DX人材とは? 求められる8つの職種とスキル、人材育成の要点

経済産業省による後押しが実施されるなど、国を挙げて進められているDX(デジタルトランスフォーメーション)。デジタル競争の激化や新型コロナウイルスなどの影響もあり、推進に力を入れる企業が増えています。

しかし一方で、DX推進に欠かせない人材についてあまり理解が進んでいないという課題があります。そこで本記事では、DX人材の概要や必要なスキル、活用のポイントなど、DX人材を活用する上で知っておきたい内容をわかりやすく解説します。

1.DX人材とは?

DX人材とは、デジタル技術(IT技術)を活用して既存の業務やビジネス、組織を変革する人材のことです。デジタル領域のノウハウやスキルだけでなく、自社ビジネスの理解やDX推進を牽引するリーダーシップなどが求められます。

経済産業省の『DX推進ガイドライン』では、DXに必要な人材として、次のような人材を挙げています。

  • DX推進部門におけるデジタル技術やデータに精通した人材
  • 各事業部において、事業内容に精通しつつ、デジタルで何ができるかを理解し、DXの取り組みをリードする人材、その実行を担っていく人材

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2.なぜDX人材が注目されるのか?

DX推進においてDX人材は非常に重要です。その重要さがわかるのが、次のマッキンゼー・アンド・カンパニーが実施した調査結果です。

デジタル変革が失敗する要因の割合(調査対象:グローバル企業2,135名の経営者)

  1. シニアマネジメントのフォーカスと文化…36%
  2. デジタル・テクノロジーの理解不足…26%
  3. 人材の欠如…25%
  4. 組織…24%

このように上位4つが人材に関する事項であり、DX推進に関して、DX人材やそれを取り巻く文化や組織への注力が重要なことがわかります。

参考 マッキンゼー・デジタル マッキンゼー・アンド・カンパニー

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3.DX人材の最大の課題は人材不足

DX人材に関する課題はさまざまですが、特に押さえておきたいのが人材不足です。デジタル競争の激化や新型コロナウイルス感染症などの影響もあり、デジタル化やDXに取り組む企業が増加、それにともないDX人材不足が深刻になっています。

さらに経済産業省の「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」によると、2015年時点では17万人だった人材不足が、2030年には最大79万人にまで拡大すると予測されています。

こうした背景からDX人材不足は、企業のDX推進における重要課題になっています。そしてこの課題解決のため、DX人材獲得の強化や既存人材をDX人材に育て上げるといった施策への注力が求められているのです。

参考 IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果経済産業省

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4.DX人材の8つ職種とその役割

自社のDXを推進する人材を採用・育成するためには、具体的にどんな人材を採用し、どのように育て上げるのかを明確にするが大切です。人材の要件や活躍するイメージが明確になっていなければ、DX実現という目標達成が遠のいてしまうからです。

まずは各職種と役割について確認しておきましょう。こちらではDX人材と呼ばれる次の8つの職種と役割についてご紹介します。

  • CIO/CDXO
  • プロダクトマネージャー
  • ビジネスデザイナー
  • テックリード
  • データサイエンティスト
  • 先端技術エンジニア
  • UI/UXデザイナー
  • エンジニア・プログラマー
参考 デジタル・トランスフォーメーション(DX)推進に向けた企業とIT人材の実態調査IPA(独立行政法人情報処理推進機構)

CIO/CDXO

CIO/CDXOは、経営層とコミュニケーションを取りながらDXをリードする人材です。CIO(最高情報責任者)もしくは、CDXO(最高デジタル変革責任者)と呼ばれます。変化が激しい時代のなかで未来を予測し、リーダーシップを執りながらDXを推進する重要な人材です。

また経済産業省の『DXレポート2』では、DX人材の配置を検討する際には、まずCIO/CDXOの役割と権限が明確にするべきだと示されています。このようにCIO/CDXOは、DX人材を考える上で起点となる重要な存在でもあるのです。

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プロダクトマネージャー

プロダクトマネージャーは、DXやデジタルビジネスをリードする人材です。デジタル関連の知見やトレンドを追う能力だけでなく、企業戦略やビジネスの理解を強く求められるため、管理職クラスや事業のエースに準じる人材が適任とされています。

