働き方改革推進支援助成金とは、働き方改革に取り組み、一定の成果を達成した中小企業などに対して給付される助成金のこと。ここでは働き方改革推進支援助成金について説明します。
目次
1.働き方改革推進支援助成金とは?
働き方改革推進支援助成金とは、働き方改革の一環として従業員の時間外労働や休暇取得を改善した企業に助成金を支給する制度のこと。
働き方を改革するには、機器の導入や研修などの実施で企業側の費用がかさみます。しかし大手企業と違い、中小企業は経済体制が安定しにくいものです。
働き方改革を実施したくても、費用面で二の足を踏む中小企業も少なくありません。そこで政府は、働き方改革を達成した中小企業に助成金を支給する制度を制定したのです。
人材確保等支援助成金との違い
2つの違いは下記のとおりです。
- 人材確保支援助成金:新しく従業員を雇用する際に支給される助成金で、新たな雇用や人材の育成と定着を目的としている
- 働き方改革推進支援助成金:労働環境の改善を目的とした制度
このように双方の支給要件や助成金額などは異なります。
2.働き方改革推進支援助成金のコース
働き方改革推進支援助成金の支給対象になる中小企業の定義は、資本金(あるいは出資額)と常時雇用する従業員数の条件のうち、いずれかを満たす企業です。
- 小売業:資本金(あるいは出資額)が5,000万円以下、または常時使用する従業員の数が50人以下
- サービス業:資本金(あるいは出資額)が5,000万円以下、または常時使用する従業員の数が100人以下
- 卸売業:資本金(あるいは出資額)が1億円以下、または常時使用する従業員の数が100人以下
- そのほかの業種:資本金(あるいは出資額)が3億円以下、または常時使用する従業員の数が300人以下
そして働き方改革推進支援助成金には3つのコースがあります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
- 労働時間短縮・年休促進支援コース
- 勤務間インターバル導入コース
- 団体推進コース
①労働時間短縮・年休促進支援コース
時間外労働や休暇取得を改善した企業に助成金を支給するコースです。残業時間を減らして休みを増やすには、従業員の生産性を上げるほかありません。
実現には設備や機器、ソフトなどの導入コストや、さらなる人材の確保や研修などの人件費が必要でしょう。このような職場環境の改善を実現した企業に助成金を支給するのです。
対象となる事業主
働き方改革推進支援助成金を申請する事業主は、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 労働者災害補償保険の適用を受けている中小企業の事業主である
- 成果目標のいずれかを達成している
- 年5日の有給取得に向けて職場の環境を整備している
対象となる取り組み
助成金が支給される取り組みは9つです。
- 従業員に対する研修や周知
- 管理者に対する研修
- 生産性や効率アップに向けた、ソフトウェアや機器の導入
- 労務管理を行うためのソフトウェアの導入
- 労務管理用機器の導入
- デジタル式運行記録計の導入
- 人材確保のための取り組み
- 就業規則や労使協定などの整備
- 専門家によるコンサルティング
設定する成果目標
助成金の支給を受けるには、成果目標を達成しなければなりません。成果目標は以下の3つです。
- 残業時間や休日労働の時間を減らし、上限を月60時間以下あるいは60時間以上80時間以下に設定する
- 特別休暇(病気休暇や教育訓練休暇など)を新しく導入する
- 時間単位の年次有給休暇の規定を新たに導入する
上記3つの成果目標のうち、1つ以上を達成していれば助成金の支給対象となります。
支給額
以下のうち低いほうの金額が支給されます。
- 成果目標の1から3の上限額、または賃金加算額の合計額
- 取り組みにかかった費用の4分の3
ただし取り組みにかかった費用の4分の3については例外もあります。常時使用する従業員が30人以下で、生産性や効率の向上や労務管理を行うためのソフトウェアや機器を導入した場合です。このとき所要経費が30万を超えていれば、費用の5分の4が支給されます。
②勤務間インターバル導入コース
勤務間インターバル(従業員の健康状態を良好に保つため勤務から次の勤務まで、一定の間隔を空けて休息の時間を確保する)を確保するため、職場環境の改善を実現した企業に支給される助成金制度のこと。
2019年の「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」の改正により、勤企業の努力義務となりました。
対象となる事業主
支給対象となるには、以下の5つの条件をすべて満たす必要があります。
- 労働者災害補償保険の適用事業主である
- 36協定を締結している
- 過去2年間に月45時間を超える時間外労働が生じている
- 年5日の年次有給休暇の取得に向けて、現在就業規則などを整備している
- いずれかに該当している「勤務間インターバルを未だ導入していない」「勤務間インターバルを導入しているが9時間未満」「9時間以上の勤務間インターバルを導入しているが、対象の従業員が全体の半数以下」
対象となる取り組み
コースの対象となる取り組みは9つあり、「労働時間短縮・年休促進支援コース」と同じ内容です。ここでもいずれか1つ以上の取り組みを実施する必要があります。なお同じ取り組みでも、両方のコースへ申請はできません。
設定する成果目標
助成金の支給対象となる成果目標は以下の3つで、いずれか1つを達成する必要があります。
- 勤務間インターバルを導入していない場合、労働協約または就業規則に、従業員全体の半数超を対象とした9時間以上の勤務間インターバルに関する規定を定める
- すでに9時間以上の勤務間インターバルを導入している場合、従業員全体の半数以下であれば適用範囲を拡大し、半数超となるよう労働協約または就業規則を定める
