退職合意書とは? 作成目的、法的拘束力、作成される場面、作成する際の注意点

退職合意書とは、雇用契約を解消する際に従業員と会社が退職にかかわる要件に合意し、確認するために交わす書類のこと。ここでは退職合意書の目的や作成方法、注意点などを詳しく解説します。

1.退職合意書とは?

退職合意書とは、会社と従業員の間で退職の合意がなされたときに、双方で取り交わした合意内容を記した書面のこと。似た文書の退職届は、従業員から退職を希望する意思表示を示す書面となります。

退職届を会社側が受理し、承諾した時点で雇用契約の終了が成立したとみなされるのです。一方退職合意書を作成するタイミングは、会社と従業員が雇用契約の解消に合意したときになります。退職合意書を作成するメリットは以下のとおりです。

【会社側のメリット】

  • 退職後の賃金支払いなどのトラブルが防げる
  • 守秘義務や競業避止義務などを規定できる

【従業員側のメリット】

  • 賃金の支払いを明確に精算できる
  • 離職理由を明確に規定できる

退職合意書の作成は契約終了に際して、双方の無用ないさかいを防ぐ意味で有用な書面です。そのため一般的な退職の際には作成しない企業も多いでしょう。

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2.退職合意書を作成する目的、法的拘束力などについて

退職合意書は従業員の退職で起こり得るリスクを回避する目的で作成されます。一体どれほどの法的拘束力があるのでしょうか。

退職合意書を作成する目的

契約終了後に従業員と会社との間で懸案となりえる事項を事前に整理すること。ここでは「清算」と「トラブル防止」の点から解説します。

在職の清算

「清算条項(文書をもってすべての支払いを清算し、今後は金銭的な請求権を持たないとする条項)」として退職合意書を作成する場合があります。退職合意書に清算条項を記載したうえで双方が合意したのち、会社と従業員との間で支払い請求は起こせません。

清算条項として記載する項目には、下記のとおりです。

  • 未払い賃金や未払い残業代などの請求権
  • ハラスメントを理由とした損害賠償権
  • 就業中に会社側の負担となった債務

トラブル回避

合意退職だったにもかかわらず、のちに従業員が「会社に解雇された」として訴訟を起こすケースがあります。

退職合意書に、「合意後に会社や関係者に対して求償や行政措置を望む申告を行わないこと」を盛り込んでおけば、退職後に起こりえる労使トラブルを防げるでしょう。

リスク管理

退職後の従業員が、個人情報や機密情報を故意的に漏えいさせる可能性を防ぐためにも、退職合意書で秘密保持に関する条項と違反した場合の措置を記載しておきましょう。

なお違法行為の有無や守秘義務の厳守などに関して、退職合意書と別に誓約書を取り交わす方法もあります。

退職合意書の法的効力

法律用語が正しく使用され、内容が正当なものであり、双方の署名捺印がなされている退職合意書であれば、合意を順守する法的な義務が発生します。ただし退職そのものが従業員の意思にそぐわない場合、合意書締結後でも法的効力は認められません。

たとえば会社側から強力な退職勧奨があり、やむなく合意してしまったといった事例です。退職そのものが脅迫や錯誤によるものとみなされ、退職合意が取り消される可能性もあります。

退職合意書と間違えやすい書類

従業員が会社を退職する際、いくつかの書面の提出が求められます。退職合意書と似た名称の書面に「退職届」や「退職証明書」などがあるものの、それぞれ内容も目的も異なるのです。

退職届

従業員が退職の意思を届け出るための書類。しかしいきなり退職届を提出するのではなく、一般的に「退職願」を先に提出するのです。そして退職の意思を伝え、会社側と退職時期などを協議し、退職が承諾されたのち退職届を提出します。

