試用期間とは、会社が本採用前に人材の適性を確かめる期間のこと。試用期間の法的性質や労働条件、解雇や退職について解説します。
目次
1.試用期間とは?
試用期間とは、会社が本採用前に人材の適性を確かめる期間のこと。人材の適性とは、技術やスキル、勤務態度や会社風土とのマッチングです。
試用期間の長さは会社によって変わります。おおむね1カ月から6カ月、長くとも1年以下が一般的です。ただし労働基準法における厳密な定めはありません。また試用期間を設ける際は、就業規則や雇用契約書にその旨を明記する義務があります。
企業が試用期間を設ける目的
試用期間を設けるのは、時間をかけて人材を見極めるためです。たとえば人材不足の会社では、採用に時間をかける余裕がありません。短期間で合否を決めねばならず、結果として会社と人材のミスマッチも起こりやすくなります。
試用期間を設ければ会社は人材を確保しながら適性を判断でき、採用後に生じやすいミスマッチによる退職を防げるのです。
2.試用期間の法的性質、具体的な労働条件について
試用期間とはいえ、雇用に変わりはありません。ここでは法律における試用期間の解釈や、試用期間中の雇用形態や社会保険、給与などについて説明します。
試用期間の法的性質とは
法的性質とは、法律上での解釈や考え方のこと。試用期間の法的性質では、「通常よりも広い範囲での解雇が認められた労働契約である」と解釈されます。
1973年、ある労働者に対して会社が3カ月の試用期間満了後、過去の学生運動を理由に本採用を拒否しました。
労働者は本採用にいたらなかったことを不服として裁判を起こしたものの、最高裁は試用期間に雇用を拒否したことは法律上の違法行為ではないと認めたのです。
過去の学生運動は現在の業績に直接関係していないため、試用期間に通常よりも広い範囲での解雇を認めた事例だといわれています。
試用期間における労働条件
試用期間中の労働条件には、「通常の労働契約と同じにしなければならない」「異なっても構わない」点があります。たとえば社会保険は加入が義務付けられているものの、雇用形態や給与は異なっても構いません。
試用期間中の労働条件について、下記4つから説明します。
- 雇用形態
- 期間
- 給与
- 社会保険
①雇用形態
試用期間中の雇用形態としては、正社員のほか契約社員が挙げられます。ただし試用期間中でも、正社員の解雇は第三者から見て合理的かつ正当な理由を示さねばなりません。
一方契約社員は有期雇用であり、会社側の判断で解雇が可能です。そのため試用期間は契約社員として雇用し、本採用後は正社員に切り替えるというケースも見られます。
なおこのような雇用形態を取る場合、正社員登用するか否かは勤務態度や成績などによって判断すると事前に説明しておかなくてはなりません。
②期間
試用期間の長さはおおむね1カ月から6カ月、長くとも1年以内が一般的です。しかし労働基準法といった法律にて、試用期間について明らかに記したものはありません。よって試用期間の設置や期間の長さは各会社で決められるのです。
また業務によって必要な能力が違うため、試用期間の長さは職種によって異なる傾向にあります。たとえば販売職は1カ月から3カ月程度である場合が多いものの、技術職や開発職は高度な知識やスキルを要するため3カ月から6カ月程度と長期になりやすいのです。
③給与
試用期間中の給与は、事前に雇用条件通知書などで知らせた場合に限り、通常よりも低く設定できます。ただし労働契約を結んでいることに変わりはありません。残業代や休日出勤手当を通常と同じく支給するほか、基本給は最低賃金以上の設定が必要です。
最低賃金は都道府県ごとに、月給ではなく時給額が定められています。給与設定時に以下の計算を行って、都道府県の最低賃金を下回っていないか、確かめましょう。
「最低賃金=(基本給+職務手当)×12か月÷(年間所定労働日数×1日の所定労働時間)」
④社会保険
試用期間中の社会保険は、通常の労働契約と同じとみなされ基本、加入が義務づけられています。ただし以下のどちらかを満たす場合、社会保険に加入する必要はありません。
- 2カ月以内の有期契約
- 試用期間中の勤務時間や勤務日数が一般社員の3/4未満
つまり試用期間が2カ月を超えるなら、雇用形態にかかわらず社会保険に加入させる必要があります。また2カ月以内の有期契約でも、引き続き雇用の見込みがあるならば、社会保険に加入させなければなりません。
試用期間はこれに当てはまるケースが多いので注意しましょう。
3.試用期間の延長や試用期間における解雇・本採用拒否について
会社側は試用期間の延長や試用期間における解雇・本採用拒否などの対応が可能です。それぞれについて解説しましょう。
- 試用期間の延長はできる?
- 試用期間中に解雇できる?
- 試用期間後の本採用拒否はできる?
①試用期間の延長はできる?
