ポピュレーションアプローチとは、健康管理に関するアプローチです。ここでは、ポピュレーションアプローチについて解説します。
目次
1.ポピュレーションアプローチとは?
ポピュレーションアプローチとは健康管理に関するアプローチのこと。リスクの有無にかかわらず、集団全体に対して同じ健康管理を指導するアプローチとなります。
つまりポピュレーションアプローチによる健康管理では、対象を限定せず、広くリスクが分散されている集団全体に働きかけ、集団全体として病気の予防やリスクの軽減ができるようにするのです。
ポピュレーションアプローチの具体例
ポピュレーションアプローチの具体例として、健康データによる従業員の健康管理があります。
「従業員の健康データが取得できるウェアラブルデバイスを配布し、健康データを可視化する」「取得データをもとに、健康管理指導や健康増進イベントを開催する」などに取り組むケースです。
この場合、従業員が自発的に健康管理に取り組める環境の整備が必要でしょう。
2.ポピュレーションアプローチが注目される背景
ポピュレーションアプローチが注目される背景には、3つの要因があります。それぞれについて解説しましょう。
- 「健康日本21」による健康意識の底上げ
- 健康経営銘柄
- 働き方改革による長時間労働の見直し
①「健康日本21」による健康意識の底上げ
健康格差の縮小や健やかで心豊かに自分らしい生活、魅力と活力ある社会を目指した健康づくりの施策です。
そのなかで食生活の改善や運動習慣の定着、健康意識の底上げやヘルスリテラシーの向上といった、一次予防活動の推進にポピュレーションアプローチが用いられています。
②健康経営銘柄
従業員の健康管理に対し、経営的な視点で考えて戦略的に取り組んでいる企業のことで、経済産業省と東京証券取引所が共同で選定・公表します。株式市場でも、企業の健康経営への積極的な取り組みが評価されるようになりました。
③働き方改革による長時間労働の見直し
働き方改革をきっかけに、「時間外・休日労働時間の削減」「年次有給休暇の取得促進」「事業場における健康管理体制の整備」「健康診断の実施」といった、労働者の健康管理に係る措置が徹底され、ポピュレーションアプローチが注目を集めました。
3.ポピュレーションアプローチのメリット
ポピュレーションアプローチには、メリットがあります。それぞれについて解説しましょう。
- 労働生産性の向上
- 資金調達の選択肢が増える
- 医療費の削減
①労働生産性の向上
ポピュレーションアプローチによって企業の健康経営が軌道に乗れば、下記のような好循環が生まれます。
- 従業員の健康リスクが低減され、コンディションが良くなる
- 従業員に活力が生まれて職場が活性化するため、労働生産性が向上する
②資金調達の選択肢が増える
政府系金融機関では、DBJ評価認証型融資が積極的に行われています。「環境格付」「BCM格付」「健康経営格付」3つの非財務情報を評価し、融資条件に反映させるものです。
健康経営は、融資条件の評価項目のひとつとして重要視されています。
③医療費の削減
厚生労働省の調べによると2013年度、医科診療費の3分の1以上が生活習慣病関連だったそうです。
企業が健康経営に取り組むと従業員は、「生活習慣病といった病気の予防」「医療費の削減」両方を手に入れられます。
4.ポピュレーションアプローチの課題
ポピュレーションアプローチには、課題もあります。それぞれについて解説しましょう。
- データの収集・管理コストがかかる
- 従業員のストレスになる場合も
- 健康格差の拡大
①データの収集・管理コストがかかる
従業員一人ひとりの健康に関するデータを収集・管理するには、多くのコストや労力が必要となります。定期的にデータを集めて分析・管理するコストは、ポピュレーションアプローチの大きな課題です。
②従業員のストレスになる場合も
本来の業務と異なる形で時間が費やされると、従業員にモチベーションの低下や働きがいの減退が生じる可能性もあります。このようなストレスを従業員が抱えると労働生産性にも影響するため、注意が必要です。
③健康格差の拡大
「健康リスクが高い」「不健康につながる行動を取る」傾向にある人は、健康への関心が低いと推測できます。反対に、「健康リスクが低い」「健康につながる行動を取る」傾向にある人は、健康情報に敏感です。
健康経営の推進で、健康格差の拡大が危惧されています。
5.ポピュレーションアプローチの事例
ポピュレーションアプローチに取り組んでいる会社の事例を5つご紹介します。
- エームサービス
- ネッツトヨタ山陽
- SGホールディングスグループ健康保険組合
- 中田製作所
- サワライズ
①エームサービス