退職届に記載する項目は以下のとおりです。

  • 退職理由
  • 退職日
  • 届出年月日
  • 所属部署と氏名
  • 宛先

民法上にて「退職の申し出は14日前まで」と定めています。そのため退職届の提出も同期間を期限とする企業も多いでしょう。

退職証明書

従業員が退職したと会社側が証明する書類。国民健康保険や国民年金などの手続きで使用します。離職票でもこれらの手続きは可能です。しかし離職票の発行に2週間程度かかるため、退職者が間を置かず手続きしたい場合、退職証明書を発行します。

また退職者の転職先で履歴書との整合性を確認する際に、発行を求められる場合もあります。よって従業員の請求によって発行するのが原則です。しかし退職者に必ず発行している会社も少なくありません。

退職誓約書

退職時の合意内容や条件などに承諾した旨を記載し、従業員が会社側に提出する書面。退職誓約書に記載される主な項目は、下記のとおりです。

  • 競業の禁止
  • 顧客との取引禁止
  • 社内機密の保持

ただし従業員が必ず提出しなければならない書類ではありません。誓約内容に納得できない場合、従業員が拒否する可能性もあります。また競業禁止を項目としていても、実際の転職では職業選択の自由が優先されるため、法的拘束力は認められないでしょう。

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3.退職合意書が作成される場面とは?

自己都合による退職であれば従業員が退職届を提出し、解雇の場合は会社が従業員へ解雇通知書を交付します。では退職合意書はどのような場面で作成されるのでしょうか。ここでは退職合意書を作成する場面や退職にかかわる言葉の意味を説明します。

退職合意書を作成するのはどんなとき?

従業員へ退職勧奨を行い、同意を得られたときに退職合意書を作成するのです。

近年、非正規雇用の増加や長引く不況などにより、契約の終了や退職などにともなう労使間の争議が増加しています。そうしたトラブルを未然に回避するため、退職合意書が作成されるのです。

また従業員が不正行為をし、本来なら懲戒解雇となる場面でも、以降のリスクを避けるため退職合意書を作成する場合があります。

退職勧奨

会社側から従業員に対して自主退職を促すこと。退職勧告とも呼ばれます。会社側から退職への働きかけを行うものの、実際の退職はあくまでも従業員側の自由意思。よって退職勧奨に従う義務はありませんし、拒否しても労働基準法に違反しません。

また退職勧奨を拒否した従業員に対して不利な扱いをするのは違法となります。なお社内制度として実施される「早期退職制度」は、定年前に退職を望む従業員に対して優遇措置を設ける制度なので退職勧奨の一環といえるでしょう。

退職や解雇にかかわる言葉の意味

従業員が会社を辞めることを一般的に「退職」と表現します。しかし退職にもさまざまな形態があるのです。

たとえば会社側から雇用契約を解消される場合は「解雇」と呼ばれます。退職と解雇はいずれも従業員と会社の雇用契約の終了を意味し、解雇は退職に至る理由のひとつなのです。

退職

就業している従業員が雇用契約を解消し会社を去ること。「自己都合退職」と「会社都合退職」の2種類があります。

  • 自己都合退職:従業員からの意思表示にて雇用契約を解消すること。方法は退職願や退職届などに限らず口頭でも成立し、民法上では意思表示から14日間経過すると退職が成立する
  • 会社都合退職:会社側から従業員に促した退職のこと。退職勧奨による退職や、正当な理由によって会社側から雇用契約を解消される解雇も会社都合退職とみなされる

解雇

会社側が一方的に労働契約を破棄すること。客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上妥当な判断でなければなりません。種類は「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」の3つです。

  • 普通解雇:適性の欠如や極端な能力不足など個人的事由による雇用契約の解消。単に解雇と呼ぶ場合もある
  • 整理解雇:会社存続のため人員整理を目的として行う解雇。経営不振や極端な財務状況の悪化といった理由で、現状の従業員数を維持できないような局面に陥った際に行われる
  • 懲戒解雇:会社の規則や規律に著しく違反した従業員に対し、懲戒として行われる雇用契約の解消