試用期間の延長は、会社と社員の双方が合意しており、労働契約に根拠がある場合にのみ認められます。認められる条件の一例は以下のとおりです。
- 会社と社員が個別に合意に至った
- 就業規則に試用期間の延長について記載がある
たとえ就業規則に記載があっても、特別な理由なく試用期間の延長はできない点に注意しましょう。「なぜ延長するのか」「どれくらい延長するのか」など、第三者から見て合理的かつ正当な理由を示さなければなりません。
試用期間延長通知書
試用期間の延長は、「試用期間延長通知書」を交付して行います。試用期間延長通知書には、以下のように理由や根拠となる規則を記載するのが一般的です。
- 事由:就業規則第○条○項:にもとづき、当初の試用期間では、本採用の適否を判断できないため
- 根拠規則:第○条(試用期間) 試用期間が満了し、採否を決定しかねる場合、本人に通告のうえ3カ月以内に限り試用期間を延長する場合がある
②試用期間中に解雇できる?
試用期間中の解雇は可能です。しかし試用期間を終えての解雇に比べ、より明確で納得できる理由が求められます。
試用期間とは、そもそも会社と社員の合意にもとづいていることが原則。試用期間中の解雇は会社側の独断とみなされるので、実行には相応の理由を提示しなければなりません。試用期間中の解雇に値する理由とは、たとえば下記のとおりです。
- 勤務態度が著しく悪い
- 欠勤や遅刻が多い
- 経歴を詐称していた
試用期間開始日から14日以内に解雇する
試用期間の開始から14日以内に解雇する場合、通常のような解雇予告、または解雇予告手当を支払う必要はありません。ただし解雇の理由については、通常の労働契約と同じように、第三者から見て合理的かつ正当なものが必要です。
さらに「判断を下すには期間が短い」とみなされやすく、場合によっては解雇が無効とされる可能性もあります。
試用期間開始日から14日を超えた日に解雇する
試用期間の開始から14日を超えて解雇する場合、通常の解雇と同じく解雇予告、または解雇予告手当が必要です。
解雇予告は、少なくとも解雇の30日以上前に予告しなければなりません。これを満たせない場合は、30日に足りない分の平均賃金を解雇予告手当として支払います。たとえば20日前に解雇を予告した場合、10日分の給与を平均賃金で計算した金額を支払うのです。
③試用期間後の本採用拒否はできる?
試用期間のあとでも、第三者から見て合理的かつ正当な理由があれば、会社側は本採用を拒否できます。くわえて過去の裁判では、通常の解雇よりも幅広く、以下のような理由が認められてきました。
- 重大な経歴詐称
- 正当性のない業務命令違反
- 雇用契約書に定めた能力の不足
- 著しい勤務態度の悪さ
ただし勤務態度など変わりうるものについては、「指導を繰り返したこと」や「改善する余地のないこと」などを証明する必要があります。
4.試用期間中、社員が退職するケース
試用期間中に労働契約が解除されるケースとしては、解雇のほかに退職が考えられます。会社側の意向のみで成立する解雇と異なり、退職は社員の同意を得ねば成立しません。退職の区分や主な理由、具体的な対処について解説します。
- 試用期間中における退職区分
- 試用期間における退職で多い退職理由
①試用期間中における退職区分
退職の区分とは、自主退職と合意退職のこと。退職が有効になるタイミングは、自主退職の場合は社員が届け出た時点、合意退職の場合は会社が届け出を受理した時点です。またどちらの場合も、即日の退職はできません。
自主退職
社員の意向による退職のこと。自主退職に当てはまるのは主に以下のようなケースです。
- 結婚や妊娠、出産による退職
- 介護といった家庭の事情による退職
- 体調不良による退職
- 職場への不満による退職
- キャリアアップのための退職
体調不良やプライベートの事情のほか、転職を視野に入れた退職も含まれます。
合意退職
会社と社員、双方の合意による退職のこと。会社側が一方的な意向で行える解雇と異なり、社員側の同意を得なければなりません。
合意退職は、双方の意思が互いに伝わった時点で成立します。たとえば退職届を使用する場合、社員側が届け出て意思を表明しただけでは、合意退職が成立したと認められません。会社が承諾する旨を社員に伝えた時点ではじめて合意退職が成立するのです。
②試用期間における退職で多い退職理由
採用した社員が試用期間中に退職に至る主な退職理由として、以下の4つが挙げられます。
- 希望する業務でない
- 体調不良
- 家庭の事情
- 社風にあわない
ただし退職する社員が必ずしも本当の理由を伝えるとは限らないため、よく話し合う必要があります。
希望する業務でない
業務内容に不満がある社員は、試用期間中にやりがいを見出せず、退職を申し出る可能性があります。まずは社員の希望を考慮し、ほか部署への異動も検討してみましょう。そのうえで社員が納得しなければ、退職は避けられないといえます。
このようなミスマッチを防ぐためにも、採用過程や求人サイトにて、わかりやすく詳細に業務内容を説明しましょう。
体調不良
社員が体調を崩した場合、程度によっては働き続けるのが難しくなります。たとえば急に長期入院することになり、翌日から出社できなくなる場合もあるからです。
通常なら社員が退職の意思を伝えてから2週間後が退職日となります。しかしこのような場合は「やむを得ない場合」として即日退職も検討する必要があるでしょう。
