

住居手当を支給すると、従業員の経済的負担や精神的ストレスを軽減できます。それにより優秀な人材の確保、流出の防止に効果が出るのです。

③会社の信頼度アップ

福利厚生は、企業が従業員やその家族の暮らしをサポートする目的で作られています。住居手当の支給により、「従業員を大切にしている」という姿勢をアピールできるのです。生活や健康に配慮した福利厚生は、従業員からの信頼度向上につながるでしょう。

④労働市場における他社との差別化

求人広告の待遇欄に「住居手当有」と書かれている企業と、何も書かれていない企業、どちらに福利厚生が充実しているという印象を抱かせるでしょうか。

労働人口の減少や雇用のミスマッチなどさまざまな原因から、人材不足は深刻化する一方です。求職者が求人広告を目にした際、「住居手当有」と書かれていれば企業イメージがアップし、目に留まりやすくなります。

従業員から考えたメリット

従業員から見た住居手当のメリットといえば、やはり住む場所の選択肢が増える点。通勤に便利なエリアを選んだり、買い物に便利な立地や生活に合った間取りなど重視したいポイントに合わせたりして住居を選べます。

特に従業員が一人暮らしを始める際、住居手当により金銭面での負担を大きく軽減できるでしょう。その分を食費や交際費などにあてるのも可能です。精神的な負担が減り、生活に余裕が出てくる点は従業員にとって大きなメリットとなります。

住居手当は企業としてのイメージを向上するのです。また従業員のモチベーションアップや帰属意識の向上、優秀な人材の流出防止にもつながります

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5.住居手当のデメリット

会社と従業員の双方にさまざまなメリットをもたらす住居手当ですが当然、デメリットも存在します。続いては会社側、従業員側それぞれの立場から見たデメリットについて解説しましょう。特に大きいのが税金面に関するデメリットです。

会社側から考えたデメリット

前述のとおり、住居手当はすべての従業員に対して一律で支給されるとは限りません。住居手当の対象となる従業員と非対象となる従業員、また金額の大小によってモチベーションに差が生まれる恐れもあります。

住居手当は従業員の実績や成果に関係なく支給される手当です。反対にいえば、成果を出していない従業員にも支払わなければなりません。

近年、固定費を可能な限り削り、成果配分として貢献した従業員に対する給与を厚くしたいと考える「能力主義」に移行しつつあるため、住居手当そのものの見直しが進んでいるのです。

従業員側から考えたデメリット

従業員側から見るデメリットとして特に大きいのが、税金に関する問題。住居手当は基本、給与に含まれるため課税の対象となります。

住居手当の増加は、イコール各種税金や社会保険料の負担増です。転職の際は、住居手当による税金の増減を見越した家計の見直しが必要でしょう。

またボーナスの支給額は基本給をもとに計算されます。そのため住居手当の支給によってがボーナスを増やすチャンスが減る場合もあるのです。

住居手当のデメリットは、税金面にあります。導入を検討する際は社会保険料と各種税金の影響について考慮しましょう

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6.ユニークな住居手当がある企業

毎月の住宅補助金や社宅の提供だけでなく、一風変わった住居手当を完備している企業もあります。ここでは実際にユニークな住居手当を受けている人の例を見ていきましょう。

地球環境保護にも貢献!発電手当を導入

アイアンドシー・クルーズ(2020年7月1日をもって「じげん」へ経営統合)では、従業員が自身の持ち家に太陽光発電システムを設置した場合に購入補助を支給する「発電手当」を設けています。

同社は2017年に低圧太陽光発電所向け監視モニタリングサービスを開始。住居手当として発電システムの設置を促して、地球環境保護へ貢献しているのです。ほかにも会社までの道路距離が5kmに住んでいる従業員に「5キロ手当」という家賃補助を行っています。

地域限定で手当がもらえる

住居手当を地域限定の手当として定めている企業もあります。ファッション通販サイトやプライベートブランドなどを企画・運営しているZOZOでは、所在地である千葉県・幕張エリアの地域活性化を目的とした手当を導入しています。

「幕張手当」と名付けられた手当は、指定エリアに住むスタッフに月5万円を支給するもの。通勤しやすくなったり、近くに住むスタッフとの交流が持ちやすくなったりといったメリットがあります。

同様に、本社のある神奈川県・鎌倉に住み、鎌倉で働くことを推奨しているのがカヤックの住居手当です。鎌倉や逗子などの開発拠点周辺に住み、かつ鎌倉勤務の従業員に「鎌倉・逗子・葉山手当」という制度で家賃の一部を補助しています。

ほかにも鎌倉に拠点を置く企業が合同で運営する社員食堂や、地域に根差した保育園の運営なども行っているのです。

住居手当は家賃に対する補助金や社宅の提供だけではありません。ユニークな手当を導入し、他社との差別化を図りましょう