退職金制度とは? 概要や必要性、導入を考える中小企業向けの制度について

退職金制度とは、企業が独自に設ける制度です。ここでは制度の概要や中小企業向けの制度などについて、解説します。

1.退職金制度とは?

退職金制度とは、企業がそれぞれに作成している就業規則に則り、労働者の退職・解雇の際に退職金を支給する制度のこと。正式名称を退職給付制度といいます。ここでは、退職金制度のはじまりと現在について解説しましょう。

退職金制度のはじまりと現在

退職金制度のはじまりは、江戸時代の「のれん分け」にあるとされています。明治時代、個々の労働者の退職時に功労金支給を支給する制度が大企業を中心に普及していきました。さらに1936年になると、退職積立金及退職手當法が制定されたのです。

そのあと同法が廃止され、1959年に中小企業退職金共済法が制定、1962年に退職金税制が導入されました。現在、退職給付制度がある企業は、年金・一時金を含み約89%に上っています。

退職金制度は、各企業が就業規則に則り、労働者の退職時・解雇時に退職金を支給する制度です。正式名称を「退職給付制度」といいます

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2.退職金制度のメリット

退職金制度について労働基準法で明確な定めはなく、雇用契約によってのみ取り決められます。このような退職金制度には、メリットがあるのです。人材の確保と勤労意欲の向上というポイントから、退職金制度のメリットについて解説しましょう。

人材の確保と勤労意欲の向上

少子高齢化により、労働力不足が社会問題になっている昨今、優秀な人材の確保は企業の死活問題です。安定した退職金制度を設けると、勤労意欲を向上させながら優秀な人材を確保できます。

退職金制度のメリットとして挙げられるのは、優秀な人材の確保と労働者の勤労意欲向上です

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3.退職金制度の種類

退職金制度の種類は、4つに分かれます。それぞれについて解説しましょう。

  1. 退職一時金制度
  2. 確定拠出年金制度
  3. 確定給付企業年金制度
  4. 中小企業退職金共済制度

①退職一時金制度

退職一時金制度とは、社員の退職時、会社が当該社員に対し一時金として退職金を支給する制度こと。次のような特徴があります。

「退職事由により一時金の額に差をつける」のように、企業ごとで柔軟に制度が設計できる

  • 退職者数によって企業の負担する資金が変動する
  • 各企業の就業規則にもとづく

②確定拠出年金制度

確定拠出年金制度とは、個人別に年金資産が管理され、本人の運用実績により将来の給付額が変動する制度のこと。次のような特徴があります。

  • 一部の例外を除き、5万5,000円以下で掛金を決定し、拠出する
  • 資産運用の指図は労働者が自己責任で行う
  • 受け取りは60歳以降となる

③確定給付企業年金制度

確定給付企業年金制度とは、企業が掛金を拠出し、運用・管理・給付を一元管理して、退職者の年金給付額を保障する制度のこと。下記の2種類があります。

  • 企業から委託を受けた信託銀行といった金融機関が、年金資産の運用から給付までを行う規約型
  • 基金が年金資産の運用から給付までを行う基金型

確定給付企業年金制度の加入者は原則、制度を実施する事業所に使用される厚生年金保険の被保険者です。

④中小企業退職金共済制度

中小企業退職金共済制度とは、中小企業向けに社外積立を行う退職金制度のこと。特徴は下記のとおりです。

  • 企業が掛金の拠出を行う
  • 退職金は基本、退職金と付加退職金の合計額となる
  • 原則は一時金払いで、一定の条件を満たした場合、5年もしくは10年の分割払いを選択できる

退職金制度は、「退職一時金制度」「確定拠出年金制度」「確定給付企業年金制度」「中小企業退職金共済制度」の4つです

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4.一時金制度と年金制度の違い

退職金制度は、退職金を退職時に一括して受け取る「一時金制度」と退職金を、退職時以降に年金として分割して受け取れる「年金制度」の2つに分かれます。それぞれについて解説しましょう。

一時金制度のメリット

一時金制度のメリットは、下記のとおりです。

  • 退職所得はほか所得と分けて計算を行う分離課税で、税負担が軽減される
  • 健康保険や雇用保険、厚生年金保険といった社会保険料がかからない
  • 退職後に国民健康保険へ加入する場合、国民健康保険料の計算対象となる前年度所得の対象外となる

一時金制度のデメリット

一時金制度のデメリットは、企業負担の大きさです。

平成15年4月から退職給与引当金制度が廃止され、退職一時金の積み立てに対する企業の税制優遇措置がなくなりました。結果、退職一時金制度における費用負担は企業年金制度と比較して、3割程度高くなったのです。

また一度に大量の退職者が出た場合、一時的ながら企業に資金の負担が重くのしかかってきます。

年金制度のメリット

年金制度のメリットは、下記のとおりです。

  • 企業年金などの掛金が全額即時損金算入となり、拠出時点で節税できる
  • 運用益は非課税のため、資金の運用効率があがる
  • 支払いを事前積立の取り崩しで対応するため、キャッシュアウトが平準化できる
  • 企業年金に加入し掛金を拠出すると、債務急増時のリスクを縮小・回避できる

年金制度のデメリット

年金制度のデメリットは、下記のとおりです。

  • 勤続年数にかかわらず、給付減額の可能性がある
  • 積立不足が生じる可能性もあり、その場合、将来の掛金負担が不確定となる
  • 原則、60歳まで受給できない

