定年とは、社員の年齢上限のこと。定年退職はその期限を迎えた際に退職する状況をいいます。手続きや延長など、定年の詳細について解説しましょう。
目次
1.定年とは?
定年とは、企業が定めている雇用年齢の上限のことで、社員の年齢が定年に達すると雇用契約が終了します。また「定年退職」は定年を迎えて雇用が終了すること、「定年制」は定年年齢になれば自動的に雇用が終了する制度です。
ただし定年年齢は国や職種、法人によって異なるため、定年となった社員の継続雇用あるいは再雇用もできます。高齢社会となった日本では高齢者の雇用を確保すべく、定年年齢を引き上げる動きが検討されているのです。
2025年から65歳が義務化
今まで法定の定年年齢は60歳でしたが、2025年からすべての企業で定年65歳が義務化します。定年制度は現在企業によっては職種や企業によって異なるものの、65歳未満の定年制度を設けていた企業は下記の対応が必要になるのです。
- 65歳まで定年を引き上げる
- 65歳まで継続雇用する
- 定年制を廃止する
また2021年4月から「改正高年齢者雇用安定法」が施行され、企業には定年を70歳まで引き上げるといった努力義務も生じています。
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2.企業における定年年齢の状況
平成29年に厚生労働省が実施した就労条件総合調査によると、定年を60歳としている企業は79.3%で定年を65歳としている企業は16.4%。なお1.4%の一部の企業は定年を66歳以上に定めています。
2025年には65歳の定年が義務付けられているものの現状、60歳を定年としている企業が過半数です。
3.諸外国における定年年齢
海外の諸外国における定年年齢は国によってさまざまです。たとえばアメリカでは基本、定年を禁止しています。タイ・マレーシアでは定年年齢を60歳と定めているものの日本と同様に定年年齢の引き上げを検討しているのです。
ドイツやフランスをはじめとしたヨーロッパでは定年年齢を65歳と定めている国が多くなっています。なかには定年年齢を70歳まで引き上げようとしている国もあり、高齢化による高齢者の雇用安定措置は各諸外国で行われているのです。
4.役職定年とは?
ある定められた年齢に達すると部長や管理職といった役職から退く「役職の定年制度」のこと。役職を降りたら、専門職や一般職に移ります。
若い世代にポストを譲って組織を活性化させ、同時に人件費を抑制するといった目的で、役職定年を導入する場合が多いようです。役職定年年齢は企業によって異なるものの、多くは50代後半から60歳と定められています。
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5.定年後の継続雇用について
定年後も継続雇用できるよう再雇用制度が設けられている国は、日本以外にも見られます。ここでは日本の再雇用制度と勤務延長制度の2種類の再雇用制度について見ていきましょう。
再雇用制度
定年となった社員を一度退職させ、雇用形態を変えて再雇用する制度のこと。たとえば有期雇用契約である「嘱託社員」です。嘱託社員として再雇用した場合は基本、契約期間の上限は満65歳までと定められています。
本人の健康状態と成績次第では、65歳以上でも契約を延長する場合もあるようです。
勤務延長制度
定年となった社員を定年退職させず、そのまま雇用を継続する制度のこと。定年を過ぎても、雇用形態はもちろん仕事内容や役職、賃金なども変えずにそのまま雇用するのが特徴です。
定年退職をしていないので退職金は、勤務延長した雇用契約が終了した時点で支払います。2021年4月からは、70歳までの再雇用と継続雇用が企業の努力義務となっているのです。
6.定年延長によるメリット
定年延長によって得られるメリットはさまざまです。ここでは定年延長によるメリットについて見ていきましょう。
- 人材不足を解消できる
- 人材育成がしやすくなる
- 顧客との関係維持につながる
- 採用コストを削減できる
①人材不足を解消できる
定年を延長すると優秀な人材の雇用を継続できます。近年、どの企業も深刻な人材不足や採用難に悩まされているため、優秀な社員を手放したくない企業も少なくありません。定年を迎える社員が退職せずに定年延長すれば、人手不足の解消へとつながります。
②人材育成がしやすくなる
定年を迎える社員は経験が豊富なため、その経験を人材育成に生かせます。定年延長した定年社員を指導や運営に回せば、ベテラン社員の蓄積した知識やスキル、ノウハウを次世代へ伝授していけるでしょう。
③顧客との関係維持につながる
定年定年となったベテラン社員を定年延長すると、その社員が築いてきた顧客との関係を維持しやすくなります。担当者の入れ替わりによって、それまで関係を構築してきた顧客が離れる状況も少なくありません。
今まで関係を構築してきたベテラン社員が退任せず顧客担当を継続すれば、そのようなトラブルを避けられるでしょう。
④採用コストを削減できる
定年延長すると新たに人材を採用するコストが削減できます。新規採用には、求人費や人件費などのコストが生じるもの。ベテラン社員を定年延長すれば人材を新規採用する必要がなくなり、採用コストが削減できるのです。
7.定年延長によるデメリット
定年延長にはデメリットもあります。長年勤めてきたベテラン社員が引き続き残ると生じるデメリットについて、見ていきましょう。
- 世代交代が停滞する
- 労働管理の煩雑化
- 該当社員のモチベーションが低下する
①世代交代が停滞する
ベテラン社員が定年延長して会社に残ると、ポストが空かず指示系統も変わりません。そのため世代交代が停滞しやすくなります。
若い世代が、ベテラン社員の顔色を気にして指示待ちの環境になってしまったり、新しい価値観やアイデアを創造する機会が得られなくなったりしてしまうからです。
②労働管理の煩雑化
定年延長にともなって、雇用形態を切り替えて新たな労働条件で再雇用する可能性があります。その場合、労働管理が煩雑化するかもしれません。
また社員が高齢化すると、休憩時間の考慮など労働管理の見直しが必要になるでしょう。そうなると就業規則や評価制度なども変更の対象となってきます。
③該当社員のモチベーションが低下する
定年延長しても、雇用形態や役職が変わって待遇面が下がったり、仕事における目標がなくなったりしてモチベーションが低下する場合もあります。それによりパフォーマンスの低下にもつながるでしょう。
長年勤めてきたベテラン社員が定年延長したものの、以前ほど会社に貢献しなくなったというケースも珍しくありません。
8.定年退職する場合の手続き
定年退職する際は、定年退職の手続きにくわえて、保険関係の手続きも行います。定年退職で必要となる手続きについて見ていきましょう。
定年退職は何歳から?【年齢引き上げは義務?】再雇用の進め方
定年退職とは、従業員が事前に決められた一定の年齢で退職する制度のこと。今回は、定年退職の年齢や継続雇用制度、定年年齢を引き上げるメリット・デメリット、また企業の状況などを解説します。
1.定年退職と...
