昨今、注目を集める早期退職制度をご存じでしょうか。ここでは、早期退職制度の目的や特徴、メリット、デメリットなどについて解説します。
目次
1.早期退職制度とは?
早期退職制度とは、従業員が通常よりも早く自主的に退職するための制度のことで、早期希望退職制度という名で呼ばれることもあります。
従来の日本型経営に象徴される、終身雇用や年功序列が崩壊しつつある現代社会では、早期退職制度が人事制度のひとつとして広く用いられているのです。
早期退職とは?【わかりやすく】退職金、メリット、優遇制度
早期退職とは、従業員の意思で定年年齢より前に退職することです。ここでは、早期退職について解説します。
1.早期退職とは?
早期退職とは、従業員自身の意思により、通常よりも早く退職すること。日本では定...
2.早期退職制度の目的
早期退職制度の目的は、「早期に会社を退職して自分の生き方を尊重したいと考えている従業員に対する支援」「業績悪化に伴う人員整理の一環」などです。
早期退職制度の多くは、退職金が割増しされるため、新しい夢や自己実現を目指す従業員に対して、資金面も含めた独立の後押しをします。
また、会社の経営悪化に伴い、臨時的に期間や人数に制限をつけて退職者を募集して人件費の削減を図ることも目的のひとつです。
3.早期退職制度と選択定年制との違い
選択定年制とは、定年をいつに設定するのか、定年のタイミングを労使で事前に話し合って決定する制度のこと。高年齢者雇用安定法により、60歳を超えても引き続き働きたい従業員を65歳まで雇用することが義務付けられています。
ここで65歳で定年を迎えるという選択肢のほかに、選択定年制を導入して60歳から65歳の間で定年を選べるようにするのが選択定年制です。
4.早期退職制度の現状
東京商工リサーチの調査によれば、早期退職者などを募った企業の数は、「2009年は191社」「2018年は12社」「2019年は16社」となっています。
2009年時点の企業数と比較すると、早期退職制度を利用する企業の数は減少していることが分かります。しかし、ここ数年の数だけを見てみると多少変動があるのです。
ここからは早期退職制度の利用が落ち着きを見せる一方、一定数の企業が早期退職制度を活用していることが窺えます。
5.早期退職制度の特徴
早期退職制度が持つ2つの特徴を解説します。
退職金は割増し
早期退職制度とは、会社が募集した早期退職に従業員が自主的に応じて退職する制度のこと。導入する企業の多くは、会社からの呼びかけに応じ早く退職してもらう代わりとして、当該従業員に対して退職金の割増しといったメリットを付加しているのです。
会社都合の退職
会社が募った早期退職に従業員が同意する形ですが、会社が退職を募る時点で退職自体は会社都合だと判断できます。
会社都合の退職は、自己都合と異なり、「失業給付金の支給日が早まる」「失業給付金の支給日数が長くなる」など、従業員にとってメリットがあるのです。
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6.早期退職制度のメリット
早期退職制度は、労使双方にメリットをもたらすのです。ここでは、早期退職制度のメリットを解説します。
従業員のメリット
早期退職制度における従業員のメリットは以下の通りです。
退職金の割り増し
早期退職制度では、会社が募った退職に応じてもらう代わりに、当該従業員に対して支払う退職金を割増しして支払います。
セカンドキャリアに踏み出せる
早期退職制度は、自分自身の夢や新しいキャリアへの挑戦など、自らのセカンドキャリアを切り開くきっかけをつくってくれます。
企業のメリット
早期退職制度における企業のメリットは以下の通りです。
人件費の削減
退職金の割り増しはありますが、早期退職によって一定規模の人員整理が可能となります。つまり、早期退職者分の人件費の削減効果が期待できるのです。
人員の入れ替え
一定数の退職者を送り出したら、社内の人員は大きく入れ替わります。社内に新しい風が吹き始めるため、職場や会社そのものの雰囲気を変化させる効果が期待できるでしょう。
7.早期退職制度のデメリット
早期退職制度には、デメリットもあるのです。労使双方の視点からデメリットについて解説しましょう。
従業員のデメリット
早期退職制度における従業員のデメリットは以下の通りです。
転職先が決まるかどうかは分からない
転職先を見つける場合、条件に合った転職先が確実に確保できるかどうかは不透明です。退職後のことをしっかりと考えてから決断しないと困った事態に陥ります。
退職金がそれほど割増しされないことも
「思ったほど割増しがなかった」「退職後を支えるのに十分な割増しでなかった」などで困らないよう、退職金の割り増し以外の収入の見通しを付けておきましょう。
