ISO30414とは?【全項目の日本語訳アリ】情報開示、導入企業

ISO30414は、人的資本経営の重要資料です。しかし具体的な内容まで押さえられているかというと難しいもの。もしISO30414の内容を押さえて活用できれば、人的資本経営を成功へと導けるでしょう。

今回はISO30414とは何かをふまえて、ISO30414の内容や情報開示への具体的な活用方法、導入企業事例などを詳しくご紹介します。

1.ISO30414(人的資本に関する情報開示のガイドライン)とは?

ISO30414とは、2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本の情報開示に関するガイドラインのこと。

ステークホルダーに対して組織の人的資本に関する情報を開示するための指針であり、人材マネジメントの11領域における58のメトリック(測定基準)が示されています。

2020年には、米国証券取引委員会が上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化。そこでISO30414が活用されています。

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ISOとは

ISOとは、スイス・ジュネーブに拠点を置く、さまざまな規格を認証している非政府機関のこと。国際的に通用する規格を制定し、取引の円滑化を支える役割を担っているのです。

ISOが制定する規格には、サイズといった「モノに対する規格」と人材マネジメントや品質マネジメントなど「マネジメントシステムに対応する規格」のふたつがあります。そしてISO30414は、後者のマネジメントシステムに対応する規格に該当するのです。

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2.ISO30414策定の目的

ISO30414策定の目的には、下記ふたつが挙げられます。

  1. 人的資本を的確に把握するため
  2. 企業の持続可能な成長をサポートするため

①人的資本を的確に把握するため

人的資本とは、ヒトの持つスキルや経験、資質などの無形資産のこと。ステークホルダーに人的資本を開示すると企業の将来性や成長性が分析でき、人がどれだけ企業の成長に貢献しているか、可視化できるのです。

これまでも人的資本は開示されていたものの、企業によって開示の基準はバラバラでした。また人的資本についても定性的な内容での記載だったため、開示内容も曖昧になってしまっていたのです。

ISO30414の策定によって開示基準が明確になり、定量的に人的資本が把握できるようになり、客観的に人的資本が可視化されて比較できるようになりました。

②企業の持続可能な成長をサポートするため

ISO30414により人的資本が定量的に可視化できるようになったため、より効果的な人材戦略に取り組める環境が整いました。

なぜなら人的資本情報を収集・分析・モニタリングすると、人的資本が企業の成長にどれだけ貢献しているかが把握できるからです。

くわえて、人的資本向上のために行った人材戦略とその結果の因果関係の明確化にも役立ち、人材戦略の効率化・最適化にも貢献します。

企業が成長するには「どういった人的資本が必要か」「そのためにどういった人材戦略に取り組めばよいか」を見える化できているか、が重要です。

ISO30414によって客観的に人的資本が把握でき、さらに施策と結果の因果関係の明確化により人材育成が最適化されれば組織力・生産性も高まり、企業の持続的な成長も実現するでしょう。

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3.ISO30414が注目されている理由

ISO30414が注目されている理由には、次のような世の中の動きがあります。

  1. 人的資本の開示要求
  2. ESG投資やSDGsへの関心の高まり
  3. 人材版伊藤レポートの発表
  4. コーポレートガバナンス・コードの改訂

①人的資本の開示要求

リーマンショック以降、投資家は売上や利益といった有形資産ではなく、人的資本のような無形資産を重要視するようになりました。

というのもリーマンショックのような例も起こっており、財務諸表だけでは企業の持続的な成長性は判断できないとされたからです。そこでステークホルダーは、リスク回避のため人的資本の開示を要求しています。

現代は利益重視の経営はリスクが高いとみなされる時代に突入しており、企業の持続的な成長性を見極めるために人的資本が重要な指標とされ、ISO30414はそのための基準となるのです。

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②ESG投資やSDGsへの関心の高まり

投資家は、上記と同じような理由からESGやSDGsにも注目しています。ESG投資が進んでいるのも背景に、ESGやSDGsの観点から経営に取り組んでいる企業は、持続的な成長に期待できるとして投資面で有利となるのです。