なかでも課題意識が強く、ビジョン実現に向け行動に移せる人材が求められています。

ビジネスデザイナー

ビジネスデザイナーは、DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進などを担う人材です。プロダクトマネージャー同様自社ビジネスの理解が深い人材が適任とされます。

具体的な役割としては、市場や組織がもつ課題やニーズを可視化し、それらを解決するための企画を具体化し、実行に移すなどです。また施策実行の際には、組織やチームをまとめ上げる力が求められます。

テックリード

テックリードは、DXやデジタルビジネスに関するプロジェクトにおける技術面でのリーダーとなる人材です。ビジョン実現に向けて、自社が抱える課題の分析から要件定義、設計などの業務に関わります。

プロジェクトチームの業務の質や生産性を高めるための役割も担うため、デジタルとビジネス双方の知見やスキルに加えて、マネジメントスキルが必須となります。

データサイエンティスト

データサイエンティストは、DXに関するデジタル技術に関するデータの解析・分析を行う人材です。ビッグデータと呼ばれる膨大な情報を解析・分析し、課題の特定や確度の高い施策のヒントの発見、未来予測などを行います。

統計分析や機械学習に関する知識やスキルはもちろんのこと、事業部と協力してプロジェクトに取り組むため、自社ビジネスへの理解も求められます。

先端技術エンジニア

先端技術エンジニアは、機械学習、ブロックチェーン、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、5Gなど、先端技術に関する知識やスキルをもった人材です。変化の速い先端技術の世界で活躍し続けるための総合的な能力が求められます。

社内で該当する人材がいれば理想ですが、テクノロジーの変化が速い領域における人材採用や育成は難易度が高くなります。そのため外部リソースを活用するのが一般的です。

UI/UXデザイナー

UI/UXデザイナーは、DXやデジタルビジネスで使用されるシステムのユーザー向けのデザインを担当する人材です。主な役割はユーザーが日常的に触れることになるシステムの使い心地をデザインによって高めること。

優れたユーザー体験は業務効率化や利用継続率向上につながるため、BtoBやBtoCの業態問わず重要な存在です。デジタル技術やデザインに関する知識やスキルだけでなく、ユーザー体験などデザインの意図を言語化する能力が求められます。

エンジニア・プログラマー

エンジニア/プログラマーは、テックリード(アーキテクト)が設計した仕様にもとづいて、システムやインフラの構築、運用などを実施する人材です。DXではITシステムに加え、現場で使用される機器(ハードウェア)をともなうシステムに関する知見と開発能力が求められます。

エンジニアリングやプログラミングスキルなど専門的なスキルが求められるため、社内で十分な人材を確保することが難しくなっています。そのためSIerと呼ばれるシステムの開発、運用に特化した企業(人材)に外注することが多い職種です。

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5.DX人材に求められる知識とスキル

DX人材の職種と役割がわかったところで、次にDX人材に広く求められる知識やスキルについてご紹介していきます。

自社のビジネス・業務への理解

DX推進の前提として何よりも重要なのが、自社のビジネスや業務への理解です。DX人材はどうしても専門的なスキルが注目されがちです。

しかしデジタル領域に強くても自社のビジネスや強み・弱みを知っていなければ、専門的な知見やスキルを活かすことは難しいでしょう。専門領域に磨きをかけることも重要ですが、自社理解もおろそかにすべきではありません。

ITに関する基礎知識

本的なITに関する知識は。DX人材が身につけるべき技術系スキルの土台です。ウェブやアプリケーションなど、ITの基礎となる仕組みを理解すれば、根本的に何ができて何が難しいか判断できるので、実現性の制度が上がります。

既存のオフィスソフトやシステムを目的に応じて使いこなし、業務の効率化をはかることもDX人材に必要とされているスキルです。

データ活用に関する知識・スキル

DXはアナログな情報のデジタル化から始まり、その施策はさまざまなデータを根拠に意思決定され実行に移されます。そのためDX人材にとって、データ活用の知識やスキルは必要不可欠です。