家庭の事情
家庭の事情により働けなくなるケースでは、主に以下のような原因が考えられます。
- 結婚
- パートナーの転勤
- 妊娠出産
- 育児
- 介護
- 家族の体調不良
- 家業を継ぐ
時短勤務や休職、転勤などを提案すれば退職を避けられる場合もあります。まずは事情を聞き、勤務形態を見直しましょう。ただし家庭の事情は社員のプライベートにあたるため、社員間での情報共有に配慮しなければなりません。
社風に合わない
社員が会社特有の雰囲気にうまく馴染めないと、それを理由に退職を申し出る可能性があります。
社風とは歴史や文化、経営理念や価値観などを含む会社全体の雰囲気のこと。これらは言葉で伝えるのが難しいため、「入社前にイメージしていた雰囲気と違う」や「自分には合わない」といったミスマッチが起こりやすいのです。
面接の際に職場見学を取り入れると、こうしたギャップが抑えられます。
退職する社員の給料や社会保険の対応
退職する社員に対しても、働いた分の給与は払わねばなりません。ただし給与が最低賃金を下回る場合は、違法とみなされます。あらかじめ各都道府県の最低賃金を調べ、時給換算した金額がそれ以上になっているか確認しましょう。
退職日以降には、以下の社会保険手続きが必要です。
- 「雇用保険被保険者離職票」の作成、およびハローワークへの提出
- 「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の作成、および日本年金機構への提出
- 場合によっては以下の手続きも必要となります。
- 退職証明書の作成、および本人への送付(本人から申請があった場合)
- 健康保険証の回収(社会保険で加入している場合)
- 年金手帳の返却(会社が保管している場合)
- 雇用保険被保険者証の返却(会社が保管している場合)
- 住民税を普通徴収へ切り替える(特別徴収を適用している場合)
5.試用期間における退職についての原則
試用期間中の社員が退職するケースは珍しくありません。では実際に社員が退職を申し出た場合はどうすればよいのでしょうか。ここでは試用期間中における退職の原則について、即日退職や民法にも触れながら説明します。
試用期間における退職の原則
たとえ試用期間中でも、退職の原則は通常と変わりません。民法第627条では「2週間以上前から退職を申し出る」と「社員は会社に対していつでも退職の申し出が可能」と定めています。
そのため社員の一方的な都合による「即日退職」のような急な退職は認められません。退職を希望する社員は遅くとも2週間以上前にはその旨を申し出て、会社の意向を確認する必要があります。
ただし会社と社員の双方が合意した場合、例外的な対応も可能です。たとえば社員が即日退職を希望し、会社もそれを認めた場合、就業規則に関係なく退社できます。
試用期間中の即日退職は不可
退職は2週間以上前に伝えなければならないため即日退職は原則、できません。また試用期間中の退職も通常と同じく、会社と社員の双方にて、まずは就業規定に沿った対応が求められるのです。
多くの会社では就業規則で民法よりも長期期間を設けています。なぜなら引継ぎといった時間を確保するためです。たとえば就業規則に「1カ月前までに退職を申し出る」とある場合、社員はそれを考慮して退職日を検討するべきでしょう。
民法上の退職とは
民法第627条では、「期間の定めのない雇用の解約の申入れ」として以下のように定められています。
- 当事者はいつでも解約の申入れを可能とし、解約の申入れの日から2週間を経過したときに雇用契約が終了する
- 有期雇用の場合、給与を計算する時期の前半(6カ月以上の有期雇用は3カ月前)に申し出なければならない
なお一般的に、民法は就業規則よりも優先されます。たとえば就業規則に「1カ月前までに退職を申し出る」と定められていても、就業規則よりも民法が優先されるのです。よって申し出てから2週間経てば、問題なく退職できます。
6.試用期間中の退職にまつわるトラブル事例
労働条件の変化がともなう試用期間には、労使間のトラブルも少なくありません。ここでは、試用期間中の退職にまつわる実際のトラブル事例を紹介します。
試用期間満了による解雇による退職トラブル
A社は3カ月の試用期間を設けて、Bさんを中途採用しました。ところがBさんの勤務態度には問題があり、意欲もあまり見られません。
そこで試用期間満了の20日前に解雇を伝えると、Bさんはこれを不服として解雇予告手当を要求。裁判に発展し、「原告の能力が今後改善される見込みがなかったとは言い切れない」と解雇を無効とする判決が下されました。
なお試用期間中の社員といえども、労働契約を結んだことに変わりありません。A社には、30日以上前に解雇を予告するか、足りない日数分の平均賃金を払う義務が生じます。
試用期間終了後の本採用拒否による退職トラブル
C社はDさんを採用し、Dさんは試用期間中です。その後状況が変わったため人員整理を行う運びになりました。
Dさんの働きに問題はないものの、C社は試用期間満了後の本採用を拒否。Dさんはこれを不服とし、C社による本採用拒否は違法だと主張したのです。
このようなケースは「整理解雇」とみなされ、会社には「解雇に至る合理的かつ正当な理由」が求められます。たとえ試用期間中の社員でもこの原則は変わりません。
裁判所も「本人の不適格を理由にした解雇ではなく、解雇の正当性があるとはいえない」と判断しました。