コミュニケーションコストとは、意思疎通の際に発生する時間や労力のこと。ここではコミュニケーションコストがもたらすデメリットやナレッジマネジメント、コミュニケーションコストを下げる方法などについて解説します。
目次
1.コミュニケーションコストとは?
コミュニケーションコストとは、情報伝達や意思疎通をする際に発生する時間および能力のこと。日常業務を進めるうえで、社員同士のコミュニケーションは欠かせません。
効率よく業務を進めるための概念として、コミュニケーションコストという言葉が生まれました。「情報伝達に時間がかかる」「情報の受発信に手間がかかる」状態などを、コミュニケーションコストが高い状態といいます。
2.コミュニケーションコストがもたらすデメリット
コミュニケーションコストは業務効率を低下させたり、業務連携を停滞させたりとさまざまなデメリットをもたらします。
- 業務効率が低下する
- 業務連携がとれない
- 情報伝達に時間がかかる
- 社員が疲弊する
①業務効率が低下する
コミュニケーションに時間や労力を使いすぎると、本来の業務を進めるリソースが奪われます。コミュニケーションを取っている間はほかの作業を進められないため、業務効率は必然的に低下。いわゆる「時間泥棒」が増えている状態です。
またコミュニケーションコストの高さによって間違った情報を伝達してしまうと、その時間は無駄になるためさらに業務の効率が低下します。
②業務連携がとれない
ほとんどの業務は一人で完結させられません。部署間での調整やチーム内での連携が必要です。コミュニケーションコストが高いと、組織全体での連携が取りにくくなります。
連携にあたって必要以上の時間や労力を取られてしまうのも、コミュニケーションコストがもたらすデメリットです。
「すでに導入しているツールがあるにもかかわらず、別の部署が同じようなツールの新規導入を検討している」というのもよくある話。縦割りのコミュニケーションコストが高いとこういった問題が生じてしまうでしょう。
③情報伝達に時間がかかる
コミュニケーションコストが高いと、業務に関する情報の伝達に時間がかかります。特に複数の部署と連携して業務を行う場合、それぞれの進捗状況や課題共有のため、ひんぱんにコミュニケーションを取らなければなりません。
ここで情報伝達に時間がかかると、「無駄な作業が発生する」「業務の優先度がわからない点が原因で、完了までの時間が延びる」おそれがあります。
④社員が疲弊する
社員が無駄に疲弊してしまうのも、コミュニケーションコストの高さがもたらすデメリットのひとつ。コミュニケーションコストが指すのは時間や労力だけではありません。精神的なコストも含まれるのです。
コミュニケーションコストが高いと精神的な負担が増し、副次的にモチベーションや生産性の低下を招く可能性があります。
3.コミュニケーションコストが高い人の特徴
コミュニケーションコストが高い人にはどのような特徴があるのでしょうか。代表的なものが以下3つの特徴です。
- 組織での役割を理解していない
- 遠慮しすぎる
- 自分の話をしたがる
①組織での役割を理解していない
特に組織変更の多い企業や、ベンチャー気質の強い企業に多く見られます。
組織が大きくなってくると各部門の役割が細分化し、どこの部署がどこまでを業務範囲とするかが見えにくくなるのです。業務範囲を管理職が理解していても、現場の社員が理解できていない場合もあるでしょう。
自分の役割を理解していないがゆえに、必要以上に説明を求めたり、相手には必要ない話を展開したりして、コミュニケーションコストが高くなってしまうのです。
②遠慮しすぎる
適切なタイミングでの質問は、決して悪くありません。新規事業をはじめる際や重要な話をしているときなどは、むしろ分からないことを積極的に質問して理解度を上げる必要があります。
しかしここで遠慮しすぎると、後になって再度説明を求めたり、不要なトラブルを招いたりする可能性も高いです。遠慮しすぎると、かえってコミュニケーションコストが高くなりやすいため注意しなければなりません。
③自分の話をしたがる
相手の話を聞くより自分の話をしたがる人も、コミュニケーションコストが高いといえます。相手の説明を話半分で遮ったり、無駄な話で時間を潰したりしていないでしょうか。
もちろん必要なタイミングで、必要な情報を話すのであれば何の問題もありません。しかし相手の話を遮って自分の意見を話し始めたり、相手が聞きたい話ではなく自分が言いたい話を次々展開したりしているのは、コミュニケーションコストが高い状態といえます。
4.コミュニケーションコストとナレッジマネジメント
コミュニケーションコストが高い組織は、ナレッジマネジメントに問題を抱えている場合が多いといわれています。
ナレッジマネジメントとは、ベテラン従業員の経験や知見、熟練工などのスキルを組織内で共有し、新たなイノベーションを促しながら生産性を向上させる管理手法のこと。
コミュニケーションコストが高いと感じている組織は、必要なときに誰でもアクセスして自己解決できるよう、ナレッジマネジメントシステムを見直してみるとよいでしょう。
5.コミュニケーションコストの計算方法
会社経営にも直結するコミュニケーションコストは「ブルックスの法則」と「人数の2乗」の考え方で計算できます。
ブルックスの法則
