自治体DXでは何をどう進めるべきなのか? 推進計画、推進手順書、事例

デジタル競争社会や新型コロナウイルスを背景に、民間企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が活発になっています。一方で公的な自治体でも、2021年9月にデジタル庁が発足をきっかけに、以前よりあったDX推進の動きが活発化している状態です。

そこで本記事では、自治体DXの概要や実際の事例に加え、知っておきたい「自治体DX推進計画」や「自治体DX推進のステップ」などについてわかりやすく解説します。

1.自治体DXとは?

自治体DXとは、デジタル技術やデータを活用し、業務効率化や行政サービスの改善を進めながら、住民の利便性向上を目指す取り組みです。単なる新技術の導入で終わらせるのではなく、職員や住民の視点に立って、新たな価値を生み出すことが重視されています。

そもそもDX(デジタルトランスフォーメーション)とは何なのか?

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、スウェーデンのウメオ大学、エリック・ストルターマン教授が提唱した概念です。「デジタル技術の浸透が人々の生活をあらゆる面でよりよい方向に変化させること」を意味します。

自治体におけるDXでは、デジタル技術を活用し、職員の働き方や住民の生活をよりよくするという意味をもちます。

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2.自治体DX推進の目的と意義

自治体DX推進は、政府が策定した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」のなかで語られる次のビジョンの実現が目的となっています。

デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会 ~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~

首相官邸『デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針』から引用

このビジョンの実現に向けて、各自治体は、次のアクションが求められています。

  • デジタル技術やデータを活用して、行政サービスにおける住民の利便性を高める
  • デジタル技術を活用により業務効率化を実現し、人的資源を行政サービスの向上に充てる
  • EBPM(統計や業務データなど客観的な情報にもとづく制作立案)などにより行政の効率化・高度化
  • 多様な連携を来ない、民間のデジタル・ビジネスなど新たな価値を創出する

また、政府でもこうしたビジョンの実現に対し、個人情報保護に関する法律を調整するなど、制度面でのデータ流通基盤の整備に向けて動いています。

後述する情報システムの標準化や一元化、マイナンバーカードの普及促進と併せて、自治体のデータ活用の可能性が拡大することが期待されています。

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3.自治体DX推進計画とは?

自治体DX推進計画とは、2020年(令和2年)12月25日に閣議決定された「デジタルガバメント実行計画」における各自治体の施策について、重点的に取り組むべき内容や政府による支援策についてまとめ、策定された計画です。

国と自治体が足並みをそろえ、情報システムの標準化や高度化など、DX推進に必要な施策を着実にすすめていくことを目的に策定されています。

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4.自治体DX推進で取り組むべき6つの「重点取組事項」

自治体DX推進計画では、各自治体で重点的に取り組むべき事項を6つの項目にわけています。ここではそれぞれの要点についてご紹介します。

①自治体の情報システムの標準化・共通化

2025年のガバメントクラウド活用に向けて、自治体における17の基幹業務システムを、国が策定する標準仕様に則ったシステムに移行します。

こうした自治体情報システムの標準化・共通化により、これまで各自治体がシステムを独自に運用・管理することで増大していた負担を軽減。職員の事務負担軽減と、住民の利便性向上を目指します。

標準化・共通化が求められる基幹系17業務システム

  1. 住民記録
  2. 児童手当
  3. 選挙人名簿管理
  4. 固定資産税
  5. 個人住民税
  6. 法人住民税
  7. 軽自動車税
  8. 就学
  9. 国民健康保険
  10. 国民年金
  11. 障害者福祉
  12. 後期高齢者医療
  13. 介護保険
  14. 生活保護
  15. 健康管理
  16. 児童扶養手当
  17. 子供・子育て支援

②マイナンバーカードの普及促進

マイナンバーカード普及に向けて、申請促進と交付体制を充実させます。オンライン化された行政のスムーズな利用は、住民の本人確認がオンラインで実施できることが前提になっています。

そのため、確かな本人確認を実施するにあたり、最高位の公的なツールであるマイナンバーカードの普及が、自治体DX推進において重要なのです。

③自治体の行政手続のオンライン化

行政のオンライン化については、主に次の3つのアクションが求められています。

  • 地方公共団体などの手続に広く活用できるマイナポータルの「ぴったりサービス」を利用した手続のオンライン化に取り組む
  • 処理件数が多く、業務効率化や住民の利便性向上に高い効果が見込める手続を優先してオンライン化する
  • 住民のライフイベントに際して、多数存在する手続をワンステップで行うための手続を優先してオンライン化する

④自治体のAI・RPAの利用促進

情報システムの標準化・共通化、行政手続のオンライン化と併せて、AIやRPAの導入による業務効率化を図ります。AIやRPAとは、業務(特に定型的なもの)の自動化・半自動化を実現するツールです。