一時金制度・年金制度にはそれぞれメリット・デメリットがあります。両方の特徴を理解しておきましょう

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5.退職金制度の相場額

退職金制度は企業独自の制度であるため、相場額は業種規模・地域モデルなどによって、大きく異なるのです。ここでは下記2つとともに相場額のモデルを解説します。

  1. 退職金の計算方法
  2. モデル退職金

①退職金の計算方法

退職金の計算方法は、下記のとおりです。

  • 勤続年数と退職時の賃金を掛けて計算する
  • 独自に退職金規定を組み、そこに規定された計算式を用いる
  • 共済型の場合、掛金によってあらかじめ計算式が決まっている

一般的に退職金は、定年退職・早期退職を除き、勤続年数・会社の辞め方の両方を勘案し、変動させて計算します。

②モデル退職金

モデル退職金を学歴別・退職事由別に紹介しましょう。管理・事務・技術職の場合、大学・大学院卒で、以下のとおりとなります。

  • 定年退職…1,983万円
  • 会社都合…2,156万円
  • 自己都合…1,519万円
  • 早期優遇…2,326万円

高校卒の場合は、以下のとおりです。

  • 定年退職…1,618万円
  • 会社都合…1,969万円
  • 自己都合…1,079万円
  • 早期優遇…2,094万円

退職金制度は、企業が独自に設けている制度です。退職金の計算方法は、業種・地域などによって異なります

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6.企業が退職金制度を廃止する場合

退職金制度を廃止するケースも増えているのです。ここでは以下について解説します。

  1. 退職金制度を廃止するためにすべきこと
  2. 打切支給を実施する

①退職金制度を廃止するためにすべきこと

企業が退職金制度を廃止するためにすべきことは、以下のとおりです。

  • 退職金制度の変更、廃止の必要性などを労働者へ説明する
  • 制度の廃止による不利益が緩和される措置を検討する
  • 労働者から自由な意思にもとづいて、制度の変更や廃止に関する同意を取得する
  • 就業規則の退職金規程を変更・廃止したうえで、新規採用者に対し、その旨を明示

②打切支給を実施する

企業が退職金制度を廃止する際、打切支給を実施するケースもあります。

打切支給とは、退職金制度廃止により支給される退職金のこと。すぐ労働者へ支払わず廃止までの勤続期間に係る退職金資産を、企業が管理し、退職時まで支給を据え置くのも可能です。打切支給で支給される退職金は原則、給与所得として扱われます。

退職金制度を廃止する際は、労働者に対して丁寧に説明しましょう。そのうえで不利益緩和措置を検討します

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7.中小企業向けの制度

企業単独の運用が難しい中小企業向けの退職金制度として、中小企業退職金共済制度があります。ここでは中小企業退職金共済制度について、解説します。

中小企業退職金共済制度の歴史と目的

中小企業退職金共済制度は、昭和34年に中小企業退職金共済法にもとづいて設けられた中小企業向けの退職金制度のこと。

独立行政法人勤労者退職金共済機構・中小企業退職金共済事業本部が運営しており、目的は、中小企業の相互共済・国の援助によって下記を進めることです。

  • 中小企業の従業員に対して、福祉の増進と雇用の安定
  • 中小企業の振興と発展に寄与する

中小企業退職金共済制度の仕組み

中小企業退職金共済制度の仕組みは、下記のとおりです。

  • 中小企業の事業主が、中小企業退職金共済本部と退職金共済契約を結ぶ
  • 事業主が指定した預金口座から、毎月の掛金を振り替える
  • 労働者の退職時、労働者の請求にもとづいて本部から退職金を直接支給する

現在の状況は、下記のとおりです。

  • 加入する企業数…36万9千所
  • 従業員数…344万人
  • 運用資産額…4兆9158億円

中小企業退職金共済制度のメリット

中小企業退職金共済制度には、6つのメリットがあります。それぞれについて解説しましょう。

  1. 国が掛金の一部を負担
  2. 管理が容易
  3. 短時間労働者に特典
  4. 掛金が非課税
  5. 掛金の月額が選べる
  6. ポータビリティ

①国が掛金の一部を負担

新規に制度へ加入する事業主に対して掛金月額の2分の1、上限5,000円を、加入後4カ月目から1年間助成する制度が設けられています。また掛金を増額する事業主に対しても、一定の要件のもとで増額分の3分の1を、増額月から1年間、国が助成してくれるのです。

②管理が容易

中小企業退職金共済制度では、加入労働者ごとの納付状況や退職金試算額を、共済本部が年1回、事業主に通知します。下記についても共済本部が行うため、管理が容易です。

  • 退職による掛金振替の中止
  • 労働者へ振り込み前に連絡
  • 労働者の預金口座へ振り込み

③短時間労働者に特典

短時間労働者には、下記のような特典が用意されています。

  • 一般の労働者より低い特例掛金月額を設定している
  • 掛金月額4,000円以下の短時間労働者へは、新しく制度に加入する事業主への助成に上乗せして、規定額を助成する

④掛金が非課税

中小企業退職金共済制度の掛金は、「法人企業は損金」「個人企業は必要経費」として処理されるため、全額非課税です。ただし資本金額か出費の総額、どちらかが1億円を超える法人に対する法人事業税には、外形標準課税が適用されます。

⑤掛金の月額が選べる

  • 掛金月額は、5,000~3万円まで計16種類
  • 短時間労働者への特例掛金は、2,000円、3,000円、4,000円の計3種類

があり労働者ごと任意に選択・増額できます。ただし減額には、労働者の同意か厚生大臣の認可、どちらかが必要になるのです。

⑥ポータビリティ

  • 一部を除き、初めて中退共制度に加入する事業主に限り、加入前の勤務期間分についても掛金を納付できる
  • 労働者の転職前に積み立てられていた退職金を、転職後も引き継げる

といった通算制度が用意されています。これにより労働者は、まとまった退職金を手にできるのです。

中小企業退職金共済制度には、メリットが多くあります。中小企業の事業主は、これら制度を企業経営に役立てましょう