失業率とは、労働者人口のうちに占める失業者数の割合のことで、失業の実態を知る指標となるものです。今回は失業率について解説します。
目次
1.失業率とは?
失業率とは、労働力人口(満15歳以上の働く労働意欲のある人物)のうち、失業者(仕事が無く職を探している求職者)数を割り出した失業者の割合のこと。
総務省が「労働力調査」を行い、失業率について毎月発表を行っています。この失業率の数字が高いほど、仕事を探している失業者が多いと意味するため、失業率は国内における失業の実態を知るために重要な指標なのです。
2.完全失業率とは?
労働力人口の中で完全失業者が占める割合を数値化した指標のこと。完全失業率と失業率に違いはなく、「働く意欲はあるがまったく仕事をしていない失業者」がどれだけいるかを指標化しているのです。
完全失業率は「(完全失業者÷労働力人口)×100」で算出できます。
完全失業率と有効求人倍率の関係
完全失業率と有効求人倍率は、反比例の関係にあります。有効求人倍率とは「有効求人率」を「有効求職率」で割り出したもの。つまり求職者1人に対して、何件の仕事があるのかを数値化したものです。
たとえば有効求人倍率が1を割ると、求職者数よりも求人件数が下回っていると意味します。求人案件自体が少なくなると、完全失業する人の割合が増えるのです。
完全失業者の定義
完全失業者の定義について見ていきましょう。ただ単に仕事を失った人を失業者とするのではなく、「完全失業者」とするには明確な定義が存在します。以下の3つの条件を満たす者が、完全失業者とされるのです。
就業者ではない
完全失業者の定義は、仕事が無くまったく働かなかった状況にあること。定職についていなくても、日雇いのアルバイトや単発の仕事をした人は完全失業者といえません。「完全に働いていなかった状態」こそが完全失業者の条件です。
仕事があればすぐに就業できる
仕事があればすぐに働ける状態である点も完全失業者の定義です。仕事があっても、病気といった何かしらの理由で働けない者は、完全失業者とはいえません。働く能力はあるにもかかわらず、労働できていない状況であるのが条件です。
求職活動やその準備をしている
完全失業者は、求職活動や事業の準備など働くための準備をしているかどうかも定義に含まれます。働く気がないのではなく、求職活動や仕事をするための準備をしていれば、働く意欲のある失業者と見なされるからです。
過去の選考結果を待っている状態も、求職活動をしている状況に含まれます。
3.失業率を知るうえで重要な用語
失業率を知るうえで、重要となる専門用語について見ていきましょう。労働力人口や労働力調査など専門用語の定義を理解しておくと、失業率についての理解が深まります。
- 就業者
- 労働力人口
- 非労働力人口
- 労働力調査
①就業者
従業者と休業者を合わせたものです。就業者は「自営業主」「家族従業者」「雇用者」の3つにわかれます。休業者とは、仕事を持っているものの病気や何かしらの理由で仕事を休業している者をいいます。
②労働力人口
労働力とされる人口のこと。労働力とされる者は、「15歳以上の、働けて働く意思のある者」です。労働力人口は働ける人の数を指しますので、従業者と休業者の合計ともいえるでしょう。
③非労働力人口
15歳以上の人口から労働者人口を引いた残りの人口のこと。15歳以上でも働けない者、働く意思の無い学生などが該当します。なお仕事を探している失業者は非労働力人口に含まれません。
④労働力調査
国内の労働状況を確認するため、総務省が実施している調査のこと。調査は毎月行われ、調査対象は約4万世帯、15歳以上の10万人を対象に実施されます。調査項目は就業状況や雇用状況、就業時間から就業日数と労働に関する現状です。
4.日本における失業率の状況
日本の完全失業率は近年、上昇しています。しかし世界的に見ると日本は失業率が低い国とされているのです。ここでは日本の失業率について、確認していきましょう。
日本における完全失業率の推移
総務省の「労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)平均結果の要約」によると、日本における完全失業率は、2020年で2.8%。前年に比べ0.4ポイント上がっています。失業者数は191万人、29万人増加しており11年ぶりの失業率上昇です。
失業率上昇の原因としては、新型コロナウイルス蔓延による社会情勢の変化が挙げられるでしょう。
日本の失業率が低い理由
日本の失業率は、アメリカやヨーロッパなど世界と比較して低くなっています。その背景にあると考えられるのは、日本独自の終身雇用制度や企業別組合。ここからは日本の失業率が低い理由について、説明しましょう。
日本型雇用
日本型雇用は「終身雇用」「年功序列」「企業別組合」の3つの制度からなります。特に終身雇用制度では、一度企業に就職すれば定年まで就業者でいられるため、職を失う人が少ない傾向にあるのです。他国と比べて失業率が低い要因のひとつといえるでしょう。
企業別組合