コミュニケーションコストにまつわるプロジェクトマネジメントの法則です。この法則では「チームの人員が増えれば増えるほどコミュニケーションコストが増え、結果としてプロジェクトの進捗を遅らせる」と考えています。
人を増やせば増やすほど必要なコミュニケーションが増えるのは想像に難くありません。つまり組織が大きくなればなるほど、コミュニケーションコストが経営に与える影響は大きくなっていくのです。
人数に対して2乗分のコスト
コミュニケーションコストは、増加する人数の2乗分となる点を想定すべきだといわれています。たとえばあるプロジェクトのメンバーを3倍にした場合、もとの9倍ものコミュニケーションコストがかかるという考え方です。
タスクの分解には限界があります。業務の担当を分担できても、全員に同じ説明をして理解度を一律に均すのはできません。人員を増加する際、一人ひとりのコミュニケーションコストを下げることが重要だといわれているのは、このためです。
6.コミュニケーションコストを下げるポイント
コミュニケーションコストを下げるためにはどのような対策を講じればよいのでしょうか。ポイントは下記の3つです。
- 情報量
- 解釈力
- 価値観
①情報量
コミュニケーションコストが発生する理由のひとつに「情報量の格差」が指摘されています。たとえば部長と新入社員が触れる情報は、当然ながら同一ではありません。この格差をどう埋めるかが重要になります。
トップを含めたカジュアルな懇談会や社内SNSの活用、メールで定期的に情報を発信するなど互いに情報を共有することが重要です。
②解釈力
部長と新入社員の情報量に格差がないと仮定した場合、情報の解釈度もイコールだといえるでしょうか。
たとえば会社の売上を数字で羅列しても、部長と新入社員が感じる点は当然異なります。「会社の情報は全社員に公開しているから、会社の経営状態は全員が理解しているだろう」とは考えられません。
そのため情報を与えるだけでなく、解釈を深める説明をしてわかりやすく伝えることが重要になります。
③価値観
コミュニケーションコストを下げるためには価値観つまり「顧客にどのような価値を提供したいか」を掘り下げるのも重要です。同じ情報量と解釈力があっても、価値観が異なれば行動も異なります。
企業にとっての価値観は、経営理念に近い考えです。そのため情報共有だけでなく理念研修を通じてコツコツと価値観を一致させるのも大切になります。
7.コミュニケーションコストを下げる具体的な施策
コミュニケーションコストを下げるためには「情報量」「解釈力」「価値観」を意識した対策が必要です。具体的な施策は以下のとおりです。
- 話しかけやすい雰囲気をつくる
- マニュアルを作成する
- 社内教育を整える
- 3What、4W、1Hを心掛ける
- 組織の方向性・理念を浸透させる
- 効率化に役立つツールを使う
①話しかけやすい雰囲気をつくる
企業がよい成績を出すためには、従業員が一致団結して協力する必要があります。しかし人対人である以上、どうしても雰囲気に話しやすさや話しにくさを感じて、「情報量」「解釈力」「価値観」の格差が生まれる場合も多いです。
格差をなくすためにも、その日の気分で言動を変えず、話しやすい雰囲気を意識してコミュニケーションを良好にしましょう。
②マニュアルを作成する
マニュアルの作成もコミュニケーションコストを下げる方法のひとつ。質問の多い業務についてマニュアルを作成しておけば、同じ質問の繰り返しを防ぎ、その分の時間をメインの業務にあてられます。
また質問があったとしても、マニュアルを土台にすればコミュニケーションにかかる時間を大幅に削減可能です。
③社内教育を整える
「情報量」「解釈力」「価値観」の格差を埋めるためには、研修やOJTなどの社内教育が効果的です。これらを進める際は「従業員にどこまでのナレッジを身につけてもらうか」をあらかじめ設定しておく必要があります。
「一般的な業務スキルやリテラシーをナレッジ化するのか」「あるいは具体的な専門知識をナレッジ化するのか」など、必要なナレッジの棚卸しをしてから進めるとより効果的です。
④3What、4W、1Hを心掛ける
物事を考える際に「3What、4W、1H」を意識すると、相手の話がより理解しやすくなり、コミュニケーションコストの削減につながります。具体的な意味は以下のとおりです。
- 3What:定義(どういう意味か)、現象(何が起きているのか)、結果(どうなるのか)
- 4W:Why(なぜ)、When(いつ)、Who(誰が)、Where(どこで)
- 1H:How(どうすればよいか)
⑤組織の方向性・理念を浸透させる
考え方の土台を作るという意味では、組織の方向性や理念を浸透させるのも重要になります。たとえばトップ層としては企業の方向性を変えたいのに部下にその意図が届いておらず、解釈違いを起こして仕事が進まないというケースも少なくありません。
考え方の土台がないと、同じ話をしても理解度は大きく異なります。これにかかるコミュニケーションコストを削減するためにも、常日頃から方向性や理念を周知しておかなければなりません。
効率化に役立つツールを使う
「Chatwork」「Zoom」「Slack」「Microsoft Teams」などコミュニケーションツールを活用するのも効果的です。
もちろんメールや電話でもコミュニケーションを取れます。しかしこれらのツールを活用すれば、当事者以外の従業員にも情報が共有できたり、口頭でうまく説明できないときに資料を使って説明できたりするのです。