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退職勧奨と解雇との違い

退職勧奨と解雇の違いは、従業員の合意を得ているかどうか。退職勧奨は会社からの退職の勧告に対して従業員が自らの意思で退職に合意するものの、解雇の場合、従業員の意思に左右されず、会社側が一方的に雇用契約を解消します。

ただし解雇を会社側が行うには正当かつ合理的な理由が不可欠です。また就業規則にあらかじめ解雇に該当する事由を記載しておかなければなりません。

さらに従業員を解雇する際、念入りに準備しないと労働争議といったトラブルに発展するおそれもあります。解雇に相当する場合でも、従業員に退職を選択するよう促す退職勧奨として雇用契約の解消を促すケースも少なくありません。

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4.退職合意書を作成する

退職合意書に記載すべき項目は法的に定められてはいません。ここでは記載すべき退職合意書に内容を解説します。

退職合意書に記載すべき内容とは

退職合意書に記載すべき主な内容は、下記のとおりです。

  1. 退職の合意
  2. 退職事由
  3. 未払い賃金の清算
  4. 合意書に違反した場合の責任
  5. 守秘義務や競業禁止義務

賃金の清算にて支払いが生じる場合、支払う金額や支払日、振込先なども記載します。

①退職の合意

従業員と会社の双方の合意によって成立した退職であると明記します。とくに懲戒処分から退職勧奨を行った場合は、「実質上の解雇ではないか」と、疑念を残すことになりかねません。

そのようなリスクを回避するために、従業員の意思により退職を選択したと記載しておく必要があります。退職合意書に関して協議した内容を録音するといった、書面だけではない明確な証拠を残すのも検討しましょう。

②退職事由

退職事由として、自己都合あるいは会社都合なのかを明確に記載します。なお従業員の都合で退職する場合は自己都合、会社が退職勧奨した場合は会社都合です。

退職事由は、退職後に雇用保険を受給する際の開始時期に影響をおよぼすため正しく記載しなければなりません。

退職事由を退職合意書に記載する際は、「雇用保険の離職証明書の離職事由は、○○○であることを確認した。」といった一文を追記しましょう。

自己都合退職の場合、○○○の部分へ離職票に記載する「一身上の都合」や「労働者の個人的な事情による離職」などを記載し、会社側から退職勧奨を行った場合は「雇用保険の離職証明書の離職事由は、退職勧奨の受け入れ扱いで処理する。」などと記載します。

③未払い賃金、退職金など

従業員が退職する時点にて未払いとなっている賃金がある場合、金額や清算方法などを明確に記載します。未払いの賃金に該当するのは「月度給与」や「未払い残業代」、「退職金」など。

未払い賃金に関してトラブルとなる場合、過去にさかのぼって争う場合が多いので、明細を明らかにするのが望ましいでしょう。

また従業員側に会社に清算しなければならない負債がある場合も内容を明記します。たとえば社内融資の返済残高や、従業員が会社に与えた損害の賠償などです。

④退職合意書に違反した場合の法的責任

退職合意書は、雇用契約の解消にあたって法的に義務付けられた書類ではありません。しかし双方が合意し署名捺印していれば、違反したときに拘束力を持ちます。そのため退職合意書には、合意した項目に違反した場合の罰則を盛り込みましょう。

退職合意書に法的拘束力を持たせる場合、できる限り正確な法律用語を用いて文面を作成します。また締結した日付や双方の署名捺印も忘れてはなりません。要件をすべて満たした退職合意書なら、万一訴訟となった際にも有力な根拠として効力を発揮するのです。

⑤守秘義務や競業避止義務

退職合意書には「守秘義務」や「競業避止義務」なども盛り込みます。在職中は労働者の付随義務としてこれらの義務が生じるものの、退職後はその限りではありません。そこで退職合意書に記載して合意を得る必要があるのです。