AIやRPAの導入を検討する際には、総務省が発行する『AI・RPA導入ガイドブックの策定』を参考に導入を進めます。

⑤テレワークの推進

職員一人ひとりにあった働き方を実現するため、テレワークを推進します。自治体における働き方改革の切り札として位置づけられており、重要度の高い施策です。

具体的には、育児や介護などを理由に労働時間に制約がある職員や、障害のために生活に制約がある職員の能力発揮を促進する効果が期待されています。

また昨今の新型コロナウイルス対策だけでなく、災害などの非常時における事業継続といったBCPの観点からも重視されています。

⑥セキュリティ対策の徹底

行政手続のオンライン化、クラウド化、テレワークなど、DX実現に向けて必要なセキュリティ対策の抜本的な見直しと推進を行います。具体的には次の2点です。

  • 改定後の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」を踏まえて、セキュリティポリシーの見直しと、情報セキュリティ対策を徹底する
  • 自治体情報セキュリティクラウドについて、総務省が要求するセキュリティレベルを満たす民間サービスに移行する
参考 地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン総務省

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5.自治体DX推進の4つのステップ

自治体におけるDX推進は、大枠で民間企業の流れと同じです。一方、細かい部分では、行政独自の内容が絡み、別物となっています。こうした背景を踏まえて、自治体がDXを進めるためのステップについてご紹介します。

ステップ0:DXの認識共有・機運醸成

自治体DXに取り組むにあたって、推進の下地となる認識の共有と機運の醸成を実施するステップです。まだDXに着手していない自治体が取り組むべきステップとなります。

自治体DXには「デジタル化による業務効率化や行政サービスの改善を通して、住民の利便性向上を目的とする」という前提がある上で、次のアクションが求められます。

  • 首長や幹部職が自治体DXを十分理解し、リーダーシップを発揮する
  • 首長から一般職員まで自治体DXの概要や必要性について共通の理解を形成する
  • すべての職員が自治体DXを自分ゴト化し、主体的に実践する意識を醸成する
  • 利用者中心の行政サービス変革を進めるという、デザイン思考を共有する

ステップ1:全体方針の決定

自治体DXにおける全体方針(戦略)を決定するステップです。DX推進のビジョンや大まかな工程表から構成される全体方針の決定と自団体内での共有が求められます。具体的な内容は次の通りです。

  • 「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」で提示されている自治体DX推進の意義を参考に、自団体の現状を反映させながら、自治体DX推進のビジョンを描く
  • 自団体におけるデジタル化の進捗を把握した上で、自治体DX推進の取り組みや、その大まかなスケジュールを工程表にまとめる

ステップ2:推進体制の整備

全体方針にもとづいた自治体DX推進にあたり必要な体制整備を行うステップです。緊密な連携体制の構築、デジタル化を推し進めるデジタル人材の育成、必要に応じた外部人材の活用などについて検討し、整備します。

  • 自治体行政を変革する司令塔として、DX推進担当部門を設置する
  • 各業務担当部門に適切なデジタル人材を配置する
  • デジタル人材に限らず、一般職員を含めて身に付けるべき知識やスキルを定義した上で、体型定期な育成方針を決定。その上で研修など必要な育成施策を実施する
  • 庁内でデジタル人材が不足している場合は、外部人材の活用を検討する

DX人材とは? 求められる8つの職種とスキル、人材育成の要点
経済産業省による後押しが実施されるなど、国を挙げて進められているDX(デジタルトランスフォーメーション)。デジタル競争の激化や新型コロナウイルスなどの影響もあり、推進に力を入れる企業が増えています。 ...

ステップ3:DXの取り組みの実行

全体方針や自治体DX推進に関する各種ガイドラインの内容を踏まえて、実際に個別のDX施策を実施するステップです。取り組みの際には、下記のフレームワークの利用が推奨されています。

  • PDCAサイクルを活用し、進捗を管理する
  • OODA(ウーダ)ループを活用し、柔軟で迅速な意思決定を行う

OODAとは?

OODAとは、素早く適切な判断を行うことに特化した思考のフレームワークです。PDCAサイクルと比べ、計画を立てるステップがないため、迅速な判断が求められる状況に適しています。

OODAの各アルファベットの意味はそれぞれ次の通りです。

  • Observe(観察)
  • Orient(方向づけ)
  • Decide(判断)
  • Act(行動)

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6.自治体DX先進事例

自治体DXにおける先進事例を、先に紹介した推進の4つのステップごとにご紹介します。

民間企業の事例が気になる方は下記の記事をご覧ください。

【DX事例15選】国内・海外企業・自治体のDX推進・成功事例集
デジタル競争の激化、人材不足、コロナ禍などを背景に多くの企業が必要性を感じるDX(デジタルトランスフォーメーション)。しかし実際に取り組む企業は少なく、また適切にDXを推進できている企業はほんのひと握...

