累進課税は、課税の対象となる金額が大きくなるほど税率が上がる仕組みです。累進課税が適用されている税金の種類とその税率、控除について解説します。
目次
1.累進課税とは?
累進課税とは、課税標準額(税額を決めるための課税対象となる金額)が多くなるほど、高い税率が適用される課税方式のこと。メリットは、納税者の負担を公平にできる点です。
日本で累進課税方式が適用されているのは、「所得税」「相続税」「贈与税」の3種類で、1887年3月から適用されました。累進課税では納税者の経済状況に合わせた税負担が行えるため、税率は変わりながらも現在まで継続されています。
累進課税と比例課税の違い
比例課税は、課税標準額の大小にかかわらず、一定の税率が適用される方式です。日本では「固定資産税」や「消費税」といった、物に着目して課税するいわゆる「物税」に適用されます。
比例課税の目的は、すべての人が一定の税率で納税をおこない、税の公平性を実現させることです。
2.累進課税の制度内容
累進課税は、所得が多くなるにつれて段階的に税率が上昇していく制度です。支払い能力のあり経済的に豊かな人が、そうでない人よりも多くの税負担をするという「垂直的公平」という概念がベースになっています。
たとえば累進課税方式である所得税では、より高い所得を得ている人の税率が高く設定され、低い所得の人に対しては低い税率が設定されているのです。
3.累進課税の種類
累進課税制度には大きく分けて、「単純累進課税」と「超過累進課税」の2種類があります。それぞれどのような課税制度なのか説明しましょう。
単純累進税率
課税標準額が一定以上になったときに、課税標準額全体により高い税率を適用する制度のこと。日本で単純累進課税は使用されていません。
たとえば単純累進税率で日本の所得税を計算してみましょう。課税標準額が330万円で10%、331万円になると20%と納税額はほぼ倍になります。
よって330万円以下の所得の人では、手元に残る金額が多くなりやすいです。それにより、所得を増やそうという意欲を損なう恐れが考えられます。
超過累進税率
課税標準額が一定以上になった場合、その超えた金額に対してのみ高い税率を適用する方法のこと。日本の税制度でも使用されており、税率は所得ごとで7段階にわかれているのです。
たとえば所得195万円以上330万円未満の税率は10%、330万円以上600万円未満は20%。所得税の課税標準額が331万円だった場合、330万円分は税率10%を適用し、残りの1万円分には20%を適用して計算します。
4.累進課税が適用される税金と税率
累進課税が適用される税金について、内容と税率を解説しましょう。
- 所得税
- 相続税
- 贈与税
①所得税
事業所得や給与に課せられる税で、税率は5%から45%の7段階に設定されています。
所得金額ごとの税率
所得金額ごとの税率は、以下のとおりです。
- 1,000円 から 194万9,000円まで:5%(控除額0円)
- 1,95万円 から 329万9,000円まで:10%(控除額9万7,500円)
- 3,30万円 から 694万9,000円まで:20%(控除額42万7,500円)
- 6,95万円 から 899万9,000円まで:23%(控除額63万6,000円)
- 900万円 から 1,799万9,000円まで:33%(控除額153万6,000円)
- 1,800万円 から 3,999万9,000円まで:40%(控除額279万6,000円)
- 4000万円 以上:45%(控除額479万6,000円)
控除額とは低い税率と高い税率の差分を算出したもの。たとえば控除額の9万7,500円は 「195万円×(10%-5%)」という計算となっており、低い税率で生じる課税額を控除という形で差し引いているのです。
所得税の分離課税に注意
所得には、ほかの所得と分離して課税される「分離課税」があります。分離課税となる所得に当てはまるのは、「土地・建物等の譲渡」「株式等の譲渡」「上場株式等に係る配当」「先物取引に係る雑所得」です。
分離課税は、通常の所得に対する税とは税率や計算方法が異なります。税額算出や申告の際は注意しましょう。
②相続税
亡くなった人から遺産を相続して収入を得たときに発生する税で、税率は10%から55%まで8段階に設定されています。
取得金額ごとの税率
相続税の税率は、以下のとおりです。
- 1,000万円以下:10%(控除額0円)
- 3,000万円以下:15%(控除額50万円)
- 5,000万円以下:20%(控除額200万円)
- 1億円以下:30%(控除額700万円)
- 2億円以下:40%(控除額1,700万円)
- 3億円以下:45%(控除額2,700万円)
- 6億円以下:50%(控除額4,200万円)
- 6億円超:55%(控除額7,200万円)
③贈与税
個人からの贈与によって収入を得たときに発生する税で、税率は10~55%まで8段階に設定されています。
基礎控除後の課税価格ごとの税率
贈与税には、110万円の基礎控除が設定されています。基礎控除を超えた分に適用される税率は、贈与財産が「一般贈与財産(特例贈与財産の条件を満たさない贈与財産)」か「特例贈与財産」のどちらに該当するかで異なるのです。
