労災認定とは、業務上あるいは通勤が原因となる疾病等の個別事案に対して、労働基準監督署において行われる可否の判断。ここでは、詳細と労災保険制度について解説します。
1.労災認定とは?
労災認定とは、個別の事案ごとに労働基準監督署にて判断される、労災認定の可否のこと。労働基準法施行規則別表第1の2に掲げる疾病と掲げられていない疾病があり、さまざまな局面を総合的に検討し、労災認定の可否が判断されます。
労災認定と解雇制限について
雇用者は、労働基準法第19条1項により、被雇用者が業務上で負傷、あるいは疾病にかかり療養している期間およびその後30日間は解雇できません。さらに労働基準法第65条規定によって、産休産後の女性が休業する期間およびその後30日間は解雇できないのです。
ただし労働基準法第81条の規定によって、被雇用者が打切補償の支払いをしたとき、あるいは天災事変などやむを得ない事由により事業の継続ができなくなった場合は、解雇できます。
労働災害について
労働災害とは、労働者の業務上または通勤途上における負傷や疾病、障害、死亡を指す用語のこと。業務上の場合における業務災害と、通勤途上の場合における通勤災害の2つに分かれます。労働災害と認められるには、業務との間に因果関係がなくてはいけません。
業務災害
業務災害とは、労働者が業務上の事由によって負傷や疾病、障がい、死亡すること。業務上とは、業務が原因となって傷病といった状況になったと意味するもので、業務と負傷や疾病、障がいや死亡との間に因果関係があることを指します。
業務災害に対する保険給付は、業務上に発生したと判断された負傷や疾病、障がいや死亡に対して行われるのです。
通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤途上に被った負傷や疾病、障がいや死亡を指す用語のこと。ここでの「通勤」は、次に挙げる3つの移動を意味します。
- 労働者の住宅と就業場所との間での往復移動
- 就業場所からほか就業場所への移動
- 労働者の住宅と就業場所との間の往復に先行する、あるいは後続する住宅間の移動
2.疾病にかかった場合の労災認定について
業務との間に因果関係が認められる疾病は、業務上疾病といわれ労災保険が給付されます。業務上疾病に認められるには要件を満たさなくてはいけません。ここでは業務上疾病と認められるための3つの要件について解説します。
- 労働する場所における有害因子の存在
- 病状と発症の経過
- 健康障がいが生じるほどの有害因子にばく露があったか
①労働する場所における有害因子の存在
業務上疾病とは、事業主の元で有害因子にばく露したために発症した疾病のこと。ここでの有害因子には、業務に関わる有害な物理的因子や化学物質、身体に負担のかかりすぎる作業態様、あるいは病原体等の諸因子を含みます。
就業時間以外にて発症した場合でも、業務上の有害因子にばく露した結果、発症したと認められれば業務上疾病と判断されるのです。
②病状と発症の経過
業務上疾病と認められるには、有害因子へのばく露の後で発症したものでなければいけません。労働者が業務に関係する有害因子に接するか、あるいは有害因子の侵入によって発症した疾病である点が前提条件となるので、当然でしょう。
有害因子へのばく露と発症の間の期間は長いものもあれば短いものもあります。発症の時期は、有害因子の性質やばく露の条件などによって決まるのです。
③健康障がいが生じるほどの有害因子にばく露があったか
健康障がいを起こすほどのばく露なのかどうか、その判断が第3の要件となります。どの程度のばく露であったのかは、ばく露の濃度と期間によって決まるのです。
またばく露をどのような形態で受けたかによっても程度が決まるため、これらを含めて、ばく露条件の把握が必要となります。
3.負傷した場合の労災認定について
次に業務上で負傷した場合の労災認定について、解説しましょう。
- 事業主の管理下にあるが、業務に従事していないとき
- 事業主の支配にあるが、管理下を離れ業務に従事しているとき
