介護休業とは、労働者が要介護状態にある家族を介護するための休業のことです。ここでは介護休業における法改正や企業が配慮すべきことなどについて、解説します。
目次
1.介護休業とは?
労働者が要介護状態にある家族を介護するために取得する休業制度のこと。介護休業の取得対象となるかどうかは、労働者の雇用契約や雇用期間によって、異なります。
対象となる労働者
介護休業の取得対象となるのは、以下の要件を満たした労働者です。
- 雇用契約期間の定めがあり、申出時点で同一の事業主に引き続き1年以上雇用されている
- 同じく雇用契約期間の定めがあり、取得予定日から起算して93日を経過する日から6カ月を経過する日までに契約期間が満了、かつその後契約が更新されないことが明らかでない
対象外となる労働者
介護休業の取得対象となるのは日々雇用を除いた労働者となるため、以下の場合、介護休業を取得できません。
- 雇用期間が1年未満である
- 申出の日から93日以内に雇用期間が終了する
- 1週間の所定労働日数が2日以下である
対象となる家族
労働者が介護休業を取得できる「対象家族」は以下のとおりです。
- 配偶者(事実婚の場合を含む)
- 子(養子を含む)
- 父母(養父母を含む)
- 配偶者の父母
- 同居かつ扶養している祖父母、兄弟姉妹および孫
「要介護状態」は身体や精神上の障がい・病気などにて、2週間以上の常時介護が必要な状態を指します。
休業できる期間
休業できる期間は「介護が必要な対象家族1人につき3回、通算93日まで」と定められています。
介護休業を介護の終わりまで専念することだととらえれば足りない日数でしょう。しかし介護休業は、介護サービスの利用手続きをはじめとした「働くための体制づくり」を目的としたものです。
介護休業は要介護認定の手続きや在宅介護に備えた住宅改修などにあてる期間として、考えられています。
2.介護休業と介護休暇・看護休暇の違い
間違えやすい介護休業と介護休暇・看護休暇の違いについて、解説します。
介護休暇との違い
2つの違いは、下記のとおりです。
- 介護休業:対象家族1人につき最大93日まで取得可能。原則、開始日の2週間前までに書面申請が必要
- 介護休暇:1年度で5日、当日の申請が可能。会社によっては書面が必要な場合もある
看護休暇との違い
看護休暇は労働者の子どもが病気や怪我になった際に取得できる法定休暇のこと。労働者は看護休暇によって子どもの予防接種や健康診断の付き添いなどを目的とした休暇を取得できるのです。
育児・介護休業法で定められた看護休暇の対象は、小学校就学までの子どもとなっています。
2.介護休業における法改正について
2017年、介護休業の法改正が行われました。同年1月1日から施行された法改正では以下の2点が改正され、対象となる有期契約労働者が介護休業を取得しやすくなったのです。
- 介護のための所定外労働が免除
- 分割取得できる
①介護のための所定外労働が免除
対象家族一人につき、介護の必要がなくなるまで残業の免除が受けられる制度です。同時に始業、終業時間の繰り上げ(繰り下げ)やフレックスタイムの利用など、所定労働時間を短縮する措置も取られるようになりました。
②分割取得できる
改正前までの介護休業制度では、対象家族一人につき通算93日、原則1回まで取得可能でした。それが本改正により、3回を上限として分割して取得できるようになったのです。
これには介護休業を分割して取得できなかった事業所と比較して、分割して取得できた事業所のほうが継続就業率が高かったという経緯があります。
3.介護休業給付金について
2017年の法改正では、介護休業給付金についても見直しが行われました。介護休業給付金とは、介護休業を取得し給料の一部(あるいはすべて)が支払われなかった労働者に対して給付される手当金のこと。
ここでは介護休業給付金の受給条件や受給期間、受け取れる金額について説明します。
受給要件
介護休業給付金を受給できるのは、以下の要件を満たした労働者です。
- 介護休業を開始する当日の前2年間で、完全月(賃金支払基礎日数が11日以上ある月のこと)が12カ月以上ある労働者
- 家族を介護するための休業を取得した雇用保険の一般被保険者である(あるいは高年齢被保険者である)
なお過去に基本手当の受給資格を得ていた場合、基本手当の受給資格決定を受けたあとのものに限られます。
受け取れる金額
法改正により、介護休業給付金の割合は40%から67%に引き上げられました。具体的な支給額は「介護休業給付金の支給額=休業開始時賃金日額×支給日数×67%」にて算出できます。
原則、休業開始時賃金日額は、介護休業開始前6か月の賃金合計額を180で除した額、支給日数は30日(介護休業終了日を含む支給対象期間は当該支給対象期間の日数)です。
受給期間
介護休業給付金の受給期間は、ひとつの休業期間が3か月を超える場合でも、あくまで3カ月が限度。続けて複数回休業を取得する場合、3回を上限として通算93日に達するまで支給されるのです。
たとえば令和3年6月1日から7月31日まで、同じ対象家族について2回の介護休業給付金支給を受ける場合、「令和3年6月1日から6月30日までが支給対象期間1回目」「令和3年7月1日から7月31日まで(休業終了日が7月31日)が、支給対象期間2回目」となります。
4.介護休業の申請方法
介護休業の取得にはどのような手続きが必要になるのでしょうか。企業では労務担当者が中心となって介護休業の開始日と介護終了日を決定し、会社へ報告、各種手続きを行わなければなりません。ここでは介護休業の申請方法について、5つの段階を説明します。
