DX推進の課題とは?【具体例でわかりやすく】解決策も解説

昨今注目が集まっているDX(デジタルトランスフォーメーション)。しかしその必要性を理解しながらも、全社的に取り組みをおこなっている企業は決して多いとはいえません。

これにはDXの推進をはばむ、国内企業ならではの課題があります。この記事では、5つの課題を取り上げ、その背景と対策について解説します。

1.DXの課題とは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いてサービスやビジネスモデルを変革し、競争優位性を確立する取り組みのことです。

近年日本でも注目を集めていますが、DXの取り組みはアメリカに比べて遅れをとっている状況です。その背景には、日本企業独自の要因が複雑に絡み合っていることがあります。なかでも国内企業抱える代表的なDX推進の課題が次の5つです。

  1. ITシステム
  2. IT投資
  3. 経営戦略
  4. 人材育成・確保
  5. ユーザー企業とベンダー企業の関係性

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2.DXにおけるITシステムの課題

国内企業が抱えるDXの課題のなかでも比較的重要度が高いのが、レガシー化したITシステム(レガシーシステム)の存在です。

レガシーシステム問題とは、システムが長年使われるうちに複雑化・ブラックボックス化し、

  • 保守・運用費が高額となる
  • 新しいシステムに刷新したくても仕様を把握できない
  • システムトラブルやデータ滅失のリスクがある

といった状況を引き起こし、DX推進を阻害する原因となっていることです。日本企業の約8割がこの課題を抱えていると見られており、国のDX推進においても重大な課題のひとつとなっています。

またレガシーシステムを使っていると、DX推進において重要なデータ活用にも不便をもたらします。具体的には次のような課題です。

  • データの調査に時間がかかる
  • データ連携ができない
  • 影響が多岐にわたるため新機能を手軽にテストできない

加えて、今後IT人材がいっきに定年退職する時期を迎え、サポートを終了するITシステムが続出することも懸念されています。

そうなると、今使っているシステムを運用・保守の継続が難しくなり、最悪の場合、ITシステムに支えられていた業務基盤が維持できなくなってしまう可能性もあるのです。

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ITシステムがレガシー化してしまう原因

ではなぜ、ITシステムがレガシーシステムとなってしまうのでしょうか。その主な3つの原因について見ていきましょう。

原因①システム独自の開発手法が引き継げていない

ひとつは、システムの開発手法の問題です。これまでのシステム開発では、各社の業務に合わせて独自のシステムを開発する、スクラッチ開発と呼ばれる手法が主でした。

しかし、企業独自のシステムをつくってしまうと、その運用や保守には独自のノウハウが必要になってきます。

そしてこの独自のノウハウが担当者の退職や引き継ぎのミスなどにより失われてしまうと、運用・保守できる人材がいないブラックボックスと化してしまうのです。

原因②システムが個別最適化されてしまっている

ふたつ目の原因は、システムを事業部ごとに最適化してしまっていることです。

ITシステムは全社横断的な最適化が行われていれば、事業部同士でデータを連携し活用できます。しかし、事業部ごとにシステムが最適化されていると、その部署同士のデータ連携が複雑になってしまい、結果としてブラックボックス化してしまうのです。

原因③システムに問題がないと刷新を決断できない

レガシーシステム化の原因最後のひとつは、システムが機能している限り放置されやすいという問題です。つまりレガシー化が進行しているシステムであっても、問題がなければ使い続けられてしまい、結果としてレガシーシステムになってしまうのです。

【対策】レガシーシステムを刷新する

もし自社でレガシーシステムを抱えている場合は、ITシステムの刷新が必要不可欠です。刷新の際には、全体最適の視点を取り入れ、運用・保守、データ活用のしやすさなどを含めて検討しましょう。

また検討の際には必ずシステムに詳しい専門家の意見を仰ぎましょう。これを怠ってしまうと、レガシーシステムを刷新するはずが、新たなレガシーシステムをつくり上げてしまっているという事態を引き起こしかねません。

またシステム刷新の代替案として、既存のサービスを利用する手があります。たとえばSaaSと呼ばれるクラウドサービスを活用すれば、システムの構築や運用をせずとも、必要な機能やシステムの利用が可能です。また、システムや機能のアップデートは自動で行われるため、運用・保守コストの削減も期待できます。

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3.DXにおけるIT投資の課題

DX実現には、システムなどの設備や人材への投資が必要不可欠です。しかし、実際にはIT予算の8割弱が現行ビジネスの維持や保守運用(ラン・ザ・ビジネス)に使われているのが現状です。