- 事業主の管理下にあって、業務に従事しているとき
①事業主の管理下にあるが、業務に従事していないとき
事業主の管理下にあるが業務に従事していないときとは、昼休みや就業前や就業後に事業場内にいる場合のこと。労働者は出社して事業場施設内にいる限り、労働契約によって事業主の支配管理下にあると認められます。
しかし昼休みといった休憩時間や就業の前後は、実際に業務に携わっているわけではないため、行為自体は私的とみなされるのです。
②事業主の支配にあるが、管理下を離れ業務に従事しているとき
事業主の支配にあるが管理下を離れ業務に従事しているときとは、 労働者が出張や社用により事業場以外で業務に従事している場合のこと。
事業主の管理下を離れていても、労働契約にもとづき事業主のもとで仕事をしているため、事業主の支配下にあるとみなされます。業務に携わっている場所にかかわらず、業務災害と認められるのが一般的です。
③事業主の管理下にあって、業務に従事しているとき
事業主の管理下にあって業務に従事しているときとは、所定の労働時間や残業時間において、事業場内において業務に従事している場合のこと。
この場合における災害の原因は、被災した労働者の業務としての行為や事業場における施設や設備の管理状況などだと考えられるため、特段の事情がない限り、業務災害として認められます。
4.精神障がいにおける労災認定について
仕事に関連するストレス による精神障がいについて労災の請求が増えています。精神障がいにおける労災認定の基準や対象とされる精神障がい、業務外における心理的負荷の判断、精神障害の発病要因などについて解説しましょう。
- 心理的負荷が業務によるものかの判断
- 認定基準対象とされる精神障害について
- 個人の要因による発病の判断
- 業務外における心理的負荷の影響判断
- 精神障がい発病の要因について
①心理的負荷が業務によるものかの判断
精神障がいの労災認定には、労働基準監督署の調査が必要となります。「業務による心理的負荷評価表」により、発病前約半年間に起きた業務による出来事について、「強」と評価される場合、労災の認定要件を満たすのです。
②認定基準対象とされる精神障がいについて
認定基準の対象となる精神障がいとは、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第5章「精神および行動の障がい」に当てはまる精神障がいのこと。代表的なものは、気分障がいや神経症性障がい、ストレス関連障がいなどです。
ただし認知症や頭部の外傷による障がい、アルコールや薬物による障がいは対象から除外されています。
③個人の要因による発病の判断
精神障害の既往歴やアルコール依存症などの個体による発病の要因については、その有無とその内容について確認しなければいけません。精神障がいを労災として認定するには、個体による要因が発病にどの程度かかわっているのか、慎重に判断する必要があります。
個体側要因による発病と判断された場合、労災として認定されません。
④業務外における心理的負荷の影響判断
労災認定では業務外における心理的負担の影響も考慮されます。「業務以外の心理的負荷評価表」を使用して、業務外における心理的負荷の強度を評価しなくてはいけません。
心理的負担の強度が最も強い「Ⅲ」に該当する具体的な出来事が複数ある場合、各出来事が発病の原因となっているのかを慎重にかつ総合的に判断する必要します。
⑤精神障がい発病の要因について
精神障がいは、業務による心理的負荷だけではなく業務以外のさまざまな心理的負荷に対して、個人で対応する力がない場合に発病すると考えられています。
精神障がいが労災として認定されるのは、発病が個体的要因ではなく仕事にかかわる心理的負荷によって引き起こしたもの、と判断できるときに限られるのです。
5.労災保険制度の概要を解説
労災保険制度は、業務上または通勤による労働者の傷病等に対して保険給付を行う制度のことで、これによって被災労働者の社会復帰を促進します。保険の費用は原則、事業主の負担する保険料から支出されるのです。