それぞれの義務について以下の内容を記載しましょう。

  • 守秘義務:退職後、在職中に知り得た会社の機密情報や顧客情報などを一切漏洩しないと義務として規定する。また退職者が保持しているデータや書類などの返却を双方で確認するのも重要
  • 競業避止義務:退職者が競合となる他社への転職、あるいは競業する会社の設立を禁止する条項です。ただし転職者は職業選択の自由が認められているので、禁止条項に合意していたとしても過度な制約はできません。

テンプレートを活用して作成する

退職合意書は、インターネットでダウンロードできる無料テンプレートを活用するとよいでしょう。退職合意書は通常会社側が用意する書面です。しかし既存の書式が社内に存在しない場合、一から作成しなければなりません。

自作すると必要事項や項目などの抜けや、使用する法律用語の誤りなどが生じやすいもの。弁護士事務所や社労士事務所などが提供するテンプレートを活用するのがおすすめです。

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5.退職合意書を作成する際の注意点

退職合意書は、あくまでも退職する従業員と会社側との合意が大前提です。しかし退職の理由や退職に至る経緯などで、必ずしも双方が円満に合意するとは限りません。ここでは退職合意書を作成する際の注意点を説明します。

退職合意書の作成を拒否された

この場合、退職にかかわる要件に関して従業員が納得をしていないことになります。退職合意書の作成は法的な義務ではありません。よって退職する従業員は納得できない書面への署名を拒否するのも可能です。

もちろん会社は強制できませんし、拒否されたからといって退職者に対して不利な扱いをしてはなりません。

退職合意書作成を退職者へ強要するとパワーハラスメントに該当するおそれもあります。従業員へは「しっかり退職合意書を確認してもらったうえで、納得がいくのであれば合意書にサインをしてください」という方向で説明しましょう。

退職合意書を作成したら自己都合?会社都合?

退職理由によって、自己都合と会社都合のどちらを適用するかは異なります。転職や家庭の事情など個人的な理由での退職であれば自己都合、解雇や退職勧奨による退職は会社都合です。

もちろん「雇用保険被保険者離職証明書」に記載する退職事由と同じものでなければなりません。

会社都合退職の場合、従業員は翌月から給付を受けられるので有利です。しかし再就職の面接では、会社都合退職が不利になる場合もあります。

自己都合と会社都合のメリットとデメリットを十分に理解し検討したうえで、退職者の意思を尊重して形式を決定してもよいでしょう。

退職合意書が無効になるケース

退職者が強制あるいは脅迫的に合意させられた場合、退職合意書が無効となります。たとえば懲戒解雇に該当するような違反行為をしていないにもかかわらず、「退職合意書に署名しなければ懲戒解雇にする」と脅して、退職合意書に署名させるケースです。

実際、従業員が退職後に錯誤や強迫を理由に、退職合意を無効とする訴訟を起こした事例が実在します。一方、懲戒解雇に該当する正当な事由が存在していたとしても、証明できなければ退職合意書が無効となるケースも考えられるのです。

退職合意書を作成したら解雇予告手当は不要

退職合意書を取り交わした場合、従業員の意思による退職のため解雇に当たらず、解雇予告手当の対象になりません。普通解雇や整理解雇などで雇用契約を解消する場合、一か月分の給与に相当する解雇予告手当を支払う必要があります。

解雇予告手当の支払いは、契約解消まで30日以内の短期間での解雇となる場合のみです。

違法な退職勧奨は損害賠償の対象に

過度な退職勧奨を行うと、違法と判断されて損害賠償の対象となる可能性もあります。たとえば退職勧奨を拒否した従業員に対し長期間にわたり勧奨をし続けたり、退職を合意せざるを得なくなるような心理的な圧迫や不利な扱いを行ったりするなどです。

退職勧奨を行う場合、従業員に対して正当な事由と退職の際の条件などを明示し、あくまでも従業員の自由意思を尊重しましょう。退職勧奨がパワーハラスメントとならないように十分に配慮する必要があります。