DXで人事(HR)はどう変わる? メリットや課題、推進方法を解説

ビジネス環境や従業員の価値観が大きく変化し、人事領域、つまり人的資産(HR)の活用においてもDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要性が高まっています。HR領域におけるDX推進の効果と目的、そのステップを解説します。

1.DXで人事(HR)はどう変わるのか?

HR(Human Resource)は人的資産、つまり人材を意味し、DX(Digital Transformation)はデジタルを活用して生活やビジネスに改革をもたらすことを意味します。またHR(人事領域)のDXをHRDXといいます。

HRDXの目的は、主に「業務効率化」「人材開発」「従業員体験(EX)」です。定型業務を自動化して時間と人手の削減やミス軽減につなげ、従業員のスキルに合わせた配置や育成を検討し、良好な労働環境や人間関係を実現するなど、人が関わる多くの場面で活用が期待されます。

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2.日本企業におけるDXの現状

日本ではDXに本格的に取り組んでいる企業が少ないのが現状です。実際に、情報処理推進機構(IPA)の「DX推進指標自己診断結果分析レポート」によると、企業全体の9割以上がDX未着手か散発的な取り組みにとどまっていることが明らかになっています。

参考 DX 推進指標 自己診断結果 分析レポート (2020 年版)IPA(独立行政法人情報処理推進機構)

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3.なぜDXはHRで重要なのか?

HRDXが求められる背景には、ビジネスや市場の激しい環境変化が挙げられます。企業がこの変化に対応していくためには、事業変革はもちろんのこと、自律性や創造力に富んだ、変化に強い組織開発と人材育成が必要です。

HRDXを推進すると、個々の従業員のスキルや興味関心、特性などを可視化して適切な配置転換、効果的な育成プランに活かせます。優秀な人材を育成すれば、組織全体の生産性向上や効率可、業績アップなどに大きく貢献するでしょう。

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4.DXがHRにもたらすメリット

HRDXによって、業務効率化による生産性向上、人事データ活用による人材マネジメント力と経営力強化など、スピード感をもって変化に対応することが可能となります。ここではHRDXのメリットをより深く説明していきます。

①定型業務の効率化

人事部門は同じ工程を繰り返す事務業務が多いため、AIやRPAの技術を活用して、定型業務の自動化と効率化を図ります。時間短縮や人件費削減、ミス軽減が実現できるのです。また効率化によって捻出された時間をより付加価値の高い業務に使えます。

将来的には自動化のプロセスで収集したデータを、経営の意思決定や価値創造に活用できることも大きなメリットです。

②人事評価の多様化に対応

多様な働き方が認められる昨今では、HRDXによる公正な人事評価に期待が寄せられています。

テレワークやフレックスタイム制の普及で非対面の労働環境が増え、上司が部下の仕事ぶりを把握しづらくなりました。適切な評価ができているのかが不透明になり、部下が評価に不信感を抱く恐れがあります。

DXによって「評価基準の明確化」「プロセス評価にウェブ面談を活用」「評価内容をオンライン共有」など、客観的な根拠にもとづいた評価と、従業員の納得度を高める取り組みができます。

③データの蓄積と可視化

HRDXを推進すると、人材や組織に関するデータの収集と蓄積が容易になります。従業員個人の能力や特性、各組織のエンゲージメントや業績などを収集するだけでなく可視化もしやすくなり、より客観的な人事判断が可能となるでしょう。

さまざまな切り口や観点から人事データの分析を行い、適切な配置、教育プランの作成、組織開発面の支援など、確度の高い人事戦略を練ることができるようになります。

④戦略人事の実現の効率化

HRDX推進は戦略人事を実施する基盤となります。戦略人事は企業の経営戦略を実現するための人事で、事務手続きを中心する従来の人事管理ではありません。

経営目標達成に向けて、組織体制や給与体系の見直し、組織風土の変革など、事業成否を左右するような人事施策を立案し実施します。

HRDXが進むと、活用できる人事データの蓄積にくわえて人事部門の生産性も高まるので、組織全体の人事課題に取り組めるのです。

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5.DXのためにHRで取り組むべきこと

DXの成功は土台づくりと準備にかかっているといっても過言ではありません。HRDXをうまく進めていくために、人事部門で事前に取り組むべき点を説明します。

公平な評価制度

優秀な人材を育成するには、客観的な根拠にもとづいた公平な評価制度を構築しなければいけません。たとえ優秀な人材を採用できて育成していったとしても、モチベーションや意欲が伴わなければ、生産性とイノベーションにはつながらないからです。

HRDXで透明性や公平性のある評価制度を整えれば、従業員の納得感や信頼度が高まるでしょう。

フレキシブルな働き方の推進

働き方の選択肢を増やすことは、HRDXをスムーズに展開する土台となります。近年であればテレワークやフレックス制度などが新しい働き方の代表といえるでしょう。

不測の事態が生じてもHRDXに取り組めば、生産性の向上や優秀な人材の育成の基盤を構築でき、採用競争力や人材定着率が高まります。これらは企業価値を高めることにもつながっていくのです。

