ポジティブアクションとは、男女の均等な取扱いを実現するための取り組みです。ここでは取り組むメリットやデメリット、実際に取り組んだ企業の事例について解説します。
目次
1.ポジティブアクションとは?
ポジティブアクションとは、固定的な男女による役割分担をなくし、働く意欲と能力のある女性が活躍できるよう企業が自主的に行う取り組みのこと。
似た意味を持つ言葉に、「男女雇用機会均等法」「女性活躍推進法」「アファーマティブアクション」などが挙げられます。
企業による女性が活躍できるようにするための取り組み
ポジティブアクションは、社内制度に男女差別的な取り扱いがないにもかかわらず、「思うように女性管理職が増えない」「女性の職域が広がらない」といった課題を抱える企業に必要となる取り組みです。
そもそも男女雇用機会均等法とは?
もともと日本では「男女雇用機会均等法」という法律で男女格差をなくすよう定めています。ただし1986年に施行されたこの法律は、あくまでも「雇用」における機会について、性差なく確保しようとして定められたもの。
社内組織における部署間や役職における差までは法律で埋められていませんでした。そこで会社独自にはじめているのが「ポジティブアクション」という取り組みです。
2016年には女性活躍推進法が施行
1986年に「男女雇用機会均等法」が施行されてしばらくしてから、女性が働きやすい環境づくりを企業に求める法律が定められました。それが「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」、通称「女性活躍推進法」です。
目的は「女性が自身の意思によってキャリアを構築する」「スキルを十分に発揮できる社会づくりを目指す」などになります。
日本の課題
いうまでもなく日本の総人口は減少傾向にあり、労働力人口は右肩下がりに減少しているのです。労働力の確保には潜在的労働力である女性の就業率を上げる必要があります。
しかし現実的に見れば、管理職に占める女性の割合が欧米では3割を超えるのに対して、日本では1割程度。国際的に見てもまだまだ水準が低いと指摘されています。
アファーマティブアクションとの違い
「ポジティブアクション」と似た言葉に「アファーマティブアクション(Affirmative Action)」という用語があります。
直訳すれば「積極的格差是正措置」のこと。女性や有色人種、障がい者など、マイノリティと呼ばれていた人たちが過去に受けた教育に関する差別をなくそうとする取り組みのこと。
海外ではポジティブアクションとほぼ同義に用いられるものの、日本ではポジティブアクションを「女性労働者」に対する改善措置として強く押し出しています。
2.企業がポジティブアクションに取り組むメリット
男女間の差別をなくし、働く意欲と能力のある女性が活躍できるようにする「ポジティブアクション」。これに取り組むと、企業はどのようなメリットを得られるのでしょう。以下4つの視点から説明します。
- 女性のキャリア意識が上がる
- 優秀な人材が集まる
- 企業のイメージが上がる
- 取り組む企業には助成金が与えられる
①女性のキャリア意識が上がる
ポジティブアクションが女性社員の可能性を広げることは明らかで、取り組みによってキャリアアップ意識の醸成に役立ちます。受動的に業務をこなしていくのではなく、能動的に活動の場を広げていくと、能力や貢献度の向上が期待できるでしょう。
②優秀な人材が集まる
女性特有の価値観や創造性を取り入れられれば、新たな生産性の可能性も広がるでしょう。これまでは男性に偏っていた状況が女性に向きます。そのため新たな価値観を持った人材やさまざまな能力を持つ人材と出会うチャンスにも、つながるのです。
③企業のイメージが上がる
女性が活発に働ける企業と女性の進出が難しい企業。現代社会にてどちらの企業イメージが良いかはいうまでもありません。ポジティブアクションは男女間の差を解消し、社員の能力を均等に発揮、育成させようという積極的な取り組みです。
ポジティブアクションに取り組むと、会社は「人を大切にしている企業だ」という姿勢を顧客や株主、取引先や転職市場などにアピールできます。
④取り組む企業には助成金が与えられる