保険給付には、労働者が正規か非正規化という雇用形態は関係ありません。ここでは、労災保険給付を種類別に解説しましょう。
- 障がい補償給付
- 療養補償給付
- 遺族補償給付
- 休業補償給付
- 介護補償給付
- 傷病補償年金
- 葬祭給付
①障がい補償給付
給付されるのは、業務や通勤が原因となった負傷や病気が治った後に、障害等級第1級から第7級までに該当する障がいが残った場合です。等級の程度に応じた額が給付され、支払いは、支給要件を満たした月の翌月分からになります。
1回の給付は、毎年偶数月である6期に、前の月を含めた2カ月分になるのです。
②療養補償給付
給付されるのは、労働者の業務上の事由、あるいは通勤上の事由による傷病などを治すために療養が必要な場合です。無料で治療や薬剤が支給される「療養の給付」と、現金給付の「療養の費用の給付」があります。
現金給付の場合、指定医療機関以外での治療や薬剤の支給にかかった費用が給付されるのです。
③遺族補償給付
給付されるのは、業務上の事由、あるいは通勤上の事由によって労働者が死亡した場合です。遺族補償年金と遺族補償一時金の2種類があり、受給資格があるのは、配偶者(内縁関係を含む)や子、孫や祖父母、兄弟姉妹となります。
受給資格者は、死亡時に被保険者によって生計を維持されていた人に限定されているのです。
④休業補償給付
給付されるのは、労働者の業務上の事由、あるいは通勤上の事由による傷病などによって労働ができず、賃金を支給されていないときです。賃金を支給されていない第4日目から受け取れます。
「業務あるいは通勤が原因の傷病などである」「労働をしていない」「賃金を受けていない」3つの要件を満たしていなくてはいけません。
⑤介護補償給付
介護補償年金が給付されるのは、「障がい補償年金または傷病補償年金受給者のうち等級が第1級」あるいは「第2級の精神神経障がい者および胸腹部臓器障がい者で、現に介護を受けている場合」です。
状況にしたがって、常時介護と随時介護に分かれます。病院や診療所、または介護老人福祉施設などの施設に入っていない点もが給付の要件となるのです。
⑥傷病補償年金
支給されるのは、業務上の事由あるいは通勤上の事由による傷病や疾病が、療養開始1年6カ月後でも治癒していないときです。
傷病によって労働できず賃金を受け取っていないかどうかが給付の要件で、その後1カ月以内に「傷病の状態等に関する届」を労働基準監督署に提出する必要があります。
給付額の算定の基礎となる給付基礎日額は、労働基準法の平均賃金に相当する額が原則となるのです。
⑦葬祭給付
給付されるのは、あるいは通勤上の事由による労働者の死亡に対してです。これは葬祭を執り行う者が受け取れるもので、受給資格者は、被災労働者が死亡時にその収入によって生計を維持していた配偶者や子、父母や孫、祖父母や兄弟姉妹となります。
妻以外は、一定の高齢か年少、あるいは一定の障がいの状態にあることが求められるのです。
6.事業主の労働保険料について
事業主の労働保険料について解説しましょう。
事業主の労働保険料の申告と納付
事業主による労働保険料の申告および納付は「年度更新」です。手続きを行うのは原則、6月1日から7月10日までの期間で、前年度の確定保険料と当該年度の概算保険料の両方をあわせて申告および納付しなくてはいけません。
労働保険料は、雇用保険と労災保険の両方を合算したもので、年度はじめに概算で申告および納付し、翌年度のはじめに確定申告において精算します。
概算の保険料額が40万円以上、あるいは労働保険事務を労働保険事務組合に委託しているときは、3回に分けて納付できるのです。
事業主の労働保険料の負担について
事業主が負担する労働保険料は、労働者に支給する賃金総額にくわえて、保険料率(労災保険率と雇用保険率の合算)を乗じて算出するのです。労働保険料の内の労災保険料は、全額を事業主が負担し、雇用保険料は事業主および労働者の両者で負担します。
端数が出た場合、50銭以下の場合は切り捨てとし、50銭1厘以上の場合は切り上げになるのです。