エームサービスは、給食事業を展開する企業です。安心安全な食の提供を目指すにあたり、従業員の健康をチェックする「健康チェックシート」を導入しました。
体調不良の場合、即座に出勤を停止します。そして、「従業員自身による健康管理・維持」「上役が部下の体調変化を把握」「従業員同士のコミュニケーションを活性化」を実現しました。
②ネッツトヨタ山陽
ネッツトヨタ山陽は、新車や中古車の販売、自動車の車検などを展開する企業です。「従業員の健康こそが重要」という考えのもと、下記のような取り組みを継続しています。
- 携行してもらっている電子歩数計をもとに、歩数を個人・部署別に集計して、実績を毎月ニュース形式で公表
- おかずをカロリー別に選択できるヘルシー仕出し弁当を、食堂で提供
③SGホールディングスグループ健康保険組合
SGホールディングスグループ健康保険組合は、佐川急便株式会社といったSGホールディングスグループ企業計18社が加入する、健保組合です。肥満や禁煙に関するポピュレーションアプローチを健康課題としています。
「事業所ごとで肥満対策を企画」「特定保健指導の実施を強化」「禁煙保健指導」「禁煙キャンペーンの実施」などに取り組んでいます。
④中田製作所
中田製作所は、アルミ精密部品の切削加工などを手がける企業です。下記のような取り組みが評価され、第5回大阪府健康づくりアワード最優秀賞を受賞しました。
- 栄養バランスに配慮した仕出し弁当の提供
- 各種スポーツ大会の開催
- 新しく入った従業員に対するメンター制度・親子参観
- 全従業員を対象とした、社長との交換ノート
- 社屋、営業車内全面禁煙
⑤サワライズ
サワライズは、不動産業、物品賃貸業を展開する企業で、下記のような取り組みを行っています。
- 特定健診の受診率を向上するため、定期健診を全従業員が受診し、定期健診後の治療・保健指導を推奨する
- 早期発見・治療に役立てるため、乳がん検診費用を一部補助
- 受動喫煙を含む禁煙のため、禁煙外来費用の一部補助
6.ポピュレーションアプローチを企業で取り入れる方法と流れ
ポピュレーションアプローチを企業で取り入れる方法があります。それぞれについて解説しましょう。
- PDCAサイクルを回す
- 健康経営理念・方針を決定する
- 課題の洗い出しと目標設定をする
- 取り組みの評価と改善を行う
①PDCAサイクルを回す
プランを立てる際、PDCAサイクルは非常に有効です。「データを分析」「結果から計画を立案する」「計画を実行に移す」「結果をチェックし、改善を図る」といった一連の流れを経ると、成果を生み出すポピュレーションアプローチが実施できます。
PDCAサイクルとは? 【簡単に】サイクルを回す意味
PDCAサイクルとは、管理業務や品質管理の手法です。理想的にサイクルを回すための具体的なやり方について説明します。
1.PDCAサイクルとは?
PDCAサイクルとは管理業務や品質管理の効率化を目指す...
②健康経営理念・指針を決定する
健康経営の実現に向け、従業員の健康維持促進に取り組むには、理念や指針の認識や発信が重要になります。経営者は健康経営理念・指針を詳細に組み立てましょう。
③課題の洗い出しと目標設定をする
健康経営にて「どのような課題があるのか」「何を目指すのか」について検討します。目標はできるだけ具体的に数値化したものを設定しましょう。そのほうがポピュレーションアプローチに、取り組みやすくなるからです。
④取り組みの評価と改善を行う
設定した目標に照らし合わせ、取り組みに対する効果を評価します。そして評価をもとに、今後の改善課題を明確にしていくのです。これにより、現実に即した実効性の高いポピュレーションアプローチを実施できるでしょう。
7.コロナ渦で注目されるポピュレーションアプローチ
コロナ渦で注目されるポピュレーションアプローチがあります。実際に行われているポピュレーションアプローチについて、概要やポイントを解説しましょう。
- 愛知県蒲郡市
- 大阪府藤井寺市
①愛知県蒲郡市
愛知県蒲郡市で検討されたポピュレーションアプローチは、下記のとおりです。
- 日々の食事や運動状況が記録できる生活チェックシートを作成・郵送する
- 郵送後は電話といった方法でフォローアップする
- 市作成のDVDのオリジナル体操動画を高齢者に、無料で貸し出したりホームページで配信したりする
これは市が関与した昨年度における通いの場の参加者に対して、実施されました。
②大阪府藤井寺市
大阪府藤井寺市で検討されたポピュレーションアプローチは、下記のとおりです。
- 高齢者のための情報誌を地域包括支援センターへの生活支援体制整備事業の一環として作成・発行する
- 高齢者向けに、介護予防や生活お役立ち情報を記事にするほか、高齢者自作の川柳やポエム、写真や趣味仲間の募集を投稿できるコーナーも設置