固定残業代(みなし残業代)とは? メリット、計算方法

毎月の固定給の中に含まれる固定残業代。今回はメリットやデメリット、求人広告への明示義務などについて解説していきます。

1.固定残業代とは?

固定残業代とは、毎月の固定給の中に含まれている決められた時間分の残業代を指します。固定残業代を含む給与制度を利用することによって、給与支給のために残業代を計算する作業が必要なくなります。

しかし正しく運用できなければ、残業代をめぐって従業員との間でトラブルが発生するおそれがあるのです。最悪の場合、会社側が不利となり、残業代を追加で支払わなくてはならないケースもあります。固定残業代についての知識を身につけ、正しく運用していく必要があります。

「固定残業代を含む」の意味

「固定残業代を含む」とは、労働契約において一定時間分の残業代が固定給に含まれること。これは「固定残業代制度の採用」が労働契約として決められていることを示します。

そのため、残業時間が労働契約において決められた一定時間分を超えた場合には、超過した時間分の残業代は、固定給に加算して支払う必要があるのです。

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2.固定残業代制度のメリット

固定残業代制度にはさまざまなメリットがあります。ここでは、企業側と従業員側に分けてメリットを説明していきましょう。

企業

企業側のメリットとして、「長時間労働の抑制」や「コストが削減」が挙げられるでしょう。それぞれについて説明します。

長時間労働を抑制できる

固定残業制度を導入することによって、長時間労働を抑制できます。たとえば、30時間分の固定残業代の場合、10時間残業しても、30時間残業しても手当額は同じです。

そのため、授業員は10時間の残業で仕事を終わらせようとするので、仕事の効率が上がり、労働時間が減少します。それによって、労働生産性が向上するのです。

コストを削減できる

固定残業代制を導入したからといって、従業員の労働時間を管理しなくてもいいことにはなりません。万一、固定残業時間を超えた場合は超過した分を支払わなくてはならないからです。

しかし固定残業代制度によって決められた範囲内の残業時間であれば、残業代を算出する手間は省けます。逐一残業代を算出する作業があることに比べれば、労務管理コストは抑えられるでしょう。

従業員

従業員側のメリットとして、「給与の保証」や「給与の不公平感の解消」が挙げられるでしょう。それぞれについて説明します。

給与が保証される

固定残業代制度によって、従業員は残業をしなくても残業代が支給されます。効率的に仕事をこなして定時で仕事を終えたとしても、残業代が決められているため一定水準の給与が保証されるのです。

こういった意味で、効率的に仕事をこなそうとする意識や仕事に対する情熱が高まり、新しい取り組みや工夫も生まれやすくなります。

給与の不公平感が解消される

給与に対する公平感を生み出すこともメリットのひとつです。

残業をしない従業員Aさんと、残業を10時間行う従業員Bさんが同じ仕事量をこなしたとします。通常の残業手当では、従業員Bに残業手当が付くため、従業員Aは不公平感を抱いてしまいます。

しかし固定残業代制度では、AさんとBさんは同じ給与が支給されるため、不公平感が払拭されるのです。

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3.固定残業代のデメリット

固定残業代制度にはさまざまなメリットがありますが、デメリットもあります。ここからは、企業側と従業員側のそれぞれのデメリットについて説明していきます。

企業

企業側におけるデメリットとして、強制労働と誤解されたり、トラブルが発生したりすることが挙げられます。

強制労働と誤解されることがある

従業員の間で「固定残業制度で決められている時間は残業しなければいけいない」という誤解が生まれ、強制的に労働させられているという不満が生じることがあります。

残業をしなくても仕事が終わっていれば定時で帰れることや、たとえ決められた時間より短い残業時間だったとしても、固定の残業代が支給されることを従業員にしっかり説明しましょう。誤解を招かないように周知することが大切です。

安易に導入するとトラブルになることもある

固定残業代制度について正しい知識がないまま導入すると、従業員との間でトラブルが発生するおそれがあります。

「固定残業代制度を導入すれば、長時間残業させても残業手当は生じない」という誤った認識を企業が持っていた場合、従業員から決められた残業時間の超過分を請求されるというトラブルが発生することにもなるため注意しましょう。

従業員

従業員側におけるデメリットとしては、サービス残業の押しつけや給与が正しく支給されないことが挙げられます。

サービス残業を押し付けられるおそれがある

企業からサービス残業を余儀なくされるケースがあります。この制度では、決められた時間以上の残業代は支給されなければなりません。

しかし企業が制度についての正しい知識を持っておらず、「超過分の残業代は申告できない」という誤ったルールが浸透してしまった場合、サービス残業が当たり前になってしまう可能性があるのです。

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給与が正しく支払われないおそれもある

給与が正しく支払われないというトラブルが起こることも。決められた時間以上の残業を行った場合は、超過時間に対する残業代が固定残業代に加えて支給されなければいけません。

