緊急事態宣言とは、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法にもとづく宣言です。ここでは緊急事態宣言について解説します。
目次
1.緊急事態宣言とは?
緊急事態宣言とは、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法にもとづく宣言のこと。政府の対策本部長である首相が発令します。
発令の際は、専門家に新型コロナウイルス感染症についての意見を求め、「国民の生命や健康に著しく重大な被害を与える恐れ」「全国的かつ急速なまん延により国民生活と経済に甚大な影響を及ぼす恐れ」など要件を満たしているかどうか、判断するのです。
そして対象地域や期間を指定して発令します。
2.緊急事態宣言とまん延防止等重点措置の違い
緊急事態宣言と類似する言葉に、まん延防止等重点措置があります。2つの違いは、下記のとおりです。
- 緊急事態宣言:都道府県全域を対象として、主に飲食店などに対して休業および営業時間短縮などの命令や要請を行う。新たな分類のレベル3相当の状況が目安
- まん延防止措置:知事が指定した一部地域を対象として、主に飲食店などに対して営業時間の短縮のみの命令や要請を行う。レベル2~3相当の状況で適用される
3.緊急事態宣言の経済的影響
緊急事態宣言は、日本経済に大きな影響を与えています。具体的な数字で見てみると、第4回緊急事態宣言の発令による経済損失は3兆4,200億円です。この経済損失額は、下記のとおり巨額の数字といえます。
- 年間名目GDPの0.62%に相当する
- 失業者を13.5万人増加させる
- 東京オリンピック・パラリンピックの経済効果1.68兆円の2.0倍に達する
コロナ関連の企業倒産数
コロナ関連の企業倒産数は、緊急事態宣言が延長された19都道府県において、下記のような状況になっています。
- 2021年9月9日現在で1,578件
- 2021年9月9日時点における、同関連倒産全件2,025件の約8割(77.9%)
緊急事態宣言の期間は飲食店といった外食産業や観光関連事業、アパレル関連事業などが倒産するペースの加速が予想されます。
コロナ禍で増加した業種
コロナ禍でも人々の行動変容をうまく利用した一部の業種はその数を増やしているのです。たとえば下記の業種は、感染症予防や在宅勤務などにシフトした行動変容によって数を増やした業種といえます。
- 消毒液の製造販売、作業を手掛ける消毒業
- 放課後デイサービス
- ハチの駆除業者
- パソコン販売や修理、支援
- ガラス工事
4.緊急事態宣言とニューノーマル時代
緊急事態宣言と関連する言葉にニューノーマル時代があります。下記について、解説しましょう。
- そもそもニューノーマルとは?
- 過去のニューノーマル
①そもそもニューノーマルとは?
以前からある常態を新しい常態へ変化させたもので、「新しい」を意味する「New」と「常態」を意味する「Normal」の2つを組み合わせた造語です。新常態とも呼ばれています。新型コロナウイルス感染症問題だけでなくビジネスでも用いられる言葉です。
②過去のニューノーマル
過去のニューノーマルは、下記のとおりです。
- 2000年代初頭に生じた、インターネットの普及によるテックカンパニーの台頭
- 世界経済が深刻な金融危機に陥ったリーマンショック後の2009年
どちらも従来のビジネスモデルが崩壊し、「ネット中心の経済理論の登場」「持続可能な社会への移行」など、新しい常態が登場しました。
5.緊急事態宣言下での企業の取り組み
緊急事態宣言下で企業はさまざまな取り組みを行っています。3つの事例について、解説しましょう。
- アサヒグループホールディングス
- 明治安田生命保険
- メルカリ
①アサヒグループホールディングス
アサヒグループホールディングスでは、以下の取り組みを行っています。
- テレワークを基本とし、業務上必要があれば出社可とする
- 緊急事態宣言該当都道府県は、可能な限り出社を控えテレワークとする
- 本社管理部門の出社比率を上限30%~50%(緊急事態宣言該当都道府県は30%)とする
- 人事諸制度やワークルールの見直し
- インフラ整備
②明治安田生命保険
明治安田生命保険では、以下の取り組みを行っています。
- 在宅でも実施できる業務の範囲を拡大する
- システムインフラに関する環境整備
- シフト勤務の体制構築
- 時差出勤の推奨
- サテライトオフィス拡充と利用促進
- 執務室内で各自の座席間隔を確保
- 毎朝の検温や健康チェックの推進等
- 日常の感染予防対策の徹底