またビッグデータや機械学習を用いた高度なデータ分析と予測は、未来予測が難しくなっていく正解において重要性を増しています。

データ活用と表現すると難しさを感じるところがありますが、その基礎知識を身につけるだけでもDX推進の力になるでしょう。

先端技術に関する知識・スキル

DXで活用される先端技術の知識も必要です。たとえばAIやIoT、クラウド、ブロックチェーンなどが挙げられます。これらの先端技術に関する知識を積極的に吸収する姿勢や向上心をもつ人物はDX人材となり得るでしょう。

またDXは推進途中や実現後も、IT技術の進化やトレンドに応じて見直さなければなりません。常にアンテナを張り、新しい技術を使ってよりよいDXが実現できないか考えられることもDX人材にとって重要です。

UIやUXに関する知識・スキル

UIやUXの知識、デザイン思考なども必要となるスキルです。UI(ユーザーインターフェース)とは顧客との接点のことで、UX(ユーザーエクスペリエンス)は顧客の体験を指します。

顧客や市場で価値を感じてもらえるサービスや製品をDXで生み出すためには、顧客の興味関心を引きつけ、ニーズを満たしながら使いやすさを追求しなくてはなりません。機能的なデザインと使いやすさを実現するために、UIやUXの知識が必要なのです。

プロジェクトマネジメントスキル

DX人材にはプロジェクトマネジメントスキルも求められます。プロジェクトマネジメントスキルとは、予算や納期をもとに、DX実現に向けた必要工程を洗い出し、逆算してスケジュール調整するスキルです。

適切な担当者と期限設定をするだけでなく、担当者とのコミュニケーションや他部署との連携など、さまざまなステークホルダーを巻き込む調整力やリーダーシップも必要となります。

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6.DX人材に求められる適正とマインド

DX人材の職種と役割、スキルに続いて最後にご紹介するのが適性とマインドです。適性やマインドは性格のように自然と身に付いているものであり、その性質はDX人材としての活躍を左右します。人材の採用や育成の際には、スキルとともに明らかにしておきたい要素です。

IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、主に次の6項目がDX人材に求められる適正因子としています。

  • 不確実な未来への想像力
  • 臨機応変/柔軟な対応力
  • 社外や異種の巻き込み力
  • 失敗したときの姿勢/思考
  • モチベーション/意味づけする力
  • いざというときの自身の突破力

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7.DX人材育成・活用のポイント

具体的なDX人材像を確認したところで、DX人材の活用に向けて押さえておくべきポイントをご紹介していきます。

採用すべき人材像とスキルレベルの明確化

採用すべき人材像やスキルを明確にせず採用に踏み切ってしまうと、細かく掘り下げないとわからない必須スキルや適性の確認が行われないまま、意図しない人材を獲得してしまいます。結果として、後に思っていた活躍と違う、DX推進の進捗が悪いといった事態に発展します。

こうした事態を防ぐためにも、DX実現に必要な職種や経験、資格、スキルとそのレベルなどを明確にしておくべきです。採用要件が細かに明確になっていれば、採用担当者の不必要な経験則が入りづらくなります。また結果として、効率的な優秀人材の獲得が実現できるでしょう。

もしも社内にDX人材の採用要件を決められる経験をもった人物がいなければ、外部の専門家に相談するのがおすすめです。手間はかかりますが、こうした採用すべき人材像やスキルレベルの明確化の実施が、採用や育成の質につながってくるのです。

ジョブ型雇用を取り入れる

ジョブ型雇用とは、採用時に応募者のスキルやそのレベルを重視する雇用方法です。これに対して、現在の日本で一般的な新卒一括採用に代表される学歴や性格重視の雇用方法を、メンバーシップ型雇用と呼びます。

ジョブ型雇用のメリットは

  • DX人材など専門性が高い人材の効率的な採用や育成が可能になる
  • 業務範囲が明確になるため、テレワーク環境でも役割が機能しやすくなる
  • 専門性が高い人材同士のコラボレーションが生まれる

など、DX推進に当たって効果が見込めるものです。

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既存人材のリスキリング(リスキル)を実施する

リスキリングとは企業が従業員に対して、新しいスキルを身に付けさせることです。新たな価値創出や生産性向上を目的に実施されます。DXではデジタル化やテクノロジーに関する教育を既存人材に対して実施。組織的にDX人材を育成することを指します。