2014年4月より、女性の管理職登用や女性の職域拡大を行った事業主に助成金が支給されるようになりました。この「ポジティブ・アクション能力アップ助成金」を受けるには、5つの取り組みをすべて実施する必要があります。
- ポジティブアクションに関する数値目標を設定している
- ポジティブアクション研修を30時間以上実施している
- 「ポジティブアクション情報ポータルサイト」内に数値目標と企業代表者名を掲載している
- 掲載日から6か月経過後3年以内に数値目標を達成している
- 女性労働者のうち少なくとも1名がポジティブアクション研修に参加している
3.ポジティブアクションのデメリット
ポジティブアクションにはデメリットも存在するのです。その中でも最たるものが「男性に対する逆差別にあたるのでは」という問題でしょう。
男性社員が不満を感じる可能性がある
ポジティブアクションにより女性の雇用を優遇しすぎるあまり、男性の雇用を疎かにしてしまう可能性があります。
「実際の能力よりも性別を優先することで生産性が低下している」「妬みなどで組織に不協和音が生じている」「優遇されていない側が不平等さを感じる」といった問題は、先に同様の取り組みを行ってきた海外諸国でも問題となっているのです。
4.ポジティブアクションの取り組み方法
社員一人ひとりの能力発揮を促進するだけでなく、企業にもさまざまなメリットをもたらすポジティブアクション。このポジティブアクションにはどのような方法があるのでしょうか。
ここではポジティブアクションに取り組む際、抑えておきたいいくつかのポイントと手法について説明します。
女性の採用と職域の拡大
当然とながら、女性管理職の比率を高めるためには「女性社員の比率」「女性採用数」「採用活動における女性応募者」を増やしていかなければなりません。女性注目度の低い企業や業種によってはこれが第一の関門になります。
この問題を解決するには非正規社員の正社員登用の促進、正社員転換への条件緩和などが効果的です。
女性管理職の数を増やす
女性管理職の数を増やすためには、いくつかの課題に対応する必要があります。
- 昇進、昇格規定の見直し
- 運用面での改善
- 女性社員の能力開発
- 女性管理職の実現に向けた動機づけ
- 女性管理職候補者を対象とした研修の実施
- メンター制度の導入(直属上司以外の先輩が仕事上の相談にのり、アドバイスを行う)
女性の勤続年数を伸ばす
短期・単発で女性管理職を増やすだけでなく、女性の勤続年数そのものを伸ばすための働きも必要です。少子高齢化が進む昨今、仕事と家庭の両立は男女ともに共通の課題でしょう。
産休、育休制度だけでなく、テレワーク勤務や時短勤務など柔軟な働き方を整えて、仕事と家庭を両立しやすい環境を整えます。休業後に職場復帰しやすくするための講習を実施したり、長期勤続に向けた生活設計についての相談窓口を設けたりするのも効果的です。
職場環境や風土を改善する
自社の職場環境や風土を見直してみましょう。男女の固定的な役割分担意識や、男性中心の職場慣行が依然として残っている場合、ポジティブアクションの推進は困難です。
この場合は「電話対応や会議準備などを男女均等に行うよう実施する」「固定的な役割分担意識を解消するための意識啓発研修を実施する」などの取り組みをもって、企業の風土改善に努めます。
ポジティブアクションを進めるための手法
ここではポジティブアクションを進めるための手法を3つ説明します。これらから各企業や組織などの特性に応じて効果的なものを選択しましょう。
- クオータ制
- プラス・ファクター方式
- ゴール・アンド・タイムテーブル方式
①クオータ制
性別や人種、宗教や民族などを基準にして、一定の人数や比率を割り当てる方法のこと。もともと1978年にノルウェーで制定された男女平等法にて、公的機関における男女割合を一定比率で割り当てるようにした手法です。
「クオータ」は直訳して「割り当て」となります。議員や閣僚などの一定数を、社会的・構造的に不利益を受けている者に割り当てるこの制度はすでに、100か国以上の国と地域で導入されています。
②プラス・ファクター方式
男女が同等の成績である場合、女性を採用・登用する方式のこと。能力判断の際、構造的に忍び込む女性の不利益な取り扱いを埋め合わせする手法です。
