近年、企業経営にてレピュテーションリスクへの注目が高くなっているのです。レピュテーションリスクが発生する主な原因や、企業にもたらす影響などについて解説します。
目次
1.レピュテーションリスクとは?
レピュテーションリスク(reputation risk)とは、企業に関するネガティブな評価が広まった結果、企業の信用やブランド価値が低下し損失を被るリスクのことです。SNSの普及により社会的な認知がより売上やブランドに影響を与えるようになったため、悪評が広がらないためのリスク管理が重要になりました。
企業などの評判が悪化すること
レピュテーションリスクは、「評判リスク」や「風評リスク」ともいわれるのです。レピュテーション(reputation)とは英語で「評判」「名声」「世評」などを意味し、リスク(risk)は「危険」「恐れ」を意味します。
たとえば「アルバイトが厨房内で悪ふざけをしている動画がSNSで配信された」といった事例です。
レピュテーションリスクが注目される背景
レピュテーションリスクが注目されるようになった背景には、情報の高度化が挙げられます。
インターネットの普及によって企業やブランドの認知度が向上し、企業に対するユーザーの期待感が増幅しやすくなった反面、個人による情報の拡散もよりかんたんになりました。
経済産業省による「事業リスク評価・管理人材育成システム開発事業」では、レピュテーションリスクは11あるリスクのうち「技術・製品要因リスク」「市場リスク」「信用リスク」「情報システムリスク」に次いで5番目に重要なリスクと認識されています。
オペレーショナルリスクとの違い
「レピュテーションリスク」と似た言葉に「オペレーショナルリスク」という用語があります。オペレーショナルリスク(operational risk)とは、すべての企業に存在する通常業務(オペレーション)に係るリスク全般のこと。
広義には市場リスクや市場リスクなども含むため、オペレーショナルリスクはレピュテーションリスクやそのほかリスクを包括する用語として用いられます。
ブランドとの違い
「ブランド」も「レピュテーション」と似た概念を持つ用語です。企業側から「価値」を演出し、サービスを受ける側がそれを受け入れて確立されるのが「ブランド」です。
対する「レピュテーション」の主軸となるのは企業側ではなく世論や世間など評価する側。ブランドが「企業がユーザーに演出している姿」であるのに対し、レピュテーションは「ユーザーから企業が見られている姿」として区別できます。
2.レピュテーションリスクが発生する主な原因
企業経営にとって重要な要素と見なされるようになった「レピュテーションリスク」はなぜ、発生するのでしょう。その原因や実際に起きた事例について説明します。
内部告発
レピュテーションリスクが発生する原因のひとつが、不適切な労働環境や従業員の不正行為により発生する「内部告発」。
「大手食品加工会社が原産国や原料を偽装していた」「大手ゼネコンが建築基準法違反の工事をしていた」といった事例に聞き覚えがあるでしょう。レピュテーションリスクを回避するには、不正な業務を行わないという前提が重要です。
根拠のない風評被害
SNSやブログに根拠のない風評被害が広がるのも、レピュテーションリスクが発生する原因のひとつです。「退職した元社員によって会社の悪い噂や口コミを流された」「転職サイトや掲示板などに愚痴や文句が書き込まれていた」というケースも少なくありません。
誹謗や中傷はその事実が如何であれ、あっという間に拡散されます。根拠のない風評被害から会社を守るためには、日頃からクリーンな経営を心掛け、顧客満足度を高めておくとよいでしょう。
不祥事
社員の不祥事も、レピュテーションリスクが発生する原因です。顧客情報の流出やセクハラ・パワハラの発覚、近年では「バイトテロ」と呼ばれるアルバイト店員の不適切な言動も該当します。
事件を起こしたのが正社員であれバイトや派遣社員であれ、一旦不祥事が起これば雇用主である企業の責任が問われます。
また残念ながらSNSをはじめとするネット上に拡散されたデータは完全な消去が難しいもの。1つの不祥事を何年にもわたって引きずるというのも、十分考えられるのです。
商品の質やサービスの低下
たとえ内部告発や不祥事を起こしていなくても、レピュテーションリスクが発生するケースもあります。その理由のひとつが「商品の質やサービスの低下」。
「あのお店の態度は最悪だった」「同じ価格なら別のお店で買った方が大きい」といった評判は、SNSを通じて瞬く間に悪評として拡散されます。「期待を裏切られた」と感じたユーザーが、別の商品やサービスに流れるのも十分考えられるでしょう。
同業他社の業績悪化
同業他社の業績悪化もレピュテーションリスクのひとつです。同業他社の業績悪化が明らかになると、たとえ自社の業績が悪化していなくても「この会社も実は経営が危ないのでは」「業界自体、危険なのでは」という憶測が広まります。