企業別組合とは、企業に属する労働者によって設立された別の労働組合のこと。企業独特の企業別組合は雇用継続や労働条件などの交渉を担当するため、職を失わずに働ける環境が整っています。
欧米と比べて日本の企業別組合は大きな影響力を持つ点も、日本の失業率が低い理由のひとつといえるでしょう。
ジェネラリスト型の労働形態
ジェネラリスト型の労働形態が慣行となっている日本では、職を失わずに転職できます。これも失業率が低い理由のひとつです。ジェネラリストはビジネスの知識や経験が広範囲に富んでおり、とくに大企業の管理職には必須ともいえるでしょう。
日本ではさまざまな業務をこなせるジェネラリストが求められており、転職活動時でも重宝される傾向にあります。
5.失業が起きる3つの要因
景気後退や企業と求職者の希望の相違など、さまざまな理由から求職活動が難航しています。ここでは失業が起きる3つの要因について、見ていきましょう。
- 需要不足失業(循環的失業)
- 構造的失業
- 摩擦的失業
①需要不足失業(循環的失業)
景気後退の影響を受けた企業が人材を減らした結果、増える失業のこと。景気が悪くなって人件費が削減されると、人員整理や雇用の見送りなどをしなければならなくなります。つまり労働力の需要が減少するため、失業率が上がってしまうのです。
②構造的失業
資本主義が独占段階に進んで人材の雇用を狭めた結果、増える失業のこと。技術力やIT化の促進により労働者の負担が下がっている一方、人の代わりとなる技術やIT化によって職を失う状況が増えているのです。
また多国籍企業や産業のグローバル化によって外国人労働者が増えた結果、正規で働けるポジションが失われつつあります。
③摩擦的失業
企業が求めるスキルと求職者が求める希望条件の相違によって生まれる失業のこと。
先進国である日本では、求職者に対してスキルだけでなく学歴や職歴も求められます。求職者側も福利厚生や職場環境、ライフワークバランスの充実など、労働条件に求める条件が増えているのです。
そのため企業と求職者の間で、希望条件のミスマッチが起こる状況も少なくありません。厚生労働省は、このようなミスマッチから生まれる摩耗的失業が増加していると指摘しています。
6.失業率上昇がもたらす影響
失業率の上昇によって、社会にはどのような影響があるのでしょうか。ここでは失業率上昇がもたらす影響について説明します。
- 貧富の差の拡大
- 自殺者の増加
- 犯罪発生率の上昇
①貧富の差の拡大
失業率上昇によって、貧富の差が拡大する恐れもあります。失業率が増えると所得の少ない世帯が増え、貧困層が増加するでしょう。貧困層が増加すると、職を持った一部の富裕層が利益を独占する状態になり、貧富の差が拡大するのです。
②自殺者の増加
失業率の増加によって、自殺者が増加する可能性もあります。職業別に見ていくと圧倒的に無職者による自殺が多いのです。将来の希望が無くなり金銭的問題に追い詰められると自殺を選ぶ確率が高まります。よって失業率の増加は自殺率の増加につながるといえるのです。
③犯罪発生率の上昇
失業率上昇によって犯罪発生率も上昇しかねません。職を失った結果、金銭的問題に直面して犯罪をする者や、失業状態により精神的ストレスを抱えて犯罪をする者が増加する傾向にあります。実際に「完全失業率と犯罪発生率は比例する」といわれているのです。
7.失業率低下のための取り組み
日本では失業率低下のため、あらゆる取り組みが行われています。どのような取り組みが行われているのか説明しましょう。
- 雇用調整助成金
- 緊急雇用創出事業
- ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)
- ワークシェアリング
①雇用調整助成金
労働者の雇用維持を守るために事業者に支払われる助成金です。目的は、現在雇用している労働者を人件費削減のために解雇しないように雇用維持を図ること。ただし労使間の協定によって雇用調整や休業などを行うという条件があります。
新型コロナウイルス蔓延により景気が悪化し、雇用調整を余儀なくされた事業者に対しても適用されるのです。
②緊急雇用創出事業
職を失った求職者の救済に向けて、都道府県や市区町村の行政が雇用を作り出す制度のこと。地方行政が直接雇用する、あるいは地域内の企業に新たな委託を委託して雇用の機会を創出します。
近年、新型コロナウイルス蔓延によって失業した市民を対象としているケースも多いようです。
③ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)
職種や業種で必要とされるスキルや知識、資格などの習得や就職相談を行うこと。対象者はハローワークの求職者です。受講を希望する場合はまず、ハローワークの窓口で相談しましょう。
④ワークシェアリング
労働をわけ合って労働者の総人数を増やすこと。たとえば1人の労働者が勤務する時間を短くし、複数の労働者が労働できるように仕事をわけ合います。長時間労働をする必要がなくなり、離職者の防止につながるのもメリットです。