つまりDXに必要な新たな価値を生み出す施策に、十分な予算が振り分けられておらず、DX推進を妨げる課題となっているのです。

DXにおけるIT投資がうまくいかない理由

DXのIT投資がうまくいかない理由のひとつに、IT投資の知識がアップデートされていないことがあります。業務効率化やコスト削減が重視されており、ビジネスモデルの変革やサービスの差別化に向けた積極的なIT投資があまり重視されていないのです。

またDXの重要課題であるレガシーシステムの保守・運用費の高騰も、IT投資予算をひっ迫する原因となり、DX推進の足かせになっています。

【対策】現状を分析し、投資を最適化する

IT投資を成功させるためには、IT予算の最適化が必要です。具体的には、自社の強みとは関連性の薄い協調領域と、ビジネスの強みとなる競争領域を見極め、予算に反映していくことになります。

協調領域ではSaaS(クラウドサービス)などを活用し、費用や人的コストを抑え、IT予算の確保を実施。一方競争領域では、抑制で生まれた投資余力を活用し、競争力向上の施策に投資していくのです。

そしてそのためにはIT資産の現状を分析・評価し、仕分けをする必要があります。不要なものは廃棄する、頻繁に変更するものはカスタムしやすいSaaSを使うなどの見直しを行いましょう。

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4.DXにおける戦略の課題

DXの前提となる経営戦略の検討が不十分であることもDXにおける課題のひとつです。経済産業省が発行する『DXレポート』では、「ビジョンと戦略の不足」がDXの課題になっているという回答が約7割になったという調査結果が紹介されています。

不十分な戦略とはたとえば、「AIを使って何かやれ」というようなビジョンが不明確な戦略などを指します。こうした戦略を実行に移しても、現場の混乱や従業員の不満につながるだけで、DXは実現しません。

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戦略がDXにつながらない原因

戦略がDXにつながらない理由のひとつに、技術起点で戦術を考えてしまうことが挙げられます。

具体的には「顧客や市場にどのような価値をもたらしたいか」といった考えを飛ばし、AIや自動化といった技術ありきで、戦略を考えてしまうという具合です。

こうなってしまうと、戦略の効果も技術効率化のレベルで止まってしまい、変革といえるほどの成果を得ることは難しくなってしまいます。

【対策】ビジョンや経営戦略を明確に打ち出し、共有する

DXを実現するためには、ビジョンを明確にし、顧客や市場のニーズをもとに戦略を策定することが重要です。具体的には次のような内容を検討します。

  • 顧客や市場はどのようなニーズを持っているのか
  • どの事業分野でどのような価値を生み出していくか
  • そのためにどのようなビジネスモデルを構築すべきか

また、こうして明確にしたビジョンや戦略を従業員に伝えることも忘れずに実施しましょう。従業員のDX推進への理解はそのまま、DX推進の円滑化につながるためです。

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5.DXにおける人材育成・確保の課題

DX推進に必要不可欠な人材不足は、DX推進における重大課題です。DX推進の課題として人材不足を上げる企業は少なくなく、そのために外注に依存してしまうという問題も起こっています。

経済産業省の発表では、IT人材の需要と供給のギャップが、2030年には最大79万人にのぼると予測されています。このようにDX推進に取り組む企業が増えるなか、IT人材不足はますます深刻になっているのです。

参考 IT人材需給に関する調査経済産業省

DXに必要不可欠なIT人材が不足する原因

IT人材が不足する原因について紐解いていきます。原因には大きくふたつあります。

原因①労働人口が減少する一方で、IT需要が高まっている

ひとつは、労働人口の減少とIT需要の高まりです。日本では少子高齢化にともなって労働人口が減っています。これにともないIT人材の供給がゆるやかになっているのです。

一方でIT市場は拡大を続けており、膨れ上がる需要に対して人材の供給が追いつかず、徐々にそのギャップが大きくなっているのです。

原因②IT人材の多くがベンダー企業に所属している

もうひとつは、多くのIT人材がベンダー企業に所属していることです。『我が国におけるIT人材の動向』(経済産業省、2018年)によると、IT人材の約7割がベンダー企業に従事しています。

そのためユーザー企業がDXやシステムの内製化を進めようとすると、社内での人材確保がむずかしいと感じるのです。

参考 我が国におけるIT人材の動向経済産業省

【対策】多様な方法で人材確保し、自社内で育成する

まず日本の人材の流動性が高まっていることを理解しましょう。せっかく優秀な人材を獲得できても、継続して活躍してもらわなければ意味がありません。IT人材が働き続けたくなるような環境づくりが大切です。