ネガティブな憶測から、結果として本当に会社の経営が傾くというのも十分考えられるのです。これを回避するには、企業として積極的な情報発信が重要です。
レピュテーションリスクの事例
続いて実際に発生したレピュテーションリスクの事例について説明します。賞味期限や食品産地の偽装による内部告発、アルバイト店員による不祥事、「ちょっとした冗談」から始まった風評被害の拡大による破綻危機の3パターンをみていきましょう。
高級料亭の賞味期限、食品の産地の偽装
2008年、大阪市中央区に存在した高級料亭「船場吉兆」が廃業しました。原因となったのは「賞味期限の偽装に始まる商品産地の偽装」「無許可での梅酒造り」「客の食べ残し再利用」など、多くの不祥事に対する内部告発です。
企業は偽装をパート社員の責任、産地偽装は納入業者によるものと回答。これが信用を失う結果となりました。
アルバイト店員による不祥事
コンビニエンスストア「ローソン」の店内に設置された冷蔵ケースのなかに、アルバイト店員が寝転がった写真がSNS上で拡散されました。
写真はネット上に拡散され炎上状態に。アルバイト店員による不祥事には「不衛生ではないか」「食品を取り扱うお店としてあってはならない行為」という意見が相次ぎ、ローソンは当該店舗とのFC契約を解除する結果となりました。
風評被害による信用金庫破綻の危機
些細なジョークが風評被害に拡大し、その結果破綻の危険に追い込まれた事例もあります。女子高生の「信用金庫は銀行強盗に襲われるから危ないよ」という会話は、就職が決まっていた同級生をからかうジョークに過ぎませんでした。
しかしこのジョークが「この信用金庫は経営が危ない」という噂になり、最終的には短期間の間に20億円もの預貯金が引き出される事態になったのです。
3.レピュテーションリスクが企業にもたらす悪影響
一度下がった企業価値を元に戻すのは非常に困難です。業績だけでなく企業の信用やブランド価値が下がり、結果として資金繰りが困難になる可能性もあります。ここではレピュテーションリスクが企業にもたらす悪影響を、以下2つの側面から説明します。
- 信頼回復に多大なコストがかかる
- 優秀な人材が集まらなくなる
①信頼回復に多大なコストがかかる
レピュテーションリスクが顕在化すると、企業は次の3つの損失を被ります。
- 広告宣伝やコンプライアンス遵守のための専門家報酬など、信頼回復のための活動にコストがかかる
- 企業価値と収益の損失
- 業務停止命令や免許停止などの行政手続きによる損失
いずれも一度受けた損失は一朝一夕に回復できません。回復には多くの時間とコストがかかります。
②優秀な人材が集まらなくなる
レピュテーションリスクが採用活動に影響し、優秀な人材が集まらなくなる可能性も考えられます。なぜならば応募者は必ずといっていいほど事前に企業情報や評価を得たうえで就職活動に臨むからです。
ポジティブな評判ばかりであれば問題ありませんが、ネガティブな評判があった場合、一度ネット上に出回ってしまえばその評判を回復するのは困難です。ネガティブな評判を目にした応募者が辞退して、充実した採用活動が困難になる恐れもあります。
4.レピュテーションリスクの回避方法と対策
レピュテーションリスクは、企業の社会的信用を失墜させかねません。回避するには、どのような対策を講じればよいのでしょうか。ここではレピュテーションリスクの回避方法とリスクマネジメントの方法について説明します。
レピュテーションマネジメントを行う
レピュテーションマネジメントとは、傷ついたレピュテーションの回復、良いレピュテーションの獲得や維持を目的とした活動のこと。企業評価やブランドイメージに積極的に関わり、これらを自社が目指す方向へコントロールするための取り組みです。
不祥事が発生した際の会見、広告や広報活動などが該当します。
レピュテーションマネジメントの対象となるステークホルダー
レピュテーションマネジメントのステークホルダー、すなわち直接的・間接的な利害関係を有する対象となるのは以下の人物です。
- 消費者や取引先
- 消費者に高い影響力を持つインフルエンサー
- 企業の社会的評価に注目する社員
- 企業の将来性に着目して出資を行う株主
企業にかかわるあらゆる人物が、レピュテーションマネジメントの対象です。ステークホルダーごとに評価するポイントが異なるため、マネジメントを行う際は注意しましょう。
ステークホルダー(利害関係者)とは? 意味と具体例を簡単に
ステークホルダーとは、企業活動の影響を受ける利害関係者のことです。ここではステークホルダーの種類やマネジメント、良好な関係を築くためのポイントや各企業の取り組み実例などについて説明します。
1.ステ...