- 労働者に介護休業申出書を提出してもらう
- 労働者に介護休業期間や期間中の取扱いについて知らせる
- 労働者に仕事の引継ぎを行ってもらう
- 労働者と復職前面談を行う
- 企業がハローワークに介護休業給付金を申請する
①労働者に介護休業申出書を提出してもらう
はじめに要介護状態の家族がいる労働者から、会社に「育児・介護休業申請書」を提出してもらいます。法的に決められた書式はありません。各自治体が見本やフォーマットを用意している場合もあります。
申請書の提出期限は介護休業取得日の2週間前までです。会社は労働者に対して、申し出に係る対象家族が要介護状態であると証明する書類の提出を求められます。
②労働者に介護休業期間や期間中の取扱いについて知らせる
続いて対象となる労働者に介護休業の開始予定日や終了予定日を告知します。休業の対象となる期間、給与や所属など休業期間中の取扱い、休業後の労働条件などを明記した「休業取扱通知書」を用意するのが一般的です。
会社によっては休業期間中の福利厚生利用や、介護休業期間に変更が生じた場合の社内フローについて明記する場合もあります。
③労働者に仕事の引継ぎを行ってもらう
介護休業期間が確定したら、それに向けた仕事の引継ぎを進めてもらいます。業務面で配慮してほしいことがないか確認しておきましょう。引継ぎが必要となる業務に対しては「誰に」「いつ」「どうやって」引き継ぐのか認識をあわせておきます。
また「介護に直面しても仕事を続ける」という意識の醸成や、介護について話しやすい職場風土の醸成など、労働者に対する働き方の支援、調整も必要です。
④労働者と復職前面談を行う
介護に直面する労働者への支援としては、復職前面談の実施も効果的です。復職の1週間から2週間前に面談の場を設け、就労条件や担当業務について話し合います。休業中も定期的に連絡を取り、互いの状況を把握しておくのもよいでしょう。いずれにせよ、会社は「仕事と介護の両立を支援する」という方針を労働者全体に周知することが重要です。
⑤企業がハローワークに介護休業給付金を申請する
介護休業給付金は企業が管轄のハローワークに申請すると、受給できるのです。なお介護休業給付金の申請は介護休業期間の終了後に行います。期日は期間が終了してから2か月後の末日までです。
たとえば1月15日に介護休業が終わった場合:介護休業給付金の申請は3月31日までとなります。介護休業給付金支給申請書の提出は電子申請でも可能です。
5.介護休業を利用する労働者へ企業が行う配慮
介護休業を取得する労働者は、多かれ少なかれさまざまな不安を抱えています。介護休業を取得する労働者に対して、企業にはどのような配慮が求められるのでしょう。下記3つの視点から、介護休業を取得する労働者に企業が配慮することを説明します。
- 介護休業を理由とする不利益取扱いの禁止
- 時間外労働の制限
- 所定労働時間の短縮措置
①介護休業を理由とする不利益取扱いの禁止
企業は介護休業を理由として対象労働者に対する不利益な取扱いはできません。先に触れた「改正育児・介護休業法」でも、「事業主は妊娠や出産、育児休業や介護休業などを理由として解雇そのほか不利益な取扱いをしてはならない」と明記されています。
企業は介護や妊娠、育児や出産に関する言動によって就業環境を害する行為が生じないよう、防止措置を講じなければならないのです。
②時間外労働の制限
深夜業をはじめとした時間外労働についても配慮が必要です。
「改正育児・介護休業法」では要介護状態にある対象家族の介護を行う労働者が時間外労働の免除を申し出た場合、事業の正常な運営を妨げる場合を除いて、深夜(午後10時から翌午前5時まで)に労働させてはならないと定めています。
企業は免除期間中における待遇事項を定めるとともに、これをすべての労働者に周知する必要があるのです。
③所定労働時間の短縮措置
企業は介護休業以外にも「時短勤務」や「フレックスタイム制」などに応じて、所定労働時間の短縮措置を講じる必要があります。
所定労働時間の具体的な短縮措置については会社によって異なるものの、いずれも介護休業取得者に過重な負担を求める状況にならないよう配慮しましょう。裁量労働制が適用される労働者も基本、所定労働時間短縮措置の対象です。
6.企業における介護休業の取組事例
介護休業はすでに多くの企業が採用しています。少子高齢化が進むなか、仕事と介護の両立支援に関わる取り組みは、今後ますます注目されるでしょう。ここでは国内企業における介護休業の具体的な取り組みについて説明します。
花王
日用品化学メーカーの花王では労働者の経済的負担に関する金銭的援助を実施。共済会による介護サービスに対する補助金制度を設けたところ、制度利用者が増加しました。
また心理的負担に関しては、介護と両立しながら仕事に取り組むための方法についてキャリアコーディネーターに相談できる体制を構築。相談体制の充実に重きを置いており、会社に直接相談しにくい内容は、外部の窓口に相談できます。
日本アイ・ビー・エム
日本アイ・ビー・エムでは最長1年間の介護休業を取得できる制度を確立。制度利用中は無給ながらも社会保険は継続され、保険料は会社負担です。
同社では、社員にできるだけ長く働いてもらうためには「介護や育児によってキャリアが中断されないような配慮が必要」と考えました。本制度によって、短時間勤務制度を利用し介護しながら勤務を続けている労働者も存在するのです。