「カスタマーハラスメント」とは、顧客や取引先という立場から悪質なクレームや要求をする行為のハラスメントのこと。カスタマーハラスメントとクレームの違い、背景や内容などについて解説します。
目次
1.カスタマーハラスメントとは?
カスタマーハラスメントとは、顧客や取引先という立場の優位性を盾に悪質な要求や理不尽なクレームを行う行為のことです。カスハラとも略されます。たとえば「逆らえない立場の従業員や店舗スタッフに、無理難題や謝罪を大声で求める」「店にきて謝罪を求める」「ネットに酷評を書き込む」といった、近年増加している脅しなどです。
セクシャルハラスメントやパワーハラスメントに比べると、まだまだ周知されていないハラスメントといえるでしょう。
カスタマーハラスメントとクレームの違い
カスタマーハラスメントは、しばしばクレームと混合されます。クレームは、サービスの向上や品質の改善などを目的に「要求がある」「依頼をとおしたい」という場合が多く、企業はクレームをとおして改善点や反省点を見つけられます。
一方でカスハラを行う目的は、「嫌がらせ」「酔っ払い」などの理不尽な嫌がらせや悪質ないじめとなっているのです。良好性のある要望や要求を目的にしているクレームとは大きく異なります。
コロナ過におけるカスタマーハラスメント
新型コロナウイルスの感染が広まり、マスクやティッシュなどの感染予防アイテムや日用品が続々と品切れになりました。その際に小売業、スーパーマーケットやドラッグストアで働く従業員に対するカスタマーハラスメントが横行したのです。
マスクを手に入れられないため「すぐに用意しろ!すぐに出せ!」「お前では話にならないから上を出せ!」といった不当な暴言を吐いたり、従業員を脅したりするようなケースが全国で発生しました。
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2.カスタマーハラスメントが増えている背景
カスタマーハラスメントは年々増加傾向にあるといわれていますが、なぜ日本ではカスハラが増えているのでしょう。ここではカスハラが増加した背景について説明します。
ストレスフルな社会
現代社会では、職場で受けるストレスだけでなく、家庭内でもストレスを溜め込むことも少なくありません。その結果、抱え込んだストレスを解消する捌け口として、逆らえない立場にある従業員にカスタマーハラスメントが行われるのです。
また「お客様は神様」といった奉公の精神を履き違えた風習の普及も、カスハラが増加する原因になっています。
企業によるサービスの違い
企業によってサービス内容やサービスのレベルが異なるのは仕方ありません。それぞれが独立した事業を行っているためサービスに規定はなく、企業ごとに基準は異なるのです。
しかしサービスに対して独自に基準を定めてしまった一部の人が、悪質な要望を押し付けてくる場合もあります。
たとえば、セルフサービスに対して「席から水を頼めば店員が注ぎに来るのが当たり前」と考える人が「どうして自分で水を取りに行かないといけないんだ!」と人に詰め寄る行為などです。
過剰すぎるサービス
日本のサービス精神やおもてなしの心は、世界でも賞賛を受けるほど優れたもの。しかし企業同士が切磋琢磨し、他社を超えるサービスを追求してきた結果、過剰すぎるサービスが増加してしまいました。
企業が顧客に対してよりよいサービスを行うように配慮する試みは素晴らしいことでしょう。
サービスを当たり前と受け取る人が「この企業はここまでしてくれたのに、ここではどうしてしないんだ」と、過剰な要求をするカスハラ行為をしてしまうのです。
ネットやSNSの普及
ネットやSNSの普及によってさまざまな情報を手に入れられるようになり、匿名での誹謗中傷が可能になっているのも原因でしょう。
口コミを手軽に投稿できる現代、「ハラスメントを行われた」「このサービスはおかしい」といった口コミを投稿すると、それを見た人々がその企業を悪者にしてしまう場合もあります。
これによって「ネットに酷評を投稿してやる」「評判下げてやる」といった脅し文句が、横行してしまうのです。