人材を単なる労働力やコストと考えるのではなく、ビジョンや企業目標達成のために必要な投資対象と考えることが大切なのです。

リカレント教育を仕組み化する

リカレントは「循環」や「繰り返し」を意味すること言葉です。そしてリカレント教育とは、仕事での実践と学習を繰り返し、学び続けることを意味します。

デジタル技術やそのトレンドは変化のスピードが速いために、専門的なスキルでも時代遅れになりやすくなっています。時代遅れになってしまったスキルを強みとしていた人材を放置してしまうと、やがてはDX推進の足かせとなることを避けられません。

この課題を解決するためにリカレント教育による継続的な学びが求められているのです。企業はリカレント学習を仕組み化し、支援する必要があります。具体的にはDX人材が常に新しい技術の流れをつかみ、学び続けられるマインドセットをもつための仕組みづくりです。

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DX人材に対応する評価制度を整備する

DX人材は専門的なノウハウやスキルをもっています。これを従来の制度をもとに評価してしまうと、適切かつ公平な評価にならず、成長の鈍化や不満につながります。

DX人材を適切に評価できる制度がない場合は、職種ごとの役割やスキルレベルを定義し、報酬に結びつけるなどの制度整備が急務です。

もし適切な役割やスキルレベルを社内で定義できる人材がいない場合は、専門家に意見を仰ぎましょう。

DX人材が強みを最大限発揮できる組織風土をつくる

テレワークの導入や研修・講義の充実など、労働環境の整備がDX人材活用において大切ですが、DX実現には組織風土の改善も重要になってきます。

  • 挑戦が推奨されている
  • 失敗に寛容である
  • データドリブンである
  • アジャイルな組織である
  • 適切な権限委譲が行われている

これらが実現できなければ、せっかく確保・育成したDX人材はそれぞれがもつ強みの発揮が難しくなります。さらには不満が積み重なり、やがては退職につながってしまうでしょう。

DXはビジネスの変革だけが目的ではありません。こうした組織の変革も含めて、柔軟にDXを実現していく体制と姿勢を整えていきましょう

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8.DX人材の育成事例

最後にDX人材の課題解決や活用に取り組む企業の事例をご紹介します。実際に取り組む企業の事例は、DX推進のイメージを膨らませるのに役立つでしょう。

ベネッセホールディングス

ベネッセホールディングスでは、DXにおける課題として、デジタル人材やIT能力不足を感じていました。また対策を進めるにあたりそもそも課題が明確にならなければ、組織能力向上につながらないと考えました。そこで実施したのが、DXに必要な職種とレベル別スキルの定義付けです。

定義付けのポイントはふたつ。ひとつはタレントマネジメントツールを利用し、一人ひとりの役割や働きぶりを明確にすること。ふたつ目はDX人材の定義が自社限定のものになりすぎないように、IPAのスキル標準(IT関連で必要な能力を明確化・体系化したもの)など外部指標を参照することです。

こうして明確になったDXに必要な職種とスキルの定義をもとに、全社員にアセスメントを実施。結果として不足している人材の質と量が明らかになり、人材不足の課題解決に向けて前進できました。

日本郵船株式会社

日本郵船では、「デジタルアカデミー」「データラボラトリー」と呼ばれる2つの人材育成プログラムをDX実現に向けて実施しています。

「デジタルアカデミー」は事業を牽引するリーダーを育成するプログラム。ビジネスの基礎を学ぶ座学や、海外グループとのデザイン思考の研修を経て、最終的には新規事業案の作成を行います。修了後は研修で獲得した横のつながりを活かし、連携してDX推進に取り組んでいます。

「データラボラトリー」は事業部門で活躍するデータアナリストを育成プログラムです。特定の業務課題をラボに在籍するデータサイエンティストが協力しながら解決し、データ分析などのスキル獲得を目指しています。

このように内部人材の育成に力を入れる一方で、外部人材の獲得にも積極的です。専門的研究の経験をもった人材をチーフデータサイエンティストとして採用し、専門的な知見を社内へ浸透させています。

参考 DX白書2021IPA(独立行政法人情報処理推進機構)

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