推進プロジェクトを取りまとめるリーダーの設置

HRDXを主導するリーダーを明確にしておきましょう。担当者や責任範囲が曖昧なままDXを進めていくと、推進プロセスにムダが発生し、時間とコストばかり費やすことになりかねません。抜け漏れやトラブルの可能性も高くなります。

DXの理解度や成熟度には、個人レベルと組織レベル両方で差が出てくるので、反応や進捗を見ながらリーダーがけん引していくことが重要です。

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6.DXで改善するHRの業務

HRDXでは定型業務や集計管理の効率化や、人材マネジメントの精度向上などが期待できます。HRDXが可能となる人事業務を見てみましょう。

採用活動

採用業務の「項目確認」「日程調整」「場所の確保」はDXで負担軽減しやすい分野です。

応募書類に書かれた内容が基準を満たしているかAIに確認させたり、日程調整ツールを利用して面接の日取りを決めたりできます。応募書類の見落としや連絡漏れなどのヒューマンエラーが軽減できる点もメリットです。

面談自体をオンラインで実施すれば、会議室の確保にかかる手間や移動時間を削減できます。こうして捻出した時間を採用の上流過程や選考に注力し、より精度の高い採用を実現できるのです。

人材育成

人材育成においては、オンライン研修、学習コンテンツ配信による自己学習の推進が挙げられます。学習管理システムを活用して、出欠や受講管理、テスト実施、コミュニケーションなど、集合研修で行うほとんどのことがオンラインで完結が可能です。

講師の人件費や会場代、交通費などコスト削減のほか、任意で学習タイミングを決められるため業務と調整しやすいというメリットもあります。人事データを活用して、従業員それぞれの能力や特性に応じた学習計画が立てやすい点も特徴です。

労務管理

働き方が多様化する昨今、クラウド型の勤怠管理システムを導入して労務管理をスムーズにする企業も増えています。とくにテレワークのように働く場所が離れている場合、従来のアナログな手法では従業員の労務管理が困難になりました。

労務管理分野をDX化すると、勤務データの把握や分析が容易になり、人事担当者のチェック業務が効率化されて生産性向上につながります。

給与計算

給与計算業務の多くはHRDXで自動化が可能です。勤務データ集計や給与自動計算、従業員へのウェブ共有などが行えるため、担当者の時間と労力を軽減でき、計算ミスも防げます。印刷や配布にかかる手間もなくなるので、そのぶんのリソースをほかの業務に充てられるようになります。

クラウド型システムは常にアップデートしていくため、法改正に合わせたシステム修正をサービス側が行ってくれることも魅力です。

人事評価

人事評価フローにおけるクラウド導入と、ペーパーレス化もHRDXの得意分野です。従来の紙ベースの人事評価では、「印刷」「配布」から開始しなくてはなりません。

また「評価」「分析」など多くの部署や人が関わる過程では、フォーマットや形態が変換されてしまうこともありました。

このようなフローでは、膨大なコストと負担によってほかの業務が疎かになる上、機会損失につながりかねません。ペーパーレス化とクラウド導入による共通フォーマットの利用は全社的な生産性向上に寄与します。

人材マネジメント

ピープルアナリティクスの活用を通じて、人材マネジメントの精度向上と効率化を両立できます。ピープルアナリティクスとは、タレントマネジメントなど、ビッグデータ解析を利用した人事管理のこと。

給与計算モデルを連携させた適切な給与設定や、従業員アンケートのデータ分析によるエンゲージメントの傾向分析などが行えます。従業員のスキルや性格に関するデータを活用すれば、採用や育成過程の精度向上にも役立つでしょう。

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7.DXでHRが解決すべき課題

人事部門のDX推進をはばむ課題も存在します。見切り発車や対処療法的なやり方でうまくいくほどHRDXは簡単ではありません。自社の課題を正確に把握し、対応してから導入を進めることが重要です。

人事データの整理

人事に関するあらゆるデータを一度、人事部門に集約させる必要があります。通常、人事データは企業のさまざまな部門で個別管理されているため、人事部門と共有保管できていないことも珍しくありません。

異動や昇進など身分変更の記録は人事部門に残っていても、従業員のスキルや経歴、資格取得、過去の1on1記録など、リアルタイムで更新される個別情報は各部署で保管しているといったケースも見られます。

HRDXにあたっては、企業のあちこちに眠っているこれらの人事データを吸い上げ、精査しなければいけません

古い業務システム

既存システムの老朽化とブラックボックス化もHRDX推進における大きな壁です。長年の改修や手入れにより、複雑で属人的なシステムになってしまうと、データ活用が困難になってしまいます。

このような古いシステムからの脱却を目指しても、経営層や現場の各担当者が既存システムの課題や刷新の意義を理解できていないケースや、役割分担やミッションがはっきりせず解決に至らないケースも見られます。

