社会人基礎力とは、さまざまな人と仕事をしていくうえで必要とされる基礎的能力のことです。
ここでは社会人基礎力の3つの能力や鍛え方について説明します。
目次
1.社会人基礎力とは?
社会人基礎力とは、社会人ならば基礎的に備えておく必要がある能力のことです。無職者が社会問題となった2006年当時、企業と学生との間には「身につけるべき能力水準」に意識差がありました。そこで双方が意思疎通を図るため、経済産業省より「多様な人々と仕事をするために必要な基礎的能力」として発表されました。
社会人基礎力が企業にもたらすもの
社会人基礎力は、業界や職種を問わずあらゆる職場で求められるスキルです。経済産業省が実施したアンケートでは、半数以上の人事採用担当者が「採用選考における人材評価要素や人材育成に社会人基礎力を活用する」と回答しています。
社会人基礎力を身につけることには、将来の管理職となる人材を育成すること、採用コストを削減することなどのメリットがあると考えられています。
2.社会人基礎力における「3つの能力」
職場や地域社会でさまざまな人と仕事をしていくために必要な社会人基礎力は、次の能力から構成されています。「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3つです。
前に踏み出す力
「前に踏み出す力(アクション)」とは、失敗しても一歩前に踏み出して粘り強く取り組む力のことです。実社会の仕事では、教科書どおりの答えがありません。失敗を恐れず試行錯誤しながら自ら一歩前に踏み出す行動が必要です。
この「前に踏み出す力」は、物事に進んで取り組む主体性や他人に働きかける力、実際に実行する力とも言い換えることができます。
考え抜く力
常に物事に疑問を持って課題を発見する力を「考え抜く力(シンキング)」といいます。問題の解決方法やプロセスについて納得いくまで考えるこの力は、さらに次の3つに分類することができます。
- 課題発見力:現状を分析して課題を明らかにする
- 創造力:新しい価値を生み出す
- 計画力:解決プロセスを明らかにして準備する
チームで働く力
職場や地域社会など仕事の専門化や細分化が発展した環境では、多様な人との協働が必要です。ここで求められるのが、自分の意見を的確に伝えたり、意見の異なるメンバーを尊重したりして課題解決に向かう「チームで働く力」です。
具体的には発信力や傾聴力、周囲の人々や物事の関係性を理解する情況把握力や、ストレスの発生に対応するストレスコントロール力などがこれに含まれます。
3.社会人基礎力における「12の能力要素」
社会人基礎力の12の能力要素について、詳しく説明します。
「前に踏み出す力」
「前に踏み出す力」には以下3つの能力が含まれています。
1.主体性
2.働きかけ力
3.実行力
主体性
「主体性」とは物事に進んで取り組む力のことです。2018年にマイナビが各企業の人事担当者にアンケートを行ったところ、選考時に重視する能力として86%もの企業が主体性を挙げました。
指示されたことだけをする、指示されなければ何もしない、といった「指示待ち人間」は自分がやるべきことや今の自分にできることが見極められない、つまり「主体性」のない人間と評価されます。
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働きかけ力
他人に働きかけて周囲を巻き込む力を「働きかけ力」といいます。現在の情況を正しく分析したうえで相手に納得してもらうように働きかけ、効果的に周囲を巻き込みます。
組織には個人で解決できない課題がたくさんあります。そのようなときに周囲に働きかけて巻き込むことができれば、一人では難しいことでも全員の力で乗り越えることができるのです。
実行力
「実行力」とは、設定した目標に向かって確実に行動し、粘り強く取り組む力のことです。完遂力、あるいは物事に取り組みやり抜く力、とも言い換えることができます。
実行力のある人は責任感が強く、適切な目標設定ができる人材でもあります。また実行力があれば、課題に対して計画性をもって挑戦することができるのです。
「考え抜く力」の能力要素
「考え抜く力(シンキング)」には以下3つの能力が含まれています。
1.課題発見力
2.創造力
3.計画力
課題発見力
「課題発見力」とは、現状を分析して目的や課題を明らかにする能力のことです。すでに起こった問題を解決するのではなく、問題が起きる前に課題を見つけて対処法を考えるのが「課題発見力」です。
企業がよりよいサービスや商品を生み出すためには、無駄なコストを削減する力や、商品やプロセスの問題点を見つけて改善する力が必要です。課題発見力のある人は自分の課題を発見、改善し、成長し続けることができます。
創造力
新しい価値を生み出す力を「創造力」といいます。創造力のある人材は従来の考えにとらわれず、適切な解決方法を考えることができます。
とりわけ企画業務には、今までになかった価値を生み出し、商品やサービスの価値を高める創造力が欠かせません。先入観や常識に縛られない発想で、魅力的なサービスや商品、ユニークなアイデアを次々と生み出します。
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計画力
仕事において、計画の遅れは金銭的トラブルにまで発展する恐れがあります。納期に間に合わなかったり、不良品を納入したりすればその後の仕事がなくなってしまうかもしれません。そこで重要なのが、問題の解決に向けたプロセスを明らかにし、それに備えて準備する「計画力」です。
計画力をもって問題解決に向けた複数のプロセスを明確にし、最善に向けて準備します。この計画力に身につけるためには、自分の力量を正しく把握しておかなければなりません。
「チームで働く力」の能力要素
組織で仕事をしていくには、個人の能力だけでなく傾聴力や柔軟性も必要です。そのために必要な「チームで働く力」として、次の6つの能力が挙げられます。
発信力
自分の意見を分かりやすく伝えるための能力です。さまざまな人と協働するためには、自分の意見を分かりやすく相手に伝える必要があります。
言いたいことを一方的に押し付けるのではなく「どうすれば相手は分かってくれるだろうか」と相手のことを考えながら伝える能力が必要です。また的確に自分の意見を伝えることは、人間関係を円滑にすることにもつながります。
傾聴力
相手の意見を丁寧に聞く能力です。相手の話したいことを引き出して理解する「傾聴力」のある人は、自分のことを多く話さなくてもスムーズにコミュニケーションを取ることができます。
傾聴力を高めれば、相手の気持ちに寄り添って適切な提案をしたり、自然と問題解決に導いたりすることが可能です。ビジネスではもちろんプライベートでも大きな役割を果たす能力といえるでしょう。
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柔軟性
仕事では多くの人が関わり合います。自分以外のさまざまな人とうまく連携しながら仕事を進めるには、意見の違いや立場の違いを理解する「柔軟性」も必要です。
どれだけ高い能力を有していても、それを誇示するだけで何もしないままでは周囲の協力が必要になった際に理解を得ることができません。社会では専門知識以上に相手の話に耳を傾けて働く環境に適応する「柔軟性」が求められます。
情況把握力
自分と周囲の人々や物事との関係性を正しく理解する能力です。自分が置かれている環境や立場を察知する能力とも言い換えることができます。
チームで仕事をするときは、自分がどのような役割を果たす必要があるのか、メンバーは何が得意で何が苦手なのかなどを把握して役割分担する必要があります。現状何が起きているのか、何を求められているのかを観察して実行する能力は、社会人にとって欠かせない能力です。
規律性
社会のルールや人との約束を守る能力です。社会では法律や条例、就業規則など属している環境に依存したルールに則って行動しなければなりません。
ルールを正しく理解して自らの発言や行動を適切に律する規律性は、物事の習慣化、ルーティン化することが得意な資質ともいえます。場当たり的な思い付きの対応ではなく、あらかじめ先を見通した対応をするためにも必要な能力です。
ストレスコントロール力
私たちは仕事上ではもちろん、生活のなかでもさまざまなストレスに直面しています。その原因であるストレッサーへ適切に対処したり、思考の転換によってダメージを軽減したりする能力のことを「ストレスコントロール力」といいます。
直面しているストレスがコントロールすべきものなのか、回避すべきものなのかを見極めて、自分自身の成長につなげる能力です。
4.人生100年時代における社会人基礎力3つの視点
2018年に「働き方改革」が提唱された際、経済産業省は「人生100年時代の社会人基礎力」としてこれまでの3つの能力に加え、新たに「3つの視点」を追加しました。
学び
新たに追加された視点のひとつは「何を学ぶか」ということ。これからの時代に求められるのは、既存成功モデルの踏襲ではなく「新たな価値の創出」です。そのためには社会人になる前だけでなく、働きながら生涯をとおして学び続けていく姿勢が重要です。
あらゆる商品やサービスは、新たな付加価値を発揮し続けなければ生き残ることができません。学びをとおして絶えずアップデートする必要があるのです。
組合せ
「どのように学ぶか」ということです。人生100年時代を生き抜くには、自らの視野を広げ、体験や経験、キャリアや能力などを組み合わせて統合する必要があります。
長く必要とされる人材になるためには、企業から与えられた仕事の結果に作られるキャリアだけでなく、自らキャリアを作り上げようとする意識が必要です。多様な経験や能力を組み合わせれば、自らの新しいキャリアを切り開く手掛かりになります。
目的
これは社会で長く活躍するために「どう活躍するか」を考える視点です。人生100年時代のキャリアを切り開くには、自己実現や社会貢献に向けて行動する「目的」が重要となります。
自らキャリアを切り開いていくには、この「学び」「組合せ」「目的」のバランスを図る必要があります。3つの視点で納得のいくキャリアを築くことがエンゲージメントや主体性、モチベーションの向上、ひいては生産性の向上につながるという考え方です。
5.社会人基礎力の鍛え方
社会人基礎力を鍛えるためには仕事のなかで改めて意識したり、自分を見つめ直したりする必要があります。ここでは社会人基礎力の鍛え方を個人と企業、それぞれの視点から説明します。
個人
はじめに個人単位でできる社会人基礎力の鍛え方について説明します。
自己分析をする
個人単位で社会人基礎力を鍛えるためには、自分の能力や性質、強みや弱みなどを理解するための「自己分析」をすることが重要です。自分の強みは何か、不足していることは何か、どの分野を鍛えればよいのかなどを客観的に見直します。
自分一人で判断することが難しい場合は、同僚や上司など周囲の人から客観的な意見を聞く方法もあります。
日常生活で社会人基礎力を意識する
日常生活のなかで、先に述べた3つの能力と3つの視点を意識しながら行動することでも社会人基礎力は鍛えられます。社会人基礎力は一朝一夕で身に付く能力ではありません。
日々の積み重ねや意識の違いが大きく影響するため、日常生活のなかで自分に足りない能力を鍛えるための行動を意識します。またバランスよく社会人基礎力を鍛えるためにも、得意、不得意の両方を伸ばしていくよう意識する必要があります。
企業
続いて企業ができる社会人基礎力の鍛え方について説明します。
個人の育成を支援する
企業が社員の社会人基礎力を鍛えるためには、社員一人ひとりのキャリア志向にあった人事施策や、チームワークが生まれやすい環境をつくることが重要になります。
社員の育成を支援し、周囲と協力して活躍し続けられる環境を整備すれば、優秀な人材を育成する後押しになります。個人の育成を支援することが、結果として企業全体の成長につながるのです。
社会人基礎力のチェックシートを活用する
社会人基礎力を鍛えるために、各種チェックシートを用いて必要な能力が身についているかを確認する方法もあります。
「エンプロイアビリティチェックシート」では、企業で活躍するために必要な能力を洗い出して、訴求力のある自己PRを作成することができます。あるいは「社会人基礎力チェックリスト(行動変容評価)」を活用して、社会人基礎力がどの程度備わっているかを確認するのもいいでしょう。
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