5.レピュテーションマネジメントは2種類
ひとことで「レピュテーションマネジメント」といっても、その具体的な活動は次の2つの種類に分かれます。
- 平常時のコミュニケーションに該当する「攻めのレピュテーションマネジメント」
- 緊急時のコミュニケーションにあたる「守りのレピュテーションマネジメント」
①平常時のコミュニケーションに該当する「攻めのレピュテーションマネジメント」
もともと評価の悪くない企業がその評価を低下させず、さらに向上を図るコミュニケーションのこと。
企業評価を維持するだけでは成長につながりにくいため、SNSで影響力を持つインフルエンサーや広告、IRや社内広報といったメディアを活用して自社の評判を積極的に高めます。
②緊急時のコミュニケーションにあたる「守りのレピュテーションマネジメント」
先に挙げた不祥事や風評被害などによって、一度下がってしまった企業評判を取り戻す取り組みのこと。
自社にとって好ましくない事象が発生した際は、迅速な対応と関係者全体が一丸となった真摯な対応が必要です。あらかじめ自社サービスや製品にデメリットとなり得る部分があると分かったら、先に公表して評価の低下を最小限に食い止める場合もあります。
レピュテーションマネジメントの具体的な内容
レピュテーションマネジメントの取り組みとして具体的に、どのような活動が挙げられるのでしょうか。ここでは「平常時」と「緊急時」に分けて、レピュテーションマネジメントの具体的な活動内容について説明します。
平常時
平常時は企業評価を可能な限り向上させるため、評価のプラスに働く活動を行います。具体的な内容は以下です。
- 日頃から顧客と連絡を取り合う
- 消費者や顧客の意見に耳を傾ける
- 揺るぎない企業姿勢の形成とブランディングを行う
上記を重点的に行い、ステークホルダーのために動く姿勢を見せて、良好な関係を築きましょう。
緊急時
緊急時のレピュテーションマネジメントとして特に重要なのは、リスクに備えた準備をしておくこと。以下を重点的に意識して、リスクが顕在化した際でも速やかに対処できるよう準備しておきましょう。
実際に問題が発生し、レピュテーションマネジメントを活用する際に必要なマニュアルを用意しておく(第一報の発信や記者会見、広報担当の窓口など)
- 問題発生時の社内フローを徹底しておく
- 問題が起きたと想定して模擬訓練を行う
- 危機対応の事例を自社に置き換えて想定する
レピュテーションリスクの測り方
そもそも企業はどのように自社の評判を知ればよいのでしょう。レピュテーションリスクの測り方には次のような方法があります。
大手企業の場合は「働きたい会社ランキング」「ブラック企業ランキング」などの報道調査結果を参照する
中小やベンチャー企業の場合は取引先や顧客、株主などへのアンケートを通じて自社評価を測定する
レピュテーションリスク専用の保険
レピュテーションリスクに備えた専用の保険もあります。マスメディアの報道によって影響を受けた場合、総合PRコンサルティング会社への相談や対策にかかった費用などを補償する保険です。
プランによってはレピュテーションリスクが顕在化した際に必要な費用を補償するだけでなく、ネガティブな情報が公表される前の対策費を補償するものもあります。