DXを推進できる人材の不足

DX推進にふさわしい人材不足、とくにリーダーとなる人材がいないことも多くの企業が抱える課題です。

「DXでどのような革新をもたらすべきか」「そのために何が必要か」「どんな道筋を描くか」など、ゴールや目的に向けた具体的な方向性や計画を示し、関係者をうまく巻き込みながらプロジェクトを引っ張っていくリーダーシップは欠かせません。

DX人材をどのように発掘し育てていくか、全社的な取り組みが急務となっています。

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8.DX推進のステップとHRで取り組むべき項目

これからHRDXに取り組むならば、推進する際の流れを知っておきましょう。

HRDX推進は計画策定と人材育成の両輪で進めていきますが、とくに人材育成は時間がかかるため、早期運用を目指すならいち早くHRDXに取り組む必要があるでしょう。

目標を定める

HRDX成功の鍵は明確かつ具体的な目標設定です。自社における課題の本質を捉えて正しい方向性で解決策を見出ださなければ、HRDXの方向性を検討できません。

たとえば正当な評価を実現したい場合、評価制度や評価者、評価のフローのどこに課題があるのかを明確にする必要があります。場当たり的かつ表面的な解決に終わらないよう、最終的なゴールイメージをもつことが重要です。

現在の業務フローを見直す

人事部門の業務フローを整理して、時間や労力がとくに多くかかっている箇所を洗い出します。

とくに「紙ベース」「人手」「繰り返し」「確認が多い」業務に注目しましょう。また形骸化している項目がないか、必要な人や部署を巻き込んだ流れになっているか、などの観点から実態調査を重ねましょう。導入するITツールに合わせて業務フローを変更することも一考の余地ありです。

HRDX化の優先順位を決める

HRDX化に取り組む内容の優先順位づけをします。HRDXによる業務効率化が図りやすいもの、成果が出やすいものを優先するのがおすすめです。「テクノロジーやデータを活用しやすい業務」や「繰り返しの定型業務」などからスタートしましょう。

「複数チームで横断または共通する業務」などは影響が及ぶ範囲が大きいため、まずは小さいチームの間で実施するのが安全でしょう。

DX人材の育成

DX人材に必要な素養をもった従業員を集め、育てていきます。下記の項目を兼ね備えた人材を、可能であれば人事部門以外からも集めましょう。異なる経験や知見をもつ従業員がHRDXに取り組むことで、相乗効果を狙うためです。

  • IT技術の基礎知識や興味関心
  • 自社に関する課題意識
  • 探求心、学習意欲
  • 柔軟な発想力
  • リーダーシップ、コミュニケーション力

IT関連の基礎知識、先端技術についての学習環境や資格サポート、報酬制度の整備も同時に進めていきます。

DX人材とは? 求められる8つの職種とスキル、人材育成の要点
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9.DX推進で参考にしたいHR関連の企業事例

HRDXの取り組み例はまだ少ないものの、逆を返すと競合他社に差をつけるチャンスともいえます。HRDXを積極的に推進している企業3社を紹介します。

タビオ株式会社

創業半世紀を迎えたタビオ株式会社は、靴下の製造販売の老舗企業です。従来の評価制度と従業員の価値観にずれが生じ、離職率の高まりやモチベーション低下が課題となっていました。

そこでタレントマネジメントシステムの評価機能を利用し、評価結果や根拠のフィードバックを徹底、従業員の納得感を高めることに成功

さらにワークフロー機能の導入で、年間1,000を超える店舗と本社間の人事書類郵送の効率化を実現しました。

参考 「ワークフロー」で身上申請をスマートに。進むカオナビのプラットフォーム化カオナビ

イノチオホールディングス株式会社

農業総合サービスを提供するイノチオホールディングスでは、縦横の連携がとれていないというホールディングス制ならではの課題をもっていました。

「従業員の顔と名前が一致しない」「人事評価が追いつかない」「企業間の情報共有が疎かになる」など、人事部門の課題が大きかったためタレントマネジメントシステムを導入。

評価機能やアンケート機能、組織図の共有など、デジタルになったおかげで更新や共有が容易になり、ホールディングス全体でつながりを密にできています。

参考 農業総合サービスの【人材配置の最適化】をカオナビが解決カオナビ

ニスコム株式会社

ITインフラなどのサービスを提供するニスコム株式会社では、組織改編のタイミングで人事データの整理が必要になりました。

かねてから顧客先に常駐する従業員の動きを可視化したいという課題ももっていたため、人事データ一元管理と人事戦略の攻めの一手として、タレントマネジメントシステムの導入を決定。

人材マトリックスや人事評価の進捗管理を通じて、大幅に工数が削減され、担当者が内容に集中できるようになりました。

参考 大胆な組織再編を進めるニスコム。経営を加速させる人事戦略のハブを「カオナビ」が担うカオナビ

【DX事例15選】国内・海外企業・自治体のDX推進・成功事例集
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