③メルカリ
メルカリでは、以下の取り組みを行っています。
- 在宅での勤務を推奨する
- 社内会議のオンライン化を図る
- 出張や会食などへの参加の禁止を推進する
自宅での勤務環境構築やオンラインコミュニケーションやチーム・ビルディングに活用してもらうため、半年分で6万円の在宅勤務手当を支給する
6.緊急事態宣言解除後の景気
緊急事態宣言解除後の景気は、回復基調になるといわれています。実際、内閣府が2021年11月9日に発表した10月の景気ウオッチャー調査を見ると、下記のようになっているのです。
- 街角の景況感を示す現状判断指数である季節調整値は、前月比13.4ポイント上昇の55.5と、2カ月連続で改善
- 2014年1月の55.7以来、7年9カ月ぶりで高水準
- 項目別では飲食関連が31.2ポイント、サービス関連は20.6ポイントの改善
7.緊急事態宣言解除後の企業動向
緊急事態宣言解除後の企業動向については、緊急事態宣言中と大きな変化はないようです。たとえば緊急事態宣言が解除されるとともに、ワクチン接種も進展したため新規陽性者数は急激に減少しました。
しかしテレワークといった在宅勤務が定着した結果、オフィスへの出社率指数の回復は鈍くなっています。新型コロナウイルス感染症やウィズコロナへの理解が進み、労働者の働き方が大きく変容して、オフィスに回帰しなくなったという可能性も考えられるのです。
8.緊急事態宣言解除後に企業が取り組むべきこと
緊急事態宣言解除後に企業が取り組むべきこととは何でしょう。それぞれについて解説します。
- 対面からオンラインへの移行
- DXの推進
- インサイドセールスの活用
- 健康経営の促進
- BCPの策定
①対面からオンラインへの移行
周知のとおりビジネスでは「ファイルの共有を行うグループウェア」「双方向コミュニケーションの場となるチャットツール」「空間を飛び越えて会議ができるオンライン会議ツール」などオンラインサービスの利用が必須です。
②DXの推進
DXとは、デジタル技術を活用した生活やビジネスにおける変革のこと。
たとえば従来、紙を主体としていた印鑑による承認申請・決済業務があります。これを電子署名や承認申請ワークフローなど社内システムをDX化すれば、テレワークでも業務効率化できます。
③インサイドセールスの活用
インサイドセールスとは、電話やメールなどを使って、対面でない形で行う営業活動のこと。Web会議ツールも活用すると、対面によるフィールドセールスでは難しい効率的な営業活動も展開できるでしょう。
④健康経営の促進
従業員のメンタルヘルス対策は、企業にとっても重要な課題。緊急事態宣言下で在宅勤務やテレワークが増えたため、従業員同士が直接会う機会も減少しています。そのため従来以上にきめ細かな、メンタルヘルス対策や健康経営の促進が求められているのです。
⑤BCPの策定
BCPとは、自然災害といった危機的事態が発生したとき、損害を最小限に抑えて素早く復旧し、業務を継続するための行動指針のこと。事業継続計画ともいいます。感染症流行というパンデミック下でも事業活動を継続できるよう、BCPの策定は急務です。
9.緊急事態宣言解除後テレワークはどうするべきか?
緊急事態宣言解除後テレワークはどうするべきなのでしょうか。それぞれについて解説します。
- テレワークが抱える課題の解決
- オフィスの再構築も視野に
①テレワークが抱える課題の解決
緊急事態宣言解除後は、テレワークが抱える課題の解決をしていかなければなりません。具体的には、以下のような課題についての解決が求められます。
- コミュニケーション不足を補うため、チャットツールを活用する
- 稟議や決済が必要な書類を電子化して、電子署名ができるようにする
- 抜本的な業務フローや業務プロセスを見直す
- 従業員のタスクを可視化するために、タスク管理ツールを導入する
- USBメモリーや印刷物のコピー制限
- サテライトオフィスを整備する
- ポケットWi-Fiルーターを貸与する
②オフィスの再構築も視野に
緊急事態宣言解除後は、オフィスの再構築も視野に入れましょう。現在、オフィス市場の動向では、在宅勤務の普及に伴い、移転や解約によるオフィス床面積の削減といったオフィス再構築が起こっているのです。
またこれまでなら購入していたオフィス家具に、サブスクリプション型サービスを活用する動きが広まっています。テレワークといった在宅勤務が進んだ結果、不要な投資を可能な限り減らす動きが加速しているのです。
さらにオフィス勤務や在宅勤務を組み合わせたハイブリッド型におけるオフィスの構築も注目を集めています。