3.カスタマーハラスメントの内容
カスタマーハラスメントは、顧客が店員に対して行う嫌がらせやいじめのこと。先ほどの例では暴言や脅し文句などを例に挙げましたが、拘束などもカスハラに該当する行為です。ここではカスハラに該当する3つの行為について説明します。
- 長時間拘束される
- 暴言を吐かれる
- 脅迫される
①長時間拘束される
カスタマーサポートやお客様相談センターなどで多いカスタマーハラスメントの内容は、文句や誹謗中傷、罵倒による長時間の拘束です。
理不尽なカスタマーハラスメントも発生しており、なかには「文句をいえば商品を無料で貰える」「ストレスの捌け口として誰でもよいから怒鳴り散らしたい」といった悪質な目的の人も存在します。
1時間以上といったあまりにも長時間、暴言や罵倒を浴びせられると、従業員が精神的ダメージを受けてしまいますし、業務の遅延も招くのです。
②暴言を吐かれる
あまりにも不当な暴言や要求は、従業員へ大きな精神的負担を与えます。たとえば「死ね」「クズ」といった過激な発言や「土下座しろ」「今すぐ家までもってこい」といった無理な要求など。
このようなカスタマーハラスメントを受けた従業員は精神的に疲弊してしまうでしょう。暴言は紛れもないカスタマーハラスメントですが、「お客様は神様」の精神が社会に根付いているのも大きな問題といえます。
③脅迫される
度を越した要求や威嚇行為をともなった暴言や金品の請求などは、脅迫や恐喝罪、強要罪や威力業務妨害罪などにあたります。たとえば「SNS上で動画アップしてやるぞ!」「お前じゃ話にならないから上を呼べ!」「迷惑料を払え!」など。
新人スタッフや外国人従業員がこのような威嚇的なカスハラに耐えきれず、離職してしまうのも少なくありません。深刻な人材不足の原因にもなりえるのです。
4.カスタマーハラスメントによって企業が受ける被害
カスタマーハラスメントは、従業員に精神的ダメージを与えるだけではありません。近年、SNSやネットによる酷評や中傷が企業のイメージダウンにつながるなど、さまざまな被害が発生しているのです。
ここでは具体的に企業がどのような被害を受けるのか、説明します。
従業員の離職
悪質な迷惑行為やカスタマーハラスメントを受ける従業員には、大きなストレスがかかってしまいます。特に暴力や土下座の強要、ネットでの誹謗中傷などを経験した人ほど大きなストレスを感じる傾向にあり、仕事を辞めてしまうケースも少なくありません。
従業員の離職につながるカスハラは、企業にとって大きな損失でしょう。
イメージダウンや業績悪化
従来のカスタマーハラスメントは、長時間拘束や暴言などがほとんどでした。しかし近年、ネットやSNS上への書き込みをして、企業へダメージを与える嫌がらせも増えています。
匿名で投稿できるネットや、スマートフォンで手軽に悪評を拡散できるSNSによって、企業のイメージダウンや業績悪化につながる被害も増えているのです。「ネットに書き込んでやる」「評判を悪くするぞ」といった脅しも、カスハラに該当します。
安全配慮義務違反
企業には「安全配慮義務」という、業務上での怪我や病気、危険業務から従業員の安全を配慮しなければならない義務があります。
たとえばカスタマーハラスメントによって重度のストレスを抱えた従業員に対して、企業が何も改善を行わなかった場合、企業は安全配慮義務違反と見なされ、従業員は損害賠償請求を行えるのです。
従業員が悪質なクレームやカスハラによって苦しんでないか、日ごろから注意しておく必要があるでしょう。
5.企業によるカスタマーハラスメントへの対策
カスタマーハラスメントを減らす方法があれば一番ですが、悪質なクレームや嫌がらせをしてくる人を完全に避けるのは難しいでしょう。企業として従業員を守り、カスハラによる被害を減らすためには、どう対策すればよいのでしょうか。
- 従業員1人に任せない
- マニュアルを作成する
- 証拠を残す
- 研修を行う
- 警察へ通報、または弁護士へ相談する
①従業員1人に任せない