職務遂行能力が同等である場合、一方を優先的に取り扱って実質的な機会均等を実現する方式となります。しかし女性の点数や評価をかさ上げする幅はどう設定するかといった課題が残っているのです。
③ゴール・アンド・タイムテーブル方式
指導的地位に就く女性の数や割合について、達成すべき目標と達成期間の目安を示して男女格差の是正を目指す方式のこと。先に述べた「クオータ制」を柔軟化したものとして見られる場合もあります。
「ゴール・アンド・タイムテーブル方式」を強化するには、インセンティブやペナルティの付与、進捗の報告、説明させる制度設定などが効果的でしょう。
5.ポジティブアクションの事例と女性の活躍推進協議会
国内でもさまざまな企業でポジティブアクションの取り組みが進められています。それと同時に、厚生労働省では2001年よりポジティブアクションの取り組みをさらに広げるための「女性の活躍推進協議会」も開催しているのです。
ここでは実際にポジティブアクションに取り組んだ企業の実例と「女性の活躍推進協議会」について説明します。
日本アイ・ビー・エム
情報システムにかかわる製品・サービスを提供する日本アイ・ビー・エムでは、「社員の女性比率を16%まで上げる」「係長職以上の管理職比率の倍増」「課長職以上の管理職比率を13ポイント上げる」などを目標に掲げていました。
これに向けてすべての採用面接に女性面接官を配置。採用権限のあるポジションに女性を含め、社員の女性比率を1998年の13%から2003年には15.7%まで引き上げました。
住友スリーエム
住友スリーエムが目標としていたのは、女性の総合職および販売職の増加、そして毎年5名の登用を目標とした女性管理職の増加です。
同社では販売職の女性社員を増やすために販売職に異動した女性を対象とする「3Mセールス・カレッジ」や、販売職への転換を推奨した「キャリアチャレンジ説明会」「キャリアカウンセリング」などを実施。
その結果、販売職の女性社員数が2002年12月から翌3月までのあいだに10名ほど増加しました。
髙島屋
男女ともに働きやすい意識、風土の醸成を目標としていたのが髙島屋です。同社では係長職以上の女性比率を18%に引き上げることを目標に公正な評価を徹底。将来の経営者層候補に対してはより広い職務経験を積ませ、育成を強化しました。
また新卒採用においては男女の区別なく採用を実施。その結果、女性比率が男性比率を上回った年も多かったといいます。
帝人
帝人では海外ビジネスを通して女性活躍の意義を実感していました。そこで管理職を目指す女性が対象となった「女性活躍フォーラム」を開催。
女性管理職の増加を目指して社内外から役員ポストの人材を探すほか、配置転換やメンター制度を実施した「女性幹部育成強化プログラム」を導入し、女性役職者比率を2001年の3.1%から2003年には4.2%まで上昇させました。
福岡銀行
福岡銀行がポジティブアクションを導入するきっかけとなったのは、2000年の経営会議です。この会議により、融資部門や本部営業戦略部門など、これまで女性社員が少なかった分野に積極的に配置するための取り組みが行われました。
2001年にはいなかった女性スーパーバイザーも2年後には12名にまで増加。人権啓発室ではジェンダー研修を積極的に実施するほか、制服の廃止も決定しました。
女性の活躍推進協議会
「女性の活躍推進協議会」とは、行政と経営者団体との連携のもと、自主的かつ積極的にポジティブアクションへ企業が取り組めるよう促す試みです。
厚生労働省との共催によるシンポジウムや女性の活躍推進状況診断事業の実現など、ポジティブアクションへの関心、認知度を高めるためのさまざまな活動を行っています。
ポジティブアクション宣言
女性の活躍推進協議会では、企業の委員10名が自ら企業のメッセージを掲げた「ポジティブアクション宣言」を発表。目的は「協議会が先頭にたってモデル事例を提示し、これからポジティブアクションみを進めようと考えている企業に参考にしてもらう」こと。
「取り組みを進めるべきなのは分かるがどう進めていけばよいか分からない」「ポジティブアクションが会社にどのようなプラスをもたらすのか具体的に知りたい」といった企業を後押ししています。