その上で人材獲得を実施します。即戦力が必要ならば中途採用、ポテンシャルを事業に活かす場合は新卒採用、社内の他部門から発掘するという方法もあります。コアとなるIT人材が社内にいれば、ベンダー企業やフリーランサーの積極的な活用も検討します。

また獲得後の育成も重要です。OJTやOff-JT、社内外の研修やセミナー、勉強会といった施策が検討できます。また外部人材を活用し、そのノウハウを社内人材に吸収させるといった育成方法や、既存人材にITに関する教育を実施し、戦力化するリスキリングという方法があります。

さらに正しく評価し成長につなげるといった意味でも、専門領域で活躍するIT人材に対応した人事評価制度の整備も必要になってくるでしょう。

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6.DXにおけるユーザー企業とベンダー企業の関係性の課題

システム開発におけるユーザー企業とベンダー企業の不適切な関係も、DX推進にとって重要な課題のひとつです。

システム開発においてユーザー企業はシステム開発の委託によるコスト削減、ベンダー企業は受託による低リスクかつ安定したビジネスの享受、とそれぞれにメリットがあるように見られています。

しかし、双方に利益があるように見える関係は、実際には「定位安定」の関係として、DX推進を阻む問題となっているのです。

定位安定の関係が生まれてしまう原因

原因①システム開発をベンダー企業に丸投げしている

システム開発はベンダー企業が要件定義から請け負うのが一般的です。しかしこの際にシステムについてよくわからないからと、システム開発において重要な要件定義についても、ベンダー企業にまる投げしてしまうケースがあります。

ユーザー企業がオーナーシップを持たず、システム開発を丸投げすると、意見の相違による修正が増え、納期遅延や開発費用拡大を招きます。また、まる投げすることで、自社内に開発したシステムに対応できず、システムがブラックボックス化するリスクが生まれます。

さらに特定のベンダー企業に頼らざるを得ない状況はベンダーロックインと呼ばれ、顧客への迅速な価値提供ができない原因になっているのです。

原因②労働量による価値提供と多重下請け構造が常態化している

一般的なベンダー企業では、労働の価値ではなく労働量に値付けを行っています。ビジネスを低リスクで推進できるメリットがあるものの、その利益水準は低いものです。

さらにベンダー企業では、多重下請け構造が状態化しており、1次請け、2次請け、3次請けと進むごとに、低水準の利益がさらに少なくなる仕組みになっています。

こうした背景からベンダー企業では、売上総量確保のために業務を受注するものの、利益率が低く、技術開発に投資ができなくなっています。つまり、成長領域に必要な能力が獲得できず、利益率の低い労働量を提供するビジネスから脱却できなくなっているのです。

【対策】アジャイル開発を取り入れ、共創関係を築く

こうしたユーザー企業とベンダー企業を取り巻く課題を解決するためには、対等なパートナーシップを築き、共創関係を構築していくことが重要です。

その上で双方に求められる取り組み、それぞれの企業に求められる取り組みについて確認しましょう。

ユーザー企業、ベンダー企業双方に必要な取り組み

アジャイル開発に取り組む

アジャイル開発とは、開発工程を小さい単位に切り分け、計画からテストまでのプロセスを短期間で繰り返す開発方法です。

ユーザー企業とベンダー企業が協力し、アジャイルな開発体制をユーザー企業内に構築することで、市場の変化に対応するスピードが求められるDXにおける強みとなります。

ともにアジャイル開発に取り組むことで、ユーザー企業はアジャイルの考え方や技術、ベンダー企業は内製開発の伴走やチーム能力の向上といったメリットがあります。

ユーザー企業に求められる取り組み

社内IT人材の確保と育成

ベンダー企業とシナジーを生みながらDXを推進するためには、ユーザー企業がオーナーシップを持ち、共創の関係をつくり上げていく必要があります。実現のためにはITの活用に理解があり、DX推進を牽引するIT人材の存在がカギになってきます。

そのためIT人材の採用や育成が急務です。もし社内にIT人材に関して詳しい人物がいない場合は、専門家に意見を仰ぐことも検討します。

ベンダー企業に求められる取り組み

労働量ではなく「価値」を対価にする

低利益率、成長の伸び悩みになっている労働量を対価したビジネスから、生み出した効果や価値に対する対価を受け取るビジネスに移行していくことが重要です。

具体的には、ユーザー企業がDX推進などのビジネス展開に必要なリソース(人材、技術、製品・サービス)やデジタルプラットフォームの提供。パッケージソフトやSaaSといった新たな製品やサービスの提供を通して、価値中心のビジネスを作り上げていきます。

こうした価値中心の取引が当たり前になってくることで、多重下請構造の課題解消も期待できるとされています。