定年退職届の受理
定年退職にも退職届が必要です。ただし一般的な退職届とは異なり、定年退職用の「定年退職届」となります。記載事項は一般的な退職届と変わりがなく、退職届のタイトルや氏名、提出日や退職日、所属部署と本文など。
本文には「満65歳となるため会社規定に則り定年退職することをここに届けます。」といった内容を記載しましょう。
健康保険・厚生年金保険の資格喪失手続き
定年退職すると雇用保険や厚生年金、保険被保険者資格が喪失します。それらの保険や資格を喪失する手続きを行わなければなりません。
喪失日から5日以内に年金事務所と保険被保険者資格へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を提出します。
提出方法は書面での郵送やPDFなどのデータによる電子提出、窓口にて記入する窓口提出などさまざまです。
雇用保険の資格喪失手続き
定年退職すると雇用保険の資格喪失手続きを行う必要があります。手続きは定年退職者ではなく事業所が行い、退職日の翌日から10日以内に管轄のハローワークへ「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出するのです。
離職票も同様に手続きを行う場合があります。離職理由には「会社規定にのっとり定年による退職」と記載しておきましょう。
住民税の手続き
住民税を給与から天引きしている場合、定年後は住民税を給与から天引きできなくなります。企業はその社員が退職し、今後給与から天引きしないと市町村へ伝えなければなりません。
退職日の翌月10日までに、住民税の未徴収残額を記載した「給与支払報告・特別徴収に係る給与所得者異動届出書」を提出する必要があります。
9.定年後に再雇用する場合の手続き
定年退職後の再雇用では会社側が行う手続きもあります。ここでは定年後の再雇用にともなう手続きについて見ていきましょう。
社会保険の手続き
定年退職後に再雇用制度をとる場合、健康保険と厚生年金の再加入手続きが必要です。この場合は、定年退職の翌日に資格喪失と取得の手続きを同時に行います。
退職日から5日以内に年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得」と「健康保険被扶養者(異動)届」、「国民年金第3号被保険者資格取得届」を提出しましょう。
労働保険の手続き
労働保険にあたる雇用保険と労災保険は、雇用関係が引き続き継続されるものと見なされるため、とくに手続きを行わずとも保険資格が延長されます。
しかし定年延長とともに短時間勤務へと労働条件が変更になる場合、一般被保険者から短時間労働被保険者へ種別の変更をしなければなりません。
1週間の所定労働時間が30時間を下回ったら「区分変更届」を、20時間を下回ったら「資格喪失届」をハローワークへ提出しましょう。
10.定年後の雇用に関する助成金
定年後の雇用に関する助成金はいくつか存在します。最後に定年延長に関する助成金について、見ていきましょう。
65歳超雇用推進助成金
65歳以上の定年引き上げや、高齢者を雇用するための職場環境の改善、整備などに関して支給される助成金のこと。また高齢者の有期雇用から無期雇用転換を行う事業主に対しても支払われます。
3つのコースが設定されており、それぞれで支給要件や支給額が異なるのです。
- 65歳超継続雇用促進コース(最大160万円を支給)
- 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース(初回は最大50万円を支給)
- 高年齢者無期雇用転換コース(対象社員1人あたり最大60万円を支給)
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)
高齢者や障がい者など就職が困難な人材を雇用した事業主に、最大240万円までが支給される助成金です。ただし支給される条件としてハローワークをとおした採用が必要になります。
また継続雇用が条件となっているため、助成金を受け取ってすぐに解雇するといった不正は認められません。
特定求職者雇用開発助成金(生涯現役コース)
1年以上継続して高齢者や障がい者を雇用する見込みがある事業主に、最大7万円までが支給される助成金です。ハローワークをとおした採用が条件で、1年以上の雇用が確実と判断された場合のみに支給されます。
特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)より雇用する期間が長いため、高齢者や障がい者の雇用推進に貢献していると判断され、支給額が少し多くなっています。