嫌がらせをしてくる人の対応を従業員1人に解決させず従業員が上司や先輩に相談でき、必要があれば上司や先輩が対応を代われるような仕組みづくりが必要です。
上司が対応すると、カスハラする人を牽制できます。相談窓口といったカスハラに対応する部署の用意も有効でしょう。下手に出た対応ではカスハラをする人が強気になってしまうため、堂々とした丁寧な対応が重要です。
②マニュアルを作成する
カスタマーハラスメントに対するマニュアルを作成しておけば、さらに被害を防止できるでしょう。カスハラ対応時の方法を社内で定めておき、トークスクリプトを用意しておくことは有効です。
このようなマニュアルを整備し、どの従業員もカスハラ対応できるようにしておけば、対応や精神的ダメージの軽減につながります。マニュアルには想定されるカスハラへの対応を記載しておきましょう。
③証拠を残す
カスタマーハラスメントに対抗する手段として有効な方法が、証拠を提示すること。たとえば取引先との想定されるトラブルを避けるため、事前に取り決めを書面に残しておけば、万が一トラブルになった際に物証として提示できます。
カスハラする顧客に直接対応する際は、ボイスレコーダーを利用して音声による証拠を記録しておきましょう。悪質なクレームや暴言をボイスレコーダーに残しておけば、警察へ提示する証拠になります。カスハラに対抗する有力な武器となるでしょう。
④研修を行う
カスタマーハラスメントによる従業員の離職を防ぐためにも、カスタマーハラスメント研修を行って、対応する知識を身につけましょう。
正しい知識をつけておけば、不要なトラブルを回避できます。また過去に受けたカスハラ事例や対応策などを共有しておけば、同じカスハラが発生した際に一貫して対応できるでしょう。
⑤警察へ通報、または弁護士へ相談する
あまりにも度を超えた悪質なカスハラに対しては、法律の力で対処するしかありません。業務に支障をきたし、企業の業績低下にもつながるカスハラは、社内だけでは対応しきれない場合もあります。
「社内で対応しきれない」「従業員に危険が迫っている」と危機を感じた際はすぐ、警察へ通報し弁護士へ相談しましょう。警察や弁護士にボイスレコーダーや書面などの証拠を提示すれば、さらに有利になります。
6.カスタマーハラスメントにおけるNG対応
カスハラをする顧客を刺激せずに対応できれば、拘束時間を軽減し、被害を最小限に抑えられます。カスハラにおける「やってはいけないNG対応」を知り、正しい対応方法で被害を抑えましょう。ここでは、カスハラにおけるNG対応について説明します。
相手の話を遮る
自分の要求や疑問点を解消したいだけの人が話を遮られると、「話を聞いてくれない」「一方的に冷たい対応をされた」など対応が気に入らず、逆上してしまう可能性も高いです。
相手の話をよく聞き、相手が一方的に話をまくし立ててきても冷静に落ち着いて対応しましょう。
対応が遅い
対応が遅いと、カスタマーハラスメントが悪化する原因となります。「保留時間が長い」「対応をたらい回しに次々と引き継がれている」といった対応から二次被害に発展する場合もあります。
カスハラをする相手でも迅速な対応を行うよう努めましょう。たとえば電話対応にて自分の知識で対応しきれない場合、一度確認してから折り返したり、上司に対応を代わってもらったりします。
7.厚生労働省におけるカスタマーハラスメントの指針
厚生労働省は、カスタマーハラスメントへの対策をマニュアル化して嫌がらせに対抗していく指針を示しています。カスハラは顧客という立場があるためパワハラやセクハラのような対策が立てにくく、対策は企業全体として行う必要があるのです。
厚生労働省の指針
カスタマーハラスメントが起きた際の相談担当者として上司や職場内での担当者を明確に定めておきましょう。悪質なクレームにあった際は1人で解決しようとせず、相談担当者に相談して解決に努めます。
またカスハラに対するマニュアルと研修を徹底し、悪質なカスハラに対する対応を身につけておくのもよいでしょう。
参考 カスタマーハラスメント対策企業マニュアル厚生労働省