ステップ0の取り組み:広島県

広島県では、DX推進にあたり、DXを「課題解決にデジタル技術の活用を検討するもの」と定義しました。理由はデジタル技術の活用を起点としてしまうと、単なる業務改善や効率化で終わってしまい、価値ある変革が実現できないためです。

こうした背景から広島県では、目標と現状のギャップを課題とし、この課題を解決する課題解決を起点とする考え方を重視。自治体DX推進ではこの考え方をベースに、新たな価値の創出を目指しています。

ステップ1の取り組み:神奈川相模原市

神奈川県相模原市のDX推進では、適宜現状と照らし合わせて計画の進め方を見直すなど、柔軟な全体方針(戦略)を打ち出しています。

またその実現のため、庁内にICT戦略調整会議を設置。事業ごとにPDCAサイクルを回す際に、事業主体とは別にICT戦略調整会議が進捗状況を評価し、進行管理を行うことで、計画の着実な進行を具現化しようとしています。

ステップ2の取り組み:奈良県田原本町

奈良県田原本町では、力強いDXの推進を目的に外部の専門家の視点を入れることを決断。また外部人材の活用にあたり、外部人材活用のポイントをまとめるなど、入念な準備をもとにDX推進に取り組んでいます。

具体的には、まず各種業務のデジタル化が適切なのかどうかを現状把握・調査分析で明確化。その上で外部の専門家の意見を取り入れ、取り組み可能な業務から着実に改善を進めています。

田原本町における外部人材活用の6つのポイント

  • 採用する目的を明確にする
  • 丸投げしない
  • 常勤にこだわらない
  • 外部人材に過度な期待をしない
  • 外部人材を孤独にさせない
  • 企業のメリットも尊重する

ステップ3の取り組み:千葉県船橋市

千葉県船橋市では、DX推進にあたり次の施策をスモールスタートとして位置づけました。

  • アンケートなど入力が簡単な手続の申請のオンライン化
  • 行政のオンライン化の加速を目的に、各種申請様式の押印の必要性についての見直し

簡単な手続のオンライン化では、利用者である住民の利便性を配慮した申請システムを導入することで、オンライン化を進めています。また導入したシステムは庁内の紹介業務にも活用可能で、職員と住民双方の利便性向上を実現しています。

押印の必要性の見直しでは、国の方針を元に見直しを実施した結果、押印が義務付けられていた様式(5,513件)の約70%で押印の義務付けが廃止に。そしてその結果を、市のホームページで公開することで、行政サービスの利便性向上を住民に周知しています。

押印廃止にあたり使用した見直しの方針

  • 押印の義務付け廃止……認印・実印(印鑑照合なし)
  • 押印義務付け存続……実印(印鑑照合あり)
  • 国等の根拠によるもの……国等の法令改正に準じて、随時対応
参考 自治体DX推進手順書参考事例集総務省

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7.自治体DX推進で確認しておきたい資料

自治体DX推進の基礎となる参考資料をご紹介します。どちらも総務省から発行されたもので、信ぴょう性の高いものとなっています。

自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画

2020年総務省から発行された自治体DX推進についてまとめられた資料です。各地方自治体がDX推進における情報システムの標準化・共通化、行政手続のオンライン化に取り組む際に必要な方針や具体的な取り組みについてまとめられています。

参考 「自治体デジタルトランスフォーメーション(DX)推進計画」の策定総務省

自治体DX推進手順書

自治体DX推進計画を踏まえて、各自治体が着実にDX推進に取り組むための具体的な方針や方法を示したものです。実際には1つの資料ではなく、次の4つの資料によって構成されています。

自治体DX全体手順書

自治体DX推進にあたって想定される推進の手順についてまとめられた資料です。先に紹介したDX推進のステップについての詳細が確認できます。

自治体情報システムの標準化・共通化に係る手順書

自治体で利用する情報システムの標準化や共通化に関する内容がまとめられています。意義や効果から始まり、DXを推進する上で必要な作業手順などが紹介されています。

自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書

行政手続のオンライン化についてまとめられています。オンライン化の方針や実際の作業手順などが具体的に紹介されています。

自治体DX推進手順書参考事例集

各地方自治体のDX推進の事例をまとめた資料です。全部で4つある自治体DX推進のステップごとに、実際の施策内容がまとめられています。またそのなかでは、下記の内容などが紹介されています。

  • 自治体DX推進のポイント
  • 自治体DX推進の概要
  • 自治体DX推進の戦略
  • 自治体DX推進の体制
参考 自治体DX推進手順書」の作成総務省