企業のデメリット
早期退職制度における企業のデメリットは以下の通りです。
一時的にコストがかかる
長期的に見れば人件費を削減できます。しかし短期的には退職金や退職金の割増しでコストが増えるのです。一時的に膨らむコストの確保は、大きな課題でしょう。
生産性の低下
早期退職制度の規模や実施状況にもよりますが、場合によっては人員整理によって現場が上手く回らず、生産性が低下してしまう可能性もあるのです。
8.従業員として早期退職制度を利用する際の注意点
従業員として早期退職制度を利用する際の注意点を4つ解説します。
- 普段から「もし退職したら」について考えておく
- 退職金だけで考えない
- 資格取得
- 社内評価より市場評価を
①普段から「もし退職したら」について考えておく
従業員は、経営状況を把握しにくい立場にあります。そのため「突然早期退職制度の対象として声が掛かった」といったことは珍しくありません。普段から、「退職したら何がしたいか」「退職したら何ができるか」を意識しながら業務に就くとよいでしょう。
②退職金だけで考えない
早期退職制度では、退職金が割増しされて支払われることが多くあります。しかし、割増しされた退職金はいっときのお金なのです。長い人生を考え、日々の生活や突然の出費に対応するためにも、安定した収入源について考えておきましょう。
③資格取得
「退職金を元手に資格を取得して独立しよう」といった考えで早期退職制度を利用する人も少なくありません。かし、資格を取得しただけですぐに転職や独立開業ができるとは限らないのです。
「本当に必要な資格なのか」「資格取得後、どのように生活を維持していくのか」など、一度立ち止まって考えてみましょう。
④社内評価より市場評価を
社内で実績を積んでいたり社内での評価が高かったりするからといって、当該人物の市場価値が高いとは限りません。
セカンドキャリアにつなげるためにも、「自分の市場価値はどのくらいか」「早期退職してセカンドキャリアを構築できるスキルがあるか」という視点から、落ち着いて考えてみましょう。
9.早期退職制度を実施する流れ、ステップ
早期退職制度を実施する流れを、6つのステップに区切って解説します。
- 対象者や目的を定める
- 条件について考える
- 従業員などと協議
- 取締役会決議
- 従業員などへの説明および周知
- 制度開始
①対象者や目的を定める
まず、「早期退職制度を実施する目的、実施規模、実施時期、対象となる従業員の年齢層や職種」など早期退職制度の概要を検討します。
早期退職制度の目的は、制度実施の土台になりますので、従業員に理解できるよう、明確で合理的な目的を定めましょう。また制度の対象者は、制度実施後の年齢構成や人員配置なども考慮して検討します。
②条件について考える
次に最初のステップで定めた早期退職制度の対象者に対して、「退職金の割増率」「セカンドキャリア構築のための具体的支援」など、早期退職に関する条件面の検討を行います。
ただし、「条件が低すぎて早期退職者が集まらない」「条件が高すぎて、想定外の早期退職者が出てしまい人員不足に陥る」場合もありますので、程よい条件を検討してください。
③従業員などと協議
今度は会社が設計した早期退職制度の中身について、労使双方で協議を行います。早期退職制度は、「会社が早期退職者を募り、従業員が早期退職を希望する」ことで成立するもの。
滞りなく実施するためにも、経営者側と従業員側、双方の希望をあらかじめすり合わせておきましょう。
④取締役会決議
取締役会とは、会社の業務執行に意思決定を行うために設けられている合議体のことで、早期退職制度の実施は、会社法第362条4項の「重要な業務執行」に該当します。
そのため、労使で早期退職制度について協議をした後は、最終的に取締役会決議を開催して制度実施の決定を行うのです。すり合わせが終わったら、手順をスキップすることなく、制度の実施まで一歩一歩着実に進めていきましょう。
⑤従業員などへの説明および周知
取締役会での決議が実施された後は、いよいよ従業員に対して制度概要の説明を行います。説明会の開催を周知したり資料を配布したりして、従業員に、制度内容をしっかり説明しましょう。
その際、現場に混乱が生じたり誤った情報が錯綜したりすることのないよう、丁寧な説明を心掛けてください。
⑥制度開始
最後に、制度開始です。早期退職制度が適用されるためには、従業員に対して早期退職制度の説明会を実施した後、「従業員が早期退職制度に応募」「従業員が早期退職制度に合意したという合意書を作成」2つの条件が満たされなくてはなりません。
制度設計から適用までは細かな事務手続きも発生します。制度実施の流れを常に頭に入れて、スムーズな制度実現に向け着実な取り組みを行いましょう。