人的資本の取り組みに力を入れると、ESGの「S」「G」、SDGsの目標にも関連します。これからの時代は目前の短期的な利益を追求せず、持続的な成長を見据えた経営が求められているため、ISO30414はSDGsの観点からも注目されているのです。

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③人材版伊藤レポートの発表

人材版伊藤レポートとは、2020年に経済産業省から発表された「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 」のこと。

ここでは「持続的な企業価値の向上を実現するためには、ビジネスモデル、経営戦略と人材戦略が連動していることが不可欠」と結論づけています。

またそのためには「経営戦略との連動という観点で人的資本や人材戦略を定量的に把握・評価し、ステークホルダーに開示・発信することが求められる」と言及しているのです。

国内では人材版伊藤レポートをきっかけに人的資本の重要性が高まり、開示のためにISO30414への注目も高まりました。

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④コーポレートガバナンス・コードの改訂

2023年度より、上場企業に対して人的資本の情報開示が義務化されています。それまで開示は企業の判断に委ねられており、法令上の義務はありませんでした。

しかしそのなかでも、2021年のコーポレートガバナンス・コードの改訂では、上場企業に対して下記のような人的資本情報の開示が求められました。

  • 補充原則 2-4①:女性・外国人・中途採用者の管理職への登用等、中核人材の登用等における多様性の確保についての考え方と自主的かつ測定可能な目標と状況、多様性の確保に向けた人材育成方針と社内環境整備方針と実施状況
  • 補充原則 3-1③:自社のサステナビリティについての取組み、人的資本や知的財産への投資等について、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供
  • 補充原則 4-2②:中長期的な企業価値の向上の観点から、自社のサステナビリティを巡る取組みについて基本的な方針を策定

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4.ISO30414を導入するメリット

ISO30414を導入するメリットは、次の3つです。それぞれについて解説しましょう。

  1. 透明性の高い人的資本情報が開示できる
  2. 経営戦略と人材戦略の連携が可視化できる
  3. 企業力・採用力の向上につながる

①透明性の高い人的資本情報が開示できる

ISO30414は国際規格でもあり、認知度・信頼性が高いもの。ISO30414に沿った人的資本情報を開示できれば透明性の高い情報が開示できるだけでなく、ステークホルダーが情報を的確に把握できるため、企業も正当な評価が受けられるようになります。

またISO30414にもとづいて情報を開示すると、ステークホルダーだけでなく、求職者が就職・転職先の企業を選ぶうえでの判断材料にもなるのです。

②経営戦略と人材戦略の連携が可視化できる

人的資本の向上には、経営戦略と連携した人材戦略が不可欠です。ISO30414を活用すると、経営戦略と人材戦略の連携具合が定量的に把握できるようになります。現状を見える化すれば、必要な戦略の軌道修正も図れるようになるでしょう。

③企業力・採用力の向上につながる

ISO30414にもとづいて開示された情報は、企業の価値そのもの。企業がどれだけ人材に投資しているかがわかれば、ステークホルダーからの企業イメージ向上にもつながるでしょう。

また人的資本情報から企業の人材に対する扱いがわかれば、求職者も入社後のイメージがしやすく、採用力の向上にも有効です。

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5.ISO30414の項目一覧(11領域・58指標)

ISO30414では、ステークホルダーの関心や重要性の高い11領域58指標をカバーしています。しかしすべての指標の開示が推奨されているわけではないため、開示が義務化されている項目以外は、企業ごとの判断に委ねられているのです。

ここでは、ISO30414の11領域から具体的な指標をみていきます。

  1. コンプライアンスと倫理
  2. コスト
  3. 多様性
  4. リーダーシップ
  5. 組織文化
  6. 職場の健康・安全・ウェルビーイング
  7. 生産性
  8. 採用・異動・離職
  9. スキル・能力開発
  10. サクセッション・プランニング(後継者計画)
  11. 労働力

①コンプライアンスと倫理

外部からの苦情や監査からの指摘内容、組織内での懲戒処分の有無などコンプライアンスや倫理全般に関する領域です。

  • 苦情の件数と種類
  • 懲戒処分の件数と種類
  • 第三者に解決を委ねられた係争
  • 外部監査指摘の項目・種類・情報源とこれからに対する対応

②コスト

人件費に関するあらゆる項目が含まれる領域です。

  • 総労働力コスト
  • 外部労働力コスト
  • 総給与に対する特定職の報酬割合
  • 総雇用コスト
  • 一人あたり雇用コスト
  • 一人あたり採用コスト
  • 離職に伴うコスト