一般贈与財産の税率は、下記のようになっています。
- 200万円以下:10%(控除額0円)
- 300万円以下:15%(控除額10万円)
- 400万円以下:20%(控除額25万円)
- 600万円以下、30%(控除額65万円)
- 1,000万円以下:40%(控除額125万円)
- 1,500万円以下:45%(控除額175万円)
- 3,000万円以下:50%(控除額250万円)
- 3,000万円超:55%(控除額400万円)
特例贈与財産は直系尊属から20歳以上の人への贈与財産のこと。税率は以下のとおりです。
- 400万円以下:15%(控除額10万円)
- 200万円以下:10%(控除額0円
- 400万円以下:15%(控除額10万円)
- 600万円以下:20%(控除額30万円)
- 1,000万円以下:30%(控除額90万円)
- 1,500万円以下:40%(控除額190万円)
- 3,000万円以下:45%(控除額265万円)
- 4,500万円以下:50%(控除額415万円)
- 4,500万円以下:55%(控除額640万円)
5.累進課税に対して使える控除
累進課税には、社会保険料控除といったさまざまな控除制度が活用できます。代表的な控除制度について解説しましょう。
- 青色事業専従者給与
- 基礎控除
- 社会保険料控除
- 配偶者控除
- 扶養控除
- 生命保険料控除
- 地震保険控除
①青色事業専従者給与
事業者とともにその事業に従事している配偶者や親族などに支払う給与のこと。「青色申告を行う事業者である」「生計を一にしている」「青色事業専従者の年齢が15歳以上」などいくつか条件があります。
条件に当てはまれば青色事業専従者給与の特例が適用されるのです。そして支払った給与のうち最大86万円までを、経費として計上できるのです。
②基礎控除
所得から一律の金額を差し引く控除のことで、金額は48万円です。しかし合計所得金額が2,400万円を超える場合は、控除額が減ります。基礎控除は「生活に最低限必要な金額には税を課さない」という考えから設けられているのです。
③社会保険料控除
納税者が支払った社会保険料を控除するもの。納税者自身の社会保険料はもとより、納税者が生計を一にする配偶者、そのほかの親族の社会保険料を支払った場合は、全額について所得控除を受けられます。
社会保険料控除の対象は「国民年金」「厚生年金」「国民健康保険税」「介護保険料」「労働保険料」などです。
④配偶者控除
配偶者が「控除対象配偶者」に該当すると受けられる控除です。控除対象配偶者の条件には「年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合、給与収入が103万円以下)」「納税者と生計を一にしている」などがあります。
配偶者の年齢や納税者の所得などによって控除額が異なり、最大48万円まで控除可能です。
⑤扶養控除
子どもや親、親族などが扶養親族に該当する際に受けられる控除のこと。扶養親族に該当する条件には「納税者と生計を一にする人である」「年間の合計所得金額が48万円以下である」などがあります。
こちらも扶養親族の年齢などによって控除額が異なり、最大63万円まで控除可能です。
⑥生命保険料控除
対象となる保険料を支払った場合に受けられる控除のこと。生命保険料控除の対象は、一般の生命保険料(新保険料)や介護医療保険です。控除額は1年間に支払った保険料の合計をもとに、算出されます。
控除額は「全額」「支払保険料等×1/2+10,000円」「支払保険料等×1/4+20,000円」「一律40,000円」のいずれかです。
⑦地震保険控除
1年間に支払った地震保険料の金額に応じて受けられる控除のこと。所得税が最大5万円、個人住民税が最大2万5,000円まで控除されます。地震保険料控除は地震に備える国民の努力を支援するため、平成19年1月から設けられました。
6.累進課税に関する相談窓口
最後に累進課税に関する相談ができる窓口を紹介します。相談内容やお住まいの地域に応じて選びましょう。
税務署
各都道府県にある税務署では、税金や申告に関することについて、面談で相談できます。ただし事前に日時の予約が必要です。直接税務署に行けない場合、電話で相談ができる「電話相談センター」も利用できます。
国税庁
国税庁のオンラインサービス「タックスアンサー」では、税に関してのよくある質問に対して一般的な回答がまとめられています。「キーワードによる検索」「科目別による検索」などで必要としている情報を検索可能です。
役所
自治体によっては、地元の税理士会との共催で税務相談会を開催している場合も。各役所のサイトにて場所や相談日時、費用などの案内が掲載されているときもあるので、参加したいときは定期的にチェックしておきましょう。
税理士
税理士は税務署類の作成や税務上の助言などを行うプロです。税理士によっては無料の相談会を開催している場合もあります。住んでいる地域の「税理士会」サイトをこまめにチェックしておきましょう。