- すでに勤務間インターバルを導入しているが9時間未満の場合、休息時間数を9時間以上取れるよう、労働協約または就業規則を定める
支給額
支給額は、どの成果目標を達成したかで変わります。
- 新規導入:勤務間インターバルが9時間以上11時間未満の場合は80万円、11時間以上の場合は100万円
- 適用範囲の拡大、または時間延長:勤務間インターバルが9時間以上11時間未満の場合は40万円、11時間以上の場合は50万円
③団体推進コース
中小事業主の職場環境改善の取り組みをサポートする事業主団体に、助成金が支給される制度です。事業主団体には商工会や商工会議所、一般社団法人などが該当します。
目的は事業主団体を助成金で支援し、中小事業主がよりよいサポートを受けられるようにすることです。
対象となる事業主
支給対象は、法律で規定された商工会議所や企業組合などの事業主団体、あるいは協定書を作成している共同事業主。事業主団体は3事業主以上、共同事業主であれば10事業主以上で構成されている必要があります。
なお中小企業が団体の半数以上を占めていなければなりません。
対象となる取り組み
対象となる取り組みは10項目あり、いずれか1つ以上を実施しなければなりません。ここでは取り組みのうち8つをご紹介します。
- 新しいビジネスモデルの開発や実験的な事業への取り組み
- 材料費や水光熱費、在庫などの費用を低減する取り組み
- 市場調査
- 巡回指導の実施や相談窓口の設置への取り組み
- 下請取引適正化や労働時間の調整への取り組み
- 生産性や効率を目的とした共同設備や共同機器の導入への取り組み
- 人員確保といった取り組み
- セミナーの開催
設定する成果目標
成果目標には、構成事業主の半分以上に対して事業主団体などが事業実施計画で定めた取り組みの結果を活用します。具体的には、時間外労働削減や賃金アップに向けた改善事業などです。
支給額
支給額は、以下のうち低いほうの金額が支給されます。
- 対象経費の合計額
- 総事業費から収入額を控除した額
支給額の上限は500万円です。しかし複数の都道府県単位で構成されている事業主団体の場合、上限が1,000万円となります。
3.働き方改革推進支援助成金を受給するメリット
働き方改革推進支援助成金の大きなメリットは、助成金です。しかしそのほかにも企業にとってさまざまなメリットがあります。
- 労働時間を削減できる
- 生産性を向上できる
- 労務上のミスを減らせる
- 企業イメージアップにつながる
①労働時間を削減できる
働き方改革推進支援助成金の取り組みでは、残業時間や勤務間インターバルを改善します。そのため無駄な労働時間の削減につながるのです。職場に無駄な作業や業務フローがないか見直す、よいタイミングとなるでしょう。
②生産性を向上できる
働き方改革推進支援助成金の取り組みに設備や機器、ソフトの導入がありました。これらを実施すると労働時間の削減と生産性の向上が両立できます。職場環境が改善されれば従業員のモチベーションがアップし、効率や生産性の向上も期待できるでしょう。
③労務上のミスを減らせる
働き方改革推進支援助成金の取り組みで労務管理用の機器やソフトウェアなどを導入すれば、労務管理で起こる人的なミスを減らせます。とくに煩雑になりやすい勤怠管理業務を簡略化できれば、人事や総務の業務効率化が実現できるでしょう。
④企業イメージアップにつながる
働き方改革推進支援助成金の取り組みを実施すると、従業員のモチベーションや健康などの向上につながります。従業員が働きやすい企業というイメージアップにもなるでしょう。よい人材の確保や定着といった二次効果も期待できます。
4.働き方改革推進支援助成金の申請方法
働き方改革推進支援助成金を受給するためには、まず申請しなければなりません。申請に必要な書類や申請する場所について説明します。
必要書類
受給の申請に必要な書類は以下のとおりです。これらすべてをそろえて提出する必要があります。
- 交付申請書
- 事業実施計画
- 36協定届
- 就業規則の写し
- 年次有給休暇管理簿の写し
- 賃金台帳の写し
- 見積書
申請窓口
申請書類は、企業の所在地を管轄する「都道府県労働局雇用環境・均等部(室)」へ提出します。窓口への持参と郵送での提出のどちらでもかまいません。郵送の場合、締め切り日までに到着するよう、早めに提出しましょう。
助成金の申請方法でわからないときは
申請で不明な点がある場合は、それぞれの都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)へ問い合わせましょう。都道府県によっては、予約制の無料個別相談会を実施している場合もあります。相談会に参加するのもよいでしょう。
5.働き方改革推進支援助成金を受給するためのポイント
働き方改革推進支援助成金の申請をする際、確認しておきたいポイントが3つあります。それぞれのポイントを見てみましょう。
- 余裕を持って申請する
- 支給対象の要件をよく確認しておく
- 自治体の助成金も視野に入れる
①余裕を持って申請する
ぎりぎりに申請せず、余裕をもって申請しましょう。国の予算に達した結果、申請期限前に受付が終了する可能性もあるからです。また書類の不備が見つかる可能性もあるので、早めに申請しておいて損はありません。
②支給対象の要件をよく確認しておく
申請前に今一度、支給対象要件を確認しておきましょう。助成金がもらえると思っていたら、「対象となる事業主の要件を満たしておらず助成金が支給されなかった」という場合もあるからです。支給要件は毎年同一ではないため、事前によく確認しましょう。
③自治体の助成金も視野に入れる
全国の自治会では、独自の働き方改革助成金制度を実施している場合があります。たとえば東京都では、指定の働き方改革への取り組みを実施した企業に対して最大40万円の助成金を支給しているのです。
取り組みの内容としては、フレックスタイム制度やテレワーク制度、時差出勤制度などの導入が挙げられます。