③多様性

従業員や経営陣の多様性に関する領域です。

  • 年齢や性別、障がいやそのほか(国籍、職種、職務レベル・階層、職能など)といった労働力の多様性
  • 経営陣の多様性

④リーダーシップ

CEOをはじめ、組織内でリーダーシップを発揮するポジションにある人材に関する領域です。

  • リーダーシップに対する信頼
  • スパン・オブ・コントロール(管理職一人あたりの部下数)
  • リーダーシップ開発

⑤組織文化

エンゲージメントや満足度、定着率などを含む従業員と企業のつながりを示すのが組織文化の領域です。

  • エンゲージメント・従業員満足度・コミットメント
  • 従業員定着率

⑥職場の健康・安全・ウェルビーイング

健康経営ができているか、従業員の安全が確保されているかを図る項目を含む領域です。

  • 労災による損失時間数
  • 労災件数
  • 労災による死亡者数
  • 健康・安全研修の受講者率

⑦生産性

従業員一人あたりが生み出す利益といった、人材と企業の利益の関連性を占めるための領域です。

  • 従業員一人あたりのEBIT/収益/売上高/利益
  • 人的資本RoI

⑧採用・異動・離職

11領域のなかでも最多の項目を含む領域です。

  • 募集ポストあたりの書類選考通過者数
  • 採用人材の質
  • 採用にかかる平均所要日数(欠員や将来の能力別労働需要および推移状況)
  • 内部登用率
  • 重要ポストの内部登用率
  • 重要ポストの割合
  • 全欠員ポスト中の重要ポストの割合
  • 内部異動率
  • 幹部候補の準備度
  • 離職率
  • 自発的離職率
  • 「致命的な離職」の比率
  • 離職理由およびその内訳

⑨スキル・能力開発

従業員のスキルや能力、その開発・向上のための取り組みに関する項目を含む領域です。

  • 人材開発・研修の総費用
  • 研修等の開発プログラムへの参加率・時間帯(1年あたりの研修参加率やひとりあたりの平均研修参加時間、研修カテゴリー別の研修参加率)
  • 従業員のコンピテンシー(従業員に求められるコンピテンシーの測定結果)

⑩サクセッション・プランニング(後継者計画)

CEOをはじめとした、組織の重要ポジションの後継者育成に関する項目を含む領域です。

  • 後継者候補の内部継承率
  • 後継者候補の準備率
  • 後継者候補の継承準備率(即時に後継者に任命可能な割合や1〜3年後に後継者に任命可能な割合、4〜5年後に後継者に任命可能な割合)

⑪労働力

企業がどれだけの労働力を確保できているかを図る領域です。

  • 総従業員数
  • 総従業員数(フルタイム/パート)
  • フルタイム当量(FTE)、個人事業主や派遣労働者といった臨時の労働力
  • 欠勤率

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6.ISO30414の導入企業事例

ここでは、ISO30414を導入・活用している企業事例を国内外3社からご紹介します。

  1. リンクアンドモチベーション
  2. 豊田通商
  3. ドイツ銀行

①リンクアンドモチベーション

アジア・日本で初めてISO30414の認証を取得した企業です。とくに従業員エンゲージメントに力を入れており、投資家にとって有益な情報を開示するため「Human Capital Report 2021」を発行しています。

ISO30414にもとづいてただ網羅的に情報を開示しているのではなく、経営の考え方を含めたポイントがわかりやすくまとめられているのです。

②豊田通商

豊田通商はアジア2社目、卸売業では初めてISO30414の認証を取得した企業です。人的資本に関する定量情報を織り込み、その内容をまとめた「Human Capital Report 2022」を発行しています。

同社は国際標準であるISO 30414に準じた客観的な比較やこれにもとづくPDCAサイクルを実践すして、人的資本経営への取り組みをさらに加速させていくと明言。

さらに「人財開発」「健康経営」「Diversity, Equity & Inclusion (DE&I)」「適所適材・適材適所」「人権尊重」を挙げて人的資本経営に取り組んでいます。

③ドイツ銀行

ドイツ銀行は世界で初めてISO30414の認証を取得した企業です。2021年3月に公表した「Human Capital Report 2020」の評価を受け認証を取得しました。

「Human Capital Report 2020」ではISO30414をふまえて、人的資本に関する情報開示を下記の全10章で構成しています。

  • 効果的な人員管理(Effective workforce management)
  • 充実した人財(Enriching our workforce)
  • ダイバーシティとインクルージョンの受け入れ(Embracing Diversity and Inclusion)
  • 予期しない危機への対応(Managing the unexpected crisis)
  • コンシステンシーマネジメントの強化(Strengthening Consequence Management)
  • モチベーションとエンゲージメント(Motivation and Engagement)
  • パフォーマンスに対する報酬(Rewarding performance)
  • 人材育成(Developing our employeees)
  • 従業員のウェルビーイングの充実(Ensuring our employees’ wellbing)
  • 未来のリーダー(Leaders of the future)

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7.ISO30414にもとづく情報開示の進め方

最後に、ISO30414にもとづく情報開示の進め方をステップ別に詳しく解説します。

  1. 開示する指標を決める
  2. ほか部署と連携してデータを収集する
  3. KPIを明確にする
  4. データにアクセスできる体制・仕組みを整える

①開示する指標を決める

ISO30414には11領域58指標があるものの、すべて開示すればよいわけではありません。自社のステークホルダーに有益であり、かつ明確な意図を持ったうえで開示する指標を決定しましょう。

②ほか部署と連携してデータを収集する

項目によっては人事領域を超えたデータの収集が必要であるため、ほか部署との連携が欠かせません。

採用や育成、報酬などのコストに関する指標も多いため、売上や利益、コストは基本データとして押さえておきましょう。従業員エンゲージメントといった定性的な項目のデータを集める際のポイントは、ツールを利用して定量化することです。

③KPIを明確にする

データがそろったら収集したデータをもとに数値との関係性に着目し、自社にとって重要なKPIを明確化しましょう。その際、従業員エンゲージメントは離職率の結果に影響するといったように、指標の因果関係をチェックします。

因果関係を踏まえて数値を分析し、KPIを明確にすれば今後の経営方針も見えてくるでしょう。

④データにアクセスできる体制・仕組みを整える

ISO30414の目的は情報開示ではありません。あくまでも目的は、ISO30414にもとづいて人的資本情報を収集して、マネジメントや経営に活用すること。よって、情報開示を目的にデータを収集しないよう注意しましょう。

人的資本を向上させるには、人材戦略にもとづく施策のPDCAを回すことが重要です。そのためにはデータにアクセスできる体制・仕組みを整え、PDCAを回せる環境を構築する必要があります。

リアルタイムに必要なデータにアクセスできれば、改善のために素早く動けるだけでなく、開示するデータの精度も向上するでしょう。

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8.ISO30414の認証取得方法

ISO30414の認証を取得すると、社会的な信頼が獲得できます。投資家からもポジティブな評価を受けやすくなり、投資面でも有利になるでしょう。取得には、認証機関による審査のクリアも必要です。下記で取得手順や取得にかかる費用・期間を解説します。

取得手順

まずは、ISO30414の58指標に従って必要なデータをそろえる必要があります。そしてデータがそろったら認証機関に審査を申し込みます。下記は、認証機関による審査手順・内容です。

  • データの確認:データを取得する仕組みが正しく機能しているか
  • インタビュー:経営者や人事責任者、各データの管理責任者などにインタビュー:認証取得の目的や人的資本に関する考え方、事業戦略との関連性
  • 実査:職場に赴き、インタビューの内容が実態を伴って機能しているかチェック

審査はデータの確認にとどまらず、インタビューや実査により入念に取り組みの実態を調査します。なお実査では抜き打ちスタイルで、現場の従業員に話を聞く場合もあります。

取得にかかる費用・期間

取得にかかる期間は、約半年〜1年ほど。認証を取得する対象が企業単体なのか、グループなのか、海外にある子会社や拠点を含むのかなど費用は企業規模によって異なります。