しかし固定残業代を支給していることを理由に、超過時間分の残業代を支払わないというブラック企業も存在します。正しく給与が支払われているかどうか、自身の目でしっかりと確認することが肝要です。

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4.固定残業代の通知・明示義務

固定残業代制度を利用する企業は、求人広告でその旨を明記することが法律で義務化されています。ここからは、固定残業代の通知・明示義務について説明していきます。

金額・時間の記載が必須

募集要項や求人票では、下記の3つの事項を明記することが、2015年10月1日に施行された「若者雇用促進法」によって義務化されています。

  • 固定残業代を引いた基本給の額
  • 固定残業代において決められた残業時間と残業代の算出方法
  • 決められた時間を超える残業や、休日や深夜の労働に対して割増で賃金を支給すること

残業代は支払わなければ違法となる

残業をしたにもかかわらず残業代が支払われていない場合は違法となります。残業代などが支払われることは、労働基準法によって定められている労働者の権利であり、企業側の義務でもあります。

たとえ従業員と企業側の間で、残業代を支払わないという合意ができていたとしても、その合意は違法であるため無効となるのです。従業員には、未払いの残業代を企業側に請求する権利があります。

残業代が未払いのときの罰則

残業代が未払いの場合には、労働基準法第119条によって、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が罰則として定められています。

残業代未払いの罰則が科されるのは、企業の代表や取締役だけではありません。違法な残業を部下に行うことを命じている管理職などであれば、法律で定められた罰則を科される可能性があります。

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5.固定残業代の計算方法

固定残業代の計算方法には、「手当て型」と「組み込み型」の2種類があります。それぞれについて説明していきます。

手当て型

手当て型の固定残業代とは、割増の賃金を支払う代わりに、固一定の金額の手当を支給することです。手当型の固定残業代の計算式は以下になります。

固定残業代(手当型)=時間単価×固定残業時間×割増率

手当て型では、固定給に加えて、固定残業代が支給されます。ただし、固定残業代に関する同意を得て、固定残業代の金額や残業時間を明確にする必要があります。

組み込み型

組み込み型の固定残業代とは、基本給に割増の賃金を組み込んで支給することです。組み込み型で計算をするには、先に固定残業代を算出する必要があります。固定残業代の計算式は以下になります。

固定残業代=給与総額÷(1ヵ月平均所定労働時間+固定残業時間×割増率)×固定残業時間×割増率

そのあと、基本給から差し引いて算出します。

基本給=給与総額ー固定残業代

「基本給○万円(○時間分の固定残業代として○万円が含まれる)」というように表記するのが一般的です。

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6.固定残業代に関するよくある疑問

固定残業時間の上限などを含め、よくある質問を取り上げて説明していきます。固定残業代制度を正しく運用するために、知識を身につけておきましょう。

固定残業時間の上限はあるのか

従業員に残業をさせる場合に締結する36協定において、残業時間の上限が定められています。固定残業代における固定残業時間の上限の目安は45時間です。もし45時間以上を定める場合は、36協定に「特別条項」を付けなくてはなりません。

また特別条項の付いた36協定だとしても、いくつかの条件をクリアする必要があります。条件に違反した場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される可能性があるため、注意が必要です。

固定残業時間分は残業させなければならないのか

「固定残業代制度を設けたら、固定残業時間分の残業をさせなくてはならない」という決まりはありません。仕事が終われば、固定残業時間の残業をさせる必要はないのです。

また固定残業時間を超過した場合には、超過時間分の残業代を支給する必要があります。支給しなければ、従業員に訴えられてトラブルにつながる可能性があるでしょう。

固定残業代を支払っている上で残業代を請求された場合

このケースでは、固定残業代制度が正しく運用されていない可能性があります。固定残業代は、残業に対する賃金として労働基準法上の割増賃金を下回らないように支払われるものです。

固定残業時間を超えて残業した場合は、超過残業時間に対する手当てが支払われますが、固定残業時間内であれば残業代を支払う必要はありません

このように固定残業代制度が正しく運用されていれば、たとえ残業代が請求されても認められることはありません。

固定残業代が導入しやすい業種とは

導入しやすい職種は、小売店や飲食店などのように営業時間がほとんど毎日同じで、労働時間がある程度一定のものです。営業職でも、日中の営業活動や帰社後の残業など毎日ある程度一定の労働時間が想定できれば、固定残業代制度を導入しやすいでしょう。

反対に導入しにくい職種は、業務量を自身の裁量で行えないような製造業などの業種です。

固定残業代のトラブルを解決するには

固定残業代に関わるトラブルが発生した場合、社内で解決できないと判断したら、早い段階で弁護士に依頼することをおすすめします。その場合は、残業代請求の事例に実績のある弁護士を探して依頼するといいでしょう。

弁護士を探すのであれば、インターネット上の検索だけではなく、実績のある弁護士に出会える相談